ザ・グレート・展開予測ショー

彼と彼女のメリークリスマス


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(05/12/25)

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 『彼と彼女のメリークリスマス』

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○Ver.雪之丞×弓


「今日は、ずいぶんと奮発したのね」
「ま、まあな」

 タキシードに蝶ネクタイ姿の雪之丞が、弓の前で精一杯胸を張っていた。
 クリスマスイブの夜、雪之丞は予約していたホテルのディナーショーに、弓を誘っていたのである。

「それで、どうなんだ、俺の格好? どこかヘンなとこはないか」
「まあまあね。六十点ってとこかな」

 弓は手にしたワイングラスを揺さぶると、グラスの中のワインを一口飲んだ。

「ちぇっ! ずいぶん点が辛いな」
「勘違いしないで。あなた一人なら、十分合格点よ。
 ただ、ちょっとだけ、私と釣り合いが取れないかなと思っただけ」

 弓は胸の大きく開いた、緑色のイブニングドレスを着ていた。
 胸元には、真珠のネックレスを着けている。

「その服、貸衣装でしょう?
 悪くはないけど、私がいたら、もう少しきちんとしたのを選んであげたわよ」
「あのなー。一生に何回も着ない服に、そうそうカネをかけてられるかってんだ。
 俺の懐具合は、弓だって知ってるだろう?」
「ウソおっしゃい」

 弓が雪之丞に、厳しい視線を向けた。

「香港の仕事で、一山当てたばかりなんでしょう!? ちゃんと情報は入ってるわよ」
(チッ! またタイガーのヤツか)

 雪之丞は、心の中で毒づいた。

「明日、時間空いてるでしょう? 買い物につきあってあげるから」
「今日の夜は、つきあってくれんのか?」

 その言葉を聞いた弓は、テーブルの下で雪之丞のすねを蹴飛ばした。

「イッ!?」
「バカ! うちの家、知ってるでしょう?
 ここに来るのだって、女友達だけで行くことにして、ようやく許可を貰ったんだから」
「はいはい、わかりましたよ。お嬢様」

 そのとき、ステージで歌が始まった。
 弓や雪之丞が子供の頃、ヒットした女性歌手がステージで歌っている。

「この曲、なんか懐かしいわね」
「ん? 俺はこの人の曲、香港で聞いたんだけどな。その時は妙に日本を懐かしく思ったよ」

 雪之丞は、妙にしんみりとした表情で、ステージから流れる曲に耳を傾けていた。

「まだ香港にいた頃の話、全部聞いていなかったわね」
「……すまん。もう少し時間をくれ。まだ整理できてないことが、いろいろあるんだ」

 豪放磊落に見える雪之丞にも、少なからぬ心の傷があることを弓は知っていた。
 自分のうかつな発言で、男の傷跡に触れたことを彼女は悔やんだ。

「ごめんなさい。悪かったわ」
「いいんだ、気にするなよ。それより次の曲が始まったぜ」

 二人は流れる曲を聞きながら、ワイングラスを空けた。

「そういえば、タイガーさんや横島さんたち、どうしてるのかしら?」
「アイツらにも、予定がなかったら彼女連れてこいって誘ったんだけど、二人とも断ってきたよ。
 横島は来ないだろうと思ってたけど、タイガーは意外だったな」
「どうしてるのかしらね。あの二人は」

 窓の外では、小雪がちらついていた。
 弓は窓の外の景色を眺めながら、タイガーと魔理のことに思いを馳せていた。




○Ver.タイガー×魔理


「できたぜ、タイガー」

 魔理は『タイガーの部屋』の台所から、おでんの入った鍋をもってきて、居間の炬燵(こたつ)の上のホットプレートに置いた。

「タイガーの部屋に来るのも、なんか久しぶりだね」
「すまんですノー、魔理しゃん。香港の仕事が、予定より長引いてしまったもんじゃから」
「いいんだって、気にするなよ。仕事なんだし、それにずいぶんと稼げたんだろ」

 魔理はかっての知った台所を手早く片付けると、二人分の器と箸をもって、居間の炬燵に入った。
 ついでに言うと、かつてタイガーの部屋には丼(どんぶり)とインスタントラーメン用の鍋しかなかったが、魔理とつきあい始めてからは調理器具が増えたり、食器がなぜか二人分揃っていたりする。

「それじゃ、乾杯!」

 タイガーと魔理は、グラスに入れたシャンペンを飲み干した。
 しかし二杯目からは、日本酒の入った猪口に切り替わっていたりする。

「シャンペンも悪くないけど、冬はやっぱりコレだよな」
「そーですノー」

 タイガーは、ローストチキンとおでんをむしゃむしゃと食べながら、日本酒をちびちびとあけていた。
 一方の魔理は、既に二杯目を飲み干していた。
 タイガーの酒量は体格の割に少なめだったが、細身の魔理がけっこう飲める方だったので、釣り合いはとれているらしい。

「なあ、タイガー。今日は何の日か覚えてるか?」
「? 今日はクリスマスイブのはずじゃったが」
「そうじゃなくて! 今日はあたしとタイガーが始めて会った日だろ!?」

 その言葉を聞いて、タイガーはようやく四年前のことを思い出した。

「魔鈴さんのレストランで合コンしてから、もう四年も経ったんですノー」
「そ、そうだよね。もう四年も経ったんだよね。
 それでさ、その、あたし達もそろそろ、落ち着いてもいいんじゃないかなって……」

 そこまで話したところで、魔理の顔が急激に赤くなった。

「ハ、ハハハ……ご、ごめん。今の話なしだから」
「? 魔理しゃん、もう酔ったんか? 顔が真っ赤っかじゃ」

 誰に似たのか、今ひとつ鈍いタイガーは、話の流れがよくわかっていなかった。
 恥ずかしさでタイガーの顔を見れなくなった魔理は、窓の外に視線を向ける。

「あ……雪が降ってるね」
「四年前も、窓の外は雪景色でしたノー」
「本物の雪じゃなかったけどね。そういえば、おキヌちゃんはどうしてるかな?
 ま、弓のやつは、雪之丞さんとよろしくしてるみたいだけどね」

 魔理は、少しの間だけ親友に思いを馳せたあと、タイガーと二人で当たり障りのない世間話を続けた。




○Ver.横島×???


 同じ頃、横島とおキヌは、予約していたレストランの個室で食事をしていた。

「おキヌちゃん、その服……」
「ええ。あの時、横島さんから貰った服ですよ」

 おキヌは自分がまだ幽霊だった頃に、横島が織姫のところに取りにいった服を着ていた。
 おキヌはそれからずっと、クリスマスには必ずこの服を着ていた。
 もちろん、横島との絆を再確認するためである。
 横島も毎年その服のことでおキヌに声をかけていたが、二年前にうっかり忘れてしまったときは、不機嫌になったおキヌに、年末までずっと無視され続ける破目になったこともあった。

「おキヌちゃん、お酒大丈夫?」

 横島は、シャンペンをコクコクと飲むおキヌに声をかけた。

「これ、ノンアルコールですから」
「あ、それならいいんだけどさ」

 横島もおキヌも、美神たちの宴会に巻き込まれたために、未成年のうちから何度もアルコールを口にしていたが、横島はともかくおキヌはめっぽう酒に弱く、酒を飲む度に意識を失い、横島に背負われて家に帰ったことが何度もあった。

「本当に大丈夫です。
 今日は二人きりですし、それに遅くなってもいいって、美神さんの許可も貰ってますから……」

 そこまで話したところで、おキヌの顔がカーッと赤くなった。
 その様子を見ていた横島が、つばをゴクリと飲んだ時──

「お待たせしました! 料理の追加とシャンペンのお代わりはいかがですか!」

 料理を載せた皿と洋酒のボトルをもった魔鈴が、二人のいる部屋に入ってきた。

「横島さん、グラスが空になってますよ。今、お注ぎしますね」
「あ、どうも」

 魔鈴は、横島が差し出したグラスに、シャンペンをなみなみと注いだ。

「おキヌさんもグラスが空になってますね。アルコール度数96℃のウォッカなんてどうですか?
 すぐに酔い潰れると思いますが」
「魔鈴さん、『お店』忙しくないんですか?」

 おキヌはギロリとした視線で、魔鈴をにらんだ。

「ええ。クリスマスは予約したお客様以外はお断りしてますし、それに今日に備えて、
 バイトの子を何人か雇ってますから」

 魔鈴は、別の部屋から椅子をもってくると、二人と同じテーブルに座った。

「横島さん、この鴨肉はうちの自慢の料理なんですよ。さあ、食べてみてください」

 魔鈴は自分の前の皿からナイフで鴨肉を切り取ると、フォークに刺して横島の口の前に差し出した。

「あ、あの、これって……」
「ええ、そうですわ。口をアーンしてください」
「横島さん、こっちもおいしいですよ」

 おキヌは負けじと、クリームソースのかかった鮭を、フォークに刺して横島に差し出す。
 横島は、もうどうにでもなれといった表情で、差し出された鴨肉と鮭を食べた。

「魔鈴さん、他のお客さんの応対はいいんですか?」
「ええ。うちの店は、常連さんの接待が最優先なんです」
「大変ですね。『三十路』も近くなると、いろいろと焦るみたいで。
 私、まだ若くてピチピチですから」
「横島さん。魔女の秘法の中には、老化抑制というのもあるんですよ。
 いつまでも、若くて『色気』のある女性を妻にしたいなんて思いませんか」

 魔鈴が横島に、パチリと目配せをする。
 二人の美女に挟まれて、横島はアワワと慌てるばかりであった。


(お・わ・り)


・あとがきみたいなもの

 怒涛のような仕事の荒波を乗り越えて、ようやく三連休に入れたのですが、書こうと思っていた
 クリスマスSSがさっぱり書けず、ただいたずらに時間ばかりを費やしていました。
 24日が過ぎようとしても筆がまったく進まず、こりゃ今年はダメかなと半分諦めかけていた時に
 出合ったのが、おやぢさんの『グラスの中の告白』でした。

 おやぢさんのSSを読んでピンピンと閃き、実質五時間半くらいかけて書いたのがこのSSです。
 おやぢさん、ありがとうございます。

 前半1/3はおやぢさんの物真似みたいになりましたが、後半2/3は全くのオリジナルです。
 本編と同様、SSでも影が薄いタイガーですが、一年にいっぺんくらいは、こんな良い目にあっ
 ても、いいんじゃないかと思ったりしました。
 横島が修羅場だったり、魔鈴さんがかなり壊れてたりしますが、まあギャグということで勘弁
 してください。

 それでは。

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