ザ・グレート・展開予測ショー

ラスト・サムライガール? 後編


投稿者名:クロツチ
投稿日時:(05/12/ 6)




 時は流れてその日の夜、草木も眠る丑三つ時。
今では誰も近寄らぬ、廃工場に眠らぬ四人。

「さあて、そろそろ現れる頃ね」

美神の言葉どおり、周辺の空気がピリピリと振動をはじめる。
続いて黒い煙のような禍々しい気が集まり、一つの形を成していった。

「グルオオオオオオ…………」

現れたのは3〜4mはあろうかという巨大な亡霊。
地の底から響いてくるような波動により、かなりの力を持っているのが感じられる。

「さ、このくらいの相手なら満足でしょ?」
「はい、十分です!」

その巨大な亡霊の前に立ちはだかるシロ、というよりはシロカネ。

「シッポのお姉さん、逆らわずボクに身をゆだねてくれますか?」
「……おまえから解放されるのなら何でもいいでござる」

スッとシロが全身の力を抜く。
ただそれだけの事だったが、その時起こった事は誰も確認できていなかった。
そこにいた者が聞いたもの、それはカチリという金属音と亡霊の断末魔。

「え?今、何が起こったんですか!?」
「へえ、年季が入ってるだけあってけっこう強いのね。
 まさしく目にも止まらぬ居合い斬りってとこかしら」

横島には状況がわからなかったようだが、さすがは美神令子。
シロカネのやった事が超高速の居合いであることを見抜いたもよう。
屈強な体躯を持つ亡霊は、シロたちの前に刹那も持たず消滅してしまった。

「千人斬りおめでとう。
 さ、これでもう思い残す事はないわね」

シロに近づこうとした美神。
しかし、何か違和感を感じ足を止める。

「思い残す事、か。
 我はこれからこの世で最強の刀とならねばならぬ、より強くならねばならんのだ!」

それは紛れも無くシロの声、しかし彼女がそんなことを言うはずが無い。

「我が名は妖刀・禍白金(マガツシロカネ)。千の妖を喰らい、今ここに覚醒せりぃ!」


 月明かりに照らし出されるシロ。
左手に刀を持つその姿、その目は、もはや美神たちの知るシロではない。
精神までも妖刀に乗っ取られた体はすでに禍白金そのものであった。

「み、美神さん、何かとんでもない事になってるような気がするんですけど」
「あちゃ〜、やっぱり甘かったか……」

その時、美神たちの頭上を突風が駆け抜ける。
頭頂部に触れるか否かという高さで過ぎ去った風、実際にはそれは風ではなかった。
背後から聞こえる大きな音で振り返る三人。
工場が廃棄された時に残された鉄骨であろうか、もうもうと煙を上げて崩れているのが目に入った。

「む、少々力が入りすぎたな……外したか。
 この娘、思っていたよりもかなり強い力を持っているようだな」

禍白金が油断した一瞬のスキ、それを美神は逃さなかった。

「精霊石よ!」

投げ放たれた精霊石より放たれる閃光が辺りを包む。
その光が収まると同時に柄に手をかけるシロだったが、すでに美神たちの姿は無い。

「逃がしたか。
 まあよい、時間などいくらでもある。
 今は心強い鼻もあることだしな」

一方、光に紛れて姿を眩ますことに成功した美神たち。
そこですかさず横島が先ほどの発言を問いただす。

「美神さん、知ってましたね?あの刀のこと」
「え?んーとね……」

横島とおキヌちゃんの白い視線に、さすがの美神も観念して口を開く。

「あいつは元々は聖白金(ヒジリシロカネ)と言われた守護刀、魔を払うための刀だったそうよ。
 後はあの住職の言うとおり、妖怪を斬り過ぎて妖力を身につけたってわけね」
「そ……そんな危険な物をどーして組み立てたりしちゃうんですか!」

大声を上げる横島、それを押さえつけつつ美神が続ける。

「三つに分解されたシロカネだけど、その鞘だけが行方不明になっていたの。
 シロカネの完全封印には多額の賞金がかかってたから、揃えるだけで成仏するんなら儲けものかな〜って思ったのよ」
「それであんなに頑張ってたんですね。
 でも、それならどうして揃った時に封印しちゃわなかったんですか?」

今度はおキヌちゃんが質問する。

「いい質問ね、おキヌちゃん。それは二つ分の報酬が何もせずに手に入ると思ったからよ!
 この廃工場の悪霊とシロカネ、まとめて成仏してくれたら楽だったんだけど……甘かったわ」

はあ〜っと深いため息、美神は本当に残念そうな顔をしていた。

「あ、あんたって人は……」

横島が何か言おうとするが、その言葉は彼らが隠れていた壁の倒壊と共にかき消された。
まるで初めから分かれていたように綺麗な切り口、そしてそのずっと奥に佇む人狼が一人。
とても切先が届く距離ではないはずだが、現に美神たちの目の前には切り裂かれた瓦礫が転がっている。

「そんな所に隠れておったか。
 なに、心配せずとも今降参すれば女子衆は斬りはせぬ」
「……悪いけど、妖怪に降参するほどこの美神令子は落ちぶれちゃいないのよ。
 その子の体も返してもらわなきゃならないしね」

言ってる事は格好良いが、やっている事は横島を大きく前に突き飛ばしただけ。
フラフラと前に出る横島、男の彼が狙われない訳も無い。

「死に急ぐか?良かろう!」
「おわああ!ちょっと待っ……」

肉眼では捉えられないほどの高速の居合いが虚空を切り裂く。
しかし、偶然かはたまた彼の才能か、咄嗟に発動した『栄光の手』が禍白金の刃を受け止めた。

「おおお、重いい!」

斬撃を浴びて首が落ちるのは免れた横島だったが、その速度と太刀筋の重さに吹っ飛ばされる。
そんな状況でも彼に休息は無い。
すかさず美神たちが地面に突っ伏す横島を抱え起こし、再びシロの前へと立ち上がらせるのであった。

「み、美神さん!俺を生贄にでもするつもりなんですか!?」
「あんたの霊波刀じゃないと防げないんだから仕方が無いでしょ。
 おキヌちゃんだって妖刀相手じゃバッサリいかれちゃうんだし。
 それより、禍白金はシロの霊波刀を利用して間合いとパワーを増強してるようだから気をつけて!」

覚悟を決めたのか、横島はキッと表情を引き締め、自ら一歩前へと踏み出す。

「やるしかないってか……」
「ほほう……その手、おぬしも侍であったのか?
 いや失礼、何日か見ておったがただの助平な変態男にしか見えなかったものでな」

そう言われて横島のテンションは急落。

「シロの声で言われると心が痛いなあ……」

隙を作るのは勝手だが、ここは文字通り真剣勝負の場、そんなふうに肩を落としていては切り捨てられて当然。
またまた目視できぬ居合いの一閃に、野性的な直感で防御するのが精一杯な横島だった。

「美神さん!俺一人じゃキツイっすよ!
 何か手はないんですか?神通棍がダメでも何かあるでしょお!?」

涙混じりに助けを求める横島に、美神はやっぱり冷静な態度で返す。

「そりゃあ全力でぶつかれば効果はあるでしょうけど、それじゃあシロの体が持たないわ。
 でも、ちゃんと手は打ってあるから、シロを傷付けないように時間を稼いでちょうだい」
「本当ですね?手はあるんですね?信じますよ!?」

横島がより霊波刀に力を込める。
それに反応し、禍白金もさらに霊力を増大させていった。

「人の子よ、時には諦めも肝心であるぞ?」
「てて、てやんでえ!世のお姉様方を残して死んでたまるかってんだ!
 そっちこそ俺のシ……弟子を返しやがれ!」

滝のように降り注ぐ刃の嵐に防戦一方の横島。
とはいえ、横島の霊波刀を斬る事が出来ないため禍白金も勝っているとは言えない。

(チッ、あの妙な刀はどうあっても斬れぬか……ならば)

突然斬撃が収まると、シロの体は大きく舞い上がり、横島たちから少し距離を置いて地に舞い降りる。

「横島先生、何ゆえいつも女物の下着を求めたり、女人の風呂を覗こうとするでござるか?」
「なっ……!い、いきなり何を!?」

予想もしなかった展開に、横島はこれまでに無く動揺している。
そんな彼を見て一瞬シロの口元がニヤリと歪み、さらなる言葉を浴びせる。

「先生はいつもそんな目で見ているでござるか?弟子である拙者の事も?」
「や、やめてくれぇー!俺は、俺はああ!」

号泣しつつ、横島はコンクリートの壁に激しく頭をぶつけ続けている。
彼のハートは今、張り裂けんばかりに傷ついているのだ。

「美神さん、このままじゃ横島さんが廃人になっちゃいます!」
「横島クン!それはシロの言葉じゃないのよ、気をしっかり持って!
 ……それにしてもあいつ、けっこうセコい真似してくれるわね」

壁から地面に移りつつ、頭を打ち付ける横島には美神たちの声は届かない。
いつの間にか霊波刀も消え、丸腰の身を敵前に晒しているといった状態だ。

「愚かよのう、人の子。
 その苦しみから解放してくれようぞ」

シロの体が一歩前に進み、ゆっくりと刀の柄に手をかける。
今まさに横島が切り捨てられようとしているその時、後ろから飛びかかる人影がシロの動きを鈍らせた。

「横島さん、早く逃げてください!」
「おキヌちゃん!?何て危険なことを!」

背後からシロに抱きつくおキヌちゃん、それをシロは刀から手を離し振りほどこうとする。

「おお、柔らか……くも温かくも無いな。しょせんは幽霊か。
 我より離れよ!」
「きゃっ!」

勢い良く突き飛ばされるおキヌちゃん。
再び横島の方へと向き直るシロであったが、今度は美神がその前に立ちはだかる。

「女……せっかく見逃してやろうというのに、命を粗末にするか?」
「何度も言わせないで、私は妖怪なんかに降参なんかしないのよ。
 それに、もうあんたの負けは決まったようなものなんだから」

いつしか夜が明けていた。
僅かずつ差し込んでくる朝日に、神通棍を構えた美神の姿が美しく照らし出される。
禍白金は、自分が圧倒的に有利なのにも関わらず、不敵な面構えの美神に気圧されていた。

「な、何だ?奴の姿が大きく見える!?」

戦いにおいて、凄まじい気迫の相手と対峙すると、その姿が大きく感じられると言う。
しかし何かがおかしい。
美神のすぐ横でへばっている横島や、周囲の風景までもがさっきまでよりもずっと大きく見えていたのだ。

「変だぞ……我が小さくなっておるのか?
 あと、いつの間に我は柄を口に咥えておったのだ!?」

不思議に思うのも無理はない。
いつの間にやらシロの体は狼の姿へと戻ってしまっていたのだから。

「あーら、残念だったわね。
 こんな時のためにと思って、シロの精霊石を取り外しておいたのよ」

美神の手の中で普段シロが首に下げている首飾りが光る。
しかし、禍白金もこれくらいではへこたれなかった。

「ふん、狼の姿になったからなんだと言うのだ。
 四足の俊敏さで翻弄して…………あ、あら?」

確かに禍白金はこれくらいではへこたれなかった。
しかし、悲しいかな彼は居合い刀。
刀を口に咥えていては超高速の居合い斬りはおろか、その抜き身を見せることすらできないのである。

「ぬっ、このっ、くっ」

振り回したり地面に押し当ててみたりと試してみるが、鞘はいっこうに外れる気配は無い。
そして、禍白金が鞘に気を取られている隙にこっそりと近寄る影。

「むむむ……ハッ!?」

まさしく一瞬の出来事。
振り下ろされる無情の神通棍により、間抜けな妖刀は地面へと叩き落された。


 朝日がさんさんと輝く中、殺気漲る人々に囲まれる刀が一振り。

「さあて、覚悟はいいわね?今度こそお別れの時間よ」
「まま、待ってくれ!我の話を聞いて下され!」

この期に及んで往生際の悪い妖刀、刀ではあるが侍ではないようだ。
その禍白金が人型に戻ったシロに向かって叫ぶ。

「人狼の娘よ、我は今度こそお主の守護刀となろう。
 もっと強くなりたいのであろう?我を使えば望む力が手に入るぞ!?」
「こいつ、言わせておけば――」

禍白金の言葉を遮ろうとする横島。
しかし、シロは黙って横島を止め、禍白金を見据えて言葉を発する。

「確かに拙者は未熟……此度の事で身に染みたでござる。
 もっと強くもなりたい、皆に迷惑をかけぬように、皆を守れるように」

さらに力強くなるシロの言葉。

「だが、それは拙者自身の牙で成し得なければならぬこと。
 妖刀の世話にはならないでござる!」

突きつけられたシロの言葉に、禍白金は激しく狼狽。
なりふりかまわずあっちへこっちへと悪あがき。

「で、では退魔師の娘、お主はどうだ?いい仕事をするぞ?」
「あいにくだけど、私にはこの神通棍があるの。お呼びじゃないわよ」

「そこの幽霊、お主でもかまわん!出来る事なら何でもやるぞ!」
「申し訳ありませんけど、包丁ならシメサバ丸がありますから……」

と、そこで不満そうな顔の横島が割ってはいる。

「おい、こっちから願い下げなのは当然として、なんで俺には言ってこないんだよ」

すると、もっと不満そうな態度を取る禍白金。

「我は誇り高き妖刀ぞ、窮すれども男になんざ使われてたまるものか!」

しばしの沈黙。
そして再び時が動き出した時、声を揃える一同によって妖刀の運命が決まる。


「……この助平刀!」


その後、禍白金は再び三つに分けられ、さらには御札でぐるぐる巻きにされて刀剣博物館へと封印された。
噂では夜になるとすすり泣く声が聞こえるとか聞こえないとか。
なんとか事件解決にこぎ付けた美神たちは、事務所にてゆっくりと休息を取るのだった。

「あー、毎度の事ながら死ぬかと思った……
 美神さん、もう妖刀がらみの仕事はコリゴリっすよ」

お疲れの様子な横島と、今回の報酬でホクホクな美神。
とはいえ、美神も横島の意見には賛成のようだ。

「そうねえ、今回は儲かったからいいようなものの、しばらく刀は見たくないわね」

と、そこへシロがお使いから帰ってきた。
手には何やら薄汚れたものが携えられている。

「横島先生、美神どの。
 この『ほるすたあ』という革袋でござるが……」

「えー加減にせえ!」

思わず口を揃える美神と横島でありましたとさ。


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