ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦8−2 『アンハッピー・メン』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/11/26)

六道邸の玄関に、久しぶりの除霊に赴くべく、ワルキューレ達が集まっていた。
とは言っても実際に除霊を行うのは冥子で、付き添うのもワルキューレ一人だったが。

鬼道が自分も同行すると主張したが、ワルキューレにあっさり却下されていた。
冥子がどれだけ一人でやれるかを確認するのが目的なのに、補助がいたのでは話にならない。


「それでは行くとするか。
ジーク、昨日頼んだ物の手配を忘れるなよ。」


精霊石の弾頭が入ったマガジンを愛用のベレッタに込め、ワルキューレが立ち上がる。


「本当に行くの〜〜〜?」


冥子が床に座り込み、眠そうな眼でワルキューレを見上げている。

伸びをしながら欠伸をする冥子の頭頂にベレッタの銃底が振り下ろされ、鈍い音が響いた。


「な、何するんや!」


頭を押さえてべそをかく冥子に鬼道が慌てて駆け寄ってきた。

冥子を慰めながらワルキューレに抗議しようとしたが、彼女のコメカミに浮かぶ青筋に気が付き言葉を飲み込む。


「さっさと用意せんか!」


ワルキューレの怒声に冥子と鬼道が慌てて出て行った。




「それじゃ〜〜ワルキューレさん、冥子をお願いね〜〜」


何の不安も無いかのように見送る六道理事にワルキューレが疲れた溜め息をついていた。
























ワルキューレが送迎用のリムジンに向かうと、既に冥子の姿は車の中だった。

除霊に行くのにリムジンってどうなんだ、などと溜め息を吐きながらドアに手を掛ける。
そのまま乗り込もうとすると、ふとトランクからタキシードの裾がはみ出している事に気が付いた。


「………………」


反射的に巨大な青筋がコメカミに浮かんだが、気持ちを落ち着かせるために深く息を吸い込む。



――チャキッ!――



深呼吸を終え、無言で懐から銃を取り出し安全装置を解除する。
慣れた手つきで遊底をスライドさせ弾丸を送り込む。


「よし、3秒だけ時間をやろう。
――――3!」


引き金に指をかける。


「――――2!」


トランクに狙いをつける。


「――――1!」




「――――ゼ――!」









「――――ま、待ってくれ!僕が悪かった!」


銃の引き金が引かれる寸前で、トランクの蓋が撥ね上がり、中から鬼道が飛び出してきた。













「――――はい、あれを至急送って欲しいんです。
――――ええ、そうです。確か妙神山に幾つか余ってたと思うんですけど。
――――え?鬼門が出掛けているから早くても夕方になる?鬼門達どこかに行ったんですか?
――――老師とパピリオの頼みでお遣いに行ってる?そうですか……なら、戻ったらすぐに送ってください。
――――はい、それじゃ、お願いしますね。」


電話越しにも関わらず、最後に礼儀正しく頭を下げてから携帯を切る。
パタンと携帯を折り畳みスーツの内ポケットに滑り込ませた。

六道邸の玄関前で紺のスーツに身を包み携帯を操るその姿は出入りの業者のようだったが、彼は人間ですらなかった。
今の電話は、昨夜彼の姉から頼まれていた物を手配する為のものだったようだ。

姉から頼まれていた件の段取りを組み終え、ふぅと軽く溜め息を吐く。

もう出発した頃かと思い駐車場の方に目をやると、発った筈のワルキューレがこちらに歩いて来ていた。



「あれ?
姉上、何かトラブルですか?――――って、鬼道さんがどうかしたんですか?」


ワルキューレは鬼道の襟首を掴んで引きずって来ていた。
当の鬼道本人は白目を剥いてぐったりしている。


「ああ、密航者だ。
こいつから決して目を離すなよ。」


はぁ、と良くわかっていない返事をするジークに気絶した鬼道を押し付け、また駐車場に戻っていった。

今度は問題なく出発したのだろう、しばらくするとリムジンの低いエンジン音が遠ざかって行った。



「……えーと、取り敢えず屋敷の中に運んだ方が良いよな。」


何の説明も受けてないので困惑しながらも、ひょいと鬼道を担いで屋敷に入って行った。


























「冥子はんッ!」


居間のソファーに寝かせておいた鬼道がいきなり飛び起きた。
慌てて周囲を見渡すと、ジークと六道理事が紅茶を飲みながら談笑していた。


「その時神父の聖書が輝いて、悪霊の群れを一掃したんですよ。」

「ふ〜〜ん、相変わらず唐巣君、腕は確かみたいね〜〜」


立ち上がった鬼道に気が付いたジークが声をかける。


「やあ、目が覚めましたか。
それにしても、一体どうしたんですか?
いきなり気絶してたから驚きましたよ。」

「あら〜〜大丈夫、鬼道君〜〜?
貴方の分もあるから〜〜一緒にお茶にしましょうか〜〜」


暢気な二人とは裏腹に、鬼道が慌てて冥子の事を確かめる。


「冥子なら〜〜もう出発したわよ〜〜?」

「そんなッ!冥子はんに何かあったらどうするんですか!?
除霊の現場はどこなんですか!?早く追いかけんと!!」

「駄目よ〜〜今朝決めたでしょ〜〜?
付き添いはワルキューレさんだけだって〜〜」


行き先を知っているのは六道理事とワルキューレだけで、他の人間は知らされていなかった。


「そんな事わかってますけど!!
もしも十二神将が暴走したらどうするんですか!?」

「大丈夫よ〜〜今回はウチの古い物件で霊障に悩まされてるのがあったの〜〜
どうせ取り壊す予定だから〜〜別に暴走しても構わないのよ〜〜
もちろん、暴走しないに越した事はないけど〜〜」


いつもの穏やかな笑みを浮かべながらスラスラと言葉を紡ぐ。
理詰めでやり込められては鬼道もこれ以上は言えなかった。

そもそも思い切り個人感情で動こうとしているのがバレバレなのだ。
これでは相手を説得する事など出来はしない。


「ところで、何があったんですか?
僕も気絶した鬼道さんを姉上から渡されただけなんで、良くわからないんですが。」


「ああ、それは――――――









――――――『ぼ、僕が悪かった!』

降参するかのように両手を挙げ、鬼道がトランクから飛び出した。

『黙って付いてこうとしたんは悪かったけど……冥子はん一人で除霊に行くなんて、やっぱり危険過ぎる!
後生やから僕も連れて行ってくれ!絶対足手纏いにはならへんか――――グフゥッッ!?』

無防備な鬼道のボディにワルキューレの拳がめり込んでいた。
意識を失った鬼道が膝から崩れ落ちる。

『足手纏いとかそういう問題では無いのだ、この馬鹿者が。』

冥子の実力を見るのに補助が居ては意味が無い、と今朝何度も説明していたにも関わらずこの行動。
鬼道は個人的な感情により冷静な判断が出来ないと見なされ、さっさと実力行使に踏み切られていた。

気絶した鬼道の襟首を掴み、ワルキューレはそのまま屋敷へと引きずっていた。





それを見送る冥子の頭の中ではドナドナが流れていたりしたのだが、それはまた別の話。














――――という訳なんや。」


殴られた腹部をさすりながら説明を終える。
あれが全力パンチなら胴体貫通の大惨事になっていただろうが、流石に手加減はしてくれたようだ。


「皆で相談して決めたじゃないですか。
今回の除霊は姉上と冥子さんだけで片付ける、と。」

「そうよ〜〜あの子が一人でどこまで出来るか見る為なんだから〜〜
鬼道君が付いて行ったら〜〜あの子の実力がわからないでしょ〜〜?」

「確かにそうやけど!付いて行く位ならかまへんやろ!?
何も手伝おうって訳や無いけど、僕が一緒なら不測の事態にも対処できるはずや!」


未だに諦め切れないのか、何とか冥子の下へ駆け付けようと必死に二人に食い下がる。


「仕方ないわね〜〜落ち着いて待ってられないのなら〜〜お屋敷の掃除でもお願いしようかしら〜〜」

「理事長!」


真面目に取り合ってくれない相手に苛立ちながらも諦めない。


「鬼道君〜〜冥子の支えになってくれてるのは嬉しいけど〜〜何時までも甘やかしたままじゃ駄目でしょ〜〜?
そろそろ〜〜あの子にも一人前になってもらわなきゃ〜〜」

「ですがッ!」

「あらあら〜〜大好きな冥子の事が心配なのはわかるけど〜〜
今日はあの子を信頼してあげて欲しいわね〜〜」


さり気なく口にされた一言は鬼道の思考中枢を一瞬で麻痺させた。


「――なッ!――いや!――僕はッ、ただ!」


予想外の反撃に顔を真っ赤にして言葉を濁している。
六道理事はいつもの穏やかな微笑を浮かべ、さらなる追撃を行う。


「あら〜〜冥子の事、嫌いなの〜〜?」

「――そ、掃除をしなければならないので、失礼します!」


さっと踵を返し部屋を後にする。
最後の質問には答えなかったが、耳まで赤くしていては答えを言っているような物だった。

二人のやり取りを紅茶を啜りながら見ていたジークも席を立つ。


「あら〜〜紅茶はもういいの〜〜?」

「ええ、鬼道さんから目を離すなと指示されているので。
美味しい紅茶、ご馳走様でした。」

にこやかな笑みを交わし、ジークも部屋を後にした。

























庭に出て行った鬼道に追い付くと声をかけた。


「執事の仕事って何するんですか?」


まだ少し頬を染めたまま鬼道が振り返る。


「基本的には何でも、やな。
掃除や洗濯、理事長への来客の対応。
冥子はんを起こしたり、式神の特訓したり。」

「あれ、そう言えば、教師もやってるんですよね?
休みの日にまで働いてて何時休むんですか?」


ジークの問いに鬼道が乾いた笑いを浮かべながら力無く首を振る。


「僕に休みの日なんかあらへんよ。
あ、何も無理やり働かされてる訳やあらへんよ?
むしろ僕が無理言って働かせてもろてるんやし……」

「何か欲しい物でもあるんですか?
――――ああ、もしかして何かプレゼントでも贈るとか。」


ふっと寂しく微笑むと鬼道は語りだした。



「冥子はんとの果し合いの後、入院してな……
退院して、家に帰ったら父さんがなぁ――――
















『久しぶりに我が家に帰って来れたなぁ。』


鬼道政樹は二ヶ月にも及ぶ入院生活から解放され、父子で暮らす安アパートに帰って来ていた。
既に日は沈み辺りは夜の闇に包まれている。
手すりに手を掛けながら二階の部屋へと向かう。

鍵を差し込み、錠を解除しようとした所でふと鬼道政樹は違和感に気付いた。


『……鍵が開いとる?』


父が家に居るのかとも思ったが、外から見た限りでは明かりは点いていなかった。


『父さん、おるんかー?』


電気を点けようとしてスイッチを押すが、乾いた音を立てるだけで光は灯らない。


『……電球、切れてもたんかな。』


軽く溜め息を吐き手探りで部屋の奥へと足を進める。
居間にある丸いちゃぶ台の上に何やら白い紙が置かれ、重しが乗せてある。

何気なく鬼道政樹はその紙を手に取った。



『……これは……借用書!?
金額は……十万、百万、千万……』


今まで見たことも無い金額に、一つずつ桁を数えていく。


『一億……156,804,000円……!?』




「政樹、後は頼んだ!」と書き殴られた借用書を手に、鬼道政樹は呆然と立ち尽くしていた。



――バタン!――


荒々しく扉を開け、三人組の男達が乗り込んできた。
男の一人は凶暴な顔つきの小型犬を連れて来ている。


『君が鬼道政樹君か。
お父さんから聞いとるで、借金は君が払ってくれるってなぁ。』

『――なッ!?』

『内臓売るか、式神売るか、どっちでも好きな方選ぶんやな。』

『――クッ!』


咄嗟にガラスを突き破り庭に飛び降りると、鬼道政樹は夜の街を走り出した。









――――父さんなぁ、僕が入院してる間に借金して雲隠れしてもうたんや。
帰ってみたら電気は止められてるわ、借金取りが押し掛けてくるわで、今思い出してもあの日は散々やったわ。」

「あー、それはまた災難でしたね。」


涙ながらに語る鬼道に、ジークが共感を覚えていた。
最近の不幸話ならジークも良い勝負が出来そうだった。

話を聞いて何かが引っ掛かったのかジークがふと首をかしげた。


「その後色々あって、結局借金は理事長が肩代わりしてくれてな。
今は教師や執事として働きながら頑張って借金返済に励んでるんや。」


ふーむと何事か考え込んでいたジークが口を開いた。


「やっぱり執事って『お嬢様』とか呼んだりするものなんですか?」

「いや、僕は冥子はんって呼んどるけど?」


「……もしかして、執事長にいじめられたりしてません?」

「いや?そんな事あらへんよ?」


「……なら、『執事とらのあな』に修行に行ったりは。」

「……そういう微妙なネタは勘弁してや。」


二人は目を逸らすとわざとらしく咳払いをし、何事も無かったように本題に戻った。


「ま、まあ、詰まりは六道さんに助けてもらったって訳ですね。
良いお話じゃないですか。」

「やろ?だから僕は恩返しとして冥子はんの力になりたいんや!
だから頼む!ジークさん!冥子はんの行き先を教えては貰えんやろうか!?」


肩を掴まれ激しく揺さぶられ、ジークが眼を回している。


「ちょ、ちょっと待ってください!
僕も知らないんですよ!それに姉上が付いてるんだから何も心配無いですって!」

「そ、そうなんか。すまんかったなジークさん……」


肩を落としてうなだれる鬼道を見ながら、さっきの言葉とは裏腹にジークの胸中には不安が渦巻いていた。



(…………姉上、お願いですから無茶な真似はしないで下さいね。)



夜叉丸を呼び出し、二人で庭を掃除している鬼道の隣で、ジークが祈るように空を見上げていた。

























ワルキューレと冥子を乗せたリムジンは山奥の老朽化したリゾートホテルの近くで停車していた。

木々に囲まれたこの立地条件なら、営業していた頃は良い避暑地として賑わっていただろう。
しかし人の足が絶えてしまった今となっては、まだ昼前だというのにホテルを囲む木々が鬱蒼とした雰囲気を作り出していた。


「良いか、六道冥子。
やるべき事は只一つ。あのホテルを占拠している悪霊の強制退去だ。
建物の破壊許可は既に下りているからな、多少破壊しても何も問題ないぞ。
と言うか、近日中に爆破するそうだからな。建物の事は気にせず除霊に専念してくれ。」

「それなら〜〜〜中に居る悪霊さんごと爆破するのは駄目なの〜〜〜?」


思わぬ提案に、ワルキューレが首を傾げて考え込む。


(……むぅ、それも悪くない考えだな……プラスチック爆薬で一気に――――!
って、いかんいかん。それでは主旨を外れてしまっている。)


「なかなか良いアイデアだが、貴様の実力がわからんのでは意味が無い。
そもそも悪霊が居る建物内で爆薬の設置など危険すぎる。
よって、却下だ。」


ぶぅと頬を膨らませている冥子を尻目にワルキューレはホテルに向かい歩き出した。






(霊の気配は……二百、三百……いや、三百もいないか……恐らく二百後半といった所だな……
魔族や妖怪の気配も無い……いるのは低級霊や不浄霊ばかりか……ふん、実力を見るには少々物足りんかも知れんな……)


建物の中の気配をワルキューレが注意深く探る隣で、冥子が口を開いて建物を見上げている。

蔓にびっしりと覆われた外壁は、この建物が人の手を離れてからかなりの時間が経っている事を物語っていた。
緑の表面から微かに覗く外壁は色褪せた灰色に変わっており、昔の純白だったであろう壁面は見る影も無かった。

恐らく、元々は訪れた客の目を惹くための細工や装飾が施されていたのだろう。
内装にはリゾートホテルならではのプールや温泉などの娯楽施設も残っているのかもしれない。
だが荒れ果ててしまった今となっては、只の巨大な緑の立方体にしか見えなかった。



廃墟の持つ独特の寂しげな雰囲気に飲み込まれたのか、冥子はぼんやりと建物を見上げ続けていた。


「こら、なにを呆けているのだ。早く仕事を始めないか。」


動こうとしない冥子の背中を指でつつく。
不思議そうな顔で冥子が振り返った。


「え〜〜〜、ワルキューレさんが前衛じゃないの〜〜〜?」

「何を馬鹿なことを。私はあくまで見届けるだけだ。
今日は貴様一人で全てやり抜かねばならんのだぞ?」


不服そうに声を上げようとした冥子に、取り出したベレッタを突きつける。


「もし暴走した場合は、式神をこれで撃つ事になるぞ。
それが嫌だったら暴走しないように気をつけるのだな。」

「そ、そんな〜〜〜お友達にそんな酷い事しないで〜〜〜」


間延びした声なのは相変わらずだったが、その声色は必死に式神を守ろうとしているのが感じ取れた。
突きつけられた銃口に怯みもしない冥子にワルキューレが見直したように微笑む。

とは言っても、これは六道理事から聞いていた一番確実な暴走を止める手段だった。
式神へのダメージは術者にもある程度反映されるため、式神を撃てば術者を気絶させる事が可能だった。

もっとも、暴走した十二神将を傷つけられるような武器は人間界には存在しない。
魔族を殺せるほど強力な精霊石銃を持ち、なおかつ高い射撃技術を持つワルキューレだからこそ出来る事だった。


「式神はいくら傷ついても術者が無事なら回復するのだろう?
もし式神が撃たれるのが嫌なら、術者たる貴様が頑張るしかないな。」


これである程度は必死にさせる事が出来ただろう。
銃を懐にしまうと、ぽんと冥子の肩を叩き、開け放たれたホテルへ入るように促した。

当然明かりは点かないためホテルの内部は薄暗かったが、意を決したように恐る恐る冥子が中に入っていった。































「あら、冥子のティーカップが……」


目の前で娘が愛用しているティーカップが突然ひび割れ、六道理事が首を傾げていた。


「不思議な事もあるものね〜〜」


しかし何事も無かったかのように穏やかな笑みを浮かべ、紅茶の続きを楽しむのであった。































――後書き――

もう一話続きます。

相変わらず話を短く纏めるのが苦手です……

では。

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