ザ・グレート・展開予測ショー

それを声と呼ぶならば(中篇)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(05/12/ 1)













それを声と呼ぶならば。



                                    中篇 。




「うあ……たく雨ばかりでうっとうしいなぁ」


ごしごしとおキヌから渡されたタオルで髪の毛を拭きながら、横島は舌打ちしそうな勢いで呟く。


「そんな事いっても、おてんとさまですからねぇ」

こればっかりはどうにもならないですよ。とはにかむように笑うおキヌに、横島はあからさまにひくと口元を引きつらせ窓からのぞく雨雲を忌々しいとばかりに睨み付ける。


「……今日仕事なんだぞぉ」


頼むからもう止んでくれよぅ。

そうつぶやく横島の口調は既に懇願に近いものがあった。

今日の現場が外でないとはいえ、この仕事天候によって影響が出やすいのだ。

その上、一番の重労働(もうそれは考えるまでもなく)の横島としては出来るだけ楽な環境で仕事がしたいのである。



「ばーか」


そんな横島の愚痴めいた言葉を美神は一言の元に切り捨てた。



「仕事は仕事でしょ?天気なんか気にすんじゃないわよ」


おキヌお手製のスコーンに手を伸ばしながらのお言葉である。

が、しかし普段一番天候を気にするのはこの人なのだ。

(しかも小雨というだけで、仕事を先延ばしにするのだ)


そんな美神から、プロの鏡のようなお言葉を頂くと言う事は………

はぁっと横島は一つため息をつき隣に居るおキヌにこそっと耳打ちをした。


曰く、それくらい収入のいい仕事なのか


おキヌは苦笑しながら頷く。


「億単位らしいですよ」


と。


それだけの収入なら特別手当でもつけてくれよとの思いをこめて横島ははぁっと更に特大のため息をついた。

それにどんな仕事でもそうだが、収入に比例して仕事の難易度は上がっていくのだ。

ここ一ヶ月ほど無かった億単位の仕事、しかも今やおキヌや横島も単体で仕事が出来るようになっているのをかんがみて、この三人が一緒の現場いくと言うことはである。


結構な仕事と思っても良い。


「………風邪ひかなきゃいいけどなぁ」


ほんと明日が追試でなくてよかった。

もし、明日風邪を引いて学校を休んだとしても試験を受けれないと言うことだけは無い。(大きな仕事ではなぜか風邪を引いたり怪我をしたりする)

そう思い至り、ほんの少し口元をほころばせた。

が、しかしそれは仕事が楽になるわけでもなんでもなかったりする。

ある意味横島は、ささやかな幸せ(?)なことを見つける天才であった。

というかこんな生活では、ささやかな事が幸せに見えてしまうのだ。

十台後半の少年の心理状態としてはいささか哀れな気がするが。


「じゃあ、風邪ひかないようにあったかくて滋養のあるもの食べましょうね」


くすくすと可愛らしく笑いながらおキヌは今日のご飯はお鍋ですよと笑う。

11月も末のこの季節だ。

街を吹き抜ける風は冷たく、身も心も凍える寒さだ。

そこに暖かい鍋!!

こんなに嬉しいものはない。

横島はこれ以上はないといわんばかりに、顔を緩めこれから貰えるであろう鍋を想像し幸せに浸った。

そしておキヌはそんな風に自分が出来ることがあることに嬉しさを感じる。



何故だろう?



と思う。


なぜかこんな雨の日は自分にもできることがあるのだと確認したくなる。

そうやって自分のしたことでほうっと笑う人を見てやっと安心するのだ。

いつもというわけではない。

時々なのだが、それはひどく強烈な欲求となって自分の中に現れる。












まるで、なにかを取り返したいと思っているかのように。




















おキヌはざわりと胸の中に黒いそして澱んだものを湧き上がるのを感じながら、胸を部分を服の上から右手で掴んだ。

まるでそこから黒いものが溢れるのを抑えるように。














墨をたらしたような、重苦しい闇に声いや、叫び声がひとつ響く。


「遅いっ」

だがその声音は闇などに恐れどころか、その闇すら不敵に楽しんでいるであろうことを楽しませる。

風もないのになびく亜麻色の髪。

らんらんと獲物を見つけた肉食獣のように光を放つ瞳。

闇の中で見えないであろうがつり上がった口角は怪しいほどの艶があり、大抵の男を転ばせる色気とどんな男をもひれ伏させるであろう力がある。



ちなみにここは都心にある廃屋というものである。


都心の一等地にあるというのに、怪奇現象のために工事もできずかといってこれだけの物件なのだ。

そのままにしておくには余りに惜しい。

ということで美神への依頼となった訳である。

やっかいな事に、今回の化け物は動物霊が変化したものでそして変化してかなりの時間があったのであろう。

普通の妖怪とは言いづらいほどの力をつけてきているのだ。



そして、強いやつほど燃えるというのは、自分の力を発揮できるというのは誰にも等しく喜びとして訪れるもので。

それは、守銭奴の名を預かる美神と言えども例外に入らないのだ。

(ここ最近の仕事があまりにショボすぎたという事実もあるだろうが)



「ああ…美神さんが乗ってきてるなぁ」

テンションあがってきて無茶しなけりゃいいけど。

とため息のように呟くのは横島。

せっせと結界を作りつつ、視界の利かないなかぬうっと出てくる無数の触手をなぎ倒しながらの台詞である。

最初の作戦では、相手が動物霊ということもあってか、おキヌが主戦力として成仏させる。

その間の無防備になるおキヌの守りは横島で、あわよくばと突っ込んでいくのが美神という形だ。


が、しかし。


先ほどから、笛を奏でているおキヌの様子がおかしい。


ふるふると全身を震えさして、笛を持とうともしないのだ。

もしかして、笛を奏でる、ということは相手を自分の支配化(こういう言い方はおキヌには不本意であろうが)相手の気持ちがわかってしまう一面もあるのだ。(もちろんそれはその時々にもよるが)

それがダイレクトに流れてきたのかもしれないと思う。

ならば、即座に自分と美神が突っ込むという形に持っていくほうがいいと思うのだが、こちらをみた美神の瞳がそれを禁じていた。

確かにこの状態のおキヌをほおって置けないのも事実だ。


ならば、どうするか?

答えは決まっている。

横島は胸ポケットにある文珠を取り出して、念を込めた。


『盾』



ガラスの割れるような済んだ音を上げて、浮かび上がるのは霊力による盾。

使える時間こそ短いが、その短さに比例して強度・軽さは最高峰に位置するといってもいい。


「美神さんっ!!!!」


その言葉と共に、投げられる盾。

意図を察したのか美神は器用に目の前の敵を片手であしらいながら、盾を受け取る。


「さんきゅーっ横島クン気が利くっ」

とのお言葉と笑顔つきで。

肩で呼吸をしながら、額から汗を流しながらそして顔を汚しながらもこの女性は美しかった。

それはもう見惚れるくらいに。



「どういたしましてっ」


ちくしょう!

あんなに色っぽいのになんであんなに可愛いんだよっ!

反則も反則。大反則である。

横島はそう呟きながら、更に二個に文珠を取り出し─


『結』『界』



と二文字を入れ込んだ。




















きがついたらひとりぼっちだった。


みんなは『そこ』にいくのにわたしは行けなくて。


ただ、ここに縛り付けられて。


なのに誰もわたしに気づいてくれなくて。

だけど

だけどね


はじめて、私に気づいてくれたこがいたの。





こんどこそ、後編につづく(ああっすいませんすいません)

……ごめんなさい、次は絶対終りますったら終ります(だらだら

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