ザ・グレート・展開予測ショー

ボヘミアン・ラプソディ(3)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/12/13)

とにかく暗い場所であった。

完全な闇だ。

言葉を発することが出来ない。

その瞬間に、闇に捕らわれてしまいそうで。

男は一人、じっと目を閉じていた。

男の右の掌の中の何かが、淡い光を放っている。

波の音が聞こえる。

大きなエネルギーが蠕動する音が。

すべてが生まれ、すべてが帰っていく、魂の深遠のような場所。

ふと、子供の泣き声が聞こえた。

道を失った迷子の子供のような、しゃくりあげるような泣き声。

母親を求めているのだろうか。

そんなに泣くことはないのに、と男は思った。

大いなる母が、すぐ傍らにいるのだからと。





-----------------------------------------------------------------------------------------------

ボヘミアン・ラプソディ(3)

-----------------------------------------------------------------------------------------------





―――500年前。


世界の果てのような渺茫とした場所で、7人の男女が対峙していた。

一人、黒い外套に身を包んだ白髪の男だけが、残る6人に背を向けている。


「どうしても行くのか?」


6人のうちの一人、赤みがかった黒髪の男が白髪の男に声をかける。

白髪の男は唇の端を曲げて、その言葉に辛らつに答える。


「行くのではない。行かぬのだ。お前たちの目指す終焉の土地に。」


白髪の男はそう言うと振り返りもせずに歩き出した。

歩みの先には表情の読めない美しい乙女が、白髪の男を待って佇んでいる。


「ならばさらばだ。まつろわぬ、ヨーロッパの魔王よ。」






「ニムロデの衣か・・・・・・・。よくもまぁ、完成させたものじゃ。」


硝煙の中を突き進み、Dr.カオスはそう呟いた。


「Dr.カオス・・・・・・・、あなたは・・・・・。」



呟く美智恵に向かいカオスは人の悪い笑みで応える。


「なに、昔の馴染みじゃよ。」


視線を交わすレイヴンとカオスの間に、ただならぬ因縁が漂っている。


「・・・・・じいさん。カラクリが分かるんだな?」


ようやっと立ち上がった雪之丞がカオスに向かって子細を問う。

カオスがぱちりと指をならすと、人造の乙女、マリアがプロレマの黒い衣装に向けてマシンガンを撃ち放す。


当然のように、弾丸はその身に傷一つつけられない。

硝煙と薬莢が地面に落ちる乾いた音が残るだけだ。


「非常に稀な事例ではあるが、超能力者の中には自分の意識の中に物質や人間を取り込んでしまう者たちがおる。

20世紀のイギリスにも実の父親を自分の深層意識の中に取り込んだ少女の事例が存在する。

古くから神隠しといわれるもののごくごく一部には、そういった現象も存在するのだ。

多くの場合、恐怖やストレスによって無意識に自分の敵を排除する本能から発動する能力じゃがの。」

「意識の中・・・・・だと?」

ふん、と鼻を鳴らしレイヴンがカオスの言葉尻を取る。

「こんな馬鹿どもに説明してもムダだ、カオス。」

「まぁ、聞いておけ。

『ニムロデの衣』はそういった人間の超能力を利用したものじゃ。

あの黒い布と男の精神はリンクされており、布に触れた衝撃や熱量はすべて男の意識の中に放り込まれる。

アシュタロスの『宇宙の卵』理論に近いかもしれんのう。

銃剣や重火器などは予め意識の中にストックしてあるものを取り出しておるのじゃろう。」


「それで拳も霊波砲もきかなかったってわけか・・・・・。」


「カオス、ムダだと言っている。

それが分かったところでプロレマは貴様にもどうしようもあるまい。」


カオスは両手を外套の中に突き入れたまま、その非難に悠々とした態度で応える。


「時にレイヴン、探し物は見つかったか?」


レイヴンは一瞬眉根を寄せ、その端正な顔が歪む。


「・・・・・・・・お見通しというわけか。」


「探し物・・・・だと?」


「そうじゃ、小僧。

レイヴンは何もGメンに喧嘩を売るためにはるばる来たわけではない。

探し物にきたのじゃよ。」


「・・・・・・・・・。」


「何だ。何を探してやがるってんだ?」


苛立つ雪之丞に対し、闇に身を包む怪老はその顔ににんまりと笑みを浮かべて言ったのだった。


「横島忠夫の肉体と魂じゃよ。」


「何ぃッ!!!」


「そのプロレマを使って横島の小僧を追い詰めたのはいいが、いざ現場に向かってみるとそこにいたのはプロレマだけ。

出血量は致死量だが肝心の肉体と魂がない。

プロレマに尋ねても、一向に要領を得ない。

そこでレイヴン、貴様はこう考えた。

プロレマは横島忠夫を仕留めたが、遺体と魂はGメンが持ち去ったのだと。」


「・・・・・・・違うとでも言うのか?

カオス、まさか貴様が?」


「まさかじゃよ。ワシはその頃日本におったわい。」


そういいながらカオスは、横島令子の傍らに膝をついた。


「起きろ、美神令子。

貴様ともあろうものが不甲斐ない。

小僧は見とるのだぞ。」


身じろぎ、目を覚ます令子。

その瞳は未だ焦点が合っていない。


「・・・・・・・・・・あの人が・・・・・・・・・・・・・・?」


「爺さん、旦那は今精神が不安定なんだよ。あんまりややこしいこというんじゃねぇよ。」


しかしカオスはそんな雪之丞の声が聞こえぬとでも言うように、令子の肩を揺すり同じ言葉を繰り返す。


「小僧は【見】ておる。お前たちのことを、ちゃんとな。」


「爺さんッ、いい加減にしやがれッ!」


雪之丞がそんなカオスの肩に手を掛ける。

令子はカオスと、そして黒衣のプロレマを見比べ、必死に頭を働かせているようだ。


「あの人が見ている・・・・・・・・・・・・・!?」


令子の目に急に生気が宿ったかと思うと、令子はその手に握る【王】の文珠に視線を移しそしてカオスの顔を覗きこむ。

唇の端を曲げ、にんまりと笑う魔王。


「は、あはは、あはははは、ふふ、へへ、あははははははははッ!!!」


突然、令子は堰を切ったように笑い始めた。

精神の非常に大切な部品のいくつかに不具合が起きたような、理性を感じさせない笑い声であった。


「爺ッ!!

だから言ったろうが。

旦那が発狂しちまったじゃねぇかッ!!」


カオスの襟首を掴みその身体を揺する雪之丞。


「令子さん、しっかりしてくださいッ!!!」


「あはは、ち、違うのよ、ふふ、違うの、おキヌちゃん。」


「令子、狂人はみんなそう言うのよ。」


「誰が狂人よッ!!

ママ、心配かけたわね。

もう大丈夫よ。

私は分かったから。あの人は【見】ている。そうね、Dr.カオス?」


カオスはその令子に向かって悠然と頷き返す。

令子は手に握る【王】の文珠を高々と掲げてプロレマに向かって突き出した。


「まったくスケベで甲斐性無しでどうしようもない宿六で私の丁稚に過ぎないくせに、心配ばっかかけてんじゃないわよッ。

さっさと姿を【現】しなさい。

横島忠夫ッ!!」


「何ッ!!!!

まさか・・・・・・・・・・・・・・!?」


レイヴンが驚愕の声を上げる。

その瞬間、令子の文珠に呼応するかのようにプロレマの黒い衣装が眩い光を発する。

プロレマ自身、何が起きているのか戸惑っている様子である。

その胸の辺りから、にょきりと一本の腕が生える。

その拳に握られていたのは、【見】の文珠ッ!!!




【王】【見】



【現】




「糞がッ!!そういうことかッ!!!!!!」


レイヴンが凄みを利かせた視線でカオスを睨みつける。

カオスはそよ風を受けるようにその視線を受け止める。


レイヴンの怨嗟の声が響く中、プロレマの衣装が発する光は目を開けているのが耐えがたいほどの光量になり、そして弾けた。


男は上半身裸であり、その胸の辺りに痛々しい傷跡の名残がある。

傷跡には【塞】と【癒】という二つの文珠が埋め込まれ、淡い光を発している。

男はゆっくりと立ち上がる。

身体が本当に動くかどうかを試すかのように、首や関節をこきこきと鳴らしながら。

そしてとめどなく涙を流す女に向かって一言呟いたのだった。


「ただいま。」


流れる涙に視界を奪われながら、令子は懸命に瞳を見開き続ける。

愛しい男から目を離さぬように。

次に目を開けた瞬簡に、男の姿が消えてしまわないように。


「って、手前ぇ。生きてやがったのか・・・・・・!?」


「何だ、雪之丞。お前ボロボロじゃねぇか。だっせーな。」


胸に大穴空けてるお前に言われたくねぇよ、と雪之丞は悪態を吐く。

唇は笑みの形に曲がっている。


「本当に・・・・・・・。」


おキヌはその顔をくしゃくしゃにして男を見つめている。

シロは男に向かって浅く礼の形を取っている。


「感服・・・・・・。」


しかし一筋の涙が地面へと伝っていた。



「この気は・・・・・・?」


幾十もの兵をなぎ倒したバンパイアハーフの少年はその男の気を感じた。





「エミしゃん。」


「ま、当たり前か。あの糞女の男だものね。」


心配するだけ損なワケ、そう言って褐色の呪術師はタバコを口に含んだ。




「あはははははははは、そうよね。あの煩悩魔神が奥さんと赤ちゃん残して死ぬわけないもんね。」


金髪の美女が大声で笑っている。

傍らで大剣にもたれかかる長髪の男が不適な笑みを浮かべる。


「まったく。殺しても死なないとは君のことだね。」




「あれ〜〜〜〜?????」


この世の地獄と化した戦場の中心で、六道総帥も、その気を感じていたのだった。





「お帰り、あなた。」


令子がやっとその言葉を搾り出したのと、男がその華奢な身体を抱きしめたのは同時だった。



曰く、煩悩の塊。

曰く、服を着た下半身。

曰く、世界最高のゴーストスィーパー。


男の名を横島忠夫と言う。





「あの時、プロレマに仕留められる直前に、文珠の力を使ってその精神の中に非難したのか・・・・・・・。」


「銃弾や霊波が通り抜けられるのじゃ。人が抜けられるのも道理よ。

直ぐそこにプロレマがおったにも関わらずそれに気付かんとはの。

お主、ちょっとボケたんでないか?」


「うるさい、ボケ爺ッ!!!!!」


レイヴンが苛立ちにまみれた声でカオスに食って掛かる。


「さて・・・・・・・・・・・。」


令子からそっと身体を離した横島はプロレマへと向き直る。

そこには革のベルトの合間から虚ろな視線を覗かせる、黒い殺人鬼の姿があるばかりである。


「母さんは見つかったか?」


怪人は返答しない。

代わりに懐から銃剣を取り出し、それを横島に突きつける。


「・・・・・・そうか。」


横島は右手に霊波を集中させる。

たちまちにそこにはいくつかの光り輝く宝玉が出現する。


「待ってろ、坊主。極楽に、行かせてやるぜッ!!」


裂ぱくの気合が二人の超人の間に発生する。

ビルは二人の放つ気迫に耐え切れないとでも言うように、ぎしぎしと悲鳴をあげていたのだった。






(続)

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa