ザ・グレート・展開予測ショー

バベルは紅く燃えている!〜その2(絶チル)


投稿者名:黒土
投稿日時:(05/11/15)

 ある日のバベル局長室、そこでは何者かの言い争うような怒鳴り声がする。


「絶対に反対です!それがどれだけ危険な事かわかっているんですか!?」


大声の主は皆本、彼は噛み付かんばかりの勢いで局長に詰め寄っている。


「私だって賛成などしていない。
 ・・・だが、上からの命令とあらば仕方の無い事なのだヨ。」


詰め寄られている局長もまた、渋い顔で言い返す。
皆本はかなり悔しそうな表情を浮かべ、局長の前から1歩下がった。


「・・・いくら上からの命令でも、10歳の子供に『プロの殺し屋を捕まえろ』なんて・・・
 しかも、そいつはかなりの超度を持つエスパーなんでしょう?」

「だからこそ、警察では手に負えない。
 特務エスパーに頼るしかないのだヨ、君にもわかっているだろう?」


確かに、相手が強力なエスパーであれば特務エスパーにまわって来るのは当然のこと。
もちろん皆本も解りきっていた事だが、危険な臭いのする今回の任務には納得できないでいたのだ。


「いいかね皆本クン。」


スッと立ち上がり、神妙な面持ちで局長が歩み寄る。


「・・・ここだけの話、ちょっとでも危なくなったら子供達だけ逃がしたまえ。」

「は?」


小声でささやく局長に、思わず聞き返す皆本。
すると局長のささやき声が怒声に変わった。


「あの子達にもしもの事があったらどうする気かね!
 いざという時は君ひとりで捕まえるんだ!責任を取ってコゲたまええええ!」

「そ、そんなムチャな・・・!」


どうやら局長はすでに錯乱していたようだ。
暴れる局長を慌てて柏木が取り押さえる。


「悪い人に負けるなー!負けたら皆本クンがゴビ砂漠で庭そうじだー!」


号泣しつつ大暴れの局長。


「局長、落ち着いてください!
 ・・・皆本さん、私には何もしてあげられないけど・・・よろしくお願いします。」

「・・・・・」


柏木の言葉に背中を押され、皆本は局長室を後にした。



 そのころ、バベル内の控え室。
定期健診を終えたチルドレンの3人がくつろいでいる。
会話の中心になっているのはもちろん薫、先日会ったあの少女のことを話す。


「へえ、そんな事があったんや。」

「私たちがお友達になるくらい、お安いご用よね。」


薫の話に葵も紫穂も興味しんしんの様子。


「意味ありげな言葉の裏に何があるのか見てみたいし。」


ついでに、紫穂は右手を前に出して黒い笑いを浮かべる。


「おいおい・・・
 しかし、薫もよう3時間も走るなあ。」

「それがヤワそうだったのにすげー肉体派でさあ、ちょっと負けてらんないって思っちゃって。」


突っ込む葵に体力自慢の薫。
薫のサイコキネシスの半分は地力でできているのかもしれない。

と、そこへ皆本が入ってくる。
何故だか彼は渋い顔をしており、少し間をあけ重い口を開いた。


「次の任務が決まった。・・・都内に潜伏中のテロリスト『ガソリーナ』の逮捕だ。」


この間、つい叱り付けてしまったこともあって、
皆本の心中は不本意やら突っ込みが怖いやらでかなり複雑に入り混じっていた。

だが、チルドレン達の反応は薄い。


「お、来た来た。」
「そろそろ来るころやと思っとったで。」
「私たちの準備はできてるわよ。」

「お、お前たち・・・?」


さんざん突っ込まれる事を覚悟していた皆本は、その展開に少々戸惑っている。


「強力なエスパー相手の仕事が、あたしらに回ってこないわけないじゃん。」
「まあ、皆本はんが悪いわけやないし。」
「上層部の命令だもの、仕方ないわよ。」


3人の言葉に、皆本はふと思い出した。
自分よりもこの子達のほうが『大人』であることを。


「・・・すまない、みんな。」

「気にすんなって、あ、あたしは今度こそ勝負ランジェリーね。」
「ウチはゲームソフト増やさせてもらおかな。」
「私はかわいいものだったら何でもいいわよ。」


すこし笑顔が戻りかけた皆本の横を通りつつ、3人が言う。
その言葉に慌てて問いただす皆本。


「ちょ、ちょっと待て!何だよそれは!」

「あん?あれだけ怒っておいてタダで済まそうってのか?」
「当然の『慰謝料』っちゅーやつや、特別に危険手当も込みにしといたるわ。」
「皆本さんが悪いわけじゃないから、この程度で許してあげてるのよ?」


皆本はもう一つ思い出した、この子達は悪魔かも知れないことを・・・



 同日の夜、本部の予知ではじき出されたポイントへ向かう4人。
その車内では耐火服などの装備が配られている。


「一応、耐火服は支給されてるけど、正直気休めにもならないから、そのつもりでいてくれ。」

「なんで?パイロキネシスって炎を出す超能力なんだろ?」


皆本の言葉に、薫が不思議そうな顔をする。
確かに、炎を操る相手ならば多少の効果は得られるはずである。


「報告によると、耐火服の内部だけやられたケースがあったらしい。
 どうも炎を操ると言うよりは、電子レンジに近いのかもしれないな。
 一種のサイコキネシスで対象の分子を振動させ、急激な温度上昇で発火させるんだろう。」

「うわ、それやったら着てないほうが動きやすくてええわ。」

「でもほら、一応、周りを炎に囲まれた時にはいいんじゃない?」


葵と紫穂が耐火服の要不要を議論している時、薫はあることを思い出していた。


「電子レンジ・・・」


このあいだ知り合った少女・燐、彼女が冷たいコーヒーを一瞬で温めた光景が思い出される。
だが、薫はそんな考えをかき消すかのように頭を振った。


「どうかしたのか、薫。」


そんな様子の薫に皆本が呼びかける。
慌てて平静を装う薫。


「別に、なんでもない。
 ・・・なあ皆本、そのガソリーナってどんな奴なんだ?」

「ガソリーナについて解っている事は少ない、容姿も含めてね。この間の資料に載っていた事がすべてだ。
 ・・・それより、もうすぐ現場に着くぞ。」


それから数分後、4人を乗せた車が止まる。
そこは多くのコンテナが並ぶ、埠頭の倉庫街であった。


「予知では、今夜ここで暴力団同士の取引が行われることになっている。
 そしてそこに現れる人間を狙って『ガソリーナ』も現れる、ということだな。」


腕時計を見る皆本、事件発生の想定時刻まではあと20分ほどある。


「警察の人たちは?連絡は行っているの?」

「もちろん。
 でも予知は絶対じゃないからね、外れた時のためと、あと警察の意地で配置についているはずだ。」


皆本が説明していると、4人の待機している位置から少し離れた場所が騒がしくなる。


「何だ!?・・・まさか時間がズレたのか!?」


その時、取引が行われるであろう場所では、警察と暴力団の大捕物の真っ最中であった。


「くそっ!警察か!」

「ついに追い詰めたぞ!全員タイホだ〜!」


真っ向から激突する警察と暴力団。
その後ろからゆっくりと近づいてくる影に気付く者は誰一人いなかった。





ピカッ!





突如周囲を包み込む閃光、どこからかスタングレネードが投げ込まれたのだ。
それと同時に皆本及び『ザ・チルドレン』の3人が現場に駆けつける。


「・・・・・」


少し遠巻きに様子を伺っていた人影は、それを見て奥へと走り去った。


「皆本!あっちだ!」


間髪入れずにその人影を追う薫。
何か思うところがあるのか、ものすごいスピードで奥へと走ってゆく。


「あっ!薫!
 ・・・ここは警察に任せて追うぞ!」


残る3人も、混乱した現場を後にして薫を追いかけていった。



 並び立つコンテナの山が織り成す迷路、薫はその真っ只中に1人立っている。
何度消そうとしても頭から離れない思い。
その真偽を確かめるために、彼女は誰よりも早く去りゆく人影を追った。


「・・・お前が『ガソリーナ』か。」


闇の中、対峙する薫と何者かの影。
ふと、月明かりが2人を照らし出す。


「・・・あら、薫ちゃん。」


嫌な事は的中する、そんな言葉が薫の頭をよぎった。
目の前に立つ『ガソリーナ』と呼ばれる者、帽子を深く被ったその姿は、
あの公園であった少女・燐に他ならなかった。


「嘘ついてたんだな。」
「嘘ついてたのね。」


2人の口から同時に言葉が発せられる。
次に、続けて喋ったのは燐のほうだった。


「超度2っていうのはやっぱり嘘だったのね、そんな感じはしてたけど。
 本当の薫ちゃんは特務エスパーだったなんて驚きだわ。」


そう言う燐に対し、薫も言葉を続ける。


「お前が・・・『殺し屋』なのか?
 それとも友達になった『燐』なのか?・・・どっちだ!」


感情が高ぶり、声が次第に大きくなってゆく薫。
その周囲の空気もピリピリと振動を始めている。


「あれはプライベート、特に区別してるつもりもないけど。
 それに私は嘘なんてついてない。
 『誰かのためにできること』は、飲み物を温めることくらいしかできないの。」


言葉の終わりと共に帽子を脱ぎ去る燐。






ヒュッ!





だが、それと同時に薫の体が消える。


「・・・薫ちゃん。」

ひとり取り残された燐の瞳はどこか寂しげであった。


一方、コンテナの迷路の一角に隠れる皆本達。
葵のテレポートによって薫も強制的に合流させられている。


「な、何しやが・・・」

「あれほど気をつけろと言っただろう!」


文句を言おうとする薫だが、そんな間もなく皆本の叱責を浴びる。


「いくらお前が超度7のサイコキネシスを持っていても、奴にあんな至近距離で睨まれたら
 一瞬で黒コゲになってしまうんだぞ!」


それを聞いて、葵が残念そうな顔をする。


「せやけど、いきなり閃光弾投げ込んだのに失敗してしもうたなあ。」

「ターゲットをやらせるわけにはいかなかったし、
 混乱に乗じて捕まえられるかと思ったけど・・・さすがに甘かったよ。
 まさか警察が先に踏み込むなんて、予想がつかなかったからね。」


いったん冷静になる皆本。
そして、彼の合図で紫穂がコンクリートの地面に手を当てる。


「・・・ゆっくり移動してる、私たちを探してるみたい。」


サイコメトリーによってレーダーのように足取りを探る紫穂。

と、その時、どこからともなく声が響いてくる。


「薫ちゃん、誰かと一緒にいるみたいだけど、その人がお友達?
 思ってたのと違う形になっちゃったけど、私もその人に会ってみたいな。」


それは燐、いや、ガソリーナの叫ぶ声だった。


「・・・知り合い?」


一斉に薫を見る皆本・葵・紫穂の3人。
薫も何だか複雑な表情だ。


「いや〜、なんつーか・・・
 つい最近知り合った友達だったって言うか・・・」


しどろもどろな薫に、葵が単刀直入な質問。


「まさか、今日言っとった燐って子やったんか!?」

「うん、まあ。」


一同絶句。


「・・・事実は小説より奇なり、ね。」
「いや、むしろベタベタちゃうか?」


とりあえずそれは置いといて、皆本が作戦の説明をする。


「いいか・・・で・・・で・・・だ。」


うなづく3人。
これより、『ガソリーナ』撃退作戦がスタートする。

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