ザ・グレート・展開予測ショー

グラスの中の告白


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/12/24)

グラスの中のボールアイスが高い音を立てる。
琥珀色の液体が奏でるその音色は、一日の疲れを癒してくれる。
口の中に琥珀色の液体を入れると、僅かな苦味が喉に沁み込んだ。
その刺激に、俺は僅かに眉を顰める。
バーテンが俺のグラスに目をやると、入口のドアがチャペルの音を立て開いた。
冷気に混じって賑やかなクリスマスソングと喧騒が僅かに店の中に入ってくる。
ドアが閉じられると、外とは遮断された空間に戻った。

「お待たせ。」

そういって黒髪の女、弓が俺の隣に座った。

「トム・コリンズ。」

バーテンにそう告げると弓は俺の方を向いた。
付き合って5年になるが、未だに名前では呼べない。
自分の性格が嫌になりそうな時もあるが、長年これでやってきたのだ改めようとも思わない。
俺は正面に置いてあるボトルに映った自分の顔を眺めると、自嘲気味に笑った。

「おかしな人・・・」

少しだけ不機嫌そうに、弓が言った。
俺が目線を少しだけ弓に向けると、バーテンがグラスを置いた。

「お待たせしました。」

バーテンの言葉に弓は、口元だけ緩ませる。
俺は自分のグラスを上げた。
横目でそれを見た弓も、仕方無しといった風にグラスを上げる。
クリスタルのグラスを合わせる音が響き、俺は琥珀色の液体を一気に飲み干した。

「同じモノを?」

バーテンが開いたグラスに目を向けると、俺は黙したまま頷く。
バーテンはグラスを下げると、琥珀色に染まったグラスを再び俺の前に置いた。

「ねぇ・・・なにか言う事ない?」

弓が半分程開けたグラスを手の中で揺らせた。

「なにをだ?」

俺は残り少なくなったタバコを取り出すと、口に咥えた。
弓は拗ねたようにそっぽを向くと、グラスの残りを一気に空けた。
カクテルは3口で飲めというが、こういう飲み方をされると上手いバーテンが作っても意味が無くなってしまう。
バーテンが弓の前に立つと、彼女は次の酒を選ぼうとする。
俺はバーテンを呼ぶと彼に耳打ちした。
怪訝そうな目で弓が俺を見ていたが、俺は紫煙を彼女の反対の方へ向けた。

「雪之丞・・・あなた本当に何も言う事ないの?」

「そうだな・・・まぁ、もう少し待てよ。」

俺は弓にようやく目線を合わせると、そういって口元を緩めた。
ここのバーテンは一流だな・・・俺は思わず実感する。
タイミングを見計らったように、バーテンがグラスを弓の前に置いた。
弓は、グラスにそそがれたミモザと俺の顔を交互に見ている。
まぁ確かに滅多にする事じゃないが、そこまであからさまに疑う事もないだろう・・・俺ってそんなに珍しい事したか?
シャンパングラスに口を付けた。

「おいしい・・・あなたにしては良い選択ですわね。」

本人は誉めているつもりなんだろう。
5年も付き合えば、それなりのものも分かってくる。
俺も随分とコイツに関しては、甘くなったものだ。
後の事を想像すると、俺は自然と口の端が緩くなった。

「なんですの?おかしな人。」

少しだけ怪訝な表情を浮かべて、弓はシャンパンを飲み干した。

「ん?」

違和感を感じたのか、弓は眉を少しだけ顰めた。
唇に感じた違和感の基を、確かめる。

「メリークリスマス。」

違和感の基を手にしたのを見計らって、俺は彼女にだけ聞こえるように呟いた。
弓は違和感の基を左手の薬指に嵌めると、右手で支えながら眺めている。

「出ようか・・・」

俺は短くそういって立ち上がった。








店の外にでると、別世界が広がっていた。
少々大げさで見ようによっては、下品なイルミネーションが広がっている。

一生に一度くらいはこういうのもいいだろう。

俺はそう考えると、少しだけ笑ってタバコを咥えた。
弓が俺の右腕に手を絡めてきた。
こういう時くらいは、少しくらいいいだろう。
弓から顔を背け、紫煙を吐き出す。

「ねぇ。」

「なんだ?」

「誰に教えてもらったの?」

「どういう意味だよ。」

弓は笑顔を絶やさぬままに言葉を続けた。

「あなたに、あんな事が出来るとは思えませんわ。」

さすがにダテに5年も付き合ってはいない。
去年結婚したダチから聞いた事を、簡単に見破られてしまった。

「雪でも降らねぇかな。」

左手をポケットから出し掌を上に向けて、俺は空を見上げた。
弓は笑いながら、絡めている手に力を入れた。

俺たちのために、イルミネーションが輝いている・・・
そんな勘違いを、一生のうちに一度くらいはしてもいいだろう。

ガラにもなくそんな事を考えながら、俺は弓の方を見て笑った。




























「まぁ・・・いいけど、カッコつけるならウィスキーくらい飲めるようになりなさい。」




いいじゃねぇか、ロックグラスで烏龍茶飲んでも・・・下戸なんだからよ・・・・












                     〜 Happy? Merry Christmas. 〜


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