ザ・グレート・展開予測ショー

オカG極楽番外編〜仏の道・修羅の道〜


投稿者名:ふぉふぉ
投稿日時:(05/12/ 9)


伊達雪之丞と弓かおり。

互いの不器用さ故、二人の交際はゆっくりとした歩みであったが、それでも着実に続いていた。

おおっぴらに見せびらかすような付き合いではなかったものの、かといって後ろ暗いこともなしに他人の目をはばかるような姑息さを持たない二人の間柄は、誰に話すこともなくとも次第に周知のこととなってゆく。

闘龍寺の門下生を通じて弓の父の耳に届くほどに。

別に隠していたわけではない。もう子供ではないのだし、何よりお互いの強さと魅力を認め合った者同士の交際に何らやましい事などないのだから。しかし、将来を誓い合うような確たるものを未だ持たぬ状態で軽々しく親に告げることをためらう気持ちがあったのも、また事実であった。


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ある日の休日、外出しようとする弓は父に呼び止められた。

「かおり、これから出掛けるのかね。」

「はい、お父様。」

「雪之丞君と一緒にかね。」

一瞬、ビクッと固まる弓。しかし別に知られているのならとぼけるのも不自然だろうと思い直し答える。

「え・・・ええ、お父様。」

「出掛けるのは次の機会にしてもらって、今日これから雪之丞君と話はできんかな。雪之丞君に我が家に来てもらいたいのじゃが。」

思わず振り向く弓。

「今日・・・今からですの?」

「ああ、今からじゃ。」


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その一時間後、急な話のためかえって断る口実も見つけられなかった弓と雪之丞は弓の父の前に座していた。

「雪之丞君、君は闘龍寺の、弓式除霊術のことをどのくらいかおりから聞いているかね。」

「お父様、それは・・・」

弓は無言の雪之丞をチラッと見て代わりに答えようするが、弓の父はそれを制する。

「かおりは黙っていなさい。わたしは雪之丞君に尋ねているのじゃよ。」

弓の父は視線を雪之丞へと戻し、言葉を続ける。

「我が闘龍寺は代々仏法を守護する者として古来より宝珠や宝鉾(ほうむ)を受け継いでおり、それを成すための技としての弓式除霊術を受け継いできた。これからもそうでありたいと願っておる。」

「・・・・・・」

無言のままの雪之丞を見据えてさらに問いかけは続く。

「聞くところによると雪之丞君は優秀なGSだそうだが、悪魔の技とも言われる魔装術を使うらしいじゃないか。しかもそれを習った相手というのは・・・」

ズサッ!!!





それまで無言だった雪之丞が立ち上がった。

「オヤジさんよぉ。ご当主と呼ばれるご身分だそうだが、それはそんなに大事なもんか?娘の話も聞けないくらいによー!」

弓の父は身じろぎもせず、雪之丞の目を見据え静かに答える。

「座りたまえ。話はまだ終わっとらんよ。」

「そっちの話は関係ねー。そもそも俺は自分より弱い男の言うことなんて聞く気はねぇしな。」

「まって雪之丞、落ち着いて話を聞いて!」

「いーや、聞けねぇな。お前には済まねぇがこれ以上話すことはねー。」

弓の父はフッと唇の端に笑みを浮かべた。

「わしが、君より、弱いじゃと?」



立ち去ろうと出口へ向かって二、三歩進みかけた雪之丞がその言葉に反応し、振り返る。

「その口ぶりじゃ違うとでも言いたそうじゃねーか、オヤジさんよ。」

直前まで怒気であふれていた雪之丞の顔にも、怒気はそのままで笑みが浮かぶ。



「試してみるかね、雪之丞君。境内なら邪魔も入らんぞ。」

「うれしーこと言ってくれるじゃねーか。おうっ!試せるもんなら試してみなっ!」

そのまま二人は弓の制止も聞かずに境内へと飛び出した。






「オヤジさんよー、さっき魔装術がどうとか言ってたが別に俺はそれだけしか能がないわけじゃないぜ。術なしの素手で相手してやるよ。ハンデにゃ丁度いいだろ。」

「ほっほっほ、素手結構!遠慮は要らんから全力でかかってきたまえ。」

「よく言った!俺は惚れた女のオヤジだからって手加減なんかしねーぜ。行くぜ!」

言うや否や、雪之丞は走り出し空中へと飛び上がった。

飛び蹴りを放つ間合いを確認しつつ、一瞬周囲の様子を見渡す。

(手加減しねーとは言ったが殺しちまうわけにもいけねーしな。・・・ん、あの植え込みなら大丈夫か)

蹴り飛ばす先を定めた雪之丞が間合いを詰める。

ガシィッ!!!!!

激しい衝撃音が響く。が、蹴りを腕でブロックした弓の父は微動だにしていなかった。



「ちぃっ!」

必殺の威力ではないにしろ、自分の蹴りをまともに受けられた雪之丞は飛び退き間合いを広く取った。

「技の最中に余所見をするなど、随分余裕があるじゃないか。遠慮は要らんといったはずだぞ、雪之丞君。」

そう言いつつ、弓の父はどっしりと構えを取った。

「へ・・・へへ、そうだったな。俺としたことが。」

雪之丞も改めて構えを取る。




じりっじりっと回り込むように動いてゆく・・・が、なかなか距離は詰められない。

「どうしたね。今度は・・・」

弓の父がすり足で一歩踏み出す。

「こっちの番ということかな?」


スザッ!!


すり足で体を半身回したようにしか見えない動作だったが、瞬く間に雪之丞との距離が縮まる。

「速っ・・・」

雪之丞が呟く間もなく正拳が振り下ろされる。

ドスッ!!

(・・・しかもめっぽう重いじゃねーか)



雪之丞はブロックした左腕にビリビリとした衝撃を感じていた。
感じていたのは腕の痛覚だけではなかった。脳に湧き上がる緊張感と歓びをはっきりと自覚していた。



「では行くぞ!」

拳を連続して叩き込む弓の父。

何十発というそれは、空を切り裂く凄まじい唸り声を上げる。そう、空を切るのみで衝撃音は、ない。
胸を擦り合わすほどの距離で、雪之丞は全てをかわし続けていた。

弓の父は一旦拳を止め、二・三歩退き間合いを開けた。



「ほう・・・受けたのは初手だけとは。接近戦も得意なようじゃな。」

「軽口が叩けるようじゃ、浅かったか?」

弓の父の僧衣の襟首がパラリと裂ける。
その切れ目を見て、弓の父はニヤリと笑った。

「・・・抜け目ないのう。」





二人は互いの間合いギリギリのところで様子を伺っていた。お互いに小さく笑みを浮かべながら。

辺りはいつしか静寂が支配していた。二人の呼吸音のみがお互いの欲する音だった。

・・・ふと、雪之丞の耳に小さな、すすり泣くような声が飛び込んできた。
普段なら戦いの最中に気を散らすことなどしない雪之丞だが、その声の主の姿が一瞬で脳裏を支配する。



(・・・弓か)

雪之丞は構えを解き、右手の平を弓の父に向けて突き出した。

「まった、ちょっと待ってくれ。」

そう言うと雪之丞は弓にゆっくり近づいていった。

「弓・・・泣いてんのか・・・済まねぇ・・・」

その言葉に弓はかぶりを振って答える。

「違うの・・・そうじゃないの・・・」

「そうじゃないって・・・じゃあどうしたんだ?」

「嬉しいの・・・」

「・・・・・はあ?何のことだ?」

「だって、雪之丞が『惚れた女のオヤジでも』って言ったから・・・私のこと『惚れた女』なんて、今まで一度もはっきり言ってくれたこと無かったから・・・それが・・・・嬉しくて。」

その姿に雪之丞は顔を一瞬で赤く染める。

「な・・・だからって泣くことはねーじゃねーか。」

「だって、だって・・・・止まららないんですもの。仕方ないじゃない・・・」



掛ける言葉を見つけるどころか、雪之丞本人もうろたえてしまって二人とも言葉が続かないでいる。

ただ弓が小さく泣き続け、それを雪之丞が立ち尽くして見守っている。

「ちっ、これじゃどうしようもねーな。」

雪之丞は弓の父を方を向いて言った。

「オヤジさん、済まねーが続きは次の機会にしてくれねーか。」


二人の様子を静かに見守っていた弓の父は、事も無げに即答した。

「わしなら構わんよ。なーに、雪之丞君が婿にきてくれれば手合いなどいつでもできるからな。」

弓が泣いていた顔を、

雪之丞はオロオロしていた顔を、

驚きの表情へと一瞬で豹変させ、パッと弓の父を向き同時に言葉を漏らす。




「「む、婿?」」




「そうじゃよ。わしは今日来てもらうときに『雪之丞君に我が家に来てもらいたいのだが。』と言ったはずだが。さっきからわしのことを『オヤジさんと』呼んでくれとるからそのつもりなんじゃと思っておったのに。」

「俺は別にそういう意味で言ったんじゃ・・・・」

「おや?かおりからは伝わってなかったのかな。」

「お父様、伝わるもなにもそいう意味だったなんて・・・今まで一言も・・・」

「ほっほっほ、そうじゃったかな。実はこの所かおりの見合い候補を選んでおったのだが、門弟から聞かされたかおりが付き合ってる男というのが候補の筆頭だったのでな。これは渡りに舟とばかりに、今日は婿入りに来て貰えんか話をしたかったのじゃよ。」

弓と雪之丞は顔を見合わせた。



「「俺(雪之丞)が・・・筆頭(ですって)?」」



普段から素行の悪い男が、厳しい家柄の一人娘の婿になるなんて二人は考えてもみなかった。

「雪之丞君、君は自覚していないかも知れぬが、君は仏教界ではちょっとした有名人なのじゃよ。」

「ますますわかんねぇ・・・」


「ではちょっと説明するとしよう。君は聖天大聖老子に教えを受けたそうじゃな。仏教界の伝説の英雄、孫悟空に直接教えを受けた人間なぞこの世でただ二人のみ。君はその内の一人ではないか。」

「それなら横島だって・・・」


「しかも、仏法の守護神たる竜神である小竜姫様から直々の依頼を受けるほど信用が厚いとか。」

「だったら竜神の若様の直参扱いの横島のほうが・・・」


「それに何より、技が良い!悪魔の力を振るいつつもそれを己が信念の為に使い、幾度となく仏敵を葬ってきたではないか。」



弓の父の目が次第に熱を帯びてくる。

「それは我が寺でも崇める毘沙門天様の如し!毘沙門天とは夜叉を統率して仏敵を覆滅されるお方。雪之丞君はまるで現世における毘沙門天様ではないか!」




その場の空気に取り残され始めた雪之丞と弓が声をかける。

「オヤジ・・・さん?」
「お父・・・様?」

「娘のかおりは宝珠の奥義である水晶観音を会得した身、親バカじゃろうが千手観音様に仕える吉祥天様のようじゃと思っておるよ。そう、吉祥天様の夫は毘沙門天様なのだから、これ以上の巡り合わせなどあるものか!!!!」




すっかり気おされ気味の二人が声をかけようとする。
「「ちょっと・・・」」

「これで雪之丞君が長年使える者のおらんかった毘沙門天様縁の宝鉾の奥義を会得してくれれば、それこそ我が闘龍寺と弓式除霊術にとっては願ってもないこと!」



二人が呟いた。深いため息とともに。

「「だめだ(ですわ)・・・聞こえてねー(ないわ)・・・・」」






先に脱力感から立ち直ったのは弓であった。弓は意を決して雪之丞の顔を見る。

「ゆ、雪之丞。私の婿では不満ですか?さっき私のことを惚れた女と言ってくれたのには、それだけの気持ちは込められていなかったのですか?」
「わ・・・私は・・・他の方と・・・あなた以外の男の方と見合いなどする気はありませんわ。」

雪之丞はこのとき、二対一の状況に追い込まれたことをはっきりと自覚した。(逃げ場は・・・なしか)

「ゆ・・弓に不満なんかねーさ。」

弓は瞳に溢れんばかりの涙を浮かべる。

「ほんとうに?」

雪之丞はその弓の瞳を正視できずに、チラチラと見ながら答える。

「あ・・・ああ。俺の・・・背中を・・・預けられる女が・・・他にいるかよ。」

満足気な表情で腕を組んで二人を見ていた弓の父が声を発する。

「なら、決まりじゃな。」

「なーに、寺や道場の実務は全部かおりがするわい。雪之丞君は当主としてドーンと構えていてくれればいいんじゃ。」
「それで、どうじゃな、ん?」

「雪之丞・・・どうなんですの?」




じっと見つめる4つの目の重圧を受けて、雪之丞は覚悟を決めて正座した。

「・・・寺のこととかはよくわかんねーけど、俺は別に自分の苗字なんかにはこだわってねーし後を継ぐような家もねー。だから・・・オヤジさん・・・弓を俺にくれ!」

「雪之丞・・・」

目にウルウル涙をためている弓とは対照的に、弓の父は満面の笑みを称えたいた。

「うむ、娘だけでなく寺も道場もぜーんぶくれてやるわ。拳を交えた男同士、わしの目に狂いはない!ほっほっほっほ。」

弓の父の、その日一番の高らかな笑い声が寺の境内に響き渡った。






「そうじゃ、細かいことは後にしてちょっと宝鉾を見てはくれんかな、雪之丞君。」

「いいのかい?ぜひ頼むぜ。」

(細かいこと・・・ですって?)
ピクピクとこめかみを痙攣させる弓を意に介せず、雪之丞と弓の父は意気投合した様子で宝殿へとスタスタと連れ立って歩いてゆく。



宝殿に入ると弓の父は木箱から細長い布の包みを取り出し、木箱の上に載せ、包みをほどき始めた。
やがて一尺ほどの水晶の棒が姿を現した。

「どうじゃな。」

「どう・・・と言われても・・・。」

「いいんじゃ、正直な感想を言うてみなさい。」

「特に・・・霊気も感じねーし、俺には変わった感じは何も受けねーんだが。」

「うむ、手をかざして軽く霊波を送ってみたまえ。」

言われるままに雪之丞は手をかざす。

「こう・・・か?」

キーーーーン!!!!

ほんの少し、本当に極少量の霊波を送った瞬間、甲高い音があたりに響き、雪之丞はあわてて手を引っ込めた。
「な・・・なんだ、こいつは。」

「霊波を増幅するの。」

後ろから聞こえてきた声に、雪之丞はハッと振り返る。

「弓・・・。」

「その増幅が強すぎて、使うことができないの。」

弓の父がその言葉に頷きながら続ける。

「そうじゃ。霊波を込めずに持つだけならただの棒と一緒じゃ。だが霊波を込めた瞬間にその霊波が増幅されて返ってくる。その力を押さえ込むために持つ手にさらに霊波を込めんといかんのじゃが、そうすると霊波同士で共鳴が始まり持つこともできん程になってしまうのじゃ。」

「私の水晶観音でも押さえ込めなかったわ。」

「どうじゃ、手に持ってみんかね、雪之丞君。」

「俺が・・・」



言われるがままに雪之丞は手を伸ばし、宝鉾をその手に取った。

そして霊波を込める。

共鳴が起こり宝鉾が振動し始め、手の中で暴れだす。

「くっ・・・確かに・・・」

共鳴音がさらに高く、振動が激しくなってゆく。

「尋常じゃねーな、こりゃ・・・・なら!」

ボシュッ!

雪之丞は宝鉾を手に持ったまま魔装術を発動した。

「これなら・・・」

負けまいとしてさらに霊波を込めてゆく雪之丞。
共鳴音は可聴領域の限界まで達し、思わず弓は耳を塞ぐ。

「・・・どうだっ!!!!」

ピシィッ!!!!!



乾いた音とともに閃光が満ちる。

閃光は一瞬で消え、辺りには静寂が戻っていた。
振動は止み、気がつくと宝鉾はその姿を槍へと変えている。
光る梵字が浮かびあがり、宝鉾全体も清らかな光をたたえて輝いていた。

「これは・・・オン・・ベイシラ・・ マンダヤ・・毘沙門天の真言じゃねーか。」

雪之丞は自らの手の中で輝く宝鉾に見とれ、息を呑む。

「雪之丞・・・あなた・・・」



弓の父が雪之丞に近寄り、肩をポンと軽く叩いた。

「どうやら宝鉾は雪之丞君を主と認めたようじゃの。」

「俺が・・・?」

振り向いた雪之丞の目を弓の父は真っ直ぐ見返し、大きく頷いた。

「先ずは持つことを許されたということじゃ。しかし、奥義を使える者が絶えてもう何代にもなり、その力は文書(もんじょ)に残されるのみじゃ。」
「弓式除霊術奥義、会得してみんか?雪之丞君。」

上気した表情で雪之丞が答える。

「おう、望むところだ!オヤジさん、よろしく頼むぜ!」

「わしの修行は・・・甘くはないぞ。」

「へっ・・・知ってるさ。それこそ望むところってもんさ。」

「ほっ・・・・ほーーっほっほっほっほっっっ!!!」
「ふ・・・ふはははははっっっ!!!」



子供のような輝きを目にたたえた二人を、弓は無愛想な顔で眺めているのだった。

(なにさ、これじゃ雪之丞が私の夫になるんじゃなくて、お父様の養子になるみたいじゃないのよ!)

そんな弓の存在などすっかり忘れてしまったかのように、義父(ちち)と息子はいつ果てることなく笑い続けているのだった。


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