ザ・グレート・展開予測ショー

ボヘミアン・ラプソディ(1)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/11/28)

ドイツ。

ミュンヘン郊外。

深夜の街道をひた走るBMWを運転するのは、ICPOの特殊捜査官であるジェフリー・マッコイで

あった。


助手席にはオールバックの男が腕を組んで座っている。


ジェフリーはついさっき目にしたばかりの、同乗者の鮮やかな除霊の手腕について賛辞の言葉を

並べ立てていた。

それは実際過剰な表現ではあったが、ジェフリーが本当に男を尊敬していることだけは歯に衣着せぬ

事実であるようだ。

男は面倒くさそうに生返事をしている。

しっかり前を見て運転してくれ。

サングラスの下の視線がそう物語っているようだった。

先ほどの除霊について、男には思うところがあった。

フリーのGSである男がICPOに呼ばれたのは、除霊対象が彼らには手におえないレベルの魔獣で

あったからだ。

実際彼にでなければ魔獣の除霊は務まらなかったであろう。

それはいい。

問題は魔獣の出現があまりにも脈絡がなかったことである。

たった一つ因果があるとすればそれは、彼が仕事でドイツにいたと言うそれだけのこと。

もし彼が偶然仕事でドイツに居合わせなかったら、魔獣に対抗する戦力はICPOにはなかったであろう。

魔獣が同時に二箇所で発生した為に、彼の相棒は偶然同行していたICPOの日本支部長と共に

別の現場に赴きこれを殲滅している。


出来すぎている。


「その時雪之丞さんが言ったんです。

本当の英雄は一人だけだ。それは俺じゃないってッ!!

それで僕感動しちゃってッ・・・・・・・・・。

あの、僕の話――――」


聞いてます?という後半の言葉は、一人興奮して話すジェフリーの口から発せられることはなかった。

その瞬間、ボンネットの上に何かが落下してきたのである。


「・・・・・・!?」


刹那ッ

ボンネットを突き破り、ジェフリーの鼻先に何かが突き立った。

見ればそれは鋼鉄製の銃剣である。

ジェフリーが息を呑む間に、銃剣は引き抜かれ、再び深夜の暗闇へと引き戻される。


「伏せろッ!!!」


オールバックの男がジェフリーの頭を掴み無理矢理下を向かせる。

その空間に、再び鉄板を破った銃剣が現れる。


「っち・・・・・・・!?」


男はジェフリーの握るハンドルを助手席から切り、ブレーキを踏む。


けたたましいブレーキ音と共に大きく揺れる車体。

屋根の上の何かは車道に振り落とされていた。


ジェフリーとオールバックの男が車から出ると、黒い何かが車道の隅にうずくまっている。

それは黒い人影だった。

人影はなにやらぶつぶつと唱えている。


「・・・・鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。

卵は世界だ。

生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。

鳥は神に向かって飛ぶ。神の名は――――」


それは全身黒尽くめの一人の人間であった。

丈の長い黒いコートがその全身を覆っている。

そしてことさら異様なことに、BMWのライトが照らし出す男の顔面は、皮のベルトが縦横無尽に

巻かれ、まるで兜のようになって覆われている。

ところどころに鈍く光る金属の金具の反射とはまるで異質な光を、一対の獣のような眼が放っている。



「アプラクサスと言う。」


「アプラクサスッ!!!」


その名と、黒尽くめの発する異様な妖気に気圧され、ジェフリーが発砲する。

短銃の弾丸は狙い済ましたようにその黒いコートの中央へと吸い込まれていく。


それだけだった。


硝煙が消え去った後、何の衝撃をも感じた様子もなく、黒尽くめはこちらへと歩を進めてくる。


「な・・・・な・・・・・なにが・・・・・・???」


何が起こったのかまるでわからない。

銃弾が通じないほどの装甲であるというならいいだろう。

しかしそれにしても兆弾の音はするし、少なくとも音速の弾丸が衝突した衝撃は必ず空気や被射体に

伝わるはずである。

しかし、もう一度精確に照射された弾丸はやはり火にくべられた氷のように、何の影響も及ぼさずに

終わった。


「・・・・・・・ジェフリー。車に乗り込め。

ICPOの本部に行って状況を伝えるんだ。」


「しかし、ミスター・横島ッ!!」


「早く行け。はっきり行ってお前がいても仕様がない。」


っく、と言葉を飲み込んだジェフリーはBMWに乗り込むとアクセルを踏み込んだ。

黒尽くめの男はしかし走り去る車には何の関心も示さずに、ただオールバックの男を睨んでいる。


「・・・タダオ・・・・・・・・ヨコシマ・・・・・・・だ・・・な???」



「何だ。やっぱり俺のお客さんかよ。喋るのが苦手か?」


でも夜の誘いはもっとスマートにやらねぇと女にもてねぇぞ、と軽口を叩く横島忠夫の右の手に、

溢れんばかりの霊力が集中したのだった。






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ボヘミアン・ラプソディ(1)

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日本。

東京都内某所。


赤ん坊の泣き声が響いている。

年の離れた妹の世話で慣れていたつもりであったが、どうしてやはり育児とは大変なものだ。

泣く子は育つというけれど、この子はちょっと泣きすぎではないかと、横島令子はひとりごちた。

子供一人を産んでもいささかも崩れた様子を見せぬボディライン。

シャツの前をはだけると、令子は豊満な乳房を露にし、赤子に授乳を始めた。


「それにしても本当に美味しそうに飲む子ね。」


父親といい勝負だわ、と令子は些かうんざりしたように呟く。


「パパは元気にしてるかしらね、蛍?」


特に方角を意識するでもなく、令子は窓の外へと視線を放ったのだった。







「はぁッ!?」


黒尽くめがマントを翻すと、どこに隠していたのかその両手に一丁づつサブマシンガンが握られ

ていた。

驚愕する横島。


その間に両の銃口から一斉に弾丸が照射される。


「お前はドラ○もんかぁぁぁぁぁぁッ!!!」


爆音が鳴り響き、硝煙が辺りを包み込んでも黒尽くめは弾丸の照射を止めない。
やがてかちかち、という玉切れを知らせる音がして始めて、黒尽くめは用済みとなった機関銃を

無造作に投げ捨てた。


やがて硝煙が晴れると、街灯に照らされていたのは横島の無残な死体ではなく、宙に浮く無数の

霊気の盾であった。


「サイキックソーサー・プロール。」


その円盤の結界に守られて、ポケットに手を突っ込んだ姿勢のままの横島が不適に笑う。


その様子を見て黒尽くめはしかし少しも驚いた様子を見せず、再度コートを翻す。

するとその手にはグレネードが一丁握られていた。


「え゛ッ・・・・・!?」


息着く暇なく発射されるグレネード。

しかしその弾丸が横島に命中したと思われた瞬間、弾頭は彼をすり抜けて街灯を粉々に破壊した。


横島と思われた幻の足元には【影】の文字を燈したビー玉大の宝玉。


「馬鹿がみ〜るッ!!!!」


横島の霊波刀が黒尽くめを背後から今朝斬りにする。

吹き飛ぶ黒尽くめ。

彼が体勢を整えた時には、先ほどまで横島の影を守護していた霊気の盾が黒尽くめを取り囲んでいた。


「じゃあな。」


横島が指を鳴らすと無数の盾が一斉に起爆する。

黒尽くめは爆炎の中に巻き込まれたのだった。






「どういうことか説明してもらえるんだろうなッ?」


ICPOに帰還したジェフリー・マッコイから報告を受けた西条日本支部長は、なにやら慌てた様子で

伊達雪之丞を伴い現場に急行する。


運転する西条のあまりの慌てように雪之丞がその理由を問いただしているのである。


「・・・・・・・横島クンを襲っているのはプロレマと呼ばれる男だ。」


「プロレマ・・・・?聞いたことねぇな。」


「そうだろう。ICPOの最高気密だからな。」


西条は苦虫を噛み潰したような顔で眼前を睨みつけている。


「今から7年前、ICPOの幹部数名の乗った車両が襲われ、幹部たち全員が殺傷されると言う事件が

起きた。」


「!?・・・・・・・・・・・初耳だぜ・・・?」


「当たり前だな。事件は事故として処理され真相は闇に葬られた。

運転手の話だと、犯人は人間離れした敏捷性と常識外の腕力で車両を破壊し、引き摺りだした

幹部連中を銃剣で皆殺しにしたらしい。」


「そんな大事件・・・なぜ公表しなかったんだ?」


「理由の一つは大事件だったからだ。仮にも警察機構の幹部が為すすべもなく殺されたんだぞ?」


「・・・・・・それだけじゃねぇんだろ?」


「奴は・・・・・・・・プロレマは・・・・・・・・・」


西条は言いにくいことを無理矢理に口に出そうとする人間がそうするように、唇を噛みしばし沈黙する。


「・・・・・・・ICPOの旧幹部陣が対アプラクサスの為に作り上げた強化人間なんだ。」


「何ッ!!!」


「記録によれば死罪の確定した犯罪者を使い人体実験を繰り返していたそうだ。

胸糞の悪くなる話だが・・・。

現在は既にそのプロジェクトは凍結されているがね。

話を戻そう。

その事件から3年後、つまり今から4年ほど前を境にして大きな暗殺事件には必ず奴の影が見え隠れ

するようになった。

脱走したプロレマはアプラクサスに拾われていたわけだ。

今やアイツは組織内でアプラクサスの番人と呼ばれているらしい。」


「アプラクサスの番人・・・・・・?」


「奴は現れるとき、必ずヘッセの『デミアン』の一説を唱えているそうだ。」






「鳥は神に向かって飛ぶ。神の名は――――」






「でもよ、西条の旦那。

アイツは横島だぜ?あんたの説明じゃ俺たちが急いで駆けつけなきゃならねぇ理由がねぇ。」


「プロレマの恐ろしさはアプラクサスが奴に与えた絶対無敵というわけの分からん特性にある。

横島クンが強いとか強くないとか、そういうことは関係ない。」


西条はハンドルを握ったまま助手席の雪之丞を見据える。


「何も通用しないんだ。何も。」






「う・・・・・・嘘だろ・・・・・・・。」


タバコを咥え、火を点け様とした横島の胸を、後ろから銃剣が刺し貫いていた。

鈍色の銃剣は胸板を完全に貫通し、横島の足元に瞬く間に血溜りが出来る。


「神の名は、アプラクサスと言う。」


膝から崩れ落ちた横島に対し、プロレマは彼の奉じる神の名を捧げたのだった。





西条支部長と伊達雪之丞が現場に駆けつけたとき、そこには明らかに致死量と分かる大量の血液が、

バケツの中身をぶちまけた様に広がっているだけであった。


「横島ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


その場に膝をつく西条。

絶叫する雪之丞。






「・・・・・・あなた???」


横島令子はそこに愛する男がいるような気がして振り返った。

しかしそこには勿論彼はいない。


「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!」


「ど、どうしたの、蛍???」


やっと眠ったばかりの蛍が突然泣き出す。

慌てて蛍を抱きかかえる令子。


数時間後、横島令子はICPO特別顧問の母親から、忌避すべき事実を聞かされることになる。






(続)

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