ザ・グレート・展開予測ショー

バベルは紅く燃えている!〜その3(絶チル)


投稿者名:黒土
投稿日時:(05/11/17)

 場所を移し、待機する皆本。
その横では紫穂がコンクリートの地面に手を当てている。


「・・・そこ、2ブロック先にいるわ。」


紫穂がレーダーのように位置関係を読み取り、通信機で葵に伝える。


「よっしゃ、まかしとき!」


それを受け、コンテナの迷路でガソリーナを挑発する葵。


「オニさん、こっちやで!」

「・・・・・」


ガソリーナがその視界に葵を捕らえようとするが、
目にも止まらぬ速さでテレポートを繰り返しているため追いつかない。


「無駄や無駄、ウチには自慢のパイロキネシスも通用せえへんで!」


しだいにおびき寄せられてゆくガソリーナ。
そして、彼女があるポイントまで足を踏み入れた、その時。


「・・・皆本さん、今よ!」

「よし!ECM、作動!」


紫穂の合図と共に、皆本がコンテナの一つに隠してあったECMを起動する。
ECMから強力なデジタル念波が発生し、広範囲にわたって超能力が無効化されていく。


「動くな!周囲には警官隊も配備されている、おとなしく投降するんだ!」


銃を構えつつ飛び出す皆本。
しかし、


「・・・あれ?」


葵の姿はあったものの、そこにはガソリーナの姿はなかった。
すると、葵がやれやれといった表情で奥のほうを指差す。

そこで皆本が見たものとは・・・




「皆本ぉ!絶対に手を出すなよ!」
「そう言う事ですから、お願いしますね!」



皆本の目の前にある光景、それは激しく殴りあう10歳児2人の姿だった。



「うおりゃあ!サイキック・マッハパンチ・念動抜き風味ぃ!」



と、薫が燐の腹部を強打したかと思えば、



「なんの!ドラゴンスープレックス!」



と、燐が素早く薫の後ろに回って投げ捨てる。

一進一退の激戦、そのあまりの気迫に呆然と見守るだけの皆本達。
2人の攻防は正面からの拳のぶつかり合いに変わる。


「おおっ!あまりの拳速で手が分身して見える!
 これぞまさしく流派・東○不○や!」

「・・・なにそれ?」


ボケる葵と突っ込む紫穂、だが今はそんなことどうでもいい。
いつまでも放っておく訳にもいかないので、再び皆本が銃を構える。


「お前たち、いい加減にしろ!」


すると、その声に反応して燐が皆本のほうを見る。


「・・・・・」


そして薫の攻撃をかわしつつ、皆本達のいる方向めがけて何かを投げてよこした。






ピンッ!






地面に落ちた黒い玉からピンが外れる。


「あれは・・・手榴弾!」


とっさに皆本が葵と紫穂を抱えて飛びのく。
その一瞬後に、後方から激しい爆発音が響いた。






ズウゥゥン・・・






「し、しまった!」

後ろを振り返った皆本が叫ぶ。

彼の目線の先にあるものは、爆発の衝撃によりもうもうと煙を吹いているECM。
燐の投げた手榴弾は皆本達を狙ったものではなく、その後ろにあったECMを狙ったものだったのだ。


ESCの妨害が打ち消されると同時に、燐は近くの海面を睨む。
それと同時に、一瞬にしてあたりは大量の水蒸気に包まれた。

さらに。


「・・・・・!」


続けて燐が水蒸気の立ち込める虚空を見上げると、爆音と共にコンテナが崩れる。
急激な温度上昇により水蒸気爆発を引き起こしたのだ。




 数分後、皆本が目を覚ます。
どうやら爆発の衝撃で気を失っていたらしい。


(くっ・・・何がどうなった・・・?)


状況を確認しようとする皆本、と、背後から視線を感じ振り返る。
そこには子供らしき人影が一つ。


「はじめまして。皆本さん・・・でしたよね?」


赤い髪の少女。
だがそれは薫ではなく、あの殺し屋『ガソリーナ』であった。


「ちょっとお話がしたいんですけど、よろしいですか?」


もしも彼女が皆本を殺す気だったのならば、すでに皆本の体は炎に包まれていただろう。
皆本は体勢を立て直しつつ、近づいてくるガソリーナを凝視する。


「・・・あなたはとっても素敵な人みたいね、薫ちゃんを見ていればわかるわ。
 彼女、とっても幸せそうだったから・・・」


そう言いつつ、ガソリーナは皆本の目の前数センチまでやって来る。


「ねえ、皆本さん。私にも力の使い方を教えてください。
 この力はどう使えばいいの?コンビニでお弁当でも温めていればいいの?
 ・・・・・教えてくれないなら焼き殺しちゃうから!」


両手で皆本の頭を掴むガソリーナ、その力は子供とは思えないほどに強い。
さらにその鬼気迫る表情で見開かれた瞳が恐怖を誘う。


(・・・この子は!)


だが、皆本には何かが感じられていた。
機械のような冷徹な瞳の中に、救いを求めるかのような何かを。





「待てっ!!」





その時、薫の声が沈黙を打ち破る。
先ほどの爆発に巻き込まれたのか、その姿はかなり薄汚れていた。


「燐、皆本から手を離せ・・・お前の相手はあたしだ。」


すると、ガソリーナは皆本から手を離し、薫の方へ向き直る。
いつの間にかその顔は涼しげな表情に変わっていた。


「いいわよ、薫ちゃん。この人には手を出さない。
 でもここからはお仕事、どんな手でも使わせてもらうわ。
 だからあなたも本気で来てね・・・!」


念をこめるガソリーナ、間一髪のところでコンテナに隠れる薫。
強力なパイロキネシスによってコンテナの一つが赤熱し、ドロドロと溶け出している。


(まずい・・・いくら薫のサイコキネシスが強くても、狙いを定めようと姿を見せれば焼かれてしまう!)


何か援護をしようとする皆本だったが、突如彼の左手に激痛が走る。


「ぐうっ・・・!」


見ると左手の甲に火傷を負っている、そんな皆本にガソリーナがつぶやく。


「皆本さん、動かないでください。私は手加減が苦手なんです。」


そう言い残し、ガソリーナは薫の隠れたコンテナのほうへ歩いてゆく。

薫を探しコンテナの迷路を行くガソリーナ。
すると、その上空に何かが現れる。


「お待たせ!いくでぇ!!」


葵の声、だが姿は見えない。
周囲を見回した次の瞬間、辺りが真っ白な煙に包まれた。


「ゲホッ・・・これは、小麦粉?」

「わざわざウチが空輸してきた最高級の小麦粉や、下手に燃やすと粉塵爆発で吹っ飛ぶで!」


周囲には凄まじい量の小麦粉が舞い、まったく視界が利かなくなっている。


「ゲホッゲホッ・・・でもこれじゃあ、あなた達も身動きできないわよ?」


だが、少し離れたポイントで指示を出す紫穂には関係のないこと。


「・・・薫ちゃん、そこをもう少し右よ。」

「オッケー!」


白煙の中、上空に舞い上がる薫。





「サイキックゥ・釣り鐘落としぃ!!」




ガッチャアァン!




煙に紛れて急降下する薫。
ガソリーナがその姿を確認する間もなく、薫はガソリーナの頭に何かを叩きつける。


「ム・・・ムー、ムーッ!」


華麗に着地した薫がサイコキネシスで粉塵を払う。
そこには頭からバケツを被せられたガソリーナの姿、口を変形させてあるので抜けないようだ。


「お前、いちいち標的を睨んでただろ?
 だから直接相手を見る必要があるんじゃないかって思ったんだ。
 あと、何してもいいって言ってたから連携で行かせてもらったぜ。」

「それ、バケツ溶かしたら自分が危ないやろ?
 我ながらエエ作戦やと思うでえ。」

「私の能力があれば、視界を封じてもあなたの位置はわかるしね。」


薫のもとに葵と紫穂が合流する。





ガチャッ





バケツを抜こうと必死のガソリーナだが、その手にエスパー錠がかけられる。


「この勝負、薫たちの勝ちだ。」

「・・・・・」


追いついてきた皆本の言葉に、ガソリーナはその場に座り込んだ。



薫がサイコキネシスでバケツを外す。
当のガソリーナはといえば、特に悔しそうな様子も無く、無表情で座っている。


「それじゃあ、バックについてる組織の事とか教えてもらうわよ。」


ゆっくりと紫穂の手が伸びる、だが、その時突然ガソリーナが血相を変えた。



「やめろ!」



今までの冷静な様子とはうって変わったその態度に、紫穂をはじめ、そこにいる全員が驚く。


「あなたサイコメトラーね・・・聞きたい事があるなら何でも話してあげる、だから見ないでほしい。
 ・・・見られたくない・・・あなたに同じ苦しみを味わわせたくない。
 ・・・お願い・・・」


懇願するガソリーナに、皆本達は戸惑いを隠せなかった。



 その頃、やや離れたある場所で。

(・・・ガソリーナめ、失敗したか。)
(突然指示に従わなくなったと思えばコレか、少々勿体無いが用済みだな。)


グラッ・・・


(ん、何だ、今の揺れは?)
(・・・コ、コントロールがきかない!)



ゴゴゴゴ・・・




「そーら!サイキック・一本釣りぃ!」



激しい水しぶき。
薫のサイコキネシスにより、海中から小型潜水艦が現れ、空中に浮かび上がる。
そして、潜水艦はそのまま真っ二つに引き裂かれて埠頭へ墜落。
ちなみに乗務員の2人は、葵によってなんとか助け出されていた。


「お前たちが『ガソリーナ』に仕事をさせていた黒幕ってわけか。
 ・・・今までの罪を償ってもらうぞ!」

「ついでに組織の情報もちょうだいね。
 それだけに限らず、心の中身まるごと全部・・・フフ。」


恒例の紫穂による拷問タイム、男達が涙に沈むのにそう時間はかかりませんでした。



連行されてゆく男達とガソリーナ。
ふと、皆本は薫が自分の袖を強く握り締めていることに気付いた。


「なあ、皆本。あいつは・・・燐は・・・」


薫が何か言いたそうだが、うまく言葉が出ないでいる。


「・・・彼女の罪は決して消えない。でも、償う事はできる。
 あの子なら、きっと・・・」

「皆本・・・」


チルドレンの活躍により、『ガソリーナ』は逮捕。
および、彼女を影で操っていた組織は一斉に摘発され壊滅した。



 翌日、バベル本部。
局長室にて報告書を提出する皆本。


「ご苦労、皆本クン。
 まさか『ガソリーナ』の正体が年端も行かぬ子供だったとはな・・・
 ・・・まったく、幼いエスパーが悪党どもに利用されるというのは耐えられんよ。」

「まったくです・・・
 ところで局長、あの子は・・・?」


少し心配そうな顔で局長に尋ねる皆本。
そんな皆本に対して、局長はニヤリと笑う。


「心配するな、『ガソリーナ』に仕事を強いていた組織は壊滅できたことだし、
 あの子にその気があるのなら更生する事も容易だろう。」


それを聞いて、皆本は安堵の表情を浮かべる。


「・・・政府としても将来有望な高超度のエスパーは欲しいところだからね、いくらでも揉み消すヨ。」

「きょ、局長・・・」


だが、こっそり小声でつぶやかれた局長の言葉で気分はぶち壊しだった。
と、そんなやり取りをしている所にチルドレンの3人が入ってくる。


「うひひ・・・はいっ。」


手を突き出す薫。


「約束してた危険手当、受け取りに来てやったぜ。」


その言葉に皆本は呆れた顔をする。


「お、お前・・・感傷に浸ってたんじゃないのかよ!」

「いつまでもウジウジしてたって仕方が無いだろ?
 だったらもらえる物もらって立ち直った方がいいじゃん。」


その後ろで微笑んでいる葵と紫穂、どうやら彼女たちも同じ気持ちのようだ。


「・・・はい。」


そんな薫に皆本が手渡した物、それは一枚の書類。


「ん?何これ。」

「昨夜お前たちが使った小麦粉、破壊されたコンテナとその中身、壊されたECM、・・・それら全部の請求書だ。
 悪いけど『危険手当』にまわせるだけの経費はもう・・・」


言うが早いか、瞬く間に皆本の体は3人の子供達によって締め上げられる。


「んぎゃあああ!」

「だったら自腹切れよこの野郎!」
「ウチらをあんな危険な目にあわせといて、約束守らへんなんて最低や!」
「かわりに皆本さんにオモチャになってもらおうかしら?」


さんざんな事を言われつつ、ボロボロになって開放される皆本。


「ほんじゃ、支払いはいつでもええで。」
「覚悟を決めたら来てね。」


好き勝手言いながら局長室を後にする葵と紫穂。
すると、部屋を出ようとする薫が足を止め振り返る。


「なあ・・・燐のやつ、また会えるよな?」


その言葉に、床に倒れたままの皆本は優しく答えた。


「・・・ああ、必ず。」


その返事を聞くと、薫はニッと笑顔を見せ部屋を出る。

皆本はゆっくりと立ち上がり、火傷を負った左手を見つめた。
手加減されていたのか、思いのほか軽症だったためすでに治癒しかけている。


(必ず会えるさ、お前の友達に。)


その時のために、皆本は燐から受けた質問・『力の使い方』の答えを見つけておくことを誓った。

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