ザ・グレート・展開予測ショー

The show must go on(5)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/11/20)

みしり、という音がした。


強烈な霊気がドームを包んでいる。

暗黒をそのまま形にしたような黒で塗り固められた男が、つかつかと散歩でもするように

歩いている。

暗黒の鎧と見えるものは彼の皮膚が硬質化したものなのだろうか。

所々に幾何学的な模様や何らかの文字のようなものが描かれている。

そこだけ闇から逃れたような、右腕を覆う銀色の義手が照明を受けて眩しく光っている。

その顔を覆う仮面、あるいは彼の顔そのものは、憤怒の表情を浮かべる鬼神のようにも見

えたし、アルカイックな微笑を浮かべる菩薩のようにも見えた。


その時、彼に向かって高出力の霊波砲が照射される。


「クラウ・ソラス。」


彼が呟くとその銀色の義手から輝く光の剣が発生し、向かい来る凶暴な光の帯をいとも簡

単に両断する。

大海を割り進んだモーゼのように、ゆるゆると歩を進めるコヨーテ。

彼に対峙する伊達雪之丞は、至る所が細かなひび割れを起こした魔装を纏い、肩で息をし

ていたのだった。


「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


雪之丞がコヨーテに向かって突進する。

鍛えこまれた筋力から放たれる強靭な拳がコヨーテの腹部にヒットする

・・・・・がしかし、コヨーテは何食わぬ顔でその拳を見つめるだけ。

彼のボディには傷一つなく、代わりに雪之丞の拳にひびが入っている。

振り下ろされる光の剣を寸でのところでかわす雪之丞のボディに、黒い拳の一撃がめり込む。


「ぐはッ・・・・。」


腹部を抱え、その場に膝を突く雪之丞。

コヨーテは銀の腕を高々と掲げる。



みしり、という音がした。





「っく。雪之丞ッ!!」


慌てて飛び出そうとする面々に対し、しかしオールバックの男がその場に座ったまま待っ

たをかける。


「待て、ピート、タイガー。お前らこんなとこで割り込んだらあの馬鹿に殺されるぞ。」


「言ってる場合ですかッ。認めたくはありませんが、あの男の実力は雪之丞より上です。」


ふーん、と気のない返事をする横島は立ち上がろうともしない。

そんな横島にエミリアが詰め寄り、その頬を平手で叩いた。


「なにが、ふーんですかッ!

仲間が今にも殺されそうな時にッ!!

何でそんな悠長なことが言ってられるんですかッ!」


横島の顔を上から覗き込むように、真正面から見据えるエミリア。

横島は驚いたような顔で数瞬その顔を見つめた後、彼女の唇にそっと顔を近づける。

と、横手からピートの手が横島の頭をはたいた。


「何してるんですか、あなたはッ!!!」


「いや、あんまり綺麗な唇だったものだからつい・・・・・。」


「ついじゃないわよッ!!ふざけないでッ!!雪之丞さんが死んじゃう・・・・・。」


激高する二人に向かって困りきった顔をした横島は、スと立ち上がる。

そして頭の後ろをぼりぼりと掻きながら、面倒そうに呟いた。


「今のアイツに近づくんじゃないと言ってるんだ。聞こえんのか?この音が。」


二人は何事かと耳を澄ます。

会話に入っていけてないタイガーも慌てて耳を澄ます。






みしり、という音がした。







「魔装術ってのは・・・・・・・・。」


光の剣を振り下ろそうとするコヨーテに向かって、膝を突く雪之丞が何事かを呟く。

死の間際で気でも触れたのだろうか。

コヨーテを見据える目には、しかし一片の狂気も諦めの色も浮かんではいない。

初めからずっと、雪之丞の目には確信めいた勝利の色しか浮かんではいない。


コヨーテは雪之丞の逆転の可能性について考えを巡らせる。

しかし逆転も何も、対衝撃構造(ショック・アブ・ソーバー)を備えるコヨーテの炭素ク

ラフトのボディに雪之丞は傷一つつけられないのだし、彼の自慢の魔装術も瓦解寸前である。

攻守どちらの面から考えても、雪之丞の勝機はありえない。

であるのに。

雪之丞は尚勝利を確信しながら、言葉の続きを紡ぎだすのだった。


「魔装術ってのは霊体に霊圧を掛け物質化する技術のことだ。

霊体の組成は霊基と霊気だ。

霊体に霊圧を加えると方向性を持つ霊波となり、更に霊圧をかけると魔装術のような亜物

質になる。

魔装術には段階がある。

俺が初めて身につけた魔装術がいわば魔装術LV.1。

霊圧のかけ方が不十分でまだ不安定な魔装術だな。

ともすると自身の魂と魔装が混ざって暴走を引き起こしちまう。

そして、妙神山で猿神から身に着けた今のこれが魔装術LV.2。」


それは洗練された美しいフォルムを持つ、近代戦闘機のような赤い鎧である。

残念ながら今はひび割れに覆われているが。

それにしても今は彼の魔装の説明をしているような場合であろうか。

考えた結果、コヨーテは単なる時間稼ぎだと判断した。


「悪いが、君の体力の快復に付き合うつもりはないよ。

この場で君の首を切り落とし、君の友人たちにも死んでもらう。」


コヨーテが無造作に光の剣を振り下ろした。

その一撃が雪之丞の首筋を正確に捉える。

そしてヒビだらけの彼の全身の魔装が粉々に砕け散ったのだった。


しかし、雪之丞の首は胴から離れてはいなかった。

代わりに銀の腕から伸びる神剣クラウ・ソラスの長さが半分ほどに縮んでいた。


「クラウ・ソラス(不敗の剣)が・・・・・折れるなど・・・・・。」


驚愕の声を押し殺すように発するコヨーテ。

そして雪之丞は解説の最期を締めくくる。


「そしてこれが、魔装術LV.3。」


霊気とも霊波とも霊体とも違う、紫色に輝く光の鎧を雪之丞は纏っていたのだった。






「アレは・・・・・・・何なんだ・・・・・・・?」


輝きとあまりの霊圧に目を細めるピートは我知らず呟く。


「見ての通り、霊体のプラズマだ。」


横島はイタズラが成功した子供のように、笑いを含んだ顔でその問いに答える。


「ぷ、ぷらずま・・・・・?」





物理学で言うところのプラズマは、正の電荷をもつ粒子(イオン)と負の電荷をもつ電子

が電離状態で同程度存在し、全体としてほぼ中性である気体状の粒子集団のことである。

温度が上昇すると、物質は固体から液体に、液体から気体にと状態が変化する。

気体の温度が上昇すると気体の分子は解離して原子になり、さらに温度が上昇すると原子

核のまわりを回っていた電子が原子から離れて、正イオンと電子に分かれる。
この現象を電離とよぶ。

そして電離によって生じた荷電粒子を含む気体をプラズマとよぶ。

1928年にアーヴィング・ラングミュアによって命名され、固体、液体、気体に続く、物質

の第4形態といわれている。

身近な例としては、点灯している蛍光灯の内部も水銀ガスがプラズマになったものである。

核融合、プラズマディスプレイ、溶接等その応用分野は広い。

自然界には,地球のエネルギーの源である太陽、それから吹き出す太陽風、地球を取り巻

く電離層、極地の空を彩るオーロラ、真夏の積乱雲から走る稲妻等 、様々な形のプラズマ

が存在している。

現代物理学では、宇宙を構成する物質の99%以上がプラズマであるといわれている。

また、プラズマとは「神により創られたもの」と言う意のラテン語である。






「霊体に過大な負荷が掛けられると霊基から霊子が幽離する。

魂の外側に存在する霊磁領域であるエーテル体の内部で霊気と霊子が並存する状態を保つ

と、理論上、今の雪之丞のようにプラズマの鎧を纏うことになる。

副産的にかなりの高温を発するそれ自体が形を持ったレーザーみたいなもんだ。

超超超高霊圧で霊基が形を失うまで霊体を押し込んだようなもんだから、その硬度は普通

の魔装術の比じゃない。

雪之丞は霊磁的にあのプラズマ状の霊体を身に纏い安定させているわけだ。

今のアイツに触れただけで、お前らなんぞ跡形もなく消し飛んじまうぞ。」


蒼い顔をした一同に向かって、横島はにんまりと人の悪い笑みを浮かべ、だから殺される

って言っただろ、と呟いたのだった。





「ぜ、全身に現れていた無数のひび割れは僕の攻撃を受けた為ではなく・・・・・。」



「俺自身が魔装に掛けていた莫大な霊圧による負荷の現われって奴だな。

この技はタメと時間が掛かる上、霊力と集中力の消耗が激しい。

悪いがダチと約束しちまってな。

あと3分しかねぇ。」


終わらせるぞ、そう言った瞬間にはコヨーテの目の前から雪之丞の姿は掻き消えていた。


「っぐぉッ・・・・。」


コヨーテの腹部に雪之丞の拳が炸裂する。

そう、それは炸裂としか表現の仕様がなかった。

雪之丞の拳がコヨーテの黒い身体に接した瞬間、目が眩むほどのエネルギーが反応し、

コヨーテの肉体を爆圧が弾き飛ばす。


背後の壁面に叩きつけられたコヨーテの腹部は拳大にへこみ、傷口は高温で溶解している。

白い煙が傷口から天井に向けて伸びていた。


そのコヨーテに向かって幾筋かの光線が直進する。

とっさに右腕で頭部を庇うコヨーテ。

光線は銀色の右腕に弾かれたものを除き、すべてがコヨーテの肉体に穴を穿った。


「プラズマ・レイ。『銀の腕』はやっぱり無理か。自信なくすぜ。」


その言葉とは裏腹に、雪之丞の言葉は自信に満ち溢れていたのだった。





日本。

とあるカフェテラス。

タイガー魔理というほとんど女子レスラーのような名前をした現役GSが幼児を抱きかか

えてカフェテラスに現れた時、彼女の旧友である伊達かおりが己が息子の肩を揺すり何事

かを問い質している。


「何してんだ弓、スパルタはほどほどにしとけよ・・・?」


その言葉も耳に入らないのか、かおりは一心に息子に声を掛けている。


「???どうしたんだ?」


「雪之丞さんに危険が迫っているのを正太郎君が感じたらしいの。

でもその後正太郎君が急に黙っちゃって・・・・。」


「雪之丞さんが・・・・・・・・・・・・!?

まぁ、安心しろよ、弓。

確かあたしの旦那が雪之丞さんの加勢に行ってるはずだよ。

あぁ見えて頼りになる男なんだ。

メッタなことはないって。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ、弓。

何であたしは今お前の息子に鼻で笑われたんだ???」


苦笑いするおキヌを含めて、答えが明らかであるにもかかわらず、その問いに答えられる

者はなかった。






「つ、強い・・・・・・。」


ピートの頬を冷や汗が伝う。

高温と極度の霊圧がドームを満たしているにも関わらず。

雪之丞とコヨーテの戦いは一方的な展開になっていた。

コヨーテにはその右腕に頼る以外に雪之丞の攻撃を避ける術がなく、コヨーテの攻撃は雪

之丞には一切通用しない。

寧ろ攻撃したコヨーテの方がダメージを受けているような状態だ。

二人の立場は完全に逆転していたのである。


「魔装術LV3。

発動に時間が掛かるのが難点だが、発動している間は殆ど無敵だ。

たぶん小竜姫さまでも正攻法では手の出しようがない。」


俺にしたって、そうやりようがあるわけじゃないしな、と横島が呟く。


かつて同格と思っていた男との差が歯がゆいのか、先ほどまでその身を案じていたピート

はぎりぎりと歯を食いしばっている。

悔しいのだろう、と横島は思った。


エミリアはあまりの悪寒に自分の両肩を抱きしめている。

その圧力で豊満な乳房が押し出され、美しい谷間が形成される。

なんて美しいチチなんだ、と横島は思った。


ぽかんと大口を開けているタイガーについては、特に何の感想も持たなかったようである。





「ック。」


雪之丞の回し蹴りを銀の右腕で受け止めるコヨーテ。

しかし、その一撃でコヨーテの右腕は肩口からあらぬ方向にふっとんでしまう。


「神代の武具は兎も角として、この身体では彼の攻撃に耐えられないというわけか・・・。」


先ほどまでの激情は今のコヨーテには微塵も浮かんではいない。

かと言って絶望や焦燥の表情も浮かんではいない。

観察者に徹するとでも言うように、己の身体に起こっている凄まじい破壊を、どこか人事のように見ていた。


「終わりだッ!!!」


雪之丞が拳を握り締めると掌の内側で小規模の爆発が起きる。

その左拳の一撃がコヨーテの右胸を捉えるッ!!


コヨーテの胴体は粉々になって吹き飛んでいた。


「15分・・・・・・終了。」


横島が呟くと雪之丞は魔装を解く。


「ほら見ろ、十分だ。」


全身に汗をかき疲労困憊の雪之丞は、それでも余裕を見せるように笑いかけ、横島は頭痛を

堪えるように眉間を押さえた。


「全く、ここまでこっぴどくやられるとはね。

今後のことを考えると頭が痛いよ。」


その声は横島のものではなかった。

エミリアのような女性なら潜って通れるほどの風穴をその胴体に開けながら、コヨーテは

むくりと起き上がったのだった。

比喩ではなく、傷口から向こう側の景色がはっきりと見える。

トリックの類ではない。

大砲が通過したような大きな洞穴は、右脇は完全に破れきっており、左脇がかろうじて鎖

骨の辺りの僅かな骨肉と下半身とを支えている。

下半身と言えど右足の殆ど付け根まで爆圧で吹き飛んでおり、いつ崩れ落ちてもおかしくない。


それでもこの男から感じる気配は・・・・・。


「なんで手前ぇが人間なんだ・・・・・・・?」


雪之丞は思わず驚愕の声を上げる。

その問いには答えず、コヨーテはどうにか間に合った、と一人ごちる。

一同はその言葉の意味を図りかねた。

その瞬間、ドームの天井に雷でも落ちたかのような衝撃が走り、屋根が吹き飛び上空が顕になった。


「あ、あれはなんですカイノーーーッ!!」


「しまった、時間稼ぎをしていたのは――――」


「そう、僕のほうだ。」


どうやって発声しているのだろうか?

内臓を完全に失っているはずの男は声を上げた横島に向けて不適に笑う。

空を見上げればそこには、視界を埋め尽くさんばかりの戦闘ヘリが滞空し、今にも爆撃を開始せんとしていた。








(続)



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