ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment.〜 第10話


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/11/22)

「なに?ICPOが?」

知らせを受けた南雲は、早足で廊下を取調室へと向かっていた。

「私はそんな知らせは受けていないぞ!!・・・・若僧が、階級が上だと思っていい気になりやがって・・・」

苦虫を噛み潰しながら南雲は、部下を従えて歩いた。

「明日になれば・・・我々の・・・」

「我々のなんだって?」

南雲の足がピタリと止まった。
撃鉄を上げる音が耳に響いた。
南雲は油汗をたらし、音のした方に目を動かした。
銀色に鈍く輝く銃口が、コメカミに押し付けられる。

「テメーには聞きてぇ事が山ほどあるんだよ・・・その後でじっくりお仕置きしてやる。」

南雲の右腕の関節を後ろに固め、懐を探り銃を奪った。

「おい・・・下がれ。」

ベレッタ92FBを構えて、西条がそういった。

「西条、貴様正気か?」

南雲は顔を歪ませて、目線だけを西条に向ける。

「正気に戻ったんだよ・・・そうでもなければ、こういう事はできないよ。」

銃を振るい、南雲の部下を下がらせた。
横島は南雲の手錠を奪い、後ろ手に南雲を拘束する。

「えらく要領がいいな。」

「師匠譲りってことだよ。」

横島があまりにあっさりと答えると、西条は苦笑した。






2ドアの車の後部座席に南雲を押し込むと、西条は車を走らせた。
後から、赤灯の波が押し寄せてくる。
横島はパイソンのシリンダーを開け、弾丸を入れ替えた。

「横島君、殺すなよ。」

「言われなくても判ってる。」

窓の外に銃口を出すと、シリンダーが光だす。
オレンジの光が赤い波の中に消えていくと、激突音が響き赤い波がその数を減らした。

「便利なものだな・・・」

「連発できないのがネックだけどな。」

そういって再びオレンジ色の光を放つと、赤い波は遠ざかった。
横島はシートに座り直し、パイソンを仕舞った。

「後ろ・・・えらく大人しいな・・・」

「覚悟を決めている顔には、見えないようだが・・・」

西条はバックミラーに写る南雲の表情を見ると、そういった。

「隠し玉があるって事だな。」

「そのようだ。」

アップライトに照らされたあるモノを確認すると、西条は車をゆっくりと停めた。

「西条・・・銃貸してくれ。」

西条はベレッタを横島に渡しと、タバコを咥えた。

「俺にもくれ。」

横島にそういわれて、タバコを差し出し火のついたタバコを横島の方に向けた。
西条からの貰い火で火をつけると、パイソンからブローニングに持ち代える。

「寸前で右にサイドターンできるか?」

「誰に言ってるか、判ってるのか?」

横島は言葉の代わりに、苦笑で答える。

「さて・・・いきますか・・・」

「いつでもどうぞ。」

西条はギアに手をかけ、横島は銃のセーフティを外した。
アクセルを開けクラッチを繋ぐと、車はリアタイヤから白煙を上げ加速する。
目標との差が見る見る間に詰まっていく。
横島は両手の銃を軽く振るい、西条はギアを換えるとサイドブレーキに手をかけた。
目標との差、20m。
西条はクラッチを蹴り、サイドブレーキを引いた。
ハンドルを右に切ると同時に、スキール音が響く。
横Gが伝わると横島は、上半身を窓の外へ出すと両手の銃のトリガーを絞った。
両手撃ちから放たれた弾丸は、少なくとも目標に5発は当たった。
横島はタバコを窓の外に吐き捨てると、顔を歪めた。

「クソ・・・・ダメかよ・・・・」

「バカな!僕のベレッタはともかく、君のは精霊石弾なんだぞ?」

「だが効いちゃいねぇ・・・じぃさんが言ってた“例外”って奴だ。」

横島の額に、じっとりと嫌な汗が滲んでいた。。
特殊スーツの男は、顔を被っていた両腕をどける。
見えないはずの両目が光ったように見えた。

「飛ばせっ!!!」

横島は叫ぶと同時に、両手の銃を特殊スーツの男に向けると残弾をすべて撃ち込んだ。
上半身を車の中に入れると、空になったマガジンを引き抜きスペアマグを差込みスライドストッパーを外した。

「どっちにしろ、コイツがいる限りムチャは出来ねぇはずだ・・・」

横島は後ろを振り返り、南雲の方を覗き見る。
横島の視線に気付き、南雲は失笑した。

「俺は駒だぞ。悲しき中間管理職だ・・・政府がそんなに甘いと思うか?」

南雲が車に乗って始めて口を開いた。

「政府がじゃねぇだろ?一部政府関係者をすべての代表と思うなよ。すでに天下でも取ったつもりか?」

目線はサイドミラーに映る特殊スーツに向けたまま、横島が呟く。

「彼の言う事が当たっているようだよ・・・・」

西条がポツリと呟くと、横島は視線を正面に向けた。
爆音を伴い灰色の街に迷彩色の毒ヘビが姿を現した。
陸上自衛隊AH-1Sヒューイコブラである。

「まじかよ・・・・」

いくら特殊弾頭を使っているとはいえ、拳銃弾で対戦車ヘリを相手にする事など無謀以外の何物でもない。
それに今の横島は霊力の回復は成されていない。
絶望的な状況に横島は眉を顰め、西条は息を飲んだ。
20mm機関砲がゆっくりと、こちらに銃身を向ける。

「路地だ!西条!!路地に向けろ!!」

「言われなくとも!」

西条は右にハンドルを切った。

「バカ!そっちじゃねぇ!!」

「どっちに逃げても同じだろうが!」

「右は・・・・・・・罠だ。」

横島がそう呟く。
車の前方には、特殊スーツの男が待ち構えていた。

「ほらな・・・・」

横島はそういって天を仰ぎ、息をついた。

「なぜ罠だと判った?」

西条はステアリングを軽く握り返すと、ギアをバックに入れた。

「追い込まれると、人間は右へ右へと逃げる習性があるんだよ。そうやって賞金首何度も追い詰めたからなぁ。」

上半身を車外に出すと、両手の銃を特殊スーツの男に向けた。

「コブラの腹の下にいけるか?」

「またムチャな注文だな。」

後ろを振り返り、ギアを繋いだ。
リアタイヤから白煙を上げ、元来た道へと戻りだす。
横島は特殊スーツに向け、弾丸を浴びせかける。
先程とは違い、特殊スーツはこちらに向かい走り出している。
銀の弾丸と精霊石弾がスーツに弾かれ火花を散らせ、コンクリートの壁やアスファルトに大穴を空けていく。
西条は、特殊スーツとこちらとの距離を測りながら後退していく。
あまり離れすぎると、コブラからの機銃掃射のエジキとなってしまうのだ。
特殊スーツの男が右手を向けた。

「ヤバイ!霊波砲だ!!!避けろ!!!」

横島が叫ぶ間を与えずに、男が放った霊波砲はフロントにマウントしてあるエンジンを貫いた。
リアタイアがロックし、車は挙動を失いスピンモードに突入する。
西条はあえてクラッチを切らずに、そのまま車を回転させコブラの真下に停めた。
横島は窓からアスファルトに飛び出し寝転がるとコブラの腹の下に銃を向け、スライドが下がるまでトリガーを絞り続けた。
右手のブローニングを口に咥えホルスターのパイソンを抜くと、同じ位置を狙う。
銃身が発光し、357マグナムから発射された弾丸はコブラの内部へと吸い込まれた。

「逃げろ!」

西条が南雲を引きずり出し、車から離れる。
コブラはその向きを変え、同時に20mm機関砲もこちらへと向きを変えた。
横島と西条は南雲の脇を抱え、コブラの存在を無視するかのように一心に走った。
コブラの下には、コブラの機関砲と同じように特殊スーツの男が霊波砲をこちらに向けていた。
コブラの腹に閃光が走る。
爆発音が起きると、コブラは火に包まれアスファルトにその巨体を横たわらせる。

「やったか?」

西条は走るのをやめ、後ろを振り返った。
赤い紅蓮の炎に包まれる14mもの毒蛇。
その炎は、黒い闇に包まれた灰色の街さえも赤く染めている。
炎の中から、その存在を示すかのような金色の光が放たれる。
その金色の光は、紅蓮の炎でさえも消す事はできない程に自己を存在していた。
光が西条を貫いていく。
その光の速さに、誰もが反応できなかった。
西条は光が貫いた場所に目を向けた。
自慢の英国製スーツに穴を開け、焦げた臭いと僅かな煙を放っている。
痛みはない。
出血もない。
だが、それは確実に貫通していた。

「西条!」

横島の叫び声が聞こえた。
とたんに掻き毟るような熱さが、腹に走る。
今まで斬られた事や撃たれた事は経験している。
しかし、この熱さは今までの経験にはなかった。
下半身から力が抜けると、西条は膝をついた。
あまりの熱さに呼吸を止めて耐えると、大きく荒い息をつく。
横島が南雲をアスファルトに転がすと、西条の横にかけつける。

「な、なんだ??今のは?」

「霊波砲を科学処理するとあぁいう風になるって事だな・・・立てるか?」

西条に肩を貸し、立たせるとゆっくりとした歩調で歩き出す。

「おかげで向こうの実力がわかったよ。人体実験までかってでてくれてありがとよ。」

「ぬかせ・・・・」

腹に手を当て、西条はおぼつかない足で歩き出す。

「南雲はいいのか?」

「知るか!」

西条が後ろを振り返ると、南雲は手錠を後ろ手に嵌めたまま無様に立ち上がり路地裏へと消えていった。

「・・・・・・・フフ・・・・・・・君にこうして肩を借りる日が来るとはな・・・」

焦げついた服からじわりと血が滲み出してくる。
傷口を押さえる手の隙間から流れ出る血は、自慢のスーツとコートを赤く染めていく。

「くそ・・・奴等め、この服は王室御用達なんだ。台無しにしやがって・・・・」

「仕返しは後でいくらでもできるだろうが。死んじまったら仕返しもできねぇぞ!」

足音が近づいてくる。
二人の足音とは違う音だ。
振り向かなくとも、それが特殊スーツの足音だという事は判りきっていた。
殺意などではない、冷静に“仕事”を遂行するプロの目が二人に向けられている。
西条をこのまま動かせば間違いなく死ぬ・・・・
横島は西条をアスファルトに座らせると、ベレッタを西条に渡した。

「待ちたまえ・・・食い止めるのは僕が・・・」

「怪我人は黙ってろ。」

パイソンの撃鉄を上げ横島は、目を閉じ精神を集中させると大きく息をついた。
再び目が開かれ、特殊スーツの男に向け走り出そうとした。
その瞬間周りが閃光に包まれる。
あまりの眩しさに、横島は顔を背けた。

「このバカタレ!!!あんた一人で死ぬ気なの!!!」

聞き覚え、いやこういう時に最も聞きたかった人の声であった。
令子がカオスフライヤーに乗り、横島の前に立ちはだかった。

「早く西条さんを乗せて!撤退するわよ。」

令子に言われるままに西条をカオスフライヤーに乗せ、横島もそれに跨った。
閃光の度合いが弱まると、令子は精霊石のイアリングを外した。

「精霊石フラッシュ!!」

精霊石を特殊スーツの男に投げつける。
再び精霊石が閃光を放ち、その間にカオスフライヤーは飛び立っていく。
センサーがオーバーヒートしたのか、特殊スーツからの反撃はなかった。




「精霊石2個か・・・高くついたわね。ママに請求しなくちゃ・・・」

令子がぶつぶつと呟いている。

「美神さん・・・」

令子の背中に向かい横島が言葉をかけた。

「なに?」

「ありがとうございます・・・助かりました。」

「な、なにいってんのよ!雇用者が頼りない丁稚を助けるのは当然の義務よ!優しい雇用者に感謝しなさい!」

横柄な態度をとる令子だが、風に靡く亜麻色の髪から僅かに見えたその肌は赤くなっていた。

「よ、横島君。」

「はい。」

「シロは無事よ。今は妙神山にいるわ。」

令子の以外な言葉に横島は呆然とした。

「西条さんが、ICPO権限で移送させたのよ。人狼の処置なんて人間にはできないからって適当な理由をつけてね。」

横島は思わず西条の方に目を移した。
西条はその言葉を聞いていたのか、口元を緩ませている。

「どうだ・・・壁は越えているだろ?」

横島は西条ノポケットからタバコを取り出し、手で被い火をつけると天に向けて紫煙を吐き出した。
紫煙は天に登らずに、風に消えていった。
そして西条の口に火のついたタバコを運んだ。
西条は目を閉じると、紫煙をゆっくりと味わった。

「あぁ・・・十分に越えたようだな・・・」

横島の言葉は、西条の吐き出した紫煙に飲み込まれるように風に消えていった。







                           



                              SEE YOU GHOST SWEEPER.......




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次回予告


横島       「男には常にワケがある。無理だと判っていてもやらなきゃいけない事がある。
           意地でもあるし、誇りでもある・・・たまには気まぐれって場合でもある。
           生きる自由があれば、死ぬ自由もある。せめて死に際ぐらいは自分で決めるというのが
           男の生きた証かもしれない。
           なぜ、俺は今ここにいる?なぜ俺は生きている?そのワケを知っているのは俺だけだ。
           次回第11話『男と女の挽歌』・・・・・たまには理由を考えるのもいいもんだ。」













令子       「シバキ過ぎちゃったかしら・・・」

雪之丞      「拾い食いしたんだろ。」

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