腕時計
投稿者名:天馬
投稿日時:(05/11/24)
―――――あなたにとって腕時計は、なんですか?
「私にとって、ですの?」
妙ににっこりとした笑顔で頷くのは、親友である氷室さん。その笑顔の裏に意味も、この時は碌に分からなかった。
まぁ、確かに。私がその問題の意味を知ってしまったら、こんな風に平然としてはいられなかったでしょうしね。
「私にとって腕時計とは…」
「弓さんにとって時計とは?」
「別にあっても困らないもの?」
あ、こけた。というか、すごく引きつり笑いをしてらっしゃいますこと。
「ほ、ほかにはないんですかー?!」
ほかに? ほかにっていわれても…。う〜ん…
「強いて言うのならば…無いと困るもの。そしてつけてると、安心感に包まれるもの。そして、いつまでも大事にしたいと思うもの、かしら?」
さっきのとは対照的に、なんだか怖いぐらいに爽やかに笑顔を向けますわね。いたいなんなのかしら?
たかが腕時計の存在意義についてだけでこんなに一喜一憂するなんて、氷室さんも横島という男に影響されすぎですことよ。
にしても気になりますわね。いったいなんなのかしら?
「氷室さん。この質問の意味はいったいなんなのかしら?」
「うふふ…。―――――実はですね……」
「はぁ? 腕時計?!」
「そう、腕時計。貴方にとって腕時計とはなんなのかしら?」
やっぱりこの男。訝しげな顔をしてる。それもそうよね。いったい何を考えて質問するのやら、ですから。
まぁ、私もそうでしたし。裏の意味を知らない事には、何も分かりませんから。
「時間を計るもの」
「具体的過ぎますわ。もっと抽象的に」
「う〜ん…久しぶりに会って、開口一番。いきなりそれかよ」
「いいじゃない?それとも、私が今クラスで流行ってるものでも言ってみます?」
「いや、それはそれでわけがわかんねぇからいやだ。」
胸の前で腕組みをして、憮然と答える彼。
時折見せるような子供らしい仕草は、私に、心からの可笑しさを与える。
そんな様子がいやなのか、ふん、と鼻を鳴らして今度はそっぽまでむく。
なおさらに、彼がかわいく見えるのが情けないというか、惚れた弱みというか。
「ちなみにこの質問は氷室さんからのですので、安心していいですわよ?」
「なら安心だ。ってことは、たぶんおキヌの奴、横島にも聞いたな…」
さすがは親友、というか、単に彼を話題に上らせたいのか。横島という名が、彼の口から浮かぶ。
そして実際に氷室さんは聞いてみたらしい。
彼の答えはというと、『いつか手に入れたいけど手が届かないもの。主に金銭的に、それと俺には似合わないだろうし(涙)』らしい。
なんというか、らしいといえばらしい。それでもって。
「ちなみに一文字さんの答えは『あると便利なもの』でしたわ」
あぁ、今思い出してもこのお答えは頭痛がするというか。
あぁ、頭が痛い。思わずこめかみに人差し指を当ててしまいますわ。
氷室さんですら、かーなーり苦笑いでしたからね。
「至極まっとうな答えじゃねぇか。 なんで頭痛そうにしてるんだよ」
「彼女の場合は『時間は分かるし、ケンカの時にパンチ力上げられるし』だそうですわ…」
「言うねぇ、あのねーちゃん。でも俺としてはやっぱ素手でガチが…」
あぁ、もう余計に痛くなってきた。
じゃなくて! いったい彼にとって腕時計とは何なのですのよ!
「………」
「あ、悪ぃ悪ぃ。腕時計だっけか? う〜ん…特に必要ないものだな。」
「そう、ですか…。」
別に悲しくも悔しくもありませんのよ? ただ、彼の答えにちょっと落胆したというか。
その程度の存在でしかないのか、と言うか。
だめですわ。なんだか本当に、悲しくなってきたというか情けなくなってきたというか…。
良いですわよ、どうせこんなの嘘っぱちですわ。そうに決まってます!
…………じゃないと、あまりにも私、悲しいもの。
「でもよ。あると便利だしさ。何より、妙にしっくりくるんだよな。
そんでさ、すごく馴染むっていうか。なんだか、必要になってくる」
「エ?」
彼の表情を伺うに、嘘を言っている感じではない。
「特に必要ではないもの」。そう言い切られて。少しばかり冷えた心が、急速に熱を帯びてく。
んもう、やだ。顔が熱いですわ。
妙に挙動不審な私に、隣にいる彼が声をかけてきた。こんなタイミングで声をかけるなんて…。
「おい、どうした? なんだか変だぞ。」
「な、なんでもありませんわ!
そ、それよりも! たまにしか会えないんですもの、今日は何をしてもらうか楽しみですわ!」
「はぁ!? ふざけんな! いったいなんでそんなこと…!!」
「なんですって?!」
「「…!!!―――――??!!」」
―――――腕時計っていうのは、その人にとっての、もっとも身近で大切な人の象徴。だから、腕時計に対する感情は、大切な人に対する感情ってわけなんですよ弓さん。
うふふ…やっぱり雪之丞さんって、弓さんにとってそういう人なんですね♪
おしまい
今までの
コメント:
- かーなーり、ご無沙汰です。ご存知の方ご無沙汰です。ご存じない方始めまして。駄馬の天馬です。今回、やっとこさ時間ができたので、ひとつ、弓×雪もので投稿してみました。やっぱり好きですこの二人(^^) (天馬)
- 女学生がやりそうな占いですねえ(^^
終始にやにやしながら読んでおりました。 (とおり)
- う〜ん、甘かゆいといいますかw
彼女達らしい乙女心ですねぇ。
なんだかんだいいながら、2人の針も上手く回っているようで。
実はこういう関係が一番長続きするのかも知れませんね。
ユッキーと弓嬢に幸せのあらん事を(笑) (ちくわぶ)
- メインが雪&弓なのは承知の上で、敢えて横島君の回答に着目してみますと。
「(金銭的に)手が届かない」「俺には似合わない」て、なーんとなく、美神令子を彷佛とさせるのですが。それでもおキヌちゃんがご機嫌ということは…うーん? (disraff)
- 甘甘ですね(笑)
この二人なら、こうやって不器用に(無神経に?)甘くやっていくんだろうなぁと思いました (美尾)
- おもしろかったです。
腕時計にそんな意味があったとは(驚)今度僕もやってみようと思います。 (がま口)
- 弓さんと雪之丞、実に微笑ましい遣り取りでしたw (偽バルタン)
- はじめまして。
ゆっきーを『可愛い』とか言ってる弓さん自身も初々しくて、可愛らしいカップル模様が素敵です。
それにしてもおキヌちゃん。何を聞いて回ってるんでしょーね(笑)。 (APE_X)
- 久しぶりのSSにコメントありがとうございます(^^)
◇とおりさんへ
終始ニヤニヤしながら読めたとはありがたい話です。基本的に俺のSSはやたらと重いものが多いので、こういう風な軽いノリで軽く読めるようなものにそのような評価をいただけることはありがたいことです。ありがとうございました。
◇ちくわぶさんへ
喧嘩しながら。罵りながら。だけど相手をよくわかってる。却ってそういう関係が長続きしやすいのかもしれませんね。喧嘩するほど仲がいい、とも言いますしね。彼らの時計は確かに巧く回っているでしょうね
◇disraffさんへ
確かに俺自身は美神令子を意識して書いてみましたが、よく考えると女性とは得てして高嶺の存在ですしね。忠夫の回答は在る意味どうのようにでも取れる回答なのかもしれませんしね。苦言、感謝いたします。俺の描写不足でした。 (天馬)
- ◇美尾さんへ
甘いですね(きっぱり)。在る意味素で惚気ている(もしくは相手の事を言っている)わけですから(笑)。雪之丞が結果を知ったらきっとさらに不器用に無神経に甘くなっていくでしょうね(爆笑)
◇がま口さんへ
初めて聞いた時は俺も驚愕しました。ちなみに俺の回答は「無いと落ち着かない、困るもの。そしていつまでもつけていたくて大切にしたくて。しっくりくる物。」でした…。周りの視線がやたらと暖かくて痛かったです(涙)
◇偽バルタンさんへ
微笑ましいですね(笑)。微笑ましすぎて憎しみで人が殺せたらとも思います(笑)
◇APE_Xさんへ
初めましてじゃないんですねぇ(笑)。まぁ、恋愛下手の二人が可愛く見えるのは、現実でもそうですしね。さておキヌちゃん、なに本当にとんでもないことを聞きまわっているのでしょうね(爆笑) (天馬)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa