ザ・グレート・展開予測ショー

今そこにあった危機(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:黒土
投稿日時:(05/11/28)

 その日、バベルのオフィスルームには見慣れないものが置いてあった。
一見すると航空機のパイロットが被るようなヘルメットに見えなくも無い。
そして、そんな場違いな物を興味しんしんで見つめるチルドレン達の元へ皆本がやって来る。

「それは予知能力を人為的に発現・増幅させるための装置だよ。
 もっとも、まだ研究段階でとても実用できるシロモノじゃあないけどね」

皆本がその装置について説明していると、薫がヘルメットを取り上げ頭に被った。

「むう〜ん……」

ヘルメットを装着し、目を閉じたまま唸ること数分。

「ダメだ、何にも見えてこない」

残念そうにヘルメットを取る薫。
今度は葵が被ってみる事になり、薫から受け取ったヘルメットを装着する。

「んー……」

またしても唸ること数分。

「アカンわ、これただのヘルメットなんちゃうか?」
「じゃあ次は私ね。」

紫穂に渡そうとヘルメットに手をかける葵。
だがしかし。

「あれ?な、なんやコレ」

なんと、ヘルメットが脱げない。
葵が必死で引っ張ったり、左右に振ってみたりと試してみるが、
ヘルメットは葵の頭にすっぽりとはまったままびくともしない。

「お、おい、大丈夫か?」

慌てて皆本も協力し、何とか外そうと試みるも徒労に終る。

「おかしいな、ロックするような機構があるなんて聞いてないぞ」
「そんなことゆうても、現に外れへんやんか!」

不思議そうな顔をする皆本に、葵はちょっと不機嫌そうに声を張り上げる。
すると、その様子を見ていた薫が一歩下がって手を突き出した。

「なら、あたしのサイコキネシスで叩き割ってやる!手元が狂うから動くなよ」
「え?ちょ、ちょっと待ち……」

制止する間もなく振り下ろされる一撃。
だが、そこに葵の姿は無く、ただ床にめり込む皆本が悲鳴を上げているのみであった。

「チッ、かわしたか」

何故だか薫は残念そうな表情をしている。

「あら、葵ちゃんは?どこにテレポートしたのかしら?」

紫穂の言葉に辺りを見回す薫と皆本。
確かに、すぐ横にでも移動すれば済むはずのことだが、近くに葵の姿は無い。

「た、助けてー!」

その時、皆本達の耳に葵の声が聞こえてきた。
皆本が声のする方向を向いてみる。

「窓の方向!?」

嫌な予感がして、大慌てで窓辺に駆け寄る三人。
見ると、窓辺にぶら下がる格好で葵が助けを求めている。

「あ、葵!」
「待ってろ、今助ける!」

薫のサイコキネシスによって助け出される葵。
高層ビルだけあって危ない所だったが、大事には至っていないようだ。

「あー、危ないトコやった」

床に座り込んでいる葵の表情はかなり疲れている様子。

「ところで、どうしてテレポートで戻って来なかったんだ?
 そもそも何であんな所まで行く必要があるんだよ」

少し厳しい感じで問いかける皆本に、葵は困惑した顔で答える。

「それが、薫が何かしようとした時、ウチも知らん間にテレポートしとったんや。
 気が付いたらあんな所におって、戻ろ思てもテレポートが発動せんかったし……
 ホンマ、こっちが聞きたいくらいやで」

その答えを聞き、一同の目はあるものに集中する。

「やっぱり、アレか」
「どう考えてもアレね」

葵の頭で黒く光るヘルメット、どう考えてもテレポートの不調はこれが原因であろう。

「葵、一緒に来るんだ。
 それの研究チームに何とかしてもらうしかない」

そう言うと皆本は葵の手を引き、ラボの方へと向かっていった。


 しばらくして皆本と葵が戻ってくる。
しかし、二人の表情はどこか暗く、何より葵の頭にはまだヘルメットが装着されたままだった。

「ダメだ、主任研究員と連絡が取れなくて詳しい事が分からなかった。
 残っていた資料によると、自身に降りかかる危険を察知するためのものらしいんだが、
 どうして外れなくなったのかまでは何とも……」

当の葵はというと、困惑した顔の皆本の横でかなりおかんむりな様子。

「アイツら、『ついでにデータを取っておいて下さい』やなんて、
 腹立ったから一発かましたったわ」

どうやら研究員たちと一悶着あったようだ。
その際の光景を思い出したのか、皆本が苦笑いを浮かべながら話を続ける。

「それで、研究員たちの話では、その装置の危険察知能力と葵のテレポートが作用して
 一種の暴走状態に陥っているのではないか、とのことだ。
 予知能力が発現したのは、たまたま葵との相性が良かったんだろうか?」

そう言いつつ葵のほうを見る皆本だったが、そこに葵の姿は無い。
その代わりにこっそり右手を出して構える薫と目が合った。

「あ、いや、こっそりやれば大丈夫かな〜って」
「お前なあ……って、葵はどこだ!?」

すると、再び窓の方から葵の声が聞こえてくる。

「た〜す〜け〜て〜」
「ああもう、またそんな所に!」

窓から落ちそうになっている所を助けられること、本日二回目。
さっきよりもその表情はお疲れの様子だ。

「まいったな、テレポートによってもたらされる危険までは察知できないのか。
 おまけにすぐには次のテレポートができなくなっているようだし」

大きなため息が二つ、一つは皆本、もう一つは薫のもの。

「やれやれ、あたしがいなきゃどうなってたことか」

得意そうな薫だったが、皆本達の視線は冷たい。

「あんた、ウチを殺す気かいな!
 ……エエからちょっと大人しゅうしといて」
「わ、悪かったよ。
 ほら、ジュースでも飲んで落ち着けって」

いつの間に持ってきたのか、薫がジュースを葵に渡す。
が、その時うっかり手を滑らせてしまい、ジュースが葵の服にかかってしまった。

と思ったが、ジュースは床に広がっただけ。
そこにはすでに葵の姿は無い。

「葵!?
 くそっ、こんな些細な事まで危険だと認識してしまうのか!」

窓辺に駆け寄る皆本、しかし、今度のテレポート先はそこではなかった。


 良く晴れた青空、雲ひとつ無く実にすがすがしい。
もっとも、妙な状況に陥っている葵にはそんな事はどうでもよかった。

「あー、ウチはどこへ向かうのでしょう」

ついつい出てしまう独り言、ちょっと標準語が混じったりして。
ただいま彼女は高速道路を行くトラックの荷台に揺られている。
けっこう不安定で危険なのだが、今の葵には何だかそれすらどうでもよくなってきていた。
それでも落ちないようにバランスを取っていたところに皆本から通信が入る。

「葵、大丈夫か?移動しているようだがどこにいるんだ?」

どうやらリミッターのおかげで場所は追えているらしい。
葵はちょっとだけ気を引き締めると、通信機に向かって返事をする。

「今でっかいトラックの荷台の上や。
 けっこう不安定でバランス取るのが……うわっ!」
「葵!?」

通信で油断している時、運悪くカーブにさしかかったため大きくバランスが崩れる。
荷台から振り落とされそうになった次の瞬間、葵の体がフッと消えた。

「……あれ?ウチ、テレポートしたんか?」

道路に叩きつけられることも無く、どこかの部屋らしき場所に座っている葵。
その声を聞いてか、通信機から皆本のため息が聞こえてくる。

「ふう、どうやら間に合ったみたいだな。
 リミッターを解除すれば連続したテレポートくらいは出来るようになるかと思ったんだ」
「確かに、まだ自分ではうまく発動できんけど、間隔は短かなってるで
 せやけど……」

周囲の状況が分かってくるにしたがい、葵の顔が青くなる。

「何か、傷のある強面の兄ちゃんがぎょうさんおんねんけど」

どうやらテレポートした先はヤ○ザの事務所だった様子。

「何じゃこのガキ、どっから入って来た!?」
「ヘルメットまでして探検ごっこか?ワシらナメとるんか、あぁ?」

強面の男たちは一斉に葵を捕まえようとする。
が、これが危険でないわけがなく、すでに彼女はテレポートした後だった。

「あ、危なかった……
 んで、今度はドコや?もうどんなトコでも驚かへんで!」

多少ヤケ気味になっているのか、気合を入れて周囲を確認する葵。
だが、せっかく気合を入れたものの、そこは何の変哲も無い路地であった。

「何や、人がせっかく気合入れたっちゅーのに。
 あ、皆本はん?こっちは何とか無事やで」
「わかった、危険そうな物に近寄らないよう注意しながら待機していてくれ。
 安全のためにリミッターを外したけど、今度は僕達が追いつけなくなるからな」

今のところ周囲に危険そうなものは無い。
後は皆本達が駆けつけてくれるのを待つだけだ。

「ふぃー、
 ただのヘルメットやと思うたら、とんだ疫病神やな」

ようやく落ち着いた葵、壁に寄りかかって休憩をする。
ふと横を見ると、幼い子供が三輪車で遊んでいるのが目に入った。

「ちりんちりーん、通りまーす。おねえちゃん、あぶないよ〜」

可愛らしい仕草に見入っていた葵だったが、その一言でハッと我に返る。

「ま、まさかコレも――」

言い終わる間もなく、彼女はまたどこかにテレポートしてしまうのであった。


 「葵!返事をしろ葵!」

通信機から聞こえる皆本の声。
だいぶ疲れているためか、その声が頼りなく感じられる。

「大丈夫、まだ生きとるで。
 どっかのビルの屋上やっちゅうことしかわからんけどな」

返事はしたものの、葵の声はほとんど棒読み状態。

「こっちでも捉えている、今度こそ何とか留まっていてくれ!」
「……ウチかてそうしたいけど、頭におるコイツ次第やからなあ」

そう言いつつ、葵は憎らしそうにヘルメットを小突く。
皮肉にもその程度ではテレポートしないようで、葵は怒りをぶつけるようにもう一発ヘルメットを殴るが、
それでもやっぱりテレポートは起こらない。
葵が拳を押さえて悶絶していると、さらに皆本から通信が入った。

「そのヘルメットについてなんだが、何とか主任研究員を捕まえる事が出来たよ。
 かなりの変人だったけど薫と紫穂が情報をすべて引き出した」
「うわ、えげつなー」

その時の様子が目に浮かぶようで、元凶ではあるがその研究員が少し哀れに思えた。

「どうもそのヘルメットには簡単なAIが搭載されているらしい。
 そのAIが脳にリンクして予知を行うために、葵のテレポートも制御されているんじゃないか、とのことだ」

AIと聞き、知能があるのかと思うと余計に憎らしく感じられる。

「AIねえ。
 それで、外れへんのは何で?」
「ヘルメットが外れないのは、おそらく危険察知とテレポートの相性がいいから……
 つまりそいつに好かれてるってことだそうだ」

そう言われると、なんだか頭の上がむずがゆい気がしてくる。
上からポッと照れているような感じも伝わってきて、背筋に寒気が走るおまけ付き。

「うう、気色悪いやっちゃ……待てよ、AI?」

次の瞬間、皆本のモニターから再び葵の反応が消えた。

「くっ、またテレポートしたのか!?」

慌てて通信機の反応を探る皆本だが、何故だか今度は捉える事ができない。
様々な手を尽くしてみるも効果は得られず焦りが募る。

「くそおっ!どこに行ったんだ葵!」

「呼んだ?」

叫ぶ皆本の後ろから、聞き覚えのあるイントネーションの声が聞こえてくる。
皆本・薫・紫穂の三人が驚き振り返ると、ヘリの座席に座る眼鏡の少女の姿。
ヘルメットは被ったままだが、それはまさしく葵であった。

「お、お前、テレポートが元に戻ったのか!?」
「まあ、そうやな。
 あのとき皆本はんがAI言うたからピンと来たんや」

葵はゆっくり立ち上がると、皆本達のほうを向いて胸を張り、
自分の頭にあるヘルメットを突付きつつ喋る。

「ウチのこと気に入っとるみたいやし、コイツにも知能があるかも思うて説得してみたんや。
 ちょっとウチのキャラやあらへんけど、非常事態やし……こんな風に」

と、おもむろに大きく息を吸い込む葵。

「ワレコラァ!いつまでも調子乗っとんやないでぇ!
 ウチがその気になったらオノレなんざ○○で○○の○○じゃボケェ!!!」

(こ、怖い……)

凄まじい剣幕の葵にちょっと引き気味な皆本。
そしてその時、ヘルメットに一瞬のスキができたことを薫は見逃さなかった。
……具体的にどういうことかは置いといて。

「今だ!サイキック・カッタァ!」

ヘルメットに対し、激しく叩きつけられる念動力。
薫が得意げな顔で背を向けると同時に、ヘルメットは左右に分断され床に落ちた。

「フッ、またつまらぬ物を斬ってしまった」
「お見事、薫ちゃん」

だがしかし、何やら様子がおかしい。

「…………」
「ん?お、おい葵!?」

ぷくーっとふくれるたんこぶ。
少々力の加減を間違えたのか、葵はぐるぐると目を回し気を失ってしまった。

「げげっ……わ、悪い」
「なるほど、危険とみなされるわけよね」

その後、葵が目を覚ましたのは医療ルームのベッドの上。
精密検査の結果も異常は無く、危険察知能力とリンクした影響は残っていないようだ。

「よかった、気が付いたか」
「皆本はん……?
 あれ、ウチ何しとったんやろ。何か頭痛いし」

ぼんやりしつつ頭をさする葵と、その横で苦笑いする薫。

「よかったよかった、これにて一件落着!」
「……あんた、確かウチに……」

分かりやすく不自然な薫を見て、葵の脳裏にじわじわと何かが思い出されてゆく。
と、その時、病室に白衣を着た男達が入ってくる。

「困りますよ、試作品を壊されちゃあ。これじゃデータも何も無いじゃないですか。
 修理・改修しておきましたから今度こそ有益なデータをお願いしますよ」

白衣の男が持っている黒いヘルメット。
ふと目をやると、何故だかそのヘルメットと目が合ったような気がして寒気が走った。


ぷちーん


その瞬間、何かがはじけた。
ベッドの上で立ち上がる葵に皆の視線が集まる。

「お前ら……死にさらせー!」

――その翌日。

しばらく行方不明になっていた予知システムの研究員たちが樹海から生還。
しかし、その際に危険察知装置は壊れてしまったらしく、彼らの研究は白紙へと戻されたのだった。

一方、正気に返った葵はというと、研究を一つ潰したものの局長の権限もあって何らお咎めなし。
さらには大変な目にあったということで、その研究チームから慰謝料代わりにプレゼントが贈られることとなった。
やっぱり彼女もあの『ザ・チルドレン』の一人、転んでも決してタダでは起きないのです。



「ま、今回はこんなもんでええかな」


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