ザ・グレート・展開予測ショー

朝に思う。[alcohol. after]


投稿者名:ししぃ
投稿日時:(05/12/ 4)

 目覚めた時、左腕の先が痺れきっていた。
 ぼやけた視界には古ぼけた調度が飛び込んでくる。
 んー……事務所か。
 仕事帰りだったんだ。
 きつい現場だった。
 隠れるのが巧いだけの妖怪に対しての正攻法、根競べ。
 妖怪の性質上、一人で見張りを続けなければいけない、というのは納得していた。
 ひな祭りの失敗を挙げられてむきになった俺も悪いと言えば悪いのだが。
 起こすにしても起こし方があるだろう。
 師匠にして雇い主の所業をいくつか思い出す。
 背中に氷とか。
 手を差し伸べたと思えば画鋲。
 殴るは蹴るは。
 ヘッドロック極めるは。
 ……いや、あれは悪くない。
 乳が。
 張りのあるぷにっとした胸の感触は俺の意識を保つのに大いに貢献した。
 余分なところまで元気に起きちまって、ズタボロにされたわけだが。
 まったく悔いは無い。
 ええ乳やった。
 あんなサイズだからなのか、ハーフカップのブラが多い美神さんにヘッドロックされると、
ワイヤーに妨害されることの無い上乳が、こう、あたるのだ。
 数枚の布越しに天国もかくやという感触が。

「えがったー。ここでバイト続けて良かった。あの人何気に無防備やしなー」

 女所帯の職場。
 まあ、そのうち二人はまだガキ過ぎるから除外するとしても。
 清楚で可憐のおキヌちゃん。
 色気とフェロモンの美神さん。
 なんか最近、サービスシーンが減ったとはいえ、過激さは増している気もする。
 あのフニフニはおそらくは俺だけが知っているであろう所もポイントが高い。
 この左肩にあたる柔らかさのような。至極の逸品……て?
 感触がものすごいリアリティを以って、左腕に押し付けられていた。
 妄想からチャンネルを切り替えた視線を向ければ、俺の腕に抱きついて眠る亜麻色。
 叫ぼうとした。
 叫べなかった。
 俺にできるのはただ、感触を楽しむ事と彼女が目を覚ました時の恐怖におののく事だけ
だった。
 ……いや、感触の侵食はそれすらも、許さない。

 おっぱい。

 第一、この事務所は二人きりではないのだ。
 おキヌちゃんもいる。
 シロもいる。
 タマモも。
 見られた時、言い訳もできんぞ。

 おっぱい。おっぱい。

 やばい。
 目を覚ます前に抜け出さねば。

 おっぱい。おっぱい。おっぱい。

 目の前には高級ブランデー。
 一瓶は空だし。

 おっぱい。おっぱい。おっぱい。おっぱい。

 酒飲んで、酔って寝た。多分それだけだ。この人はいつもそうだ。期待してもお仕置きが
待っているだけなんだ。

 おっぱい。おっぱい。おっぱい。おっぱい。おっぱい。

 しがみつかれた左腕は変な姿勢だった事もあって、肘から先の感覚が無い。
 ただ、二の腕に当たる感触。

 おぱー!!

 バスト。乳房。胸部。
 さっきからフガフガ言っている鼻息を静めて、首を向ける。
 甘い匂い、ちとアルコール混じりだけどな。
 白い肌。
 谷間は毛布のように掛けてある布に邪魔されて見えないが、呼吸のたびに微かに上下する。

「ええんやな、これはつまり、好きにしてっちゅーことなんやなっ」

 長いまつげ。
 薄い色の唇。
 体重を俺に預け、眠る姿はあまりに無防備で、あまりに……きれい、だった。
 本能のままに動いていた手が止まる。
 わずか数センチ。
 そこには、ふにふにでボヨヨンが待っているというのに。

 ……やっぱ嫌がる、よな。

 例え中身が守銭奴の凶暴女と判っていても。
 安い給料で俺をこき使う業突く張りの極悪女と理解していても。
 意識の無い女の乳を欲望のままに揉みしだいてはいけないと思う。
 いくら俺でも……人として。

「ほんっとに悪魔やなあんたは」

 魂ごと奪われそうな誘惑に耐えて、苦笑。
 彼女が絡むと、夢中になる。やりすぎる。
 初めて会った時からそうだ。
 この世の物とは思えない時給でこの世の物でない存在と戦うバイトなんて、雇用者が
彼女でなければ考えられない。
 欲望のままに、本能のままに。
 無我夢中で追いかけてきた日々。
 まだ見習いの肩書きこそ取れていないけれど、GSとしての力を身につけて、何も考えて
いなかった卒業後の進路や生き方をいつのまにか手に入れていた。
 俺が俺になるために、必要な物をくれた人。
 俺が俺であるために、大切な人。
 意地っ張りで、我侭で、ただっ子で、すぐ金に目を眩ませて。
 ……ほんっと、ろくでもねえ。
 けれど、それが彼女であり、俺が追いかけてきた目標でもある。

「なのになんでアンタはこんな風に抱きついてきますか」

 俺、追いつけてねーぞ。
 除霊にしても、強さにしても。
 肩を並べられる自信なんか無いのだから。

 彼女からでなければ、有り得ないシチュエーション。
 俺がこんなこと要求したら、5分で生命活動を停止させられるだろう。
 つまり、それが未だ埋められない距離でもある。

 ……でも、いつかきっと。

 もたれかかる体重が、接点が。
 熱い。
 それは、欲望以上の欲望だった。
 快楽を求める煩悩の更に奥から込み上げる思い。
 死津喪との戦いでおキヌちゃんを失いかけた時、ワルキューレに追い出された時、
月での戦いの時、そして……あの悲しすぎる選択の時に湧き上がった気持ち。
 長い髪にそっと右手を伸ばす。
 小さな肩幅。
 呼吸と鼓動。
 乱暴に強く抱きしめたくなる衝動を必死で押さえて。
 刹那の楽園よりも魅惑的ないつかを夢見て。
 俺は大きく息を吐いた。


 数分後、目覚めた彼女に全力で張り倒されたりするのは余禄。

 強力な攻撃の中に照れが混じっていた気がするのは都合のいい予測。

 そんな、いつもとあまり変わらない朝だったから、頬についていた薄紅はきっと蛇足。

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