ザ・グレート・展開予測ショー

ゆきやこんこん


投稿者名:天馬
投稿日時:(05/12/25)

 雪やこんこん
 霰やこんこん

 降っても降ってもずんずん積もる












 ぶしゅ



 白一色に彩られた世界に、異質な色が添え飾られた。
 赤、アカ、あか、紅。
 血液と呼ばれるソレは、雪を鮮やかに染めてゆく。
 この場にはそぐわないのに。
 この場ではありえないのに。

 こんな日ではありえないのに。



 なぜだかその色は不気味なほどに真っ白な世界に溶け込んでいた。





 「仕事だからよ。勘弁してくれ」




 何の感情もなく放たれた言葉。
 そのつもりだったのに―――そこには様々なものが添えられていた。
 露呈した荒れ狂う感情の波に、苦笑の一つでさえ、雪之丞は出来なかった。






 仕事の依頼を受けたのは金がなかったから。
 こんな日に仕事があったのは偶然から。

 一にも、二にも言ってられない状況を作り出したのは自分自身の業から。


 言葉なんて、何某の感情なんて。出るはずも、作り出すことすら出来るはずがないのだ。


 雪原の上にいるのは、屍と自分。
 雪原が彩るのは雪の白さと、足跡。それと真っ赤な血。そして未だ止まない降り積もる雪。







 彼女に何かあげたかった。でも自分にはいつでも金がなくて。
 だから依頼を受けた。柄にもない、自分の想い人に何かをあげる為に。
 今日―――クリスマスの日にまさか仕事になるとは思わなくて。
 事態がそこまで深刻だとは思わなかった為に。



 自分が正式なGSじゃないからってのは仕方なくて。
 ―――だからこそ、血生臭い仕事の方が圧倒的に多いのはわかってたのに。












 依頼主は涙ながらに語った。
 ―――早く楽にさせてほしい、と。
 依頼主は遠くを見ながら呟いた。
 ―――あの子は雪が好きだった、と。



 だからせめて雪の中で死なせてほしい。

 依頼主のわがままを、雪之丞は無言でうなずいた。





 妖怪に憑かれた子どもがいた。
 無理やりに引っぺがすことが出来ないほどに、子どもと妖怪は親和性が強かった。
 妖怪が戯れで見せる子ども自身の自我の中で、子どもは死にたくなるほど苦しんでいたらしい。


 最終的に決定したのは親自身。
 最終的に承諾したのは彼自身。



 決して表には出ない―――出せないようなそんな依頼。

 どこからか噂を聞いた親は、藁にもすがる思いで雪之丞に依頼をした。






 自分には決定権はなかった。あるはずもない。



 雪は止まない。



 雪之丞は目をつぶって、上を向く。




 クリスマスにプレゼントをあげたいと思った自分が。
 金がなかったせいで逆に命を奪ってしまった自分が。




 なぜか悔しくなった。



 好きになった女に何かをあげたい。それが特別な日ならば尚更。
 それさえもできない。

 逆に誰かの大切な人を奪ってしまう自分。
 奪うしかできない自分。




 逆説的に考える。




 本当にプレゼントをあげたかった人には後悔という名の贈り物を。
 今は亡き、依頼主の子供には死という名の介錯を授けた。



 無意味な逆説。




 その贈り物は、もっとも贈り物足り得ないのに。




 「親殺しに、子殺し、か」




 真っ白な虚空に向けた言葉は、白い息と共に消えてしまった。


 自らの弱さゆえに殺してしまった母
 自らの強さゆえに殺してしまった子

 不幸せな中にも、幸せを見出していた昔。
 幸せの中なのに、不幸せを感じている今。




 あの子供は幸せだったのだろうか?
 あの母親は幸せだったのだろうか?


 埒も明かない思考の迷路は、雪之丞自身を蝕んでゆく。
 それはさながら、雪の如し。







 昔、心から守りたいと想った人がいた。
 その人は今はもういない。

 今、心から愛したいと想う人がいる。
 その人の手は汚れてない。





 「守る」という、奪われることから最も離れた事をしたかった自分が。
 「奪う」という、自分の望んだ未来と間逆の未来を歩み続ける自分が。






 心底悔しかった。







 両手を見る。




 真っ赤だ。



 屈託なく笑う彼女は、それがどうしたの、と言って握り締めるだろう。
 だけどその本当の意味を彼女は知っているのだろうか?





 自分の手も真っ赤に染まるかもしれない、もしかしたら自らの血で体中を染めるかも―――――



 あげたかった自分は、あげることなんてできるはずもない。
 手をつなぐことも、もしかしたら彼女に笑顔を向けることすら許されないかもしれない。





 そこで彼は思考を止めた。






 「ちくしょう…」




 何も考えない。





 「ちくしょう…ちくしょう…ちくしょう」






 考えられない





 「ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!!!!!!!」





 募るは苛立ち。
 幸せであってしかるべき日、幸せを奪った自分、幸せを与えられない自分







 
 「ちくしょーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」










 雪原で咆哮。
 それは死者への手向けか。


 彼の瞑った目から落ちたものは一滴の水滴



 それは雪の解けたものか、彼自身から流れ出た血の涙かは、誰にも分からない。








 雪やこんこん
 霰やこんこん

 降っても降ってもずんずん積もる






 自分のこの悲しみも、悔しさも。
 やるせなさも泣きそうな感情も。




 自分の手の汚れも、真っ赤に染めてしまった銀世界も。






 全て真っ白に埋めてほしいと思った。









 夢物語でしかないかもしれないことぐらい、わかっているけど。







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