ザ・グレート・展開予測ショー

ラスト・サムライガール? 前編


投稿者名:クロツチ
投稿日時:(05/12/ 4)



注:この作品の時間は原作『犬には向かない職業』の後くらいです。
  そのためおキヌちゃんが幽霊だったりしますがご了承ください。





 一人の少女が疾風のごとく夜の街を駆け抜けてゆく。
そのスピードはとてつもなく速く、何故か腰の辺りにシッポがある。

「ううむ、拙者としたことがすっかり遅くなってしまったでござる」

このあたりで『シッポのあるござる口調の女の子』は、
いや、日本全国探してもおそらく彼女・シロしかいないであろう。
シロは今日、美神からちょっとしたおつかいを頼まれていたのだが、
修行も兼ねて寄り道していたところ夢中になってしまい、気付いた時にはこんな時間になってしまったのだった。

「横島先生や美神どの、怒るでござろうか……いや、役目はきちんと果たしておるゆえ……」

なんて事を考えながら、シロはさらにスピードを上げて走る。
そして公園の近くまでさしかかった、その時。

《助けて……》

突然聞こえてくる声。
いや、声というよりは直接頭に響いてくる感じだ。
猛スピードで走っているのに振り向いたため、シロはバランスを崩して勢い良くずっこける。

「むむむ、な、なんのこれしき」

痛みをこらえつつ、声の聞こえてくる方へと歩を進める。
すると公園の茂みの一つがぼんやりと光っており、そこから声は発せられているようだった。

《助けて……お姉さん……》

茂みをかき分け、声が聞こえてくる光の中心を調べるシロ。

「これは、鞘でござるか?」

そこにあったもの、それは白く美しい刀の鞘であった。


 それからしばらくして、シロの帰ってきた美神令子除霊事務所。
シロはもちろん、美神・おキヌちゃん、そして横島もリビングに集まっている。
しかし、別にくつろいでいるわけではなく、皆の表情はちょっと困惑気味だった。

「それで?その鞘が助けを求めてて、拾い上げたら手から離れなくなったってこと?」
「左様でござる……助けてくれと言われてつい掴んでしまったでござるよ」

右手に鞘を握ったままのシロと、その鞘をまじまじと見つめる美神。
するとその鞘から霊力が発せられ、その場にいた全員の頭に声が聞こえてくる。

「お願いです、ボクを助けてください。このままでは成仏することができないのです」
「うっ、こいつも喋る刀なのかよ」

ちょっと前を思い出して嫌そうな顔をする横島だったが、そんな彼を置いて話は進む。

「助けて欲しいって、具体的にはどういうことなの?」
「はい、ボクは見ての通り刀です。今は鞘だけですけど……
 戦乱の世に守護刀として打たれ生み出されたのですが、長き時代の中で三つに分けられてしまったのです。
 何百年もかけてようやく話せるようになったけど、元の刀に戻らなければ成仏できないんです」

そこまで聞いた所で横槍を入れる横島。

「ちょっと美神さん、シメサバ丸といい八房といい、こんな怪しい刀と関わっちゃロクな事が……」


がすっ

 
鈍い音と共に、横島の頭に鞘がめり込む。
かなり強く殴られたのか、横島の頭には大きなコブがむくむくと現れた。

「シ、シロぉ!師匠に向かって何を……!」


がすっがすっ


横島の言葉を遮り、次々と振り下ろされる鞘。
そしてそれを必死に押さえようとしているシロ。

「よ、横島先生!違うでござる、拙者じゃないでござるー!」
「こいつめ!怪しい刀とは失礼な!」

どうもシロは右腕だけ鞘に操られている様子。
とりあえず、横島がぐったりしてきたので、美神たちはシロと横島を引き離す。

「あんた結構凶暴ねえ、本当に守護刀なの?」
「まあ、乱世の生まれですから。これくらいの気概はないと」

この鞘、どうやら結構いい性格をしているようだ。

「とりあえず、あんた名前は?
 仕方ないから協力してあげるけど、何か手がかりがないとね」
「おお〜、有難うございます!
 守護刀として奉納されていた時は『白金』(シロカネ)と呼ばれていました!」

鞘から名前を聞くと、美神はスッと立ち上がり部屋へと向かう。

「じゃあ明日、名前を手がかりに調べてみましょう。
 今日はもう遅いから寝るわ、おやすみー」

リビングに残される三人と一振。

「それでは拙者も」
「私も休みますね」

ぐったりとした横島をソファーに残し、事務所の夜はふけてゆく。

 
 翌日、一行はとある博物館へと向う。
横島も頭の傷は浅かったようで、何とか朝に目を覚ますことができたようだ。

「くそっ、せっかく美神さんの家に一泊できたというのに!
 気絶したままとは横島忠夫、一生の不覚!」

朝からこれだけ叫ぶ元気があるのだから心配は要らないであろう。
軽く流しつつ、美神はシロ、もといシロの持っている鞘に話しかける。

「これから行く刀剣博物館にそれらしい名前の柄が展示されているそうよ。
 あんたが実物を見て確かめてちょうだい」
「はい、もちろんです!感謝いたします!」

鞘は元気良く返事をするが、それを持っているシロは何だか元気が無い。

「シロ、どうしたの?元気が無いみたいだけど」
「……鞘を持ったままでは寝にくかったでござる。
 おまけにこやつ、鞘のくせに寝相が悪くてもぞもぞと落ち着かなかったでござるよ」

心配するおキヌちゃんに対して、あくびまじりに返事をするシロ。
その手の中では鞘が照れくさそうにしていた。

「お前、まさか……」

鞘を睨みつける横島。
その途端鞘の態度が一変、逆に横島にプレッシャーをかける。

「ボクが何だって言うんだ?あん?」
「ぐっ、この野郎!」

と、横島たちが小競り合いをしている間に一行は博物館に到着する。

「わあ、けっこう広いんですね。いろんな刀が展示されてますよ」

おキヌちゃんの言うとおり、広い館内には所狭しとさまざまな名刀・宝刀が並べられている。
美神は周りを見回し、館長らしき人物を見つけそちらへ向かう。

「ちょっと館長さんに話を聞いてくるから、シロたちが――」


がちゃん


美神が横島とおキヌちゃんに何か言おうとしたが、その言葉が終る前に不吉な破壊音が響く。
おそるおそる音のした方向を見る三人の目に映ったものは。

「違うでござる……誤解でござるぅぅ!」

叩き割られたショーケースの前で、青い顔をして立ち尽くすシロ。
右手の鞘にはすでに柄が装着されている。

「おお〜、会いたかったよボクの柄〜」

嬉しそうな鞘とは裏腹に、ただ今美神たちは非常にマズイ状況に置かれている。

「みみみ、美神さん、どうするんです!?」
「とりあえず……逃げるのよ!」
「ああ、待ってください〜!」

その速度、計測していたなら人類の限界を超過していたかもしれない。
それほどのスピードで立ち去った一行、その姿を目撃できる人間はいないであろう。

どのくらい走っただろうか。
そこには林の中で倒れこむ横島と打ちひしがれているシロの姿があった。

「も、持ってきちまった……」
「このような事……拙者もう里には帰れないでござるぅぅ!」

真っ青だったり号泣していたりと随分な騒ぎであるが、
美神は冷静な面持ちで携帯をしまうと二人のもとへ歩み寄る。

「ほら、泣かないの。
 西条さんに連絡したら、妖怪絡みってことで何とかしてくれるそうだから」
「本当っすか美神さん!助かったー!」

どさくさに飛びつこうとする横島だが、もちろん刹那のうちに叩き落される。

「むむ、妖怪とは失礼な。
 何度も言いますけど、ボクは由緒正しい守護刀です」

ふと、シロの手元から聞こえてくる声。
気のせいか鞘だけの時よりもその声がはっきりと聞こえるようだ。
だがしかし、今はそんな事を気にする者はこの場にいない。

「あんた、何考えてるのよ!」
「拙者の体で勝手な事をするな!」
「この鞘ボウズ!なんちゅー無茶をしてくれんだコラァ!」

もちろん先ほどの行動を咎められる鞘、皆の剣幕に驚き慌てふためいている。

「ごご、ごめんなさい、綺麗なお姉さん。
 尻尾のお姉さんもごめんなさい、柄が見つかったのが嬉しくてつい……
 ……あと誰が鞘ボウズだ、柄が戻ったんだからシロカネと呼べ!この助平ハチマキ!」

美神とシロには謝罪の言葉、そして横島の顔面には再び鞘が突き刺さる。
この鞘、いや、シロカネはやっぱりいい性格をしているようだ。

「先生に何をするでござるか!」
「横島さん、しっかりしてください!」

シロカネが拾われてきて二日目、今日も横島の気絶で一日が終るのだった。


 三日目の早朝、事務所のリビングには誰よりも早く起きて来たシロの姿。
正確に言えばまだシロは夢の中、右手から離れない刀にずるずると引きずられている形だ。

「おおお!感じる、感じるぞお!」

まだ寝ているシロとは対照的に、朝っぱらからやけにテンションの高いシロカネ。
大声で叫びまわっているものだから、美神たちが起きてこないわけも無く。

「うるさーい!大人しくしてないとへし折るわよ!」
「ひいっ、申し訳ありません!」

などという事があって、今日は少し早い起床となったのでした。

「……ったく、何をそんなに騒いでいるわけ?」
「ああ、はい。実は柄が戻ってきたおかげで少し霊力が高まりまして。
 残る刃の場所がビンビンと感じられるようになったのです!」

そう言うと、シロカネはまだ半分寝ているシロに地図を広げてもらう。

「ここです、方向と強さからいって間違いありません」

シロカネの鞘が指し示した場所、そこはどうやら山奥にある寺らしい。

「ふうん……それじゃあ善は急げ、さっそく準備して出発するわよ。
 おキヌちゃん、電話で横島クンを叩き起こして来て」

何故だかやる気満々の美神を筆頭に、一行はさっそく山寺へと向かう。
その途中、朝五時に呼び出された横島はフラフラと事務所に向かっている所を拉致された。
目的の寺は車も入れぬ奥深い山の中にあるため、早朝登山を余儀なくされる。

「あ、見えてきましたよ」
「なるほど、確かに何かありそうな古寺でござるな」

しばらく歩き続けた後、元気なおキヌちゃんとシロが目的の寺を発見。

「あー、やっと着いたのね」

その少し後ろ、さすがの美神も少々お疲れ気味の様子。

「…………」

さらにその後ろ、早朝・山奥・大荷物と条件の揃った横島は早くも半死半生であった。
でもいつもの事なので気にしないことにする。
何とか言葉は出るようで、横島は美神にひとつの疑問を投げかけた。

「美神さん、そういえばあの鞘に妙に優しくないですか?
 報酬が出るわけでもないのにこんな所まで来るなんて……何か隠してません?」
「え?嫌ねえ、隠し事なんかあるわけないじゃないの。
 さあ、もう少しだから頑張って!」

絶対に何かある。
そう確信した横島だったが、どうせこれ以上言っても無駄なので考えるのをやめた。

古寺に到着した一行、とりあえずそこの住職に話を聞いてみる事にする。

「住職さん、『白金』という刀について何かご存知ですか?」
「あー?白粥ならわりと好きじゃよ」

この住職、耳が遠いのか話が噛み合わない。
仕方がないので、美神はスッと息を吸い込むと、これでもかという大声を住職に浴びせる。

「だから!粥じゃなくて刀!!しーろーかーねー!!!」

静かな山に響く声、住職はおろか寺まで崩れそうだ。

「あ、ああ、そんな大声を出さんでも聞こえておるよ。
 えーと、確か宝物庫にそんな名前の物があったような……」

美神たちは、耳を押さえつつ奥に向かう住職に付いて宝物庫へと向かう。
その時、シロカネはもちろんだが美神までワクワクしているのを横島は見逃さなかった。

(やっぱり……何かある!)

でも怖いので口には出さない。
そして宝物庫に到着、そこには古い書物が山のように積まれている。

「ずいぶんホコリっぽいわね、ちゃんと掃除してるのかしら」
「あ、美神さん、奥に何かありますよ」

おキヌちゃんが指差す方向、そこには小さな御社がひとつ。
すると、それを見た住職が思い出したように声を張り上げる。

「おお、そうじゃ!そうそう、そんな感じの名前じゃったな。
 確か妖力を帯び過ぎた刀の刃を預かったと記録されておったのう」
「いいえ、それは誤解です!」

この声はシロカネの声。
なんという早業か、御社の戸はすでに開封済み。
しかも声は宝物庫の外から聞こえてくる。

「いよっ、白金ここに復活せり〜」
「か、体が勝手に動くでござる〜」

元通りの刀となったシロカネを手に、変なポーズを取るシロ。
いや、この場合は取らされていると言った方が正しい、なぜなら本人はとても嫌そうだったから。

「ボクは人々を守護する刀、それ故にそれは多くの魑魅魍魎を斬ってきました。
 ですが、人々はボク自身を妖刀だと言い始め、三つに分解されてしまったのです……」

ヨヨヨと涙するシロカネ、涙する刀というのも珍しいが。
だが相手が泣いていようとお構いなし、美神はシロカネに詰め寄る。

「さあ、もとの刀に戻してあげたわよ。約束どおり成仏してちょうだい」

するとシロカネ、ちょっとだけ申し訳なさそうにこう切り出す。

「あの、もう一つだけ、お願いしたいんですけど……
 実はボク、九百九十九体の妖怪を退治したところで封印されてしまいまして。
 記念すべき千人斬りを果たさせてはもらえないでしょうか?」

しかし、その提案に対し周囲の反応は冷たい。

「あんたねえ、元に戻したら成仏するって言ったから協力してあげたのよ?」
「喋るわ人を操るわ、おまけに千人斬りしたいだあ?どう考えても妖刀じゃねーか!」

美神と横島が激しく責め立てる。
途端にシロカネは号泣を始め、シロの体を使ってお堂の屋根に上った。

「うう……神も仏も無いものか!
 かくなる上はこの場で腹を掻っ捌いて……」
「待てえー!掻っ捌かれるのは拙者の腹でござるー!」

元の刀に戻った事で、だいぶ霊力も上がっているのだろう。
シロはシロカネに首から下の制御を奪われてしまったようである。
お堂の屋根で正座しつつ、腹を切ろうとするシロカネに必死の抵抗を見せるシロ。

「わかった、わかったわよ!
 別の仕事があるから、そいつを退治したら今度こそ成仏してよね」

美神のその言葉を聞き、待ってましたとばかりにシロとシロカネが降りてくる。

「いや〜、お姉さんは本当に優しい人だ」
「拙者、生きた心地がしないでござる……」

調子のいいシロカネ。
そんな態度が気に入らないのか、横島の怒りが爆発する。

「てめえ、黙ってりゃいい気になりやがって!
 シロの体で何てことしやがるん――」

と、横島の言葉が止まる。
続きを言おうにも、一瞬にして彼の喉元には白い刃が突きつけられていたのだ。

「刃の戻ったボクに意見するか?助平ハチマキよ」
「せ、先生、申し訳ないでござる〜」
「ちょっと!遊んでないで早く山を降りるわよ」

勝てない自分が情けないのか、冷たい美神が悲しいのか。
山を降りる横島はどこか暗い影を背負っておりました。


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