ザ・グレート・展開予測ショー

それを声と呼ぶならば(前編)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(05/11/28)







        それを声と呼ぶならば。






                                        前編。











あたりは漆黒と稲光に包まれていた。

いつもは空に輝く星も月も厚く覆う雨雲に覆われて今は見えない。

響くのは、地面を打つ雨音と空気を震わす雷の音。

恵みの雨という事はわかっていてすら耳を打つ雨音も、全てを照らすかのような恐ろしい雷の光も恐ろしかった。

まるで雨の音は誰かの慟哭のようで。

まるで雷の音は誰かの怒りのようで。


隙間風が吹き込む床の上に、申し訳程度のように敷かれた薄っぺらい布団の上にいつもみんなといっしょに震えていたのだ。











しとしとと、止む気配のない雨粒が地面に消えていっていた。








「……今日も雨かぁ」



ぽつりとおキヌは窓枠に手を当て呟いた。

もう今日で三日目である。

梅雨時期でもないのに雨がこれだけ続くとうっとうしい。

なにより雨が続くとじめじめして、洗濯物・布団が干せないのだ。

いまのこの時代、乾燥機という便利なものがあるのだがおキヌとしてはどうせ干すならお日様の光に当てて干したいのである。

が、それも三日目となると滅多に出番のない乾燥機を動かしてしまう。


「……雨ばっかしだと掃除もしずらいんですよねぇ」


しみじみとかみ締めるように言葉を放つと、その言葉と同時に押し殺したような笑い声が起きた。

しかもそれはもう懸命に我慢してますと言ったのがその笑い声の殺しっぷりからよくわかる。

が、惜しいかなその笑い声をかみ殺した人物はおキヌの一メートルほど後ろしかおらず、どんなに押し殺してもおキヌにはわかってしまうのであった。

(あと、二・三メートル後ろだったらわからなかったであろうが)


その笑い声におキヌはきょとんっと目を見張り、首をかしげる。

おキヌ本人としては、ごくごく当たり前のことを言ったまでなのだ。

どうしてそれがその笑い声に繋がるのか分からない。

そんな思いを込めて振り向くと、すぐ後ろで悠然とお茶を飲むその人美神令子である。



「だってそんな事言っても、もう掃除し終わってるじゃない」



そういい、美神は苦笑しながら、お茶のカップを持ち上げその上私にまでお茶を入れてねと付け加える。


「そりゃそうですけども」


頬を赤らめておキヌは頬を膨らませる。


「……けど、なんか雨って落ち着かなくて………どうしてでしょうね」


何か苦手なんですと、おキヌは呟く。
記憶にないくらい昔、嫌な事でもあったんでしょうか。と


その目はひどく、虚ろだ。

そこの瞳に灯るものは底の無い、濁った泥沼のような色のそれ。



「誰にでも、苦手なものはあるわよ」



美神はそんなおキヌの瞳に灯ったそれに、何を言うわけでもなく何の態度を変えるわけでもなく、穏やかに言葉をつむぐ。


少しだけ、紅茶の渋みが増したようなそんな気分に捕らわれながら。





おキヌには普通の人間ならば許されなかった300年の記憶がある。


もちろん、幽霊であった時の記憶などあやふやなものであろう。


しかもそれが300年だ。


普通の人間が送るはずだった人生の三倍以上の時間一人でずっと山に捕らわれて来たのだ。


その中には忘れられない記憶だってあるだろう。

その中には忘れたい記憶だってあるだろう。



恐ろしいほどの記憶の海に流されたからといって、忘れたからといってそれは残ってないわけではないのだ。


どんな形にしてもそれはおキヌを形造る一つであり、その形の容量が大きいと言うことは、深くそして歪んでいるものもあるのだ。


それでも、おキヌを形造るものの一つがそれだとしても、それによって造られたおキヌはとても優しくて、そして暖かい。


それでいいと、美神は考える。


できうる事なら、その瞳の泥をぬぐいたいとは思う。

だけどそれにどれほどの危険が伴うか、どれほどおキヌを傷つけることになるか。

たった一つの汚れをぬぐうために、そんなことは出来ない。

それに、だ。

それにその汚れをぬぐう手も汚れているだろうに。






だから



だからこそ願う。



これから、きっと百年にも満たないであろう時間。


全てが優しいものが降り注ぐなんてことは出来ない。

ならばせめて、この優しい子の受ける傷が少ないようにと。

庇うことなど出来ない。

逃げ道を造ってやることもできない。


ならばせめて願おうと。



信じてもいないものに、せめて願おうと。



(ま、願うだけならば無料だしね)


どったんばったんと、こちらに向かってくる足音に苦笑しながら。


「つーかこの時間ってことはまた追試うけてんのかしら横島クンは」


若干どころか多いにあきれた声音の美神におキヌは笑いながら頷く。

「ええ、今回のテストは29点で惜しかったって言ってましたよ」



その言葉と同時にドアが開くそして必要以上に大きな声。




「おはようございますっっ」








後編に続く。


はじめまして。えっとGTY新人のhazukiと申します(大嘘)
いやでも、こっちのほうには初投稿となります(笑)最近書いてない上にすさまじいブランクがあるのでどうにもこうにもこんなわかりにくい話ですがよろしくお願いします。

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