ザ・グレート・展開予測ショー

犬神さんの家庭の事情!(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:かいる
投稿日時:(05/11/22)





*このSSには絶対可憐チルドレン「美しき獲物たち」のネタバレが含まれています。
         コミックス派の方は注意してください。














わたしの名前は犬神初音。
今回、試験に見事合格して特務エスパーとなった
チーム・ハウンドのフォワードをやっている。

チームの名前が表すように、私の家は代々、獣化の能力を伝えてきた家系だ。
変身できる動物は犬がメインだけど、イメージのしかたによっては他の動物にもなれる。
状況によって使い分けられるように現在訓練中だ。
近接戦闘に限って言うならば、他のどんな特務エスパーにも引けを取らない自信がある。

そんな強力なチカラだが、何の代償もなく行使できるわけじゃない。
わたしが抱えているチカラの短所・・・それは。






「ねーねー、あーきーらー。・・・おかわり!」





この能力はすこぶる燃費が悪いのだった。









        犬神さんの家庭の事情!(絶対可憐チルドレン)














昔のヒトはうまいことを言ったものね。歌にもあった気がするわ。



    居候
    ああ居候
    居候
        
    三杯目には 
    そっと出すのよ

          詠み人しらず 




居候という肩身の狭い存在が三杯もご飯を食べられるんだから、
相棒たるわたしがその五倍ほども食べられるのは自明の理。
遠慮なんてする方が明に対して失礼というものね。





「なあ、初音。・・・これが何かわかるか?」

「・・・・・・オケ?」

「おひつと言え!おひつと!・・・・・・で、何かこの中に見えるか?」

「見えないわ。からっぽね。」

「そう、からっぽだ。」



「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」





「おかわりは?」

「だから『ない』と言ってるんだ!察しろ!」


うーん、それは困った。まだこちらのお腹はようやく五分目といったところ。
このままでは明日の任務に響いてしまう。
こちらの心情を見て取ったのか、コック帽を握りつぶし、苦虫を噛み潰したようなカオで明が続けた。


「ウチにある米、あらかた食い尽くしておいてお前は・・・少しはエンリョしろ!」

「細かいこと言わないでよ。任務が終わったばっかでお腹がすいてるの。
今回の任務は長丁場だったし、疲れた相棒のケアは任務の内でしょ?」

「そんなもん任務の内に含まれたらそれこそ破産するわっ!!」

「それに適切な運動と適度な食事は美容にもいいのよ?レディのたしなみね。
美人で有能な相棒を持つための投資だと思って我慢するのね。」

「一食で一升たいらげるレディがどこにいるんだよ!!どこに!!!」




む。わたしがレディじゃないとでも言いたいのか。失礼な奴。
ま、確かに普通の女性よりはほんのちょっと食欲旺盛なのは認めるけど。

ともかく、任務に障ってはまずい。とりあえず粘ってみることにしよう。

ごはんー!ごはんー!
・・・むー。聞いてないフリなんかして。いいわよ。動き出すまで騒いでやるから。

最近なぜだか知らないけれど、無性にお腹がすく。
これまでも燃費は悪い方だったけれど、これほどまでではなかった。
特務エスパーの仕事のせいだろうか。覚悟はしていたものの、やはりこれまでの任務とは
一線を画している難度の高さだった。当然チカラを使う契機も増え、消耗が激しい。

充分なバックアップがあるから暴走こそ免れているが、
それでも可能な限りコンディションは優良に保たねばならない。



十分後。ようやく明が重い腰を上げた。
スカーフを締め直し、コック帽を被る。
ちょっとだけこっちを恨みがましい目で一瞥したけど、気にしないことにしよう。
食べ物の恨みは恐ろしいんだから。・・・・・・だいぶ意味が違う気もするわね。


たっぷりの水を火に掛けて、沸くまでの間にソースの材料を切り始める。
コトコト水が煮える音。リズムよく響く明の包丁。
聞き慣れた、ひどく安心する音楽を楽しみながら、見慣れた後ろ姿を眺める。


戦闘ではわたしがフォワードだから、明の背中を見ることは滅多にない。
明が前線に出て行くときは、それはすでに戦闘らしい戦闘が終わったときだからだ。
でも、エプロンをしてスカーフを締め、自前のコック帽を被った後ろ姿は、
それこそちっちゃい頃から見飽きるほど見てきた。・・・・・・実際に見飽きる事なんて無いのだけれど。


怒りっぽい明だけど、本当はとても優しいことをわたしは知っている。
わたしのお願いに、困ってみせたり怒ってみせたりするけれど。
最後にはいつもの「しょうがないな」って顔で笑ってくれる。




――――――そう、あのときも、そうだった。



ささいなことでケンカして、顔を合わせるのが気まずくて。
自分の家の部屋でひとりでカップラーメンをすすってた。
明の家で食材が尽きたとき、度々お世話になってたラーメン。
おんなじメーカーの、おんなじラーメンのはずなのに、
ひとりで食べるそれはぜんぜんおいしくなかった。

さびしくて、わびしくて。
本当に涙が出そうになったとき。

こつんと、部屋の窓に何かがぶつかった。
家の前にいたのは、一番会いたかったヒト。けどどんな顔をすればいいかわからなかった。

いつまでたってもおりてこないわたしにしびれを切らせたのか、
ずかずか上がってきて、わたしの手をがしっとつかむ明。
そのままずんずん明の家へ。

家に着くまでふたりともが無言で。
そして無言のまま明はエプロンを締めて料理をはじめた。


できあがった料理は、あったかいポトフ。


よく煮込まれた、にんじん・じゃがいも・タマネギ・キャベツ。
コンソメの味がよく染み込んでた。切れ目が入ったおっきなソーセージは、
噛むとじわっと肉汁がでて。チーズと一緒にじゃがいもを食べて、スープを飲むと、
それまで感じてた寒さが、どこかにとんでいった。

はふはふ言いながらそれを食べ終えたわたしは、
食べ終わってから明とケンカしてたことに気付いて。
明はそんなわたしがポトフをがっつく様を、笑いをこらえるようにして眺めてた。
そして照れながらこう呟いたのだ。


――――お前がいないと、食材が余ってしょうがないんだよ。
     お前の食う分にあわせた買い物が習慣になっちまった。
      商店街の奴らもオレがひとりぶんの食材しかかわねーと、こぞって事情を聞きやがる。
       だから、なんだ、その・・・食いモンで釣るわけじゃねーが・・・機嫌・・・なおせよな。





その言い方が、おかしくて。
―――――――不覚にも吹き出してしまった。

それが原因でまたケンカ。今度はわたしの方から折れてやったんだけど。
でもね。ホントはあの時。泣きそうなくらい嬉しかった。
その笑顔に、わたしの居場所を感じることができたから。

ただひとりの相棒。

わたしの巣。

わたしの群れ。帰る場所。


こんなロマンチックなことを言うのは、はばかられるのだが。
私にとっての何よりのご馳走は、明のその笑顔なのだろう。
・・・・・・口に出したわけでもないのに、やっぱりこういうのは照れる。


――――――――きゅう。


現実は非情だ。明の笑顔だけじゃわたしのお腹はおさまってくれないらしい。
まったく、美しい思い出に浸るくらい、いいじゃない。
仕方なく明に催促する。ちょうどできた頃のようだ。








「ねー、あきらー、まだー?」

「オラ!できあがりだ!味わってゆっくり食えよ・・・って聞けよ!」



パスタはできたてがいちばんおいしい。黙っていれば伸びるだけだ。
一秒たりとも無駄にはできない。
一心不乱にかきこんでいると、ふと明の視線を感じた。


「・・・・・・・・・・・・・・・なに?こっちをじっとみて。なんかついてる?」

「ああ。ついてるぞ。ソースやら米粒やらいっぱい。」


そう、と澄ました顔を決め込んでみる。
やれやれ、と言わんばかりにスカーフをはずす明。・・・期待してたのはナイショだ。



あれからもうすぐ5年ほどが経つ。
変わらないわたしたちの関係。すこしずつ変わるわたしたちの関係。
これからも変わっていくだろうけど、あのポトフの味、今の情景、
こんなことがあったという事実は、少しも色あせることがない。


5年後のわたしと明はどうなっているだろうか。
予知者でもないわたしにはそれはわからないけれども。
スカーフで口を拭いてもらいながら、口の中でそっと呟いた。





「――――――・・・・・・私を手懐けた責任、取ってもらうからね。」




「?・・・・・・なんか言ったか?」

「なんでもないわ。」







(了)

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