ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment.〜 第11話


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/12/ 8)

妙神山にカオスフライヤーが到着した。
西条はすぐに部屋に運ばれ、ヒーリングが行われた。
重傷ではあるが、命に別状はないと告げられ横島は一瞬だけ顔を綻ばせた。
溜息を一つ零すと、胸ポケットを探る。
生憎と煙草は警察に没収されていた。
少しだけ口元を歪ませる。
目の前に赤いパッケージが映る。
マルボロが差し出された。
相手を確認する事なく、横島は差し出されたマルボロを咥えた。
軽い金属音が響くと、オイルの匂いが鼻を擽る。
紫煙が立ち昇る。

「後は詰めだけだ・・・イケるか?」

再び心地よい金属音が響くと、雪之丞はジッポをポケットに入れた。
横島は全身にニコチンが行き渡る程に深く吸い込み、一度溜めを作ると紫煙を吐き出した。
雪之丞の顔を見て、ニヤリと笑う。
三白眼を丸くすると、雪之丞は苦笑した。

「言うだけ無駄か・・・」









妙神山の奥の間に、小竜姫の部屋があった。
夜這いという名のレクリェーションを何度か試した事のある横島にとっては、馴染みのある部屋だ。
襖を開け、中へと入る。
普段は小竜姫が寝ている布団で、シロが寝息をついている。
シロの側には、おキヌとタマモがその様子を見ていた。
部屋に入ってきた横島を見ると、おキヌはボロボロと大粒の涙を零した。

「横島さん・・・」

何かを言おうとしたおキヌに、横島は右手の人差し指をたてると制した。
シロの枕元まで移動すると、静かに座りシロの顔を眺める。
いつもの騒々しさがウソのように、シロは眠っていた。
興味深そうに横島は、頬杖をついてシロの寝顔を眺める。
シロの鼻がひくひくと動き、口元が緩んだ。

「たぬき寝入りか・・・」

「たぬきじゃないもん!」

大声を出そうとすると、まだ傷口が痛むのか眉を顰めた。

「大人しく寝てろ・・・」

横島はそういって、額のバンダナを外した。
バンダナを眺め口をへの字に歪めると、シロの首に巻き頭を撫でた。

「じゃぁな。」

そういって優しく笑うと、立ち上がった。
タマモは何も言わず、そしておキヌは俯いたまま涙を零した。
大粒の涙は、おキヌの固く握り締められた手の上に雫となって流れた。
横島が襖に手をかける。

「待ってください・・・・」

絞り出すような声を、おキヌが出した。

「わ、私も連れていってください・・・・」

おそらく何もできないだろう。
自分でもそれは判っている、しかし言わずにはいられなかった。

「ダメだよ・・・危険過ぎる。」

横島は背中を向けたまま応える。

「危険なのに・・・危険なのに行くんですか?だったら何も横島さんが行かなくても!」

「俺が行かなきゃダメなんだよ・・・」

「危険だから・・・ですか?」

おキヌも令子と同じ事を感じていた。
なぜ危険な事を、命を削るような事をしているのか、と。
おキヌの問いに、横島は寂しそうに笑うと襖を開けた。

「・・・・タマモちゃん!何か言ってよ!横島さんを止めてよ!!」

自分にはもう横島を止める事はできない。
でも、危ない仕事で組む事があるタマモなら出来るかもしれない。
おキヌは祈るような思いで、タマモに縋った。

「なんで?横島が行くって言ってるんだから、私に止める理由なんてないわよ。」

「タ、タマモちゃん・・・」

「横島の側に立てる時と立てない時がある・・・それくらい弁えとかないとね。」

腕組みしてそういうと、シロをジロリと睨んだ。
バツが悪いのか、シロは布団を頭から被った。
横島は少しだけ笑うと、部屋を後にした。

「あ・・・・・」

おキヌの手が横島を追う。

「おキヌちゃん。」

タマモが名前を呼ぶと、おキヌはタマモの方を振り返った。
タマモはゆっくりと首を横に振った、そして深く長い溜息をついた。
静けさを取り戻した部屋に、タマモの吐く溜息だけが響いた。








ヒーリングが終わった西条の下へと、横島は足を運んだ。
上半身に包帯を巻かれた西条が、小竜姫の手によって介護を受けていた。

「いい御身分だな。」

「抜かせ。」

軽口を交わすと、穴の開いた西条のコートに手をかけた。
ポケットに手を入れ、中から赤ラークを取り出す。
小竜姫の顔を見て、赤い箱を振ると彼女は頷いた。
1本取り出し西条の口に咥えさせ、黒いダンヒルで火をつけた。

「すまんね。」

西条の言葉に横島は苦笑で応えた。
煙草とライターを西条の側に置く。

「このコートいらねぇだろ・・・俺が処分しとくぞ。」

横島はそういって、穴が開き血が滲んだバーバリーを肩にかけた。

「かまわんよ・・・・」

西条はそういって、紫煙を吐き出した。
横島は無言のまま部屋を出る。

「横島君。」

西条の言葉に横島は足を止めた。

「死ぬなよ・・・」

横島は返事の代わりに、右手を上げ軽く振ると再び歩き出した。






外へと向かう。
夜が明けるまでまだ数時間ある。
東京へ戻り、準備をしている間に逮捕状は下りるだろう。
横島は天を仰いだ。
星が降ってきそうな空が広がっている。

「人が少ないと、星ってのはよく見えるもんなんスよ。」

天を仰いだまま、そう呟く。

「薄汚れた心が、天に映ってるようなもんなんでしょうね・・・あの街には。」

横島は天を仰いだままだ。
声を掛けようとした小竜姫は、横島の独白に何も答えない。

「アタシらも汚しているワケ?」

「まぁ、そうなるでしょうね・・・大義名分唱えても俺らも人間っスから。」

エミの声にも横島は目を向けようとはしなかった。
ただ天を仰ぎ、星だけを眺めている。
小竜姫がエミの方を見ると、エミは小竜姫に向かい自嘲気味に笑ってみせた。
横島はずっと星を見ていた。
二人もそれに習い、天を仰いだ。
降ってきそうな星空であった。



しばらくすると、令子が中からでてきた。
東京へ戻る算段がついたらしい。
雪之丞も中から出てくる。
顔には立派な紅葉の跡がついていた。

「ずいぶんと派手な挨拶してきたようだな。」

横島がからかうように言う。

「抜かせ・・・」

「口紅ついてるぜ・・・・」

その言葉に、慌てて右手で唇を拭う。

「図星かよ・・・あんまり女泣かすなよな。」

「お前に言われたかねぇぞ。」

雪之丞の言葉に、女性3人が思わず頷いている。

「そんで・・・弓さんはどうした?」

「中でお前んとこの嬢ちゃんにクダ巻いてる・・・」

雪之丞は振り返り、修練場の方を向いた。

「帰ってきたら帰ってきたで、大変だなぁ・・・・」

「お前ほどじゃねぇよ。」

雪之丞はそういって空を仰ぐ。
横島は少しだけ笑うと、再び天を仰いだ。
月は無く、星が降りそうな空が広がっていた。








都内の事務所へ、カオスフライヤーで移動をした。
迎撃のヘリは上がってこなかった。
静か過ぎる夜更けだ。
雪之丞はジークが、エミはワルキューレが都内へと移動をさせている。
エミはいろいろと準備があるために小笠原事務所へ、雪之丞はたいした準備はないが車を取りにやらせた。
横島は久しぶりの事務所へと入った。

【お帰りなさいませ、美神オーナー、横島さん。】

人工幽霊の挨拶に、横島は右手を軽く上げる。

「ただいま人工幽霊。何か変わった事は?」

【何もありません。】

「そう・・・」

以外ともいえる言葉であった。
留守の間に、ここを占拠するものとばかり思っていたが拍子抜けであった。
自分の机に腰を降ろすと、大きく息をついた。



横島は洗面所に行くと、顔を洗った。
簡単なヒーリングは受けたが、殴られた跡は完全には治りきってない。
傷が痛む。
僅かに顔を歪め、目尻に貼ってあったガーゼを剥ぐ。
鏡に写った傷を眺め、眉間に皺を寄せた。
呼吸を2度ほどつき、勢いよく顔を洗う。
手を止め、下を向いたまま動きを止める。
顔から水に混じり血が滴り落ちる。
大きく呼吸をすると、もう一度顔を勢いよく洗う。
近くにかけてあるタオルを取ると、顔に当て水気を拭き取った。
タオルには赤い染みは残らなかった。
それを確認し、小さく頷くと洗面所を後にした。

令子の寝室のドアを開ける。
寝室に入ると、スツールを開け真新しい背広を出す。
ベットの上に放り、着ているものを脱ぎ下着に至るまで新しいものに代えた。
新品のカッターに袖を通し、黒いシルクのネクタイを軽く締める。
上着はそのままにしたまま、鍵付きのタンスを開ける。
手前に引くと、銃がずらりと並んでいた。
多連装9mmの銃を選び、シグザウエルP226を3丁、ベットの上に放った。
マガジンを取り出し、スライドを下げ薬室を覗く。
息を吹きかけ、気持ちだけオイルを飛ばす。
スライドを数回往復させ、作動確認をする。
人工幽霊のおかげで保存状態がかなり良く、違和感無くスライドは作動する。
残りの銃も同様に、確認を行う。
以前ジークに貰った箱を開ける。
軍用の9mm精霊石弾が顔を覗かせる。
マガジンに1発ずつ詰めていく。
一度マガジンを入れ、スライドを下げ、薬室に装填する。
再びマガジンを抜き、一発マガジンに足し15+1発の装弾数にするとハンマーを元に位置に戻した。
マガジンは全部で5本。78発の弾丸を消費する。
ブローニング用のスペアマガジンは、いつも通り2本。
パイソンには、瑠璃色の弾頭の弾を6発。
一発ずつ丁寧に装填した。
最後に、ライアットショットガンピストルグリップを持ち出す。
特製のOOバックを一発ずつ装填する。
散弾ではなく、ベアリング状に研磨された精霊石が9発詰まった弾丸である。

「どうかしました?」

ショットガンに弾を詰める手が止まった。

「・・・・・あんた、何考えてんの?」

「何って、どうやって風水盤どうやって止めようかって事だけっすけど。」

「違う!そうじゃない。なんでそう無茶ばっかりやるって事よ。」

令子がそういうと、横島はショットガンをポンプスライドさせると、もう一発OOバックを装填した。

「無茶な仕事させてんのは、美神さんの方じゃないですか。俺ゃ美神さんの丁稚だから命令に従ってるだけっすよ。」

ショットガンをベットに放ると、スツールに置いてあるタバコを手にした。
何も言わない令子の方に目線を送り、泣き出しそうな顔を見ると思わず苦笑した。

「冗談っすよ・・・」

タバコに火をつけ、横島の顔が赤く照らされる。

「死を望んでいるように見えますか?俺。」

紫煙と共に吐き出された言葉に令子は、ゆっくりと頷いた。
それを見た横島は、思わず苦笑してしまう。

「あんまり人には言いたかなかったんスけど・・・」

少しだけ俯き加減になり、頭を掻いた。

「約束を・・・・約束を果たしたんです。アシュタロスを必ず倒すって・・・
俺が倒すって誓ったから、アイツは自分の命よりも俺の【誓い】の方を・・・優先したんです。
世界がどうの・・・皆がどうの・・・そんな事はアイツには多分関係なかったでしょうね。
でもアイツが・・・アイツのおかげで世界はある。今の世界はアイツが守ったも同然なんスよ。」

横島の言葉に、令子は顔を曇らせ拳を握り締めた。

「あの娘の・・・ルシオラのためなの?」

振絞った言葉は、僅かに震えている。

「死んだ女のために出来る事なんてありませんよ・・・まして一生操を立てるってタイプでもないしね、俺は。」

令子の方に視線は向けないまま、横島は苦笑した。

「操を立てるワケじゃないッス。いつまでもアイツに固執してるワケでもない・・・」

「ならなんで!!!」

令子が大声を上げる。
その声に向かい、横島はゆっくりと顔を向けた。

「操を立ててるワケじゃないっスけど・・・忘れたワケじゃないっスよ。
ただ・・・アイツが間接的でもいいから救った世界・・・人間を救ったワケじゃないっスか。
それなのにカスみたいのが生きていて、アイツがそのカスの代わりに死んだってのは納得いかないんスよ。」

「ルシオラのために、やってるっていうの?」

横島は軽く頭を振った。

「アイツのためじゃないでしょうね・・・アイツの存在がバカにされてる・・・そんな気がするからやってるだけです。
まぁカッコつけて言ったとこで、結局俺のエゴなんでしょう・・・アイツが何考えていたかなんて今となっちゃ分かんないですか

ら。」

そういってタバコを深く吸い込んだ。
重い沈黙だけが部屋を支配している。
令子にとっては長い時間に感じたであろう。
横島は紫煙を吐き出した。

「・・・だから言いたくなかったんだよなぁ・・・美神さんには・・・」

その言葉を吐きながらベットの横に置いてある灰皿にタバコを押し付け、頭を掻きながら近づくと、令子は何かに怯えるよう

に身構えた。

「絶対勘違いすると思ったんスよ・・・」

「か、勘違い?」

「あのですね・・・俺もあの当時のガキじゃない。これでも少しは成長しているつもりっスよ。」

怯えた目で令子は横島の目を見つめた。
横島は照れたように横を向き、再び頭を掻く。

「俺の横に立ちたい・・・側に居たいって女性がいるって事は判ります。おキヌちゃん、シロ、タマモ、そして多分小竜姫様も・

・・
でも・・・俺が・・・俺が側に居たい、横に立ちたい、背中を守りたいって女性は一人しかいないんですよ。」

再び沈黙が訪れる。
今度は横島にとって長い時間だ。
横を向いていたが、チラリと令子の方に目を向けた。
令子は俯いてなぜか寂しい顔をしている。
思わず体ごと令子の方を向き、肩に手を置いた。

「それって・・・」

震える声で令子が絞り出すように言う。

「それって・・・ルシオラの事ね・・・」

肩に手を置いていた横島は、力無く項垂れた。

「あああああああああああああああああああああ!!!!もおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

頭をグシャグシャと掻き毟り、叫び声を上げた。
人が変わったかのようなリアクションに、令子は思わず目を丸くした。

「な、なに?」

「俺もそーーーーとう鈍いって言われ続けたけど、アンタにゃかなわんわっ!!!」

「え、え!!??どういう意味よ!!!」

横島の叫びに令子は、いつものノリに戻った。

「せっかく人が決めてたのになぁ〜〜〜もぉーーー!!!!あーーーもぉええわいっ!!」

開き直ったかのように横島は令子の方を向いた。

「あのっスね!さっきも言ったように俺は操なんて立てるタイプじゃないッス。」

あまりの勢いに令子は、ただ云々と頷いた。

「ルシオラ、ルシオラって、あいつの事は忘れたワケじゃないけど、あいつしか愛せないワケじゃない。
一生操立てきれる程俺は純情な男じゃないし、そんな事なんてしたら俺が俺じゃない。
たまにふっと思い出す事もありますけどね、俺ゃ生きてるんスから・・・生きてるんだから自分のやりたい事やりますよ・・・」

まくしてるよう言うと、令子はこくりと頷く。

「まぁ煩悩魔神っスからね、綺麗なねーちゃん見ればヤりたいと思うし・・・」

そういうと令子の顔色が変わる。

「でも・・・」

「でも?」

そういいながらも、手は拳を握っていた。

「ヤりたいって思うねーちゃんはゴマンといても、“抱きたい”って思ってるのは一人だけっス。」

【誰なのよ!それわっ!!!】

言葉に出なくても目とオーラで物語っていた。
思わず一歩引いてしまう。

「まだ理解してないようっスね・・・」

「理解?何がよ!!!」

そういって令子は歩を進めた。
いつもはその気に下がる横島だが、今日は違う。
その場から令子の方に逆に歩み、肩を掴んだ。

「美神さん、いつも言ってますね。“抱かせてやってるんじゃない。私がヤりたいからヤる”って。」

横島の真面目な顔に、思わず顔を逸らせる令子。
照れ隠しとはいえ、我ながらスゴい事を言っていた・・・と自覚でもしているのだろう。
令子は除霊でのストレスというのを理由に、横島をたびたびベッドへと引きずり込んでいた
同情ではない、もちろん性欲などではない。
自分の“女”の部分を使ってでもこの男を引き止めていたかった。
死なせたくない、けど側に居たい・・・相反する感情が令子には有った。

“せめて体だけでも重ねていたい、温もりを感じていたい・・・でも心まで抱きしめてもらいたい”

それが彼女の本心だった。
自分の本心は決して誰にも言っていない。
それが彼女の最後のプライドだった。
そのプライドに自分がここまで苦しめられているとは、自分自身も気付いてなかった。

「今度の仕事が終わったら、俺、美神さん抱きます。美神さんがヤるんじゃなくて、俺が美神さんを抱きます。いいですね!」

「は、はい!」

思わず返事を返した令子だが、一瞬頭の中が真っ白になっていた。
横島は令子から手を離し、ベッドの上に置いてあるショットガンとコートを手にした。

『雪之丞さんと、エミさんが到着しました。』

天井から声が掛かる。

「おう、今行く。」

横島は令子の横を抜けると階段へと歩を進めた。
後に残された令子は、その場に立ち尽くしたまま呆然としている。

『美神オーナー?』

人工幽霊の声にも令子はまったく反応しない。
真っ白だった肌が急激に赤くなっていく。
頭から湯気をたて、今にも倒れそうであった。

『大丈夫ですか?美神オーナー。』

「だ、大丈夫よ。あたひは大丈夫!大丈夫なんだから!!」

上吊った声を出し、足と手を揃えながら令子は廊下へと向かった。
途中何度も、壁にぶつかりながら・・・










「お?珍しいな。スーツなんて、七五三か?」

事務所の外で待っていた雪之丞は、横島の姿を見て開口一番そういってからかった。

「ジークとワルキューレは?」

「先に帰ったぜ。“吉報を期待してる”ってよ。」

「吉報ね・・・」

横島は失笑して、ジークたちが飛び去ったであろう空を見上げた。

「あっちと違って、星が見えねぇなぁ・・・この街は。」

「澱む事が多すぎるワケ。吹き溜まりだからね、この街は。」

呪術用の術衣にメイクを施し、コートを羽織ったエミは空を見上げずにそういった。

「そんな街だから、俺たちみたいなのがいるんだろうよ。」

自嘲気味に笑い雪之丞は、横島とは逆に俯いて見せた。

「横島ぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

事務所から怒鳴り声が響く。

「アンタまたなにかやったワケ?」

事務所の方に皆、目を向けた。

「いや・・・別にたいした事はやった覚えはないんスけどね。」

他人事のように横島はサラリと言ってのける。

「まぁあの声だと、いつもの調子が戻ってきたって感じのようだな。」

完全に他人事の雪之丞は、そういってカローラバンのドアを開けた。






横島たちが現場に移動を開始した時間に、美智恵は防衛庁の一室にいた。
毅然とした態度を崩さず、3人の男たちと対峙している。

「無礼ではないのかね。こんな時間に呼び出すとは。」

民自党幹事長の丸山は不機嫌そうにそういいながら、横柄な態度を改めようとはしなかった。
美智恵はその態度を鼻で笑うと、書類をテーブルの上に放った。

「これはなにかね?」

丸山はそういいながら、書類を手にする。
簡単に目を通すと、書類を放った。

「これがなんだというんだ?」

苦笑とも失笑ともとれる笑いが思わず漏れる。

「同じモノがすでに世界GS協会本部へ送られていますわ、丸山先生。」

腹芸で交わそうとした丸山だが、事態の状況が飲み込めてないらしい。
以前として横柄な態度は改めないままである。
丸山に代わり、陸幕長の小杉が口を開いた。

「美神特別顧問、逮捕状はいつ降りるのかね。」

「すでに時間の問題ですわ。後5分もすれば降りるものと思われますわ、小杉陸幕長。」

「小杉君!」

丸山は態度を急変させ、小杉の方を向いた。
丸山は小杉に一瞥くれると、眼力だけで丸山を制した。

「特別立法が降りるのが、本日午前7時。それまでにすべてを押さえる事ができるというのかね?」

「可能ですわ、彼らなら。」

「お手並み拝見といこうか・・・7時までにケリがつけば我々の負け。7時までにつかなかったら・・・」

「私どもが犯罪者ですわ。」

美智恵はにっこりと笑った。
美智恵の携帯が音を立てた。

















雪之丞の運転するカローラバンは都内を走り、ヨーダ自動車関東研究所の側で停まっていた。
4人は別々のドアから外に出て、装備を確認した。
東の空を眺める横島。。

「そろそろ夜が明けるな・・・」

「明けきれた頃には、決着ついてるな。どっちにしてもよ。」

雪之丞はそういって、横島にタバコを差し出した。
横島はそれを受け取り咥えると、ジッポの火を差し出す。
二人は1つの火で、タバコに火をつけた。
二人の顔が赤く染まる。
紫煙が、朝靄の中へと溶けていく。

「ねぇ私にも頂戴。」

二人に近づいてきたエミがそういった。

「え?エミさんも吸うんですか?」

「まぁ香りだけね。」

そういいながらエミは横島に近づく。
横島は、ポケットに入れていたタバコをエミに差し出した。

「こっちなワケ♪」

横島の咥えていたタバコを、口から取ると顎を掴み自分の方へ向けると唇を重ねた。

「な、な、なぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

令子は驚きのあまり、髪を逆立たせたまま固まっている。

「ありがとう、横島♪」

そういってエミは、手にしていたタバコを横島の口へと戻した。

「なにやってんのよっ!!!!!!」

ようやく復帰した令子が、エミへと霊気を向ける。

「なにって、タバコ吸わせてもらっただけなワケ。」

悪びれた様子もなく、サラリと言ってのけた。

「アンタも、なに呆けてんのよ!!!!!!」

鉄拳が横島へと飛ぶ。
横島も令子の鉄拳でようやく、お花畑の世界から帰ってきたようである。

“無駄な体力使うなよなぁ・・・行っても無駄か・・・”

雪之丞は朝焼けに向かって、紫煙を吐き出した。

「アンタとはここでケリをつけとくべきかしらねぇ・・・」

令子はそういいながら、神通棍をエミに向けた。

「無駄な体力は使いたくないワケ。後の楽しみにとっとけば?」

余裕有り気なエミの態度は、令子の神経を逆撫でする。
般若の如くエミを睨みつけ、神通棍を鞭へと変化させる。

「・・・あのぉ〜無駄な体力を使うのは、やめといた方がいいのでは・・・」

恐る恐る横島が二人の間に入るが、いきなりシバき倒される。

「当時者が何いうとんのじゃーーーーーーーーっ!!!!!」

放物線を描き、横島が宙を舞った。
2,3度縦回転でアスファルトを抉りながら、赤い花を咲かせていく。

「お〜い、生きてるか?」

気にしてないような声で、雪之丞が声をかける。

「な・・・・なんとかな・・・・・」

顔面から噴水のような血を流しながら、横島は立ち上がろうとした。
不意に、携帯が鳴る。

『逮捕状が降りたわ、風水盤の責任者に賞金は5億よ。時間通り頼むわね。』

「はい・・・判りました、隊長。」

『イヤン♪美智恵と呼んで♪』

最後の言葉を無視して、横島は携帯の電源を切った。
立ち上がった横島にはすでに出血はなかった。
雪之丞は思った。

“すべてギャグで済むなら・・・絶対死ぬ事ないよな・・・”

その言葉を飲み込みつつ、コートを脱ぎ捨てた。

「時間です。行きましょうか・・・」

横島はそういって車に戻ると、血のついたコートを羽織りショットガンを手にした。
エミもコートを脱ぎ捨て、呪術着を露にする。

「特殊スーツは俺と雪之丞が・・・呪術兵器の方は頼みます。風水盤は辿り着いた奴がって事で。
賞金は5億・・・山分けでいきましょう。」

「打ち合わせ通りってワケね。」

3人は正門の方へ向かって行く。
一人取り残された形になった令子が慌ててついていく。

「ちょっと待ったーーーーーー!!!」

「なんスか?あんまし時間ないんですよ。」

現在5時前である・・・残り時間は2時間少々。
そう余裕があるワケではなかった。
横島は少しだけ顔を顰めた。
令子が3人に駆け寄ってくる。

「これが終わった後・・・」

「終わった後?」

「アンタ私を抱くっていったけど、絶対に嫌よ!!!!!!!!
アンタになんかに抱かれてたまるもんですかっ!!!!!!!!!」

まさに口撃というように声を荒げた。
雪之丞とエミはからかうような目線を二人に向ける。

「俺に抱かれるのは嫌って事ですか?」

「そうよ!!!!なんで私がアンタの命令聞かなきゃいけないのよ!!!
私が、このア・タ・シがアンタを欲しいから抱くの!!!判った?!」

あまりの勢いに3人とも呆然としている。

「ほら!時間ないんでしょ。とっとと済ませるわよ!!!」

エミと横島の間をワザと通り抜け、令子はヒールの音を響かせて歩いていく。

「いつまでたっても素直じゃないワケ・・・」

大きな溜息をついて、エミはそういった。
雪之丞は横島の肩をポンと叩き、目線を合わせると首を振ると目頭に熱いものが込み上げた。

「俺・・・明日生きてんのかなぁ・・・・」

横島の言葉は朝靄の中に消えていった。













                            SEE YOU GHOST SWEEPER...





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次回予告・・・・









すいません・・・・予告勘弁してください・・・・次回の副題決めるまで至ってません(汗)
いよいよ戦闘シーンなんですが、どこまで書けるかで副題変わってくるもので・・・
なんせ予告しといて前後編になってしまった愚か者ですから、さすがに今回からは無理です・・・

いくらビバップをマネしたかったとはいえ、予告編は無謀でした・・・・ハイ(汗)



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