ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦8−3 『二十四の瞳』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/12/24)

『……女ダ……女ガ来タぞ……』

『若イ女ガ……二人も来タ……』

『キヒヒヒ……捕まエテ……楽シモう……』

『俺ハ……あッチノ……処女ッポイ方ダ……』

『気ガ強ソうナノヲ……泣カセルノガ……楽シインダよ……』


リゾートホテルに住み着いた不浄霊達が、獲物が足を踏み入れた事で興奮しながら囁きあっていた。
下卑た表情を浮かべ楽しむ算段をつけている。

間違いなく生前もロクな人生を送っていなかったのだろう。
彼らが悪霊に身を落としたのも当然の事だった。



数百体にも及ぶ悪霊達が侵入者に襲いかかろうとしていた。




























『ギャァァァァァァ!!!!』

『タ、助ケてクレェェェェェェェェ!!!!』

『ヒ、ヒィィィィ!!!!吸い込まれるゥゥゥゥゥゥ!!!!』

『コ、コイツらGSダァァァァ!!退ケ、一旦退クんダァァァァァァ!!!!』


心霊スポットを興味本位で訪れた馬鹿な女だろう。
そう思っていた悪霊達は何も考えずに二人に襲い掛かった。
だが、彼らは大きな過ちを犯していた。

相手は『歩く大量破壊兵器』『グラウンド・ゼロ(核爆発の直下地点)』『六道の悪夢』等々、
およそ人間に付けるには大袈裟過ぎるとさえ思える数々の異名を持つ相手だったのだ。

――――ちなみに、そのような異名で周囲から恐れられている事に本人は全く気が付いていなかったが。



何も考えずに彼女の正面から襲い掛かった悪霊達は、突如彼女の影から現れた巨大な黒い式神に凄まじい吸引力で吸い込まれてしまった。
運良く吸引から逃れた悪霊たちも、泣きながらホテルの奥に逃げ帰っていく。


「バサラちゃんありがとう〜〜〜」


天井まで届くほどの巨体を誇る牛の式神――バサラの黒い毛を冥子が優しく撫でている。
バサラは嬉しそうに低く唸ると影の中に戻っていった。


少し離れたところで今の襲撃を見守っていたワルキューレが黒革の手帳になにやら書き込んでいる。
書き終わったのか、ぱたんと手帳を閉じ、こちらの様子を窺っている冥子に先に進むように促した。


(次からは奴らも少しは頭を使うだろう……さて、どうする六道冥子……)


あくまで彼女は見届け人なので、アドバイスをするつもりも無いようだ。


先へと進む冥子の脳裏には鬼道の言葉が浮かんでいた。


――――ええか、冥子はん。悪霊が大勢で襲ってきた時はすぐにバサラを呼び出すんや。
並の悪霊ならそれで終わらせられるし、多少手強い相手でも動きを鈍らす事が可能や。
動きを鈍らせた後、その都度必要な式神を呼び出して対処するんやで――――


(まーくんの言う通りにやらなくちゃ……)


修行中に式神の有効な使い方を教えてもらった時の言葉を思い出す。


――――建物の中で除霊を行う時に一番気を付けなあかんのは、死角からの襲撃や。
建物内は曲がり角や扉を開けた直後なんかも悪霊に襲われるポイントになり易いからな……
そういう時は一度クビラを呼び出して確認する癖をつけた方がええよ――――


曲がり角の手前で鬼道の言葉を思い出し、足を止める。
霊視能力に優れた鼠の式神――クビラを呼び出し感覚を繋げ霊視を行う。








(GSダカ何ダカ知ラネェが……不意ヲ突けバ楽勝ダゼ……)

壁面に張り付くようにして悪霊が冥子が近付いてくるのを待ち構えていた。
相手がGSだとわかった瞬間、仲間達は慌てて建物の奥に撤退していったが、この霊は一人で残っていたのだ。

気配が立ち止まったので怪訝な表情を浮かべた瞬間――



――――キィィィィン!――――




鋭い音が響くと共に、潜んでいた壁面ごと、悪霊の胴体が水平に両断されていた。



鋭利な刃状の耳を持つ兎の式神――アンチラが下から縦に悪霊を切り裂き止めを刺す。

悪霊は叫び声を上げる暇さえなく消滅していった。





コンクリートの壁ごと悪霊を切り裂いた式神に、ワルキューレが感心したように頷く。
また黒革の手帳になにやら書き込むと付かず離れずの距離を保ったまま後についていった。












『ヤベェ、ヤベェヨ!今回の相手ハ並ノGSジャなイゼ!!』

『バラバラに戦っタらヤラレルゾ!!皆で協力シテ戦うンダ!!』


一階から、まるで重機が建物を解体しているかのような破壊音が響く頃には、悪霊達も本能で理解していた。
今回自分達を除霊に来た相手は、今までの相手とは格が違うという事を。

規模が大きいためか、六道グループの所持する物件の中にはそれほど重要ではない物もかなり存在していた。
彼らが今現在居座っているこの建物もその中の一つだった。

重要では無いため今までは適当なGSに依頼していたのだが、数の多さからなかなか除霊を終わらせる事が出来ていなかった。
六道グループも報酬は成功報酬と決めていたので、懐も痛まない事から今までほぼ放置されていたようなものなのだ。


だが悪霊達の今回の相手は、多対一という条件下に限るなら、暴走の不安を除けば世界でも最強クラスのGSだった。
何らかの特殊な能力も持たず、ただ数に頼っているだけの悪霊など最初から相手になる訳が無い。


『駄目ダ!一階に結界ヲ張ラレチマっタ!逃げル事サエ出来ナクなっチマッタよ!!』

『コウナッタラ覚悟を決メルシカねェゾ!協力シテ追イ払うンダ!!』


集まった悪霊たちが拳を振り上げ雄叫びを上げた。
迫り来る脅威に、力を一つにして迎え撃つ覚悟を決める。


『ソレデ、後何人残ッてルンダ!?』

『後200人ッテトコだ!!』

『ウ、嘘ダロ!?モウ80近クもヤラレタノカヨ!!』

『正面カら掛かッテモ勝テネェ!頭ヲ使ウンだ!!』


慌てて階下に散らばり、迎え撃つ準備に取り掛かる。

一階に張り巡らされた結界は建物を包み込み、悪霊達が外に逃げ出せないように閉じ込めていた。
五階建てのホテルは悪霊にとって潜み易い空間だったが、今では逃げる事すら出来ない空間へと変わっていた。





































『扉ガ開イタ瞬間、一斉ニ襲い掛カルゾ!!』

『オウ、任セロ!!』

30体以上もの悪霊達が部屋の中でGSが入ってくるのを待ち構えていた。
扉が開いた瞬間、一斉に飛び掛るため、皆扉の方に意識を集中させている。

近付いてくる気配を察知し、息を飲み緊張した面持ちで扉が開くのを今か今かと待ち構えている。


だが気配は扉の前まで来ずに、途中で立ち止まったようだ。
相手の意図が読めず悪霊達が顔を見合わせている。
この部屋の入り口は目の前の扉のみ。

しかもこの部屋の中に上階への階段がある以上、ここを避けて通る事は出来ないはずなのだ。



だが次の瞬間、部屋に破壊音が轟き、壁を突き破り何かが突入してきた。
舞い上がる埃がおさまると、あどけない顔つきの少女が悪霊達の前に姿を現していた。
少女の傍らには目の無い、まるで鰐のような式神が控えている。


「今よ〜〜〜バサラちゃん〜〜〜」


少女の呼びかけに応え、影から巨大な黒い体毛に包まれた式神が姿を現す。
まさか壁を突き破って入ってくるとは思っていなかった悪霊達は呆然と立ち尽くしていた。

初動が遅れた彼らは抵抗すら出来ずに黒い巨大な式神に吸い込まれてしまった。





















ほう、壁を突き破り相手の心理の裏をかくとは……なかなかやるではないか。
しっかり戦術を考えながら式神を使いこなしているようだな。

しかし、さっきから見ていると式神の制御にはどこも問題無いようだがな。
霊圧の乱れも無いし、必要以上の式神を呼び出しているわけでもない。

となると、原因はやはり――――アレか。


「なかなか上手く戦えているではないか。
正直言って予想以上だぞ。」

「まーくんが色々教えてくれたの〜〜〜
『悪霊も元は人間やから考える事は自分達と一緒や。
だから裏をかいてやれば焦りもする。焦れば動きも鈍る。
十二神将に出来ん事はほとんど無いんやから、何でもやってみたらええんや。』って〜〜〜」


そう言われて壁を突き破るという発想が出てくるあたり、なかなか見所がある。
それにしても、どうやら一連の式神の使い方は鬼道の指導によるものらしいな。

なるほど、確かに式神の指導役としては優秀らしい。
しかしどうやら奴には致命的な欠点があるようだがな。

まあ良い。まだ除霊は終わっていないのだ。
結論は最後まで出さなくてもよかろう。























『ヤベェ!4階モソロソロ占領サレソうダ!』

『後ドレダケ残ッテるンダ!?』

『40ッテトコロダ!オイ、ドウスルンダヨ!?』

仲間からの報告によれば、相手は壁は突き破るわ、空は飛ぶわ、瞬間移動はするわ、分身はするわで、これではどっちが化け物かわからなかった。
現実問題、もはや自分達の手に負える相手では無い事は明らかだった。

そう、彼らは自分達が狩られる側である事を理解させられたのだ。

だがむざむざ狩られるつもりは無い。
決意を秘めた瞳で頷き合うと、この部屋に集まるよう生き残った霊達に呼びかけた。


















――ほう、悪霊どもが一箇所に固まるか。
何か企んでいるのだろうな。面白い。

今のところ11体の式神は確認できているが、まだ後1体残っているしな。
手帳に書き留めるのは面倒だったが後で確認できなければ意味が無いからな。仕方ない。

だが、メモしておいたおかげで式神ごとに霊力の差がある事もわかってきた。
やはり攻撃系の式神は霊力が高い傾向にあるな。
逆に補助系の式神はあまり霊力が高くない、か。

さて、最後の式神を使う事になるのか……見届けるとするか。


















最後の部屋の扉の前で冥子が首を傾げる。
先程霊視した時にはこの部屋には40近くの悪霊が潜んでいたのを感じたのだが、今は一体しか感じない。
霊視能力に長けた鼠の式神――クビラならば部屋の隅々まで霊視する事が出来る。
念のため隅々まで霊視をしてみるが、隠れているという訳ではないようだ。
警戒しつつも、恐る恐る、最後の部屋に足を踏み入れた。




『ヨクモ、ナカマヲヤッテクレタナ!』


部屋の中に潜んでいた悪霊は、霊視の通り、確かに一体だけだった。
だがその身体は何十体もの悪霊が寄り集まって形を成していた。
身体の至る所に苦悶の表情が浮かび上がり、うめき声を上げる。
仮にこの場を切り抜けられたとしても、ここまで混ざり合ってしまった以上、彼らがもう一度個々に分離するのは不可能だろう。


『ミルガイイ、コノパワー!!』


悪霊の集合体が拳を床に叩きつけると、板張りの床にはあっけなく大穴が開いていた。


『ソシテ、コノメニモトマラヌ スピード!!』


シャドーボクシングのように体を揺らしながら拳を素早く振り回す。


『サア!ドコカラデモカカッテ――ヌォォォォォォォォォオオオ!!』


掛かって来い!という前に、すでに冥子の前にはバサラの巨体が現れ、抜群の吸引力を発揮していた。
だが、そこは流石に40体もの悪霊の集合体。
今までのようには簡単には吸い込めない。

悪霊は地面に這い蹲り、必死に床に爪を立て、吸い込まれるまいと堪えていた。


(う〜〜〜ん、困ったわ〜〜〜)


――冥子はん、普通の除霊で一番厄介な相手は悪霊の集合体や。
あいつらはバラバラにしても除霊できん。吸引札かバサラで吸い込むくらいしかできんのや。
結構前、霊団が東京に出現した事があったやろ?霊団は最悪の相手や。死霊使い以外では勝負にもならんやろうな。
もし、悪霊の集合体と遭遇してもうた時は、バサラで吸い込むか、もしくは――


(まーくん、わかったわ〜〜〜)


膠着していた場に新たな式神が投入された。
その大きさは鼠の式神程度の大きさだったが、その内に秘めた霊力を見抜いたワルキューレが目を見開いた。
その式神は、まだ今回の除霊で冥子が呼び出していなかった、最後の式神だった。

トカゲにも似た式神がトコトコと悪霊に近付いていく。
悪霊の集合体がその式神に気付いた瞬間、式神から目も眩むほどの閃光が放たれた。

光が収まった時、悪霊が居た場所には石像が転がっていた。
























「冥子はしっかりやれていたかしら〜〜?」


六道邸の応接室でワルキューレが先程の除霊の報告を行っていた。


「正直、かなり驚かされた。
あれだけの力があれば、やりようによっては中級魔族程度なら一人で退けられるやもしれん。
何より、一番の懸念材料だった暴走の兆しも無かったしな。これなら特に問題な――――」


――ずどぉぉぉぉぉん――


爆発音と共に六道邸が揺れ動いた。
ワルキューレと六道理事は顔を見合わせると深く溜め息をついた。













全身を包帯にくるまれた鬼道がベッドに横たわっている。
穏やかな寝息を立てているので命に別状は無いようだ。
とは言え、その姿はかなり痛々しかった。




別室では四人が集まり何があったかを話し合っている。


「なるほどな、鬼道に褒められた六道冥子が感極まって鬼道に抱きついた。
その瞬間、式神が暴走して鬼道に襲いかかった、と。」

「はい。鬼道さんも油断していたのでしょう。
至近距離という事もあり、今回は彼の式神を出す隙も無かったようです。」

「ふむ、どうやら私の勘が当たっていたようだな。
ところでジーク、頼んでおいた装置は届いたのか?」

「いえ、まだ届いていません。ですが、そろそろ届くと思いますよ。」


時計に目をやりながらジークが答える。
冥子の釈明に移ろうとしたその時、突然空間に衝撃が走った。


空間の一部が歪み、そこから筋骨隆々のフンドシ一丁の石像が二体飛び出して来た。


「我ら鬼門宅急便!小竜姫様の命により只今参上!!」


むきっとポーズをつけると運んで来たスーツケースと共にジークに受取証を差し出しサインを求める。
彼らは単純にジークの座標に転送するように設定していたので、周囲の人間の事は考えていなかった。
ちょうど椅子に腰掛けている彼らの目線の高さにフンドシ一丁の股間が位置していることも考えていなかった。

もちろん、いきなり顔の前にフンドシ一丁の股間を突き付けられ、ぷるぷる震えている小柄な女性の事も考えていなかった。


「いやぁぁぁぁ!」


――ずどぉぉぉぉぉん――


目の前で暴れ狂う式神達を見届けながら、ああ、流石にこれは仕方ないよなあ、と思う一同だった。






















「わ、我らが、一体何をしたと、言うのだ。」


バラバラになった鬼門が、息も絶え絶えに口を開く。


「うーん、君達はデフォルト設定からしてセクハラ気味だからなぁ……
まあ、不幸な事故と割り切って養生して下さい。」


納得いかーーーんとバラバラのまま叫ぶ鬼門を手際良く一箇所に集めると、空間転送ゲートに放り込んだ。
ゲートが閉まるのを見届け、何事も無かったかのように届けられたスーツケースを開いた。

必要な物が全て揃っている事を確認し、ワルキューレに頷きかける。


「ふむ、ここでは少し狭いな。庭の方に出るとするか。」


皆に移動するように促すと、自身も部屋を後にした。











「あら〜〜そういえば、鬼道君を寝かせたままで良かったのかしら〜〜」

「問題無い。むしろ好都合だ。」


鬼道を起こしに行こうとする六道理事を制し、スーツケースを開ける。
スーツケースの中から出て来たのは何の変哲も無いスピーカーだった。
何故か何も付いていないコードが何十本と繋がれていたが、それ以外はどう見てもただのスピーカーだった。


「これは異種族間意志疎通装置と言ってな。
このコードを繋いでやれば、肉体を持つ生命体であろうと、霊的な存在でしかない精霊であろうと、
問題無く意志の疎通が可能になるという優れ物だ。」


スピーカーに繋がっているコードは、相手の魂に接続され、
その相手の考えている事を音声としてスピーカーから出力するようになっていた。
神族や魔族の中には話すための器官を持たない者が割と多く存在するため、こういった装置は必要不可欠だった。
実際これを取り寄せた妙神山でも、剛練武や禍刀羅守が自分達の待遇改善を要求する時などに利用されていた。


「凄いわ〜〜〜これがあれば皆とお話出来るのね〜〜〜」


思わず冥子が目を輝かせた。
幼い頃から常にそばにいてくれた式神達だったが、彼らは言葉を話す事だけは出来なかった。
出来るなら一緒に話をしたいとずっと夢見ていたのだ。

その願いが遂に叶うとなれば、嬉しさのあまり涙の一つも流れようというものだ。


「では式神を呼び出してもらおうか。」


ワルキューレの言葉も終わらぬ内に十二神将が呼び出されていた。
ジークがコードを接続してやるとスピーカーから一斉に言葉が飛び出してきた。
皆、口々に冥子に話し掛けている。


寒くなってきたが、風邪はひいていないか――


夜更かしは身体に悪いから程々に――


好き嫌いはあると思うけど、野菜も残しちゃいけないよ――


どれもたわい無い内容だったが、冥子の頬は涙で濡れていた。












「凄いわ〜〜。ちゃんとどの子も区別がつくようになってるのね〜〜」


感心したように六道理事が頷いている。
冥子と十二神将の輪に加わらずにいるのは娘の邪魔をしたくないという親心だろう。


「はい。自動的に個体ごとに仮想人格を当てはめ通訳してくれるようになっているのです。
だから口調はあまり気にしないで下さい。便宜上、個体の区別をつけるためのものなので。」


冥子と十二神将の語らいが一段落ついたのを見計らい、ワルキューレが口を開いた。


「六道冥子。そろそろ本題に移るぞ。」


白いハンカチで涙を拭っていた冥子が首を傾げる。


「本題って〜〜〜?」

「私が何のためにわざわざこの装置を用意させたと思っている。
今日の除霊を見届けて確信したのだが、暴走の原因は貴様では無く、その式神達だ。
その暴走する理由をこれから取り調べる。」


ワルキューレの言葉に十二神将達がぎくりと体を強張らせた。


「皆、本当なの〜〜〜?」

「もし素直に真相を語るというのなら今日一日この装置を使う事を許可しよう。
だが、嘘を吐いたり黙秘を続けるようならこの座談会はお開きにするぞ。
さあ好きな方を選ぶが良い。」


十二神将達が顔を見合わせ相談している。
真相を語るのは躊躇われる。
だが、代償として差し出された提案はあまりにも魅力的だった。

煮え切らない態度の十二神将に溜め息をつくと、さっさと決断させるべく手持ちのカードを少し明かしてやる。


「こちらもある程度の予想はついているのだ。
貴様達が暴れる理由はあの男だろう。」


指を立て屋敷の方を指す。
その仕草を見て、ついに十二神将達が口を開いた。


『だって!
あんな奴に冥子嬢ちゃんを渡したくなかったんだよぉぉ!』

兎の式神が開き直ったように叫んだ。


『あのような不幸しか取り柄が無いような男に、冥子様は任せられません』

鳥の式神も淡々と答える。


『ハッ、借金小僧の分際で冥子に手ェ出そうなんざ、10年早ぇ。』

猪の式神が鼻で笑う。



と、まあこんな調子で出るわ出るわ。
堰を切ったように鬼道への不満をぶちまけだした。

とは言え、『不幸』や『貧乏』等々、そのほとんどが言い掛かりに近いものばかりだった。
つまり、何の事は無い。彼らは冥子が鬼道に取られてしまうのが嫌だったのだ。

一度は無くなった暴走が再発したのは、冥子が鬼道に恋心を抱くようになったために起こった事だった。
暴走のふりして邪魔者を消してしまおう、という何とも腹黒い思惑があったのだ。
十二神将達の一方的な言い分に巻き込まれた鬼道にとっては不幸としか言いようが無かった。

ワルキューレがこれに気付いたのは、昨日部屋の扉を不用意に開けたジークと鬼道が暴走に巻き込まれた時だった。
あの時、考え無しに暴れ回っているように見えた十二神将が、鬼道にだけ抜群の連携で襲いかかっていたのを見逃さなかったのだ。
まさかな、とは思いつつもジークに裏付けのための情報を集めさせてみると、全てのデータがこの仮説を裏付けていた。


通院記録は全て鬼道のもの。
暴走するのはいつも鬼道がそばに居る時。
除霊という危険な状況下ですら全く暴走の兆しが無い事。
そして、明らかに狙っているとしか思えない鬼道に対する隙の無い連携攻撃。


状況証拠とはいえ、これだけ揃えば狙われているのが鬼道だという事は明らかだ。
これが除霊に同行する前ならば暴走の原因が判明してめでたしめでたし、で終わっていたはずだがワルキューレには疑問があった。


「貴様達の言い分は理解した。
ならば尋ねるが、何故鬼道は今も生存しているのだ。」


今日の除霊で目の当たりにした十二神将達の能力なら、殺す気ならとうの昔に殺せていたはずなのだ。
ワルキューレの言葉に十二神将達が気まずそうに目を逸らした。


「……最初に言っておいた筈だな。
偽りや黙秘を行った場合どうなるか。」


鋭い視線で十二神将達を睨みつけると装置を撤収させるべく一歩踏み出した。


『ま、待ってくれ!』

『言うよ!言う!
だから今日一日だけでも冥子様と話をさせて下さい!』


十二神将達は慌てて制止すると、一体の式神が代表として前に出て来た。
十二神将の中でも最も高い霊力を持つ辰の式神は、観念して全てを話し始めた。


『さっきはああ言いましたが、我らもあの男の事はそれなりに認めています。
冥子様があの男の指導を受け、上手く力を使う事が出来るようになったのは事実ですから。』

「それじゃあ、まーくんのどこが不満なの〜〜〜?」


辰の式神――アジラの言葉に冥子は頭を悩ませていた。
認めていると言いながらも、彼に襲い掛かるその考えがわからないのだ。


『冥子様。
あの男の問題はただ一つ、弱い事です。』

「まーくんは弱くなんかないわよ〜〜〜」

『いえ、我らに勝てない以上、それは弱いという事です。』


流石にその考え方は無茶だろう、と皆の視線がアジラに注がれる。
そもそも、ただでさえ強力な式神を12体も同時に相手にして勝てるような人間がいるのだろうか。


『冥子様の婿について、我ら十二神将が決めた事が一つだけあります。
それは、我らを制する事が出来ないような男は主として認めない、という単純なものです。』


あっさりと言い放った言葉に思わず耳を疑う。
もしもそれを厳守するつもりなら冥子の代で六道家は途絶えてしまう可能性すらあった。


「私の時はそんな事なかったじゃない〜〜
どうして急にそんな事を言いだしたの〜〜?」

『先代、我らはどんな妖魔が相手であろうと主を守る事ができると思っていました。
ですが二年前のあの時、我らの力が及ばない存在を目の当たりにしたのです。』

「……そうか、究極の魔体だな。」

『我らの力で守れない以上、婿になる人間に守ってもらわなければなりませぬ。
その冥子様の盾となるべき男が我らより弱いようでは話にならないのですよ。
あの男には可能性があると思っていますのでね、修行の一環として襲いかかっていたのも事実です。
あの男がもっと力をつけて我らを使役できるようになれば、我らもあの男を認めますとも。』


アジラの言葉の後には気まずい沈黙が残されていた。







「どうしましょうか、姉上。」

「ふーむ、少々強引だが考えが無い事もない。
要は鬼道が強くなれれば良い訳だ。そして借金の返済もある事だから金も稼げた方が良い。」

「それはそうですが……そんな都合の良い話があるんですか?」


ワルキューレは頷くと携帯電話を取り出し、どこかへ掛け始めた。




























「あれ……なんか揺れとる?」

なんか波の音が聞こえるな。
あれ、なんでそんなもんが聞こえるんや?
僕が寝とるんは船のデッキか?

え、どういう事や?


「おお、起きたか新入り。」


うお!?なんやこのごついおっさんは!?
って良く見たら他にも何人かおるぞ。

あれ?何故にそこいらに銃や武器が置いてあるのですか?
あなた方はもしかして海賊ってやつですか?


「ワルキューレ少佐から話は聞いている。
遠慮せずにこき使ってやるから覚悟するんだな。」


はい?何の話ですか?
おや、なんや、胸ポケットに手紙が入っとるな。

どれどれ……






――この手紙を読んでいるという事は目が覚めたようだな。
六道理事と話し合った結果、貴様には出稼ぎに出てもらう事になった。

そこにいる彼らは魔界軍の賞金首ハンターだ。なかなかの手練れ揃いだぞ。喜ぶと良い。
魔族にとって人間の報奨金など不要なので、全て貴様に渡すように言ってある。
代わりに貴様は彼らの雑用として馬車馬のように働くという訳だ。良い話だろう?

それと、暇を見て貴様を鍛えるように言ってあるのでな、頑張ってくれ。
確か人間の諺で『一石二鳥』とか言うのだったか。まあそういう事だ。―― 
























「む、マリア。今なんぞ聞こえんかったか?」

『イエス・ドクター・カオス。
正確には・「はめられたぁぁぁぁ」という・叫び声です』

「ふーむ、マグロ漁船にでも売られた奴でもおるんかのう。
ま、わしらも密入国の最中じゃしな。他人を気にする余裕は無いのう。」


白髪の老人と黒いコートに身を包んだ少女を乗せたモーターボートは巡回船の合間をくぐりながら岸へと近付いていた。
山積みの荷物を積んだそのボートからは、どう見ても密輸船という言葉しか浮かんで来なかった。


「さぁて、小僧の奴は元気にしとるかのう。」


老人は積荷に目をやりながら、自信有り気な笑みを浮かべていた。






























――後書き――

次回、LAST MISSION です。

では。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa