ザ・グレート・展開予測ショー

アキラしっかりしなさい!#1 (絶対可憐チルドレン)


投稿者名:かいる
投稿日時:(05/12/11)



朝の光。どこまでも白く、生き物全てに平等に目覚めを告げるもの。
それはここ、宿木邸でも同じ事であった。

ブラインドの隙間から漏れ出る光と、鳥たちのさえずりがゆっくりと覚醒を促す。
とは言え寒くなってきた昨今、この布団のぬくもりから抜け出て
氷河もかくやと言わんばかりの凍てついた台所に行くのはなまなかな覚悟ではできない。
・・・まあ、他に誰が居るわけでもないので、自分が行かないと何時までも部屋は暖かくならないのだが。

行くか、行かざるか、それが問題だ・・・というよーにどう考えても役には立たないだろう
無為な思考を垂れ流しているのも現実逃避の一手段に過ぎないのだが。
ああ、下手に理性がある自分が恨めしい。

しかし冬のこの時期、布団の誘惑に逆らうことが難しいのは誰しもわかることだろう。
いーよな、ふとんって。ふかふかで、ぬくぬくで、ぷにぷにで。





・・・・・・・・・・・・・・・ぷにぷに?





寝返りを打つ。
・・・・・・・・・誰も居ない。が、明らかに不自然なふくらみがひとつ。

――――――――――道理で暖かいワケだよ・・・・・・・・・・・・またコイツは・・・・・・・・・

ふとんをぺろんと剥いでみると。そこには丸くなった顔なじみのケモノが
実に幸せそうな寝顔で寝ているのであった。悪びれもせず。










          
                アキラしっかりしなさい! (絶対可憐チルドレン) 
                       #1 宿木家のいつもの朝。
     












俺の名前は宿木明。BABEL直属の特務エスパー、チームハウンドの後衛だ。
隣で寝てるのが犬神初音。頼りになる相棒で、チームのフォワードを担当している。
まあチームと言ってもふたりだけなんだが、それなりに実力はあるつもりだ。
コイツとはガキの頃からのつきあいで、何考えてるかもわかりやすいから、連携も息が合う。
チカラ的な相性も合ってるみたいだから当分チームの増員はないと見ているんだが。

おっと、話がそれた。
コイツは冬場になるとたまにこんな風に俺の布団に入り込んでくるときがある。
犬神の血か、寒くなって誰かの体温が恋しくなるのだろうか。
心臓に悪いからやめろと言うのに全く止むそぶりがない。困ったモンだ。

初音の腕はがっちり俺の胴をホールドしてる。
初音を殴って起こしてやろーかとも思ったが、すんでのところで思いとどまる。
空腹や寝不足、寝起きのような理性の安定しない状況下では初音はチカラを暴走させる恐れがある。
前に無理矢理起こしたときに腕に噛みつかれたのを思い出した。

輪を抜けるようにしてどうにかこうにか抜けようとする。
いつもよりも固定の力が甘いようだ。これなら初音を起こさず抜けられそうだ・・・このっこのっ
と試行錯誤を繰り返していると。



「あきらちゃ―――――――――――――――――ん!!?」

どわぁっ!


窓から聞こえる大音声。びっくりした拍子に初音の拘束から逃れ、勢い余ってベッドから落下する。
つつ・・・・・・相変わらず、近所の迷惑顧みないヒトだ・・・・・・・・・!

ブラインドを上げ、窓をガラッと開ける。
向かいの窓から、身を乗り出している人に挨拶をする。


「・・・おはようございます、初穂さん。」

「ん、元気でよろしい!・・・おはよう、あきらちゃん!・・・あー、ウチの馬鹿娘がそっちに行ってない?」


この快活なヒトは犬神初穂さん。説明するまでもないが後ろで寝てるケモノの母親に当たるヒトだ。
見ての通りの竹を割ったような性格で、初音と同じ見事な銀髪をいつもポニーテールにしてる。
くわえ煙草がトレードマークだ。

・・・・・・身体に悪いっていつも言ってるんだけどやめてくれない。
「煙草が健康に悪いんじゃなくて健康が煙草に悪いのさっ!」
そんなどっかで聞いた風な屁理屈でいつもうやむやにされる。
今はどうにか本数を減らすように説得中だ。


「ええ、後ろで寝てますよ!・・・初穂さんも何とかしてくださいよ、コイツのこの癖!」

「ん〜、その子、あきらちゃんのニオイがお気に入りみたいだからねェ。
なんか聞くところによると、安心する香りらしいよ?・・・そんなワケだから我慢してやって?」


頬杖をついてニヤニヤしながらこちらを見ている初穂さん。
・・・・・・うう、遊ばれてるなあ・・・
初音が居ないときの初穂さんはいつもこんな感じで俺に絡んでくる。
普段世話になってる分、アタマが上がらないから、こういう時の対応はすげえ困る。
・・・・・・最近流すことも覚えたけど。


「はぁ・・・・・・もう、ガキじゃないんすから。そ、その、男の布団に女が入るってのは・・・」

「・・・・・・・・・あきらちゃん?お顔が真っ赤よ?」

「――――――――――っっっ!初穂さんっ!」

「ごめんごめん!でもあたしから見ればふたりともまだまだコドモだけどね!」

「もー、それを言われると返しようがないっすよ。」

「あっはっは!精進しなよ、少年!」


ご覧の通り、初穂さんにはかなわない。あっちの方が二枚も三枚も上手なのだ。
この『初穂さん』と言う呼び方についてだが、ガキの頃から面倒見てもらってきて、
ことある事に呼び方を矯正され、今に至る。・・・・・・おば・・・なんて呼んだ日には明日の朝日は拝めないだろう。


「さて、それじゃその子を迎えに行こうかね。」

「あ、はい。朝食は何か希望ありますか?」

「いやー、いつも悪いねー!・・・・・・・・・んじゃ、ひさしぶりに和食「玉子焼き。」を?」


後ろから割り込んだ声。初音が不機嫌そうに布団から顔だけ出してこちらを睨んでいた。


「おー、おはよー、我が娘ー!」

「朝の献立は私に決定権があるんだからね。横取りしちゃダメ。」

―――――――待て。何時決めたそんなこと。

「あっはっは!我が娘ながら独占欲の強いこと!心配しなくてもあきらちゃんを取ったりしないよ!」

「母さん!!」

「あっはっは!じゃーまた後でねー!」




朝の献立の話が出たが、なぜか料理は俺の仕事になっている。
犬神親子曰く、明の作った料理の方がおいしいし、時間もかからないから。だそうだ。
まぁ、料理は半ば趣味となっているからいいんだが、釈然としないものがある。




「相変わらず台風みてーなヒトだ・・・。」



ぼやきながら、朝食の準備に動き出す。
初音も眠そうな目をしながらも後をついてくる。



キッチンで準備を進めていると、初穂さんが新聞片手にテーブルについた。
娘の方はというと、こちらの手元をのぞいたり、母親にちょっかいだしたりと忙しい。
今のところ、日常生活はこの3人で行っている。
俺の両親と初音の父親も健在だが、ここにはいない。



うちの両親と初音の両親は昔、四人でチームを組んでいたらしい。
元々交流の深い家柄だって言ってたし。今はチームでなく単独で動くことが多いらしいんだが。
ウチの両親は外国に派遣されることが多く、家にいることが滅多にない。
今は確か・・・・・・ナルニアとか言うところにいるとかメールが来てたっけ。

そんなわけで俺はガキの頃から初穂さんに面倒を見てもらったようなもんで。
こういっちゃ何だがもうひとりの『母さん』だと思ってる・・・・・・・・・んだが。





「・・・・・・明。明は私のごはんしかつくっちゃだめ。」

―――――――・・・・・・・・・さらっと無茶言うんじゃねぇ。




「・・・・・・で?ウチの娘とはどこまで行ったの?いつごろゴールする?」

―――――――・・・・・・・・・目を輝かせながら聞かないでください。





実に、娘に似て、というか娘に勝るとも劣らぬ『トラブルメイカー』なのだった。
まともに付き合ってるとこっちが潰れてしまう。

・・・実際、いつのまにかこっちも巻き込んで大騒ぎになるのが常なんだが。



後ろで母子がぎゃいぎゃい騒ぐ中、料理をする手を進める。
この言い争いも、今ではすっかり日常の一部だ。慣れというものは恐ろしい。


今日もまた、騒がしい朝が来て、騒がしい日常が始まる。
・・・なんとなく、悪い気分じゃないな。


そんなことを考えながら、玉子焼きをひっくり返した。
―――――――よし、良い色だ。



















「――――――――――――スキありっ!んー、うまいっ!
あきらちゃんってばまた料理の腕上がったんじゃない?これならいつでもお嫁に来れるわね!」

「あっ!私の玉子焼き!!」

「・・・フツー、男は嫁入りできねーっすよ。」

「フッフッフ・・・初音もまだまだ修行が足りないわね・・・・・・もいっこもらいっ!」

「・・・・・・・・・させないっ!」

「・・・フォローはなしっすか。」


ガキィ!と音を立て、端の鍔迫り合い(行儀が悪いのでやめましょう)
を始める母娘が一組。互いに一歩も退かない。


「母さんといえど、明の料理は譲れない。」

「あらあら、ホントに独占心の強いこと。譲り合いの精神は大切よ?」

初音の瞳孔が縦に裂ける。

「じゃあ、母さんが手本を見せて。」

初穂さんの髪が逆立つ。

「あら、聞き分けがない子ね?」










「だー!追加を焼きます!焼きますから居間で超能力戦をしないでくださいっ!!」

一触即発。椅子を立ちながらたまらずフォローを入れる。

「・・・・・・チーズ入りね?」

「あ、ズルい。あきらちゃん、私にも。」

「もー、好きにしてください・・・・・・。」



こうして朝の情景は騒がしく進んでいくのだった。








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