ザ・グレート・展開予測ショー

けぬき


投稿者名:アストラ
投稿日時:(05/12/20)

「うひゃぁ」

 素っ頓狂な声がして、机にいた美神は顔を上げた。すると入り口におキヌがいて―――

 なぜか引力に逆らった髪が、天井に向かって真逆に突き上がっていた。

「えぇ? おキヌちゃん?! あんた何その髪はっ?」

「美神さんこそ・・・え! あっ、私までっ?!」

「こそ・・・? 私まで・・・?」

 ・・・・・・・・・。嫌な、予感が。

 ぺと。

「あぎゃぁぁぁ・・・!!??」

 的中した。

 美神も同じ事になっていた。

『うひゃうわぁひょぇぇぇえ!?』

 賑やかに大騒ぎしていて、さながら地獄絵図の様を呈している。

 少なくともビジュアル的にはかなり痛い。

「なんで? なんでこれベ●ータみたいなってんのよっ?!」

「美神さんそれ他の出版社です!」

 ツッコむべきはそこじゃないのでは。

「あぁそうか・・・じゃなく! とにかくどうしてこんなんなってんの?」

「何かの怪奇現象ですかね?!」

「怪奇も何も、髪が逆立つなんて現実にそうありえないじゃないの」

「そ・・・うですね、でもこれって一体・・・?」

 困った顔でおキヌが美神を仰ぐ。こんな状態に対して毅然と行動を起こせるのは美神しかいない。依存ではない信頼の眼差しが注がれている。

「わからないわ。でも・・・、この私にこの仕打ち、絶対に目に物見せてやるわっ!!」

 怪奇への怒りが加わったのか、逆立っていた髪が一層ひどくなった。

 ふつふつとボルテージを上げていく美神。気のせいか室内気温までもあがっているようだ。

(「うーん・・・これがホントの"怒髪天をつく"ってやつなんだろうなぁ・・・」)

 おキヌは不謹慎承知でそんな事を考えているようだが。



「で、ですね。私たち二人とも見たことない現象じゃないですか、ここは誰かを呼んで相談してみませんか? 原因も意図もまるで霧中ですし」

 気を取り直しておキヌが提案する。目の前にある机を、今にも破壊しかねなかった美神は渋々ながら怒りを一旦おさめ、おキヌに言った。

「その通りだと思う。癪だけどね・・・」

「じゃあ誰に来てもらいます?」

「唐巣先生はダメよ。だって・・・」

「・・・髪が薄くなってるから、ですか。ははは・・・」

「おキヌちゃんそれヒドいわ・・・ふふふ・・・」

「じゃあなんで笑ってるんですか美神さん・・・あはは・・・」

 妙な状況ゆえ妙な所がツボにはまったらしく、しばらく悶え笑っている二人。実に和やかである。唐巣神父が実に不憫であるにしても。



「・・・ゴホン。じゃ、西条さんに電話するということでいいわね」

「はい」

 やっとこさ平静を取り戻した美神は、受話器を持った。

「西条さん? ・・・そう、今すぐ来て欲しいの。大変な事になってる・・・はい、そうです、とんでもない事・・・恐ろしいわ、恐怖よ、恐怖」

 ・・・がちゃっ。

「すぐ来るそうよ。一大事かっ! って慌ててたわ・・・」

「そりゃあ・・・」

「一大事よねぇ・・・」

 二人とも今だ根強く逆立っている髪を触り、

『はぁぁぁ・・・』

 大きく嘆息した。


 
「令子ちゃ・・・おぅわっ?!」

「やっぱり・・・」

 西条が驚いたのは勿論二人の修羅場じみた髪型ではある。

 が、もう一つ。

「西条さん、髪どころかネクタイまで逆立ってますよ?!」

「いい一体、何が、どうなってるんだい令子ちゃん?! 痛っ、ネクタイが、ネクタイが目に刺さってるぅっ!」

 早くも無力化されてしまった西条。二人が内心"しくじった"と思っているのは言うまでもない。来た早々に自分のネクタイに目を刺されて床を転げ廻る西条。言うまでもないが彼もまた立派に修羅場じみた髪型と成り果てている。その姿形はエリート(道楽)公務員(イギリス留学経験アリ)であった常の彼とは程遠い。

「どうしましょう美神さん・・・?」

 おキヌが美神に顔を向けると、真剣な目つきで西条を見ている。

「あの、西条さんの面白い姿凝視してる場合じゃ・・・」

 聞き終わらないうちに美神は足早に西条に近付き、ネクタイを引っ張った。

「おひゃぁ」

「西条さん。これはネクタイピンを使っているかしら?」

「へ・・・? そう、だけど? ・・・くるしぃっ」

「なるほどね・・・わかったわおキヌちゃん、この手の話、前に聞いた事あるわ。西条さん見てて思い出したわ」

 勝ち誇った様子で美神が笑っている。ネクタイを引っ張られて泡を吹いている西条を片手に。

「え? 本当ですか! じゃあこれ、なおるんですか?」

「もちろんよ。任せて。・・・確か棚の下引き出しに・・・」

 ぱっと手を離し、書棚へと移動する美神。やっと放たれ、ぜいぜい息をしている西条。

「あったわ、これよ!」

 一抱えもあるダンボールを持って机にまわった。

「そ、それで解決できるのかぃ・・・」

 息も絶え絶えに西条が問う。自信ありげに美神は答えた。

「ま、これは種明かしみたいなものだけど・・・それっ」

 バラバラバラ・・・! ひょこひょこひょこっ!!

「わっ?! なんですか美神さんこれっ? 毛抜が踊りだしましたよ?!」

 ゆうに10ダースはあろう毛抜が机に撒かれた途端、それらが一気に立ち上がり、さらには唐突に踊りだしはじめたではないか。

「・・・・・・どうしてこんなに毛抜を持ってるんだい・・・令子ちゃん・・・?」

「ここまで来たらもう話は見えたわね。こんな莫迦な事する奴は一人しか居ない・・・」

 あっけにとられた顔をした西条の問いは、無情にもスルーされた。

「さて・・・」

 どこからともなく取り出した長柄の槍、その長さ約25尺。どう贔屓目に見ても長すぎる。特注品であろう。いつぞやシロとタマモが揉めていた際(強制的)に仲裁した代物かと推測される。

「横島! 出てきなさいっ! もうネタはあがってんのよ!」

 アタタタタタタッ!!

 ・・・とセリフを付けたくなるような猛然たる勢いそのままに、天井を穿つ美神。

 切っ先は精確で無慈悲なまま、円形状の穴をあけてゆく。やがて一回りし、

「おとなしく出て来いっ!!」

 と叫ぶが早いか素早く槍先を反転させ、峰から石突に構えて踏み込み、火を吹くような一閃で一突き、天井を破壊した。

 ぼとっ・・・どしゃ。

「あれ・・・?」

 ほぼ一瞬の出来事に状況を把握できていない横島。そしてその手には・・・

「よ、横島君・・・? そのバカでかい磁石はなんだい・・・?」

 ・・・一抱えもある磁石が、あった。

「横島クン・・・覚悟はできてんでしょうね・・・」

「わわっ! ちょ、ちょい待って下さい美神さん! これには深いワケが・・・」

「あるかーっ!!」

「そうですよ横島さん! 女の子の命、髪の毛をこんなにしてワケも何もあったもんじゃないですよ!」

 修羅場と化す事務所。女の怒りにたじろぐ西条。その足は徐々に入り口へと向けて後進を開始していた。

「かんにんゃぁー、ホントは髪を立てるつもりなかったんやぁー・・・!」

 言い訳がましく言う横島。既に満身創痍の痛々しい姿である。

「てっきり・・・がハぁっ?!」

「もう言わなくていい!」

 一際大きい音を耳朶に受け、西条は扉を開けて遁走した。

「あれ西条殿? どうしたんでござる?」

「それになんか騒がしいけど・・・」

 戻って来たシロとタマモに出くわした西条は一言、

「二人とも、今日は戻らない方がいい、よ・・・」

 とだけ呟き、胃をさすり足を引きずり帰っていったという。

 その姿は外傷がなかった割にはえらく重症そうだったらしい。

「堪忍やぁーっ、本当は服めくるつもりやったんやぁー・・・あ゙っ゙?!」

「どういうことですか横島さん・・・」

 べきがすごきょっ。

「はぅ?!」

「いー根性してるわねえ横島クン・・・!」

めきごすぽきょっ。

「めうっ?!」

「何でござるかこれ・・・」

 修羅場に足を踏み入れたシロとタマモは継ぐ言葉を有せぬまま呆然としている。

 ようやく状況を読んだタマモは、

「シロ。掃除機とゾーキン用意して。あと・・・今日は部屋で寝られないみたいだからその覚悟でね・・・」

 と物悲しい目で言った。

「あぁご無体な横島先生・・・」

 シロはあぅあぅと後ろ髪をひかれつも出て行った。

「にしても・・・なに勘違いしたのかな横島は。原典読んでも服がめくれるなんて一言も載ってないはずなのに・・・」

「よーこーしーまー!!」

「かんにんやぁー、許してぇーなぁー!!」

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