ザ・グレート・展開予測ショー

The show must go on(完結)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/11/26)

 ノージェリアと隣国の国境付近で大規模な列車事故が起きたのは、伊達雪之丞がコヨ

 ーテと名乗る謎の男と交戦している頃であった。

 偶然にもその列車ではICPOの武装警察官が物資と共に輸送されていたのだが、この

 事故により大幅な時間のロスを強いられる。

 国籍不明の戦闘ヘリ17機がノージェリア北東部に位置するイーストサイド・リドルロ

 ジクス社の研究施設の爆撃を開始した頃、ピエトロ・ド・ブラドーはその事実を無線

 によって知ったのだった。


 「おやおや、列車事故とは、ついてないね。」


 耳を劈くヘリの滞空音の中、コヨーテがさも可笑しそうに笑う。


 「全くだ。まるで誰かさんに図られでもしたみたいにな・・・。」


 横島は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 その時、コヨーテの頭上からタラップがたらりと落ちてくる。

 コヨーテはただ一本残った左腕でそれを掴んだ。

 ハロウィンのカボチャのように巨大な穴が穿たれたその身体には既に心臓がない為か、

 傷口から血液が流れることがない。


 「一体。手前ぇはなんなんだ・・・・・・・?」


 雪之丞がコヨーテに疑問を投げかけると、彼はジャックランタンのようににんまりと

 笑った。


 「”視”ての通りの人間さ。

 ただ君たちより少しだけ大雑把に出来ている。

 しかし今日は驚いたよ。

 まさか僕が負けるなんて。」


 コヨーテはその身体に残った僅かな右肩を竦ませて、嘆かわしいとでも言うような表

 情を作る。


 「次は君を殺せる装備を用意しないとね。」


 「次があると思ってんのか?」


 雪之丞が右手に霊力を集中する。


 「思ってるさ。横島クンはね。」


 コヨーテの予言が的中し、横島の手が雪之丞の肩に掛けられる。


 「落ち着け、大バカ。

 戦闘能力を失っているとは言え、相手は見ての通りの非常識だぞ?

 立ってるのもやっとの癖に啖呵切ってどーすんじゃッ」


 「じゃ、お前がやればいいだろうがッ!!」

 「嫌だ。気持ち悪い。」

 「手前ぇな・・・・。」

 「冗談はさておき、ここが爆撃されれば俺やピートは兎も角、手負いのお前やエミリ

 ア女史はどうなる?


 自慢じゃねぇが俺にもそこまで気を回す自信はねぇぞ。」


 「っく・・・・・。」


 「ヤツを乗せたヘリが爆圧半径を越えるまでに逃げ切る。

 今はそれだけを考えろ。

 恐らく・・・・・・・・・・また近いうちに会うことになる。」


 横島は雪之丞の肩越しにコヨーテを睨みつける。

 身体の大半を失いながら、コヨーテは涼しい顔でその威圧を受け止めるのだった。


 「雪之丞クン、予言しようッ!

 次に会うとき、風穴が開いているのは君の身体の方だ。」


 タラップを握るコヨーテの身体をヘリが徐々に吊り上げていく。

 その姿がドームの天井を離れた頃、少し離れた場所から爆撃音が鳴り響く。

 横島は慌てて輝く二つの宝玉を発動させ、それをピートに渡した。


 「次は、手前ぇのどたまにかましてやるぜ。」


 「【広】【域】ッ、バンパイア・ミストッ!!!」


 雪之丞が空に向かって呟くと同時に、ピートが文珠の力を借りてその場の全員を霧化する。
 爆撃が開始されたのは、正にその直後のことだった。






 合衆国の首都、北西区ペンシルヴェニア通り1600番地にその荘厳な建物は聳えている。

 まるで神か帝王の住む神殿のような壮麗な建築物。

 床面積 55,000 ft² (5,100 m²)、134室を有し、35ヵ所の浴室がある。

 ドア 412枚、窓 147ヵ所、暖炉28ヵ所、階段 8ヵ所、3つのエレベーターが備え付

 けられ、5人のシェフが常駐している。
 そのほかにも、テニスコート、ボーリング場、映画館、ジョギング用の道路がしつら

 えられ、屋内プールも完備されている。

 この白い家は間違いなく、人類最高の権威を示現する象徴的な建物である。


 西翼には世界一の権力を有する民主主義の代表者であるこの国の大統領の執務室がある。

 執務机に座る男の前には、5人の男女が椅子に腰掛けていた。


 「随分身体のパーツが足りないようだが・・・・・?」



 男の眼前にいるのは黒いスーツを纏った飄々とした男であった。

 しかしそのスーツは右半分がだらしなくよれ、包むべき肉体がその下に存在しないこ

 とを如実に語っている。


 「新しい身体が間に合わなかったのさ。」


 ソーリー、ミスター・プレジデント、とコヨーテは冗談めかして付け加えた。


 執務机に座るこの国の、果てはこの世界の王は、猛禽類を連想させる険しい、あらゆ

 る詭弁や言論を一瞥の元に叩き落すような、王者の眼光を放っていたのだった。







 報告書


 作成年月日200×年○月△日


 先日凄まじい破壊行動の対象となったイーストサイド・リドルロジクス社の研究施設

 跡地は、同社から危険物質の漏洩の危険性が指摘され為、現在に至って未だ封鎖状態。

 同社の想定する危険物質の半減期(作成日から2週間以内)を待って本格的な調査に

 移行する。

 現在はフラアビ王国解放軍と名乗るテロリスト集団からの犯行声明を受け、同集団が

 今回の破壊活動に大きく関わっているとして、調査中である。

 (中略)

 尚、当時現場に居合わせたジェフリー・マッコイ捜査官、及びピエトロ・ド・ブラド

 ー捜査官が国際テロリスト集団、アプラクサスの人造魔族と思われる個体との接触を

 報告。

 フラアビ王国解放軍とアプラクサスその関連性についても追って調査中である。






 エミリア・アンドーは白いシーツの敷かれたベッドの上に横たわっていた。

 任務の疲れの為だろうか。

 もう半日ほども、何もせずにごろごろと転がっているだけだ。


 結局リドルロジクス社は犯罪者として起訴されることはなかった。

 というより、テロリストの標的となった一方的な被害者として扱われた。

 思うところがなかったわけでは当然ないが、今度の事件が、エミリアの心に一応の決

 着を着けていた。

 彼女の首には美しい宝石が輝いている。


 彼女は時折シーツに顔を埋めると、既に存在しない温もりをなんとか探し出そうとす

 るかのように美しい顔をこすりつけ、やがて自嘲気味に笑う。

 彼女の枕元には手紙が置かれている。

 エミリア自身が書いた手紙である。

 恋というにはあまりにも淡い感情が、手紙にはつとと記されていた。




 あまりにも短い間だったけど、あなたに出会えたことを私は生涯忘れないと思います。




 伊達雪之丞は半月ぶりに、故国の土を踏みしめた。

 成田空港に降り立った彼はタクシーに乗り込むと、自らの戻るべき場所を、運転手に

 告げたのだった。




 強大な敵に対して物怖じすることなく立ち向かうあなたの魂の強さを。




 朝日が眩しいのか、雪之丞はサングラスを取り出し身に着ける。

 その横顔からは彼の表情を読み取ることはできない。




 守るべきものを命を懸けて守ろうとする、その博愛の心を。





 高速道路から眼下に見える街を見て、汚ねぇ街だと雪之丞は呟いた。

 しかしその声音には不思議な安らぎが漂っていた。




 あの日、突然泣き出した馬鹿な女みたいな私を、何も言わずに抱き締めてくれたことを。

 私は生涯忘れません。

 本当にありがとう。

 私の両親のことを自分のことのようにあなたが怒ってくれたとき、両親には悪いけど、

 なんだかほんの少しだけ嬉しかった。

 本当にありがとう。

 そして――――




 タクシーが彼の住むマンションの前に到着すると、雪之丞は馬鹿高い料金を支払って

 タクシーを降りた。

 朝日に向かってひとつ大きな伸びをすると、懐かしい家庭へと歩を進めたのだった。





 ――――さようなら。




 「今、帰ったぞ。」


 雪之丞が我が家の扉を潜ると、彼の美しい妻がテーブルに突っ伏したまま眠っていた。

 雪之丞が思わず苦笑する。

 自分を待ってくれていたのだろう。

 急いでタクシーで帰ってきた甲斐があるというものだ。

 雪之丞は後ろからかおるの体を抱きとめるように上体をかぶせ、その頬にそっと口付けした。

 らしくもない、と思いながら。


 「・・・・・ん、・・・・・・・雪之丞・・・・・・。」



 「よぉ。」


 背後に佇む愛しい夫の姿を認めてか、目覚めたかおるの目はどこか潤んでいる。

 その表情を見て、むくむくと起き上がってくる感情があった。

 朝?

 子供がいる?

 んなもん関係あるかいッ!!

 こっちは半月もご無沙汰なんじゃッ!!

 という横島張りの思考を甘いマスクの下に隠したまま、雪之丞はかおるに笑いかけた。


 「ただい・・・・ばッ!!!」


 その瞬間、かおるの全力の拳が雪之丞の顔面を精確に捉えた。

 見ればその右腕は水晶に覆われている。

 馬鹿に堅い拳だと思った、と雪之丞はなっとくしてから、やっと正常な思考に戻る。



 「な・・なんなんだ、手前ぇは、やぶからぼうに・・・・・・。」



 「エミリアさんて方、随分お綺麗な方なんですってね。」



 「・・・・・・・・へ?」



 何故かおるがエミリアの名を知っているのか、という疑問よりも、何故ここでエミリ

 アの名が出てくるのかという事の方が、雪之丞にとっては疑問であった。

 その腑抜けた表情がいけなかった。

 その表情が、かおるの疑念を確信へと変えたからである。


 「スタイルも良いし、胸も大きいとか。

 雪之丞の気持ちも分からんでもないとかなんとか、横島さんが言ってましたわ。

 あなた・・・・・・随分よくしていただいたみたいねぇ?

 なんでも、同じベッドで眠ったのだとか・・・・・・?」


 あぁ、そういうことかと雪之丞は理解した。

 不思議と彼の親友への怨嗟の気持ちは湧いてこなかった。

 本当の殺意というのは、感情を越えたところにあるんだな、と雪之丞は悟った。



 「・・・・・・・・・・・・・・恐らく無理だと思うが一応言っておく。

 かおる、それは誤解――――」


 「水晶観音ッ!!!!!!!!!」



 六本の腕に蛸殴りにされ薄れいく意識の中で、彼は部屋の隅で薄ら笑いを浮かべる愛

 息子の姿を見たような気がしたが、即刻記憶から排除した。

 彼の思考に残ったのは、だから次のような言葉だけであった。

 横島、ぜってーぶっ殺す。

 彼の意識が完全に途絶えても尚、かおるの攻撃は止まらなかったと言う。




 ノージェリアのとある田舎町。

 エミリア・アンドーは青い空を眺めながら思い人の顔を思い浮かべる。

 この空だけは、平等に世界を包んでいるのだと彼女は思った。



 追伸;

 正妻だとか愛人だとか、私って意外に気にしないほうです。

 それに口は堅いほうなんですよ。

 いつでもお待ちしてますから(キスマーク)




 エミリアが意を決して投函したエア・メールが日本の伊達家に届いた時起きた惨劇については、もはや語るべき筆を持たない。





 (了)




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