ザ・グレート・展開予測ショー

ボヘミアン・ラプソディ(2)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/12/ 3)

その日、GS業界全体に波紋が広がった。

いや、その波紋はこと霊と神と魔に関わるすべての人間たちの間に広がったと言えるだろう。

特に日本に住む彼を知るものたちにとってその報せは性質の悪い冗談のように聞こえた。

それが世界GS協会とICPO超常捜査課による徹底した合同調査の結果でなければ、誰もそれが真実で

あるとは思わなかっただろう。

突如世界を震撼させた横島忠夫の訃報を。




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ボヘミアン・ラプソディ(2)

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その日、ICPO日本支部には横島忠夫と霊能に関わる殆どすべての面子が集められていた。

召喚に対する欠席者は2名。

人狼の里に帰省中の犬塚シロ捜査官とDr.カオスである。

シロは現在東京に向かっている。

カオスは、調べ物があると言う理由で遅刻を申し出ていた。

大きなテーブルの上座にはICPO日本支部長西条輝彦が座し、その隣には特別顧問美神美智恵と

西条タマモ捜査官の姿がある。

ピエトロ・ド・ブラドー捜査官も急遽フランスより駆けつけ、同じテーブルに列している。

その傍らには超常捜査研究室在任の小笠原エミの姿もある。


向かい合う形で座するのは日本GSの面々。

まずこの場にはあまりに場違いな日本GS協会会長、唐巣和彦。

横島忠夫の相棒、伊達雪之丞。

友人にして精神感応能力者、タイガー寅吉。

六道グループ現総帥、六道冥子。

希代のネクロマンサー、堂本キヌ。

そして、今回の事件の被害者、横島忠夫の妻、横島令子。

誰一人として顔を上げるものはいない。

さながら告別式のような雰囲気に、ICPOの会議室は包まれていた。


「・・・・・・・・・・・現場に残されていたのは大量の血液と何故か【王】と刻まれた文珠のみ。

以上が、世界GS協会とICPOの合同捜査の結果であり、世界GS協会は横島忠夫氏の霊障による

・・・・・・・死亡を認定した。」


西条輝彦はあくまで事務的に調査内容を耽々と読み上げた。

しかし喉の奥がからからに乾き、時折言葉に詰まってしまうことは仕様がないと言えた。

彼の説明に最初に異を唱えたのは、彼の元同僚、堂本キヌであった。


「・・・・・・・嘘です。

横島さんが死ぬなんてッ!

そんなこと嘘に決まってるッ。

殺したって死なない人なんだから。

絶対、絶対どこかで生きているはずよッ!!!」


「・・・・・・・・・おキヌちゃん。

残念なことだけど、現場に残されていた血液は致死量を超えていたの。

なまじそれで横島クンが生きてたとしても、そもそもが殺害を目的にしたのであろう相手。

彼らがプロレマを使うと言うことはそういうことなの。

横島クンを・・・・・・・・・生かしている理由がないわ。」


「横島クンの身体と魂を現在ヨーロッパ支部が血眼になって探しているが、恐らくはアプラクサスに

持ち去られた可能性が高い。

そして奴らの性格上、そもそも横島クンの肉体と魂を狙って襲撃してきたのだろう。」


「・・・・・・・・・どういうことですか!?」


西条輝彦は息を飲んだ。

続く言葉は彼の傍らより聞こえた。


「ヨコシマの屍体を心霊兵器に利用する。

それがアプラクサスの目的と言うことよ・・・・・。」


絶世の美を誇る金髪の妖孤はきりりと歯を食いしばっている。

おキヌは力を失ってその場にへたり込んだ。


「そ・・・・・そんなこと・・・・・・・・・・。」


「横島クンの死はあまりにも大きな犠牲だわ。

でも我々にはあまり悲しむ時間が残されていないの。

横島クンは、普段はあぁだけど物事の因果律にまで干渉できる存在よ。

横島クンの死霊をベースに作り出される兵器を想定した場合、人類の被害は、恐らく戦後最大の

ものになる・・・・・。」


「でも・・・・・・・そんな・・・・・・・横島さんが死んだのを決め付けるみたいなこと・・・・・・。」


「おキヌちゃん、まだ分かってないみたいね。

いい?

決め付けじゃない。

横島クンは・・・・・・・・・・・・死んだのよ。」


「嫌、嫌です、嫌よ、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


美智恵の言葉に堂本キヌの絶叫が木霊する。

誰一人、その様を直視できるものはいない。

ひとり立ち上がった横島令子だけが、おキヌの肩にそっと手を載せる。

その掌には【王】と刻まれた宝玉が握られている。


「美神さん・・・・・・・・?」


令子はその顔に優しい微笑を浮かべている。


「ちょっと、ママ。

うちのおキヌちゃんを泣かせるようなことしないでよ。

要はそのアプラクサスとか言うのをぎたぎたにしちゃえばいいんでしょ?

私の身内に手を出したのよッ!

百倍返しにしてあげるわッ!!!」


「れ、令子・・・・・・・・?」



「それでママ――――――




あの人はいつ帰ってくるの?」


ぞっとするほど優しい微笑であった。


「令子・・・・・・、話を聞いてなかったの?

あのね、横島クンはね――――。」


「蛍が泣き止まないのよ。

父親が恋しいんだわ。

横島の両親に預けて来てるけど、きっと困らせちゃってるわね。

ミルクも飲もうとしないのよ。

あの人、どんなに忙しい時にだって必ず一日一度は電話してきて、まだ喋れもしない蛍の声を聞きたがる

のに、もう三日も電話してこないのよ?

ねぇ、ママ。

あの人はいつ帰ってくるのよっ!!

ねぇ、ねぇ・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「令子・・・・・・・・。」


「令子ちゃん・・・・・。」


言葉の最後は嗚咽に包まれていた。

親友である二人はその様子に胸を打たれ息をするのも苦しそうだ。

彼女の母親は、なぜ今自分が気を保っていられるのかが不思議でならなかった。

その事実を、その場にいる誰一人として認めたくはなかったのだ。

しかし真実はいつも想像を超えて残虐である。

誰かの死に関しては特に。


「不甲斐ねぇ・・・・・・。

俺が一緒にドイツにいながら・・・・・・。」


伊達雪之丞は拳をきつく握り締める。

拳の端から、血の筋が垂れている。


「いや、僕の責任だ。

彼の出動を要請したのはこの僕なのだからね。

そもそも、その事件そのものが――――。」


その瞬間、警報ブザーがけたたましく鳴り響き、同時に爆発音と銃声が響き渡った。

会議室の扉を開け、捜査官が慌てた様子で入ってくる。


「た、大変です。武装した集団が、こ、このビルに急襲してきました。

既に被害は甚大・・・。

応戦していますが、装備に差がありすぎて・・・。」


「アプラクサス・・・・・・!?」


まるで憤怒をそのまま押し固めたような赤い鎧を身に纏い、雪之丞は風のような早さで会議室を

飛び出した。


西条はジャスティスを手に取り、タマモは火炎を点し、ピートは短銃を手に取り、小笠原エミは顔に

呪文を描き、六道冥子は式神を召喚する。


「令子を頼むワケ。

そんな呆けた様子じゃまともには戦えない。

相手は重火器で武装した集団。

タイガー、久々にやるワケ。」


「・・・・・合点ジャー、エミさんッ!!」


武装した皆が戦場に赴いた後、結界を張る唐巣は見る影もない教え子の姿に心を痛めていた。


「美神君・・・・・・。」


美神令子は壁の一点を見つめたまま、なにやらぶつぶつと独り言を呟き、時折顔に笑みを浮かべている。

その様子を見て初めて、美神美智恵は両の手で顔を覆ったのだった。






「死にてぇ奴から前に出て来い。

手前ぇらはどうせ・・・・・・皆殺しだッ!!!!」



銃弾を弾き、赤い悪魔が次々と兵士をなぎ倒していく。

ボディアーマーで雪之丞の霊波砲は防げない。


「バンパイア・ミスト・アブソーブ・・・・・。」


黒い霧が兵士たちの脇を走るごとに彼らはうめき声を上げて喉を掻き毟った。

身体の中から大事な何かを無理矢理奪われてでもいるように。


「吸血鬼の本分をこんなにもはっきりと思い出したのは数百年ぶりです・・・・。」


黒いコートに身を包んだ金髪の貴公子の口元には鋭利な牙が除いている。


ビルの一角では何人かの兵士が迷宮に誘いこまれていた。


「タイガーの精神感応能力で作り出した『クノッソスの迷宮』。

あんたたちにはアリアドネはいないワケ。

そこで野垂れ死ぬといいワケよ。」


褐色の美女の言葉は、抜きみの刃を思わせる鋭利な冷たさに満ちていた。


別の一角では戦場はまるで地獄絵図と化していた。

不幸な彼らは六道総帥の操る12神将と戦わねばならなったのである。


「みんな〜、今日は〜手加減の必要はないわよ〜。」


おおよそそういった印象を受ける口調ではないが、六道冥子は怒っていたのである。





「屑どもが。糞の役にも立たんか・・・・。」


陣風巻き起こるビルの中を、すたすたと歩いてくる黒いスーツの姿があった。

20代後半ほどに見える端正な顔をした男である。

やや赤みがかった黒髪を撫で上げながら、銃弾が飛びかう中を平然と歩いてきている。


「なんだぁ、手前ぇは・・・・?」


彼が最初に行き当ったのは伊達雪之丞であった。

男は兵士の襟首を掴み投げ飛ばしている雪之丞を虫けらでも見るかのような視線で睨みつける。



「下賤ごときが。

汚い目で俺を見るんじゃあない。

コヨーテはいたく気に入っていたようだが、下賎は下賤。

お前はここで死ね。」


「んだとコラッ!!

・・・・・・・・・・・・・・・コヨーテっつったな?

お前アイツの仲間か?」


「何も知らんのだな。

だから下賎だというのだ。

俺の名はレイヴン。

奴と同じ『まつろわぬ7人の王』の一人。」


「王・・・・・・・・・だと?」


そこまで言うとレイヴンは頭の上に掲げた指を鳴らした。

するとまるで初めからそこにいたかのように、黒い人影がぬぅと現れる。


「そしてこいつは王宮の下賎な番人だ。

下賎は下賎と殺しあえ。

まぁ、死ぬのはお前だがな。」


真っ黒いスーツに身を包み、顔面を黒いベルトで覆った不気味な怪人、プロレマが雪之丞の前へと

一歩踏み出す。


「上等じゃねぇか・・・・・・・!?」


雪之丞が拳を握り締めると、プロレマはどこからともなく両手に銃剣を取り出した。

鈍い刃が、淡い照明を反射していた。






ママ。

たった今僕は人を殺してしまった。

銃口をそいつの頭に向けて、引き金を引いてしまった。

そのままそいつは死んでしまった。

ママ、僕の人生は始まったばかりなのに、自分でそれを投げ出してしまったんだ。


ママ、ああ、悲しませるつもりはなかったんだ。

明日の今頃、もし僕が戻らなくても、そのままでいて、何事もなかったように。


もう遅すぎる、僕の人生にもう終わりがきた。

体中に震えが走り、痛みで耐えられない。

さようならみんな、僕はもう行かなきゃ。

みんなの前から去って、真実と向き合う時が来た。


ママ、ああ、僕は死にたくない。

思うんだ、いっそのこと、僕なんて生まれて来なきゃ良かったんだと。






「死刑囚の魂と肉体とを使い、ICPOはここまでのものを作り上げた。

もっとも飼い犬に手を噛まれるとは愚の骨頂だがな。

そいつは下賎に生まれついた下賎な男だ。

伊達雪之丞、お前と同じな。

・・・・・・・・・・・・・・・・おい、聞いてるのか?」


「ウ・・・・ルセ・・・・・・うごぁ・・・・うぅ。」


プロレマはみしみしと雪之丞の魔装の頭を踏みつけている。

魔装を貫き、雪之丞の右腕と左腿には銃剣が突き刺さっている。


「本当に・・・・・・・何も効きやがれねぇとはな・・・・・・。うごぁ・・・・・・。」


プロレマはその手で雪之丞の左腕を無造作に掴み、右腕の銃剣をさらに肉の中に押し込む。

たまらず声が漏れる雪之丞。


「雪之丞クンッ!!!!」


飛び出してきた唐巣が聖句を読みプロレマに霊波を放つ。

しかしその攻撃は少しも利いた風には見えない。

闇に向かった放たれた矢の様に、何の手ごたえも感じさせない。

それでもプロレマは一旦後方に引き、唐巣から距離をとった。


「ふん。

GS協会会長か。

ムダだ、ムダ。プロレマには何も通用せん。」


レイヴンが腕を組み、仁王立ちしたまま豪語する。


「当たっているのかどうかも疑問だね。」


冷汗を流す唐巣。

ようやく身体を起こした雪之丞は右腕に刺さった銃剣を抜き取る。


「っくそが。唯の剣じゃねぇ。オカルト処理されてやがる。

で、どうするよ、唐巣の旦那。

はっきり言って・・・・・・・。」


その時、凍てつくような妖気に雪之丞は言葉を停めた。

雪之丞ほどの男がその冷気に背筋を凍らせ、後方を振り返る。

そこには、虚ろな顔をした横島令子の姿があった。


「・・・・・・・・・雪之丞・・・・・・・・・そいつなのね・・・・・・・?」


「・・・・・・そうだ。」


令子は胸元から神通昆を取り出すと、その柄に数瞬眼を停めた。

次の瞬間。

高出力の霊気の鞭がプロレマに襲い掛かっていた。



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」


「美神さん・・・・・凄い。」


「令子・・・・・。」


腐っても世界最高のGS。

その出力は神通昆を捻じ曲げ、光の鞭と化した攻撃がプロレマを強襲する。


「だ、だめだ、戻りたまえ、美神くんッ!!」


「ムダだぜ、唐巣の旦那。アレは聞こえてねぇよ。」


縦横無尽に襲い掛かる光の鞭に押されるプロレマ。

一見優勢に見えた令子であったが、光の鞭の合間を潜り抜けて黒い手が令子の細い頸を掴んだ。


「美神さんッ!!!」


「令子ッ!!」


美智恵とおキヌの悲痛な叫びが部屋に響く。


「あ・・・・・うぐ・・・・・・。」


カランと音を立て、足元に落ちる神通昆。

痛恨の一撃も、プロレマには微塵も通用してはいなかった。


「あ、あれほどの出力でも、無駄だと言うのか・・・・・。」


「・・・・・言っちゃあなんだがあの程度なら横島が遅れを取ることはねぇだろぉよ。」


っく、と歯を食いしばりながら何とか身を起こす雪之丞。

しかし一手早くプロレマがその喉を潰そうと力を込める。


「しまっ―――――。」


しかし雪之丞の声が空気を振るわせるより速く、剣閃がプロレマの腕を強打する。

プロレマは思わず令子を取り落とすが、その腕には傷跡一つついてはいない。


「っくそ、八房の攻撃ならあるいはと思ったでござるが。」


「シロちゃんッ!!」


「おキヌどの、皆、遅くなってすまんでござる。」


そういうとシロは令子に駆け寄り、その身体を抱き起こした。


「美神どの・・・・・・・・・、ふぅ、大丈夫、気絶しているだけでござる。」


その身を受けほっとするシロ。

そんなシロに対しておキヌは悲痛な顔で呟く。


「シロちゃん・・・・・・・・横島さんは・・・・・・・・・。」


「・・・・・・聞いているでござるよ、おキヌどの。

拙者の父も戦いの中その命を落としたでござる。

先生も・・・・・・・・・・・・立派に戦ったに違いない。」


シロはそう言うと、己が手の中の八房を見つめた。


「さすれば先生を越える為にはもはやこの怪人を討つより他になしッ!!!

犬塚シロ、参る。」


ふん、と黒服の男が鼻を鳴らせてシロを小ばかにする。


「ムダだムダだ。

何も通用せんと言ってるだろう。

大人しく、死ね。」


その時、ちんという場違いな音がフロアに響いた。

この非常時にエレベーターを利用して上ってきた人物があった。


「随分粋がっておるようじゃのう、レイヴン。」


「・・・・・・・・・・・・あぁ、あんたか。久しぶりだな。」


カオス、と黒服の男がその名を呼ぶ。

その声の通り、鋼鉄の乙女を従えて現れたのは、錬金術師、Dr.カオスであった。

硝煙を掻き分けて進むその老人の姿は、地獄から現れた魔王のように、見るものには見えたのだった。





(続)

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