ザ・グレート・展開予測ショー

〜 【フューネラル】 第3話 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(05/12/20)



「――――――…はぁっ!?最後まで聴かずに途中で帰った!?あ、あの野郎…!」


夕暮れ時。

暗く染まった教室の中、横島がすっとんきょうな声を上げた。キョロキョロと辺りを見回して、そのままガックリと肩を落とす。
思うさま歌を唄った後、上機嫌で教壇を降りた瞬間、『観客』が一人、姿を消していることに気づいたのだ。

横島の友人――――高野悠也は、ライブ開始5分かそこらで早々に教室を退出していた。

結局、その場に残されたのは、普段見慣れた除霊委員の3人だけ。残念そうな横島のぼやきに、愛子たちは小さく苦笑を浮かべる。

「まぁまぁ…。でも、驚いちゃった。意外っていうか…横島くん、ホントに歌、上手かったのね。
中学校の時なんて、ステージ発表までしたらしいじゃない」

「…ステージって……あぁ、文化祭のときのヤツか…。
 くっそ…ユウの野郎、余計なことを…。こっちにしてみりゃ、一生忘れていたい記憶だっつーの…」

半眼で、ぶっきらぼうにそう言いながら、横島は居心地悪そうに顔をしかめた。まるで逃げるように、自分の席へと戻ってゆく。
そんな彼の不自然な動作を、3人は物珍しげに一瞥し…

……。

…ひょっとして、照れている?あの横島が?

「…ほっほう。これでしばらくは昼食中の話題に事欠かなくてすみそうじゃノー」
「でも、少し憧れますよ…1回だけとはいえ、ライブのヴォーカルだなんて。僕にはとても務まりませんから」

「あぁーあぁーあぁー…ッ!!!うるせーなっ…!そうか、思い出したぞ畜生っ!
 こういう展開になるのが嫌だから、お前らとユウを引き合わせたくなかったんだよ!オレの過去の恥部を嬉々として語りやがって…。
 うー…ったく、今日に限ってオレも一体、何やってんだか…」

弱りきった様子で頭を抱える横島へ、3人はニヤニヤと楽しげに顔を見合わせるだけで…
……神様…! 彼はこの時本気で天に助けを乞いたい気分になった。

「…でも、今でも変わらず仲が良いんだ、高野くんとは…。まさに青春って感じよね」

「………。お前、本当にそればっかだな…とか、もう突っ込む気も失せたんでスルーするけど…。
 あのなぁ…ガキの頃からつるんでりゃあ、多少、話すぐらいにはなって当然だろ。友情がどうとかそういう気色悪い話じゃないんだよ…」

「またまた〜♪」

「聞けよ!!あーもう…ハイハイ、とりあえずそういうことでいいや」

ドッと疲れた声音で、横島が深々とため息を吐く。
折りしもその時、終業チャイムが登校時間の終わりを告げて……
放送用のマイクから定番のBGM――――ドヴォルザークの『家路』が流れ始める。
それは下校の合図だ。あと10分と少しもすれば、校舎中の扉という扉が、用務員によって施錠されてしまうだろう。

「…おいおい…結局、タマモの案件については何一つ片付いてねーじゃねーかよ…
 今日も6時から事務所だってのに……ほんと、どうすっかなー…。」

憂鬱そうな横島の口調に、鞄の中身をつめ直していたピートが少し怪訝な顔をする。

「?珍しいですね。横島さんが、ちょっとやそっと女性に冷たくされたぐらいでめげるなんて…」

「…『ちょっとやそっと』、じゃないから困ってるだろーが…
 大して広くもない空間に2人っきりで無言って…ボケても全然つっこんでくれないしさー。…ぁ…なんか思い出したら胃が…」

言いながら、横島はどんよりと壁に手をついて…
その姿に、愛子は小さく腕を組んだ。何か意味深に頷いた後、おずおずと相手の顔を覗き込む。

「…えーと…。じゃあ、私が事務所に行って、直接、タマモちゃんに口を利いてあげるっていうのは?
 これから少し寄るところがあるから…それに付き合ってくれたら協力してあげるわよ」

「「「 へ? 」」」

目を丸くする横島。それ以上に驚愕するピートとタイガー。
”愛子さん、まさかついに……!”だの ”やはり織姫から、勝負下着を購入したという噂は本当ジャったか…!”だの、
好き勝手なことをほざき始める2人の額に、愛子の手刀が突き刺さる。

「…そこ!妙な勘繰りしない!」
「「い、いや…しかし……」」

「―――――――あー…取り込み中のところ悪いんだけど……それで、ドコなんだよ?その『寄るところ』ってのは。
 場所を聞かないことには返答のしようがないぞ」

場の中で唯一、事情がよく分かっていない横島が、のんびりと愛子の肩口を叩いた。
場合が場合なだけに、正直、彼女の申し出は心強い。女性であり、なおかつ人外である愛子なら、事態に何か大きな進展が望めるかもしれない。

「…ふふっ…」

期待と不安―――――その他、周囲の雑多な感情がごちゃ混ぜになって、熱い視線が降り注ぐ。
警戒あらわな3人に向かって、愛子は小さくウィンクした。


「そんなに心配で。すぐ近くよ♪」


――――――…。


「う……ぁ…えっと…やっぱり私ダメ!今日は学校に帰って寝ちゃおうかなぁ…なんて…」
「愛子さん…せっかくここまで来たんですから…」
「ホント、往生際が悪いノー…」

「……。」

眼前に開けただだっ広い駐車場と、その奥にそびえ立つ白亜の建物。
植林された小道を歩き、横島が頭上の回廊を見上げている。

白井総合病院。
ナイトメアの一件に始まり、果てはヒノメの出産にまで立ち会った、彼にとっては馴染みの深い場所だ。
こうしてこの病院の門をくぐるのは、一体、何度目になるんだろう……そうぼんやりと考えつつ、横島は背後の少女を仰ぎ見る。

「…で、一応、着いたわけなんだが……オレはここらで帰っちゃっていいのか?」
「そ、そんなぁ……お願い、中まで付いて来てよ…」

思いっきり『心細いです』と書いてある顔に、腰が引けた口調。
さっきまでの威勢はどこへやら、愛子が半泣きの表情で見上げてくる。その容貌は、まるで迷子かしおれかけの風船あたりを連想させて…

…道案内まがいの引率の次は、仲良く院内への付き添いである……ほとんど保母さんにでもなった気分で、横島はポリポリと頬をかく。

「…はぁ…子供じゃないんだから、病院ぐらいで一々ビビるなよ…。健康診断してこいって言われただけなんだろ?大したことないない」
「だ、だって病院なんて……私、初めての経験なんだもん。そ、そうよ…!ピート君だってそうでしょ?」

振り向いて、今度はすがるような瞳で見つめてきた。
偽造書類であっさり転入を許可されてしまったヴァンパイア・ハーフは、それに少し気まずげに苦笑して…

「……あはは…うーん…。そう、ですね。実は僕も、日本に来てからはまだ一度も…。というか大丈夫なんですか?横島さん
 ここの院長……たしかオカルト嫌いで有名なんじゃぁ…」

「あぁ平気平気。あのおっさんも、なんだかんだで場慣れしてるから。妖怪だろうが健康診断だろうが、頼めば大抵の無理は利いてくれんだろ」

…などという、イマイチ説得力に欠ける応対をしつつも、横島は完全に事態を楽観していた。
相変わらず『現代医学に敗北はない!!』と豪語し続ける院長だが、彼自身の意思に反して、その取り扱った心霊医療の件数は、
もはや古強者の域に達していると言っても過言ではない。こういった類の相談事には、まず間違いなく信用できる人物だろう。

不安そうに顔を曇らす3人を見返し、横島はダイジョブダイジョブと前置きして…

「…大体、この時期に健康診断ってのがそもそもなぁ……身体測定なら大歓迎なんだけど…
 あ、ちなみにオレ、手で触れば正確に女のスリーサイズが測定できたりするんだぞ?知ってた?」

「『知ってた?』って…えっと、どうしてそこで、手をワキワキさせるのかしら?ま、まさかとは思うけど…横島くん?」

「ゲヘ…事務所にはタマモしか居ないし、最近、セクハラが出来なくて欲求不満なのです…。悪い子の横島くんはもう、辛抱堪りません。
 ってか付き添いの報酬に40回ぐらい乳揉ませてくれたってバチはあたらねーだろうがっ!?」
「多っ!?」

「い、いや…回数の問題ですか…?それより落ち着いてください、横島さん!相変わらず言動が犯罪一歩手前なのは置くとしても、少しは時と場所を…
 …横島さん?よ、うああああああああああああああああああああああっ!?」

お約束というかなんというか…
いつの間にか、そこはもうすでに、思いっきり病院の玄関だったりして…。受付につながる自動ドアが、さっきから迷惑げに何度も開閉を繰り返している。
止めに入った2人の男を、文珠の一撃で粉砕し、横島が血走った瞳で跳躍して…

…いやはやまったく、ツッコミ役の押しが弱いと、この男は本気でやりたい放題である。

「がぉおおおおっ!!もらったぁあああああ!?」
「きゃ、きゃあああああ!?ちょ…ちょっと……ぁ…ダメ…どこ触って…!」
「あああああああ!?あったかいなー…やーらかいなー…ってかなんかこの台詞、すげー久しぶりとか思(以下、五万行略)」

誰が見ても分かる完全暴走状態で、横島が愛子に襲いかかった。
その様子を……。
見ている、見ている。ロビーに腰かける外来患者が、そろってこちらに注目している。
鼻息荒く、すっかり飛んでしまった横島は、その時一瞬、ギャラリーの中からひときわ不穏な気配を感じ取った。

突き刺さる氷点下の視線。雪のように白い肌と、淡いチェックのスカート。
その翡翠色の双眸と金色のポニーテールは、彼がこれでもかという程よく見知ったもので……


―――――…。


「…タ……マモ………さん…?」

先刻、アレだけ話題に出ていた『問題の彼女』が、こうして目の前に立っている。
サァ…ッと血の気が失せていくのを自覚しながら、横島の全身が硬直した。
ギギギギギ…と、ブリキ人形のようにぎこちない動作で振り向くと、彼女は冷ややかな態度でそれを認め…

「………ふぅん……」

つぶやいた。冷たい。まず冷たい。周囲の空気から、霜とかまろび出てる。

「待て…!落ち着け…!お前は今何か、壮絶な誤解をしている!これは決してセクハラとか●●●とかそういったタチの悪いものじゃなくてだな…
 …そう!アレだ…!ペッティング!!ペッティングと呼ばれる極めて生産的かつ崇高な…って、ああ!?最後まで聞かずに去ろうとするな!?
 あきれ果てた眼差しでオレを見るな!?」

その場にうずくまる横島の絶叫は当然のごとく無視された。タマモはそのまま向き直り、無言でスタスタと歩き去ってゆく。
追いすがってくる呼びかけに、何故か一度だけ足を止め、そしてポツリと一言。

「……発情期なの?お大事に」
「発情っておま――――――――――ごほぁっ!?」

え、という単語を口にする前に、古ぼけた机の角が横島のわき腹を的確にえぐった。
ぐふぅぉおお…ッ!?と、迫力満天の悲鳴を上げながら、横島の体が宙を舞い……壁へとめり込む彼の頭に、ついで怒気はらむ声が鳴り響く。

「…よ・こ・し・ま・くん……!」

顔を上げた横島の視線に飛び込んできたものは、木製の机。黒髪をユラユラ揺らめかせ、愛子が特大の凶器(←机)を振り上げたたずんでいる。
ごろごろと床をのたうち回る愚か者をよそに、タマモはさっさと病棟行きの通用路を通り過ぎてしまい…

「お、おい!愛子…!ほらほら、タマモ…!あそこにタマモが…!早くひとっ走り行って説得を…って、ぐぎゃああああああああ!?」
「…この万年セクハラ男…!もう今日という今日は許さないんだから…!えい!えい!スチール製の脚でゴリゴリすねを削る攻撃!!」
「あああああああ!?地味に痛いっ地味に痛いっ!?」

ドタバタ暴れる横島を押さえつけ、少女が凄惨な報復を繰り返す。じょじょに群れをなしていく野次馬たち。
見るに見かねて、衆目の中から一人の男が顔を出した。黙ってやり過ごそうそうかと考えていたが、あまりの騒ぎに仲裁に入らざるを得なくなった…
彼の表情が、しっかりとそんな事情を物語っている。

長身でよく引きしぼられた体つき。腰まで届く黒髪が、幾分、力無く垂れ下がり……

「……こんな時間に…一体なにをやってるんだ…君たちは」

どこかくたびれた物言いでその男――――西条輝彦がため息を吐いた。ザワザワと人だかりが、ざわめきはじめ…
復活を果たしたピートたちが、よろよろとこちらに向かってくる。

自業自得と言われればそれまでなのだが…それにしてもこのタイミング、この顔ぶれ……

「…今日は厄日か……」

自身の運命を呪いながら、横島はうんざりしたようにつぶやいたのだ。



                                   ◆



〜pause.1 『 discord 』



【ある朝、グレゴール・ザムザが不吉な夢からふと目覚めると、
                
                   ベッドの中で自分の姿がとてつもなく大きな毒虫に変わっていることに気が付いた―――――…】          


                                                             カフカ 


                                  
                                   ◆



―――――そして、とある病院の一室に…昏い人影が紛れ込む。





それは季節外れの雪が降る、幻灯の夜。

朱に熟した雫が、雲の隙間から零れ落ちた…。

闇に凍える蒼白い腕が、饗宴の幕を引き始めた…。

他人の死。自らの死。

境界を彷徨う、カレの瞳が見据えるものは―――――――――…





『あとがき』


今回は場所移動ということで、こんな感じになってしまいました(汗)
横島、タマモ、愛子、西条+各種オリキャラ…とメインを張るキャラも『ほぼ』出揃って、次回からようやく惨劇の舞台が幕を開けます(爆
内容が少し薄い分、次回の更新は2、3日中に行いたいと思います。
横島くんは相変わらず、凄いこと叫んでますがまぁ……ペッティングはジャンプのブ●ーチでも会話に出てきたし、
調べたところ放送コードにも、触れないそうなので大丈夫なはず……はず。
それでは〜今回はこのあたりで、次回、病院に血の雨が降ります。

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