ザ・グレート・展開予測ショー

こどもチャレンジ(14)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(05/12/10)


 部屋の中で独り、何もせずに ぼーっとしていると、不意に思う。

 このままでいいんかなぁ…、と。

 ごろんと背を預けたベッドを揺らし、天井を見るでなく『ここ』へ来てからの日々を思い返す。
 そんな事を考えさせられたほどに、冥子に怯えられたのが堪えていた。

 ふぅ、と溜め息をつく。

 ここが過去なのは間違い無さそうだが、同時に知ってる史実とは違ってしまっているのも確か。
 尤も、違ってしまった原因の半分……少なくとも横島にとって……は、自身の所為なのだから今更と言えば今更なのだが。

 ともあれ、今、横島は少なからぬ不安を覚えていた。

「美神さん、怒んだろうなぁ…」

 と。

 無事に戻れたら、怒られるどころで済むだろうか?
 正直、難しいだろう。

 現状の人間関係は、彼女にとって愉快な事ではあるまい。
 仲が良いとは言い難いエミと同門になっていて、揚げ句にGSとしては横島の後輩になってしまっただなんて。 美神がそれを何とも思わないなんて事は絶対に無いだろう。

 そして、彼女が不愉快さをどう言う事象に変えるか。 これまた、彼には考えるまでもない確定事項だ。

「…黙ってたら、バレないかなぁ?」

 無理だろうなぁと苦笑した。
 経験則が保証している。 美神に対して隠し事なぞ、し通せた例(ためし)は ほとんど無いのだ。

 思わず背筋が ぶるぶると震えた。

 思考はすぐに現実逃避に走り、横島はそのままベッドの中に潜り込んだ。





 こどもチャレンジ 14





「…って事で〜、ウチの娘のプッツンが、そもそもの始まりだったみたいなのよ〜〜」

 ナニの、かと言えば、すでに一昨日の事になってしまった、あの別荘での除霊の件の話である。

 お約束の式神大暴れが収束した後、素直に成仏してくれた霊を見送り、取り敢えずの処置を終えてから六道家を通して当局へ連絡。 翌日、クライアントへの報告を終えると、神父たちはそのまま東京へと戻った。
 そんな訳で、六道夫人が詳細の説明の為に、わざわざ教会まで訪れたのだ

「私も同席して話を聞いたんだけど〜〜」

 たまたま鬼道親子は、あの近隣の山で山篭りしていたのだそうだ。
 乏しくなった食料の調達に出た鬼道が、冥子のプッツンを目にしたらしい。 山に残されていた彼の息子の証言に拠れば。

 以前より、打倒六道に燃えていた。 その為、何故 彼女たち親娘がこんな時期にこんな所に居るのか、それを調べようとホテルに潜り込み、盗み聞いた神父たちの会話から仕事の内容を知ったのだとか。
 六道が除霊作業でミスを起こしたなれば、家名に多少は傷が付く。 そう考え、またうっぷん晴らしも兼ねて、邪魔に掛かろうと嬉々として出掛けたと言う話だった。

「って事らしいから〜ウチの事に捲き込んじゃったみたいなの、ごめんなさいね〜〜〜」

「なるほど… そう言う事でしたか」

 苦笑いが神父の顔に知らず浮かぶ。

 彼女の……六道女史の話が本当ならば、確かに原因の半分以上は六道側にあると言ってもいいだろう。 だがそもそも、そのプッツンを起させた大元は、と言えば、こちら……と言うか横島だ。

 ちらりと見遣ると、彼は ささっと視線を逸らす。
 どうやらきちんと理解はしているようで、別の意味で神父は頭が痛かった。

「鬼道ちゃんチも〜、鬼道ちゃんに代替わりしてから没落しだしたのよね〜〜
 そもそも事業に失敗したのも、ウチのと競合して負けたからだし〜 回収の見込みが無かったから〜借金の申し込みも拒否しちゃったんで潰れちゃったんだけど〜、それで六道家のコト逆恨みしてたんですって〜〜
 おばさん、しつこい人って嫌い〜〜」

「おばはん、おばはん…」

 ルンとかランとか擬音を纏っていそうな口調で吐かれた言葉に、思わず横島のツッコミが入る。

「はぁ… なぁんか恨む気も判んないでもないワケ」

「そぉ?
 そんなウジウジした男なんて、徹底的に叩き潰しちゃうべきだと思うけど?」

 続けて聞こえてきた二人の言葉に、神父は内心だけで汗をかいた。

 美神は、弟子にしてまだ1ヶ月と経っていない。 だがその性格は、既にすっかり飲み込めていた。
 エミと初日から遣り合い、また横島の事もあって、神父の前で猫を被ろうにも今更だった所為でもあるが。

 諭そうと開き掛けた口が、しかし小さく上下した後、そのまま閉ざされる。
 何か言えば余計な言葉を引き釣り出しそうで、少なくとも六道女史のいる今は避けた方が良いのではないか。 そう判断して、彼は口を噤んだのだ。

 そんな話はどうでもいい、とばかりに何やら神通棍を玩んでいる美神を一瞥して、神父はそそくさと話を逸らした。

「は、はは、はははは…
 …で、その鬼道氏の容体はどうです?」

「まだ病院に収容されたまま、目覚めてないって聞いてるわ〜〜
 身体はともかく〜、心の方に大きなダメージを受けてるみたいだもの〜、仕方ないんじゃないかしら〜〜?」

 逸らされた話に、女史があっけらかんと答える。

「そう言えば、あのおっさんが倒れてたのって、やっぱり呪詛返しを受けたから?」

「うん、そのものずばりみたいだね。 彼の話からすると」

「へっ? 俺っすか?」

 神通棍を握ってはニタニタしている美神の様子を窺って、色々と好ましくないだろう未来予想に囚われていた横島が、突然の名指しに振り返った。

「あぁ、襲ってきた幽霊が、返り討ちに遭ったって言ってただろう?」

「あそこにあった〜魔法陣を調べたら〜〜、どうやら直接あの幽霊にラインを繋いで操る〜言わば無理矢理 式神にするみたいなモノだったのよ〜〜」

 早い内に判って、神父には伝えられていた話だ。
 鬼道家も式神遣いの系譜であるから、それは不自然な話ではない。 除霊対象を強化して乗っ取り、自在に操る事で邪魔を目論んだのだろう。

「それで格の違う式神に攻撃されて、フィードバッグで気絶したって事?
 バッカじゃない?」

 それでも話は聞いていたのか、美神が鼻で笑う。

 まぁ、代替わりした六道の後継者を、それだけ侮っていたと言う事なのだろう。
 実際のところ、効果的に使われたのではなく暴走した結果なのだから、あながち間違っては居ないのだし。

「はぁ… それでアイツ、いきなり逃げ出したんすか…」

 攻撃された幽霊がすぐに逃げ始めたのは、急に制御から外れた為に当人の本能任せになったからだった。

「で、その鬼道氏の子供はどうなってるんですか?」

 話を聞きながら気に懸っていたのだろう、神父がそう問い掛けた。 

「子供って言っても〜、ウチの冥子の一つ上だからそんなに小さい子じゃないわよ〜〜
 ただ〜なんでも母親が失踪してるらしいんで〜、ウチで預かる事にしたの〜〜」

「そうですか、それは良かった」

 本当にそう思ってると知れる笑顔で彼は頷いた。
 それを聞いた美神がぼそっと呟く。

「それって、使えそうだから取り込んだって事?」

「あら、やだわ〜
 おばさん、そんな事〜ほんの少ししか考えてないわよ〜〜」

「少しは考えとったんかいっ?!」

 思わず放たれた横島のツッコミに、しかし ほほほほほ〜と笑いながら彼女は言葉を続けた。

「だって冥子の面倒見て貰うのに〜ちょうど良さそうなんだもの〜〜
 なんだか敵愾心持ってるみたいだけど〜、その内に嫌でも格の差を思い知るだろうし〜、全然問題ないと思うのよ〜〜
 どうせ鬼道ちゃんは治っても〜、暫く塀の中に入ったままなんだし〜〜」

 誰の目にも、一片の邪気も悪意も無くそう言っている様に見える。
 六道女史にしてみれば、事実は事実だし、また当の本人の事を気に懸けての発言だからなのだろう。

 ただ…

「このおばさん恐…」

「こればかりは同意見なワケ…」

 美神とエミも、さすがに腰が退けていた。

 ・

 ・

 ・

「とまぁ、一応 君たちにも聞かせておいた方がいいと思ってね。 六道さんと相談しておく事もあったから、わざわざご足労頂いたんだよ」

「ふ〜ん。
 次の仕事の時には、私も連れてって貰えると嬉しいんだけど」

 神父の言葉に真っ先に答えたのは、今回、当事者たりえなかった唯一の人間……美神だった。

「そ、そうだね…
 まぁ、様子を見つつ状況次第で善処しよう」

 苦笑を満面に、だが彼はそれでも頷いて見せた。
 残る二人は、取り敢えずそれ以上訊く事も無かった様で納得げにしている。

「これから私は六道さんに話が有るんで、君たちはいつも通りにしていてくれたまえ」

「うぃ〜っす」
「判ったワケ」
「仕方ないわね」

 三様の返事と共に出て行く弟子たちへ、鷹揚に頷いて応える。
 扉が閉ざされ彼らが居なくなると、神父は女史の方へと向き直った。

「それで、お電話した件なんですが…」

「妙神山の事ね〜〜」

「えぇ」

 神妙に頷いた神父は、落ち着かなく手を組み替えながら彼女の言葉を待った。

「まぁ〜唐巣クンなら初めてじゃないから問題無いと思うけど〜〜 あそこに繰り返し行った人って〜聞いた事無いから、たぶんだけど〜〜
 けど〜やっぱり今回の件で、なのかしら〜〜?」

 ニコニコ笑って首を傾げる女史に、彼はこくりと頷いた。

 そんなかんなで、説得どころではなくなってしまった対象の除霊。
 プッツンで、局地的災害と化した冥子の沈静。
 そのどちらもが、神父たちが何かする前に終わってしまっていた。

 言うまでもなく、横島の手によって。

「あの子、一体なにをやったのかしらねぇ〜〜?
 ウチのに訊いても〜、肝心な所は覚えてないし〜〜」

 ソコに辿り着くほんの一瞬前まで、彼の悲鳴が聞こえていたのだ。
 だと言うのに、神父たちが彼らの元に着いた時には全てが終わっていた。

「私が聞いてる限りでは、霊波刀がメインの筈なんですが…」

「間違いなくソレだけじゃないわね〜〜」

 辿り着いたソコは、まるで聖別でもされたかの様に浄化され、本来の除霊対象どころか澱んだ陰の気配すら無くなっていた。 そしてキレていた筈の冥子は、穏やかな表情で床に丸まってすやすやと眠っていたのだ。 暴れていた式神たちも影に戻ったのか、そこには破壊の跡ばかりが残るだけ。

「えぇ…」

 エミから聞いた話や、実際に指導してきた経験から、弟子にした少年の能力の高さは判っていた。
 だが今回の件で、その底が未だ見えていないと気付かされたのだ。

「ですから、これから私が彼らを見て行く事を考えると、どうしても私自身のチカラの底上げが必要なんです」

 くしゃっと髪を掻き上げた指に絡まった毛髪を目にして、一瞬泳いだ視線が遠くへと飛ばされる。
 そんな、出来れば秘しておきたい葛藤に。

「そうね〜〜
 それがいいかも知れないわね〜〜 唐巣くんの髪がなくなっちゃう前に〜〜」

「ほっといて下さいっ!!」

 心中の窺えない笑顔で吐かれた言葉に、さすがに神父も声を荒げた。

「でも、あんまりキツいようなら言ってね〜 私も出来るだけ力になるわよ〜〜
 霊能じゃ〜無くなっちゃった髪は戻せないんだから〜〜」

 だめ押しにぷるぷる震えながら、それでも神父は笑みを作って頭を下げた。

 実際GSの上下関係は、一面その霊能の強さに因るのも確かなのだ。
 彼を御しきれると思えばこそ自ら師と名乗りを上げたのが、神父自身 見通しが甘かったと今では考えていた。

 ともあれそうである以上、彼らを……特に横島を導いて行く今後を思うと、尋常な手段でなくとも取れる手は打って置くべきだった。
 何せ彼はまだ12歳なのだ。
 反抗期がこれから来るだろう事を考えれば、時間の余裕も多くはあるまい。 …まぁ、あの母親が居る限り、杞憂で済みそうな気もするが。

 横島の事情を知らない神父にとって、それは切実な悩みの種になっていた。

「もう一度妙神山に行くのはいいけど〜〜
 向こうに行ってる間って〜あの子たちの事はどうするのかしら〜〜?」

「それなんです…」

 美神も一人暮らしだし、前歴を考えればエミも一人で大丈夫だとは思うが、それでも気に懸かるのは事実。 横島も、出来ればあまり長期に渡って目を離すのは避けたかった。

「令子ちゃんとエミちゃんだけなら〜、ウチで預かってもいいんだけど〜〜」

 本当なら、二人よりも横島を取り込みたいのだ。

 だがトラウマになりかけているのか、彼が近くに居ると冥子が不安定になってしまうのである。
 こればかりは、彼女も本当に残念そうな顔になっていた。

「そう、ですか…」

 ・

 ・

 ・

「冗談じゃないワケ」

 神父たちが話をしている書斎の窓の下、壁に背を預けて盗み聞きしていたエミが小さく呟いた。

「そうね。 悪い人じゃないんだろうけど、私も願い下げだわ」

 間隔を置いて座り込み、同様に盗み聞きしていた美神も頷いた。
 直接 目の当たりにしたエミにしても、話で聞いただけの美神にしても、何時爆発するか判らない爆弾の傍に行きたいとは思えない。 ましてや先程の会話の後だ。

 空を見上げて、揃って溜め息をつく。

「けど妙神山かぁ…
 本当に在るだなんて思ってなかったワケ」

「で、なんなの? その『みょうじんさん』てのは?」

「神様が指導してくれる修行場っすよ」

 当然の様に二人に引き摺られて、その間に挟まれる様に腰を下ろしていた横島が、美神の疑問に答えた。

「じゃあ、私たちも行けば強くなれるって事?」

「あー、ある程度強くなった人間がそれ以上になりたい時に行くトコなんで、今の美神さんだと門前払いされちゃうんじゃないかと…」

「何よ、ソレ?! 使えないわねぇ」

 愛想笑いを浮かべての言葉に、ムスっとして舌を打つ。

「忠夫、おたくよく知ってるわね?
 私だって噂で聞いた程度なのに」

「まぁ色々有りまして…」

 その不審さに、しかし忠夫だからしょうがないか、とエミは疑問を飲み込んだ。
 少なくとも、ある面に於いてはただの小学生でないと、これまで骨身に沁みている。 疑問に思った所で、そんなの今更だった。

「でもそれじゃ、神父が居ない間 私たちは自分たちで修行しなきゃなんないって事か…」

 神通棍の相性の良さに浮かれたものの、実戦に耐える様になるまでには相応の修練が要るだろう。 その事を、美神自身も判っているのだ。
 神父自身は遣い手じゃないとは言え、それでも客観的なアドバイスは受けられる筈。

 数日だとしても、今 居なくなられるのは痛かった。

「私も2〜3日ならともかく、1週間以上だとねぇ…
 忠夫はどうするワケ?」

「俺っすか?
 神父についてくつもりですけど」

 横島としては願ってもないチャンス。
 現状打破の為の相談相手として、前々より行く事を考えに入れていたからだ。

「ちょっと、どう言う事よ?!
 私だと門前払いで、あんたなら大丈夫だって訳?!!」

「ちょ、美神さん、声大き…」

 制止の声も介さず、襟首掴んで横島を揺すりまくる。

「令子、止めなさいってぇの。
 だいたいそれ以前に、神父が連れてってくれるかだって判んないワケ」

 ここ最近繰り返されてきた様に、美神を制止に掛かる。
 そんな彼らの頭上から、声が降ってきた。

「いや、それもいいかも知れないな…」

「えっ?」

 3人は揃って顔をそちらに向ける。

「彼女なら、連れてきた弟子を一言で拒絶するって事も無いだろうしね」

 開いた窓から3人を見下ろす様にして、神父が続けてそう言った。
 その後ろでは、六道女史も苦笑いを浮かべている。

「えっと… いいんすか?」

「却って、その方がいいかも知れないしね。
 ただ、向こうに行ったら私からして修行漬けになるし、それ以外にやれる事は無いから君たちもそうなるよ? 前以って言っておくが」

 こほん、と咳をして苦笑する。

「…と、まぁそれはそれとして、君たちは一体こんな所で何をしてるのかね?
 いつも通りだと、霊力を練る為の瞑想をしている時間の筈、だったと思うんだが」 

「あ、それはその…」

 3人揃って後頭部を掻きながら、言い訳を探して視線を宙に彷徨わせる。

「はぁ…
 君たちには、まずマナーや常識を覚え込ませる事から始めた方が良さそうだね」

 師の大きな大きな溜め息に、来たる説教を予感して、横島たちは強ばった笑い声を上げた。





 【つづく】



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……ぽすとすくりぷつ……

 お久しぶりです。 最早、季刊ですらなくなったこどチャをお届けしました(__)
 …つうても、話的にインターバルな部分で、山も落ちもありませんが(泣) 冥子から逃げただけってのは言わない約束です(^^;

 まぁともあれ、これで漸く妙神山へ行ける。
 最初のコンテでは7だったんだから、モロに倍掛かってますねぇ… 次は、こんなに時間を掛けずに済むといいんですが。

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