ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment.〜 第9話


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/11/14)

霊力防止の特殊手錠が、横島の手に嵌められる。
警官に脇を固められ、横島が連行される。
横島の目には、諦めの色も悲しみの色も浮かんでいない。
半目がちにだるそうな目には、怒りの色さえもでていなかった。
途中で西条と擦れ違う。
西条は横島に一声かけようとするが、横島の表情を見て言葉を飲み込んだ。
だるそうな横島の表情が一転、西条に向けられ蔑むような目で見下し大きく見開き威嚇するかのように
彼を睨みつけた。
その視線は瞬きさえせずに、車に押し込められるまで揺るぎもしなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・誰だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰が撃った?!」

横島を乗せたパトカーが走り去り、思わず西条は叫んだ。

「私だ。」

南雲は興奮している西条の前に立つと、冷静そのものの口調でいった。

「何故だ?包囲しているのに何故撃った!!」

「抵抗したからだ、射殺許可がでている霊的犯罪者に一般の警官は近寄れんだろう。」

「ならば・・・何故、何故!人狼の少女が撃たれなければいけないんだ!!
横島君がいなければ、確実に死んでいたぞ!!!」

胸倉を掴み上げ、西条は今にも殴りかからんばかりの勢いである。
近くにいた制服の警察官が慌てて西条を制止にかかる。

「星に君付けか・・・」

南雲は乱れた背広の襟を正すと、西条を睨みつける。

「西条支部長、ここはどこだ?一企業の研究所だろう!住居不法侵入、警備員に対する暴行、そして凶悪犯と
の接触!!人狼だかなんだか知らんが、人の反射神経を凌駕したものが射撃線上に割り込んでも人間の
狙撃班には止められんよ!」

苦虫を噛み潰す西条に、南雲はなおも言葉を投げつける。

「美神除霊事務所に対する処分は、少なかったのではないか?凶悪犯を雇い、捜査を混乱させた人物も養っていたのだから。」

西条の肩をぽんと叩くと、南雲はパトカーに乗り込んだ。
現場に残された西条は、拳を固く握り唇を噛み締めるだけであった。












警察病院に駆けつけた令子とおキヌは、ICUの中にいるシロをガラス越しに見つめるだけであった。
様態は安定しているものの、弾丸は未だ身体の中にあり手術の必要があるがそれに耐えられるだけの
体力が戻るまでICUに入れられる事になる。
無論、外には警官がずっと張り付いていた。

「ここにいても、やる事がないわ・・・おキヌちゃん、帰ろ・・・・」

令子がそういうが、おキヌは首を横に振ってその場から離れようとはしない。

「気持ちは判るけど、ここは普通の病院じゃないのよ・・・」

病室の入口にいる立ち番の警官が、ジロリと令子とおキヌの方を睨んだ。
廊下に靴の音が響き、こちらに近づいてくる。
令子は靴の音の方を向いた。
おキヌはシロの方を見たまま、視線を動かさない。

「西条さん・・・」

令子の呟きに、おキヌがピクリと肩を動かした。

「すまない・・・・・・・僕がいながら・・・・・・・」

西条はただ頭を深く下げた。

「横島君は?近くにいたんでしょ?」

令子がそういうと、おキヌの身体が震えだした。

「捕まったよ・・・・・・今、警視庁にいる。」

「そう・・・・・・・・・・・・・・・」

令子は素っ気無い言葉を返した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何しに来たんですか・・・・・・・・」

おキヌの両手が固く握られ、震えている。

「帰ってください!」

西条の方を振り向いたおキヌの目には、大粒の涙が溢れている。

「すまない・・・・本当にすまない・・・・」

西条はおキヌに向かって頭を下げた。

「聞こえないんですか!帰って!帰ってよ!!!」

手に持っていたバックを西条に投げつけ、おキヌは泣き叫んだ。

「やめなさい、おキヌちゃん!」

抱き締めるように令子は、おキヌを止めた。

「西条さん仲間じゃなかったんですか?なんで横島さんの無実を晴らそうとはしなかったんです!!
シロちゃんだって・・・・シロちゃんだって横島さんと同じように見捨てたんですか!!」

「おキヌちゃん!!」

令子が強い声を出した。
おキヌは身体をビクつかせ、令子の顔を見上げる。

「・・・・・・言い過ぎよ。」

令子の目は、怒っていなかった。
ただ悲しい目で、おキヌを見つめていた。
おキヌは声を上げて泣いた。
令子の胸にしがみ付き、声に出して泣いた。



おキヌの声が小さくなり嗚咽へと変わる頃に、西条は頭を上げ腰を屈めると散らかったバックの中身を拾い
バックの中へ入れると令子に渡した。

「ごめんなさい・・・西条さん・・・・」

「いや・・・いいんだ・・・・」

西条は首を横に振り、苦笑した。

「おキヌちゃん・・・帰ろ・・・」

令子がそういうと、おキヌは小さく首を縦に振った。









雪之丞はシェルターに戻ると、大きめのバックを放った。

「なんじゃこれは?」

番茶を啜り煎餅を齧りながら、カオスがカバンの中身を覗いた。
カバンの中には特殊スーツのヘルメット部が入っている。

「ほほぉ〜これかのぉ・・・・う〜む見事なもんじゃ。」

細部を細かく見ようとしたカオスを、雪之丞は止めた。

「じぃさんに調べて貰いてぇのは、こっちの方だ。」

そういってデジカメを差し出した。

「後からではいかんのか?」

「急ぎなんだよ。」

声を荒げたワケではない。
何か変わったワケでもない。
それでも、雪之丞の態度は尋常ではなかった。

「・・・・小僧が捕まったらしいのぉ。」

「ああ・・・・狼の嬢ちゃんも撃たれちまったよ。」

雪之丞はイスに座ると、腕を組みじっと目を閉じた。
カオスはデジカメを内蔵の液晶モニターで見ると、珍しく驚きの表情を浮かべた。
デジカメをパソコンに繋ぎ、データを移動させる。

「物騒なもの作りおって・・・」

「あぁ・・・形状が少し違うが、間違い無ぇ・・・・原始風水盤だ。」








「美神さん・・・・・・」

事務所へ向かう車の中で、おキヌはようやく口を開いた。

「なに?」

珍しく法定速度で車を走らせていた令子は、正面を見据えたまま返事をする。

「最初から全部知っていたんですか・・・・・・・」

おキヌは令子の方を見ずに、助手席側の窓に映る流れいく街灯をぼんやりと眺めていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうよ。」

一呼吸おいて返事がくる。

「知らなかったのは、私とシロちゃんだけだったんですね・・・・・・・」

令子は、言葉を返さなかった。
水平対向の音が、寂しげに響いている。

「シロちゃんの気持ち判ります・・・・・私だって、あぁしてたかもしれない・・・・・・・・・」

アクセルが少しだけ余計に踏み込まれる。

「私も・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・仲間じゃなかったんですね・・・・・」

おキヌの言葉をかき消すように、令子はアクセルを踏み込む。
排気音だけが、深夜の街に響いていた。



車は事務所へと向かわずに、六道家へと向かった。
冥子におキヌを預け、令子は車へと向かう。

「横島さんとシロちゃん・・・・・追ったのはシロちゃんの方でしたね。









        ・・・・・・・・・・・・・・・・・横島さんを見捨てたんですね・・・・・」

降り出した雨が令子を濡らす。
二人はお互いに背を向けたまま、視線を合わせる事はなかった。










美神美智恵は、自宅のマンションでずっとテレビを見ていた。
『横島忠夫逮捕』のニュース速報を受け、それ以降ずっとテレビの前から離れないでいる。
すでに令子からシロが撃たれた事が伝えられていたが、テレビのマスコミからその報が伝わる事はなかった。
非情な指揮官の美智恵は、シロの容態を伺う以前にやるべき事があった。
シロの命を見るのは医者であり、自分ではない。
その場所にいても自分にできる事はない。
美智恵に出来る事・・・・それは、待つ事だけであった。
午前1時を回り、最終のニュースを伝える番組も終わりを告げた。

長い夜になりそうね・・・・

美智恵はそう思い、立ち上がるとひのめの眠っている様子を覗く。
ぐっすりと眠っている美神家の次女は、起きだす気配はなかった。
インタホンが来客が来た事を告げる。
ひのめの顔をもう一度覗くが、やはり起きる気配はなかった。
美智恵はインタホンの場所に行き、カメラに写る人物を確認した。

「令子?」

カメラに写る令子の姿は、いつもの威風堂々とした姿でない。
亜麻色の長い髪から流れくる雨を拭いもせず、我を失ったように立ち尽くした。





令子を部屋に上げ、風呂に入れた。
湯船に湯を張る時間はなく、シャワーだけだがなにもしないよりはマシだ。
温かい湯を浴びるだけでも、いくらかは違うはずである。
始めて見る我が子の姿を見て、美智恵はすべてを察していた。
タオルと着替えを脱衣所に置くと、水音に混じり嗚咽が聞こえる。
こうまでしないと泣けないのか・・・美智恵は我が娘ながら令子の強情さに溜息を漏らした。

リビングへ戻りしばらくすると、令子が風呂から上がってきた。
髪にドライアーもあてず、すっぽりと顔をタオルで被ったままわしゃわしゃと乱暴に髪を拭っている。
美智恵はソファに座ったまま頬杖をついて、その様子を眺めていた。

「なにか言いたい事あるの?」

美智恵の言葉で、令子の動きが止まった。
令子は美智恵に背中を向けると、被ったタオルを顔にあてた。

「べ・・・・別に・・・・・雨宿りに来ただけよ。」

ただの強がりなのは、分かりきっている。
母親だからという理由だけではない。
この場に誰がいても、それは分かったであろう。

「私はあなたの母親であって、“横島君”じゃないのよ・・・」

今、令子にとって横島の名前は禁句であった。
その言葉を耳にしただけで、とめどなく涙が溢れてくる。
仮面を外した令子は、美智恵にしがみ付くと泣き崩れた。
声を出し、子供のように泣いた。







自分だって泣きたかった。
シロが撃たれて、横島が逮捕されたと聞いた時にはその場に倒れそうになった。
でも今自分が倒れる訳にはいかない。
まだ、おキヌがいる。おそらくタマモも無事にいるに違いない。
姉として、倒れる訳にはいかなかった。
毅然とした態度で、冷静でいなければいけなかった。
それが自分の役目だと思った。

シロが横島の後を追ったときに、シロの方に比重を入れた。
結果、シロは傷つき横島は逮捕された。
そしておキヌに糾弾された。
痛かった・・・辛かった・・・・そして何より自分が許せなかった。
外部に聞かれないようにとは考えていた。
しかしシロの事を失念していた。
気を使ったつもりだったが、どこかに雑念が入っていた。





令子は心の中の澱みを、すべて美智恵に吐き出した。
血を吐くような思いで、語り続けた。
その言葉は不確かで明瞭なものではなかったが、美智恵にはちゃんと伝わっていた。

「大丈夫よ・・・横島君は分かってくれているわよ。
あなたが、彼でなくシロちゃんを優先した理由・・・・彼ならそうしたからって。
おキヌちゃんやシロちゃんの事にしたって、彼女たちを巻き込みたくないから教えなかった・・・
あまりにも真っ直ぐな彼女たちに、人間の汚さを見せるのにはまだ早すぎるって・・・・

彼がそうしたかった事を、あなたはちゃんとやれているわよ。」

美智恵の言葉に令子は、顔を伏せて嗚咽を漏らした。
求めていた言葉をやっと貰えた。

「ママ・・・・・」

「なぁに?令子。」

「横島君・・・・・・・なんでウチにいるのかな・・・・」

令子の言葉に美智恵は自分の耳を疑った。

「あの時から張詰めた風船のようで、いつ壊れちゃうかわかんない・・・
だからワザと危ない仕事ばかりやらせて、辞めさせようよしても・・・それでも彼、笑ってるの・・・・
口では嫌がってるクセに、どこか散歩にでも行くように命のやりとりして。」

「死に急いでると思ってるの?」

令子は美智恵の言葉にゆっくりと頷いた。

「あの娘の元に早く行こうとしてるんじゃないかって・・・・
ルシオラが・・・・・・ルシオラが横島君を呼んでるんじゃないかって・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

令子が横島に異存していた事は知っていた。
しかし、ここまで異存するようになっていたとは美智恵は想像していなかった。
自分の心を殺してまで、横島の意思を尊重している。
心を殺す事によって起こる葛藤に引き裂かれても、彼のすべてを手に入れられないジレンマ。
見かけよりは弱いところがあるとは思っていたが、ここまで弱くなっていたとは・・・
美智恵は唇を噛んだ。

「令子・・・・・・」

絞るように美智恵は声を出す。
令子はときおり肩を震わせながら、ゆっくりと顔を上げた。

「勇気をだして彼と向かい合いなさい・・・・・あなたの思いを、あなたの言葉で伝えなさい。
彼は・・・・・きっと答えてくれるはずよ。」

「ママ・・・・・」

涙を流す令子の頬に、タオルをあてた。

「ほら、泣いてばかりいちゃ横島君帰ってきづらいわよ。
あなたはママの子なんですからね、自信を持ちなさい。」

令子に向かって優しく微笑むと、インタホンが鳴った。
美智恵の今晩の本命が来たようである。
母親の顔が一瞬で消えた。







令子を隣室で着替えさせ、本命の来客を招き入れる。
黒いカバンを携えて、雪之丞がソファに無造作に腰を降ろした。
カバンを開け、特殊スーツのヘルメットを放り出す。

「証拠だ。」

背広の胸ポケットから、CDを取り出しテーブルの上に置いた。

「あれだけの施設だ、移動するのは容易じゃねぇ。・・・・・・場所は言わねぇでも判るだろ。」

暗に横島の逮捕された場所を示した。
美智恵はパソコンへと向かい、CDのデータを展開する。
特殊スーツと呪詛増幅装置の設計図、そして研究所の中の証拠写真。
最後に、撮られている写真を見て美智恵は首を傾げた。
始めて見るものである。

「雪之丞君、これは?」

美智恵は振り返り、雪之丞に説明を求めた。

「な、なによこれ!原始風水盤じゃないの!」

美智恵の問いに答えたのは、雪之丞ではなく令子であった。

「半分正解だ。」

「半分?」

「そいつはヘビ女が作ったヤツよりももっと凶悪な代物だ。」

「説明してみて。」

身体ごと雪之丞の方を振り向いた美智恵は、眼鏡を外し鋭い視線を向けた。

「カオスのじぃさんの見立てによれば、そいつは以前のものと逆の効果があるそうだ。」

「逆?」

「そう・・・原始風水盤は、魔界や他の世界を一定区間空間ごと召喚できるものだったな。
こいつはその逆・・・こっちの空間を異世界へと転送しちまう代物だ。しかもそいつは『基』になる公式のような
もの、じぃさんによれば増幅器と転送機で衛星に飛ばす事が可能・・・つまり日本にいながらどこの国へも送射
ができる。永田町でふんぞり返っていて、世界中を好きにできる。」

雪之丞の言葉に、令子は言葉を無くし美智恵は頭を抱えた。

「大陸弾道弾も効かないわね・・・途中で消されてしまうわ。対象となるものは施設、都市・・・いえ国ごと消し去る
事さえ可能か・・・・・・・・・・・・・・・・・・放射能の心配もない、核以上の兵器ね。」

雪之丞は美智恵の言葉を聞くと、腰を上げた。

「どこへ行くの?」

「証拠は揃っただろ・・・ダチを取り返してくる。」

「無駄よ・・・・」

美智恵の言葉に、雪之丞は眉を吊り上げた。

「どういう事だよ。」

「相手は国の中枢を握っている奴らよ。こちらが対等な位置まで上がらないと、犯罪者はこっちになるわ。
それに・・・・横島君の罪状とこの件は関係してないわ。」

「見捨てるのか・・・・」

雪之丞が殺気に満ちた目を、美智恵に向ける。

「まさか・・・義理の息子兼愛人候補を見捨てるワケないじゃない。」

緊張感が台無しになる問題発言を苦もなく言ってのけた。
雪之丞も令子も固まってしまっている。

「さて、向こうも馬鹿じゃないわ。完全ではないけど、国連を通して警察や自衛隊に配備できるようにGS協会に
申請しているでしょうね・・・・唐巣神父や六道先生が謹慎くらったとこ見ると、日本の協会も1枚噛んでるわね。」

石になっていた令子が、事の大きさに気付き石化が解ける。

「私の依頼、どこからだと思ってるの?・・・・・・もう1つ上、世界GS協会本部からよ。
日本でジタバタした所で、本部の決定には“まだ”逆らえないわ。」

「世界を牛耳ろうとしてる奴らが、大人しく従うとは思えねぇな・・・」

美智恵は、にっこりと笑った。

「研究所内で、非公式の部隊にだけ使われている・・・しかも実践は今回が初めて。
という事はおそらくまだテスト段階でしかないわ、完全な兵器になるにはもう少し時間が必要よ。
今回向こうが慌ててやろうとしている申請・・・おそらく明日の朝一で通るでしょうね。
通ってしまえば、すべては合法・・・罰する事は不可能よ。その前に、すべてを終わらせます。」

「だから、どうやって?」

「申請が通るのは明日の朝一なのよ。この証拠を協会本部に送って、逮捕状を取ります。
おそらく事の大きさから、懸賞は人としては最高額がでるわ。
申請が通るまでは、犯罪者・・・通ってしまえば、こちらが向こうに粛清されてしまうわ。その間の数時間が勝負ね。」

美智恵はそういってパソコンの方を向くと、エンターキーを押した。












病院から戻った西条は、胸のムカつきを解消するために現場へ戻り、その足で警視庁へ向かった。
証拠品を押収してある倉庫へ、“特権”を使い入り1つの結論へようやく辿り着いた。
不十分な証拠であるが、確証はある。
しかし、法的には何の効力も無い・・・




僕の知らない大きな事件を、横島君は追っていた・・・・・




西条は警視庁内にある霊能者用特別留置場へと向かう。
房のあちこちに封印がなされてあり、ここでは霊能力を使う事ができない。
西条は横島が収監されている房へ行くと、声をかけた。

「横島君。」

横島は留置所のベットに横になったまま壁を向いている。
彼の耳には西条の声は届いていない。
なぜ注意を促さずに、そのまま美智恵に連絡してしまったのだ。
シロに聞かれたら、彼女がどういう行動にでるかは判っていたはずだ。
それなのに、なぜ自分は報告だけに重点を置いてしまったのだ。
血を流すシロの姿が、頭の中に浮かぶ。
そして悲しんでいるだろう人たちの姿が。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・先生は知っていたのか?」

西条の言葉が、横島に届く。
失笑したかのように、肩が一瞬揺れた。

「なぜだ・・・・僕はそんなに頼りにならんのか?」

横島は起き上がり、ゆっくりと西条の方を向いた。
横島の顔を見て、西条は顔を顰めた。

「こっぴどくやられたな・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・シロはもっと痛かった・・・・・・・・・・・・・・・たぶんおキヌちゃんも・・・・・・
けどよ、一番痛ぇって泣いてんのは美神さん・・・令子なんだよ。てめぇにそれがわかんのか?西条警視正様よ。」

「僕だって判っている・・・・・つもりだ。」

「ざけんなよ・・・なんで隊長がテメーに何もいわねーか・・・・それさえ分からねぇんじゃどーしよーもねぇな。」

横島は吐き捨てるようにいうと、再びベットに横になって背を向けた。
横島の言葉に反論できない西条は、ただ拳を固く握り締める。

「南極行ったとき、テメーは世界中を敵に回す覚悟でいった・・・・なにかを許せなったからだろ。
『ジャスティス』なんてぶら下げてるけど、テメーの正義ってなんだ?ICPOオカルトGメン日本支部長って名の官職か?
随分と大物に成り下がったな・・・・・『ジャスティス』が泣いてるぞ、壁乗り越えられねぇほど権力で太りやがって。」

それまで大人しく聞いていた西条だが、顔を紅潮させ額に井桁を浮かべた。

「大人しく聞いていれば、調子にのりやがって犯罪者が・・・・看守!!!看守はいるか!!!」

英国紳士という自負さえかなぐり捨て、西条は叫んだ。
西条の剣幕に、看守が慌てて駆けつける。

「ど、どうかしましたか?」

「コイツを特別取調室につれていけ!今から僕自身の手で取り調べる!!!」

「しかし、今日の取調べは終わってますし・・・」

「こっちの調べはこれからだ!!!早くしろ!!!!!」

勢いに吊られるように、看守は鍵を取りに戻る。

「僕は1課みたいに甘くはないぞ!」

西条は、背中を向けている横島に向かって吐き捨てた。







逮捕時と同じ手錠で繋がれ、横島が取調室に連行される。
書記官が先に入り、背中を向ける。
横島の隣には、制服の警官が2名ほど付いたままである。
数分遅れて、西条が入ってきた。
手にはビニールに入った証拠品を持っている。
無造作に、机の上に置いた。

「さて、始めようか。」

そういって西条はイスに座った。
コートも背広も着たまま、無造作に座る。
身嗜みに気を使う西条をここまで怒らせたのか・・・制服の警官は横島に同情すると、退室していった。

「1課の調書を読んだ。同じ事言ってみるか?」

手を顎のところに組み、西条は横島にそういった。
返事の代わりに、鼻で笑いそっぽを向いた。
まともな取調べを受けたワケではない。
時間をフルに使ったタダの私刑だった。
調書はあらかじめ作成してあり、横島に判を押させるために気絶するまで暴行をしたのである。
弁護士などがその件に気がつくであろうが、その前に申請を通し実験で消す。
大方そういう図式であったのだろう。
慣れないヒーリングでほとんどの霊力を使い果たした横島は、さすがに今回ばかりはケガの治りが遅い。
お情けで貼られているガーゼから血が滲んでいた。
何もしゃべらない横島に、西条の補佐官が掴みかかる。

「カッコつけるのもいいかげんにしろ!君のせいで霊能者がどれだけ迷惑していると思ってるんだ!」

西条が補佐官の手を押さえると、横島は埃をとるのようにGジャンを払った。
西条は溜息をもらし、証拠品の袋を開けた。

「上着を脱がせろ。」

西条がそういうと、補佐官は横島のGジャンを乱暴に脱がせる。

「立たせろ。」

襟首を掴み、だるそうにしている横島を無理矢理立たせる。

「着けろ。」

革製の横島のホルスターを渡す。
横島は渋々言葉に従った。
西条は袋を開け、パイソンとブローニングを取り出す。
シリンダーを開け、中の弾の有無を確かめる。

「上着を着せろ。」

そういいながら、ブローニングの薬室も確認する。
空なのを確認すると、横島に渡した。

「どっちで殺った・・・どっちでどういうに殺した・・・・」

西条の目が鋭さを増す。
横島はブローニングをホルスターから抜き西条に向けると、机の上に置いた。

「知るかよ・・・・・弾道検査でもなんでもしてあるんだろうが。」

「そっちも渡せ。」

西条に言われ、ホルスターに入れてあったパイソンを置いた。
袋を開け、実包の詰まった弾装をブローニングに入れた。

「自分で殺った相手もどうやって殺したか分からんか・・・壁を越えすぎだよ、貴様は。」

パイソンのシリンダーを開け、一発ずつ実包を込める。

「たかが賞金稼ぎに、予備弾多すぎじゃないのか?一人で戦争でもやるつもりかね。」

スピードローターと弾装の入った袋を、横島の目の前で振った。

「どうだ横島・・・・・・・・・・・・」

西条は銀の弾丸が入ったパイソンを、横島の額に当てた。

「いや横島君・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうだ、壁を乗り越えてみせたぞ。」

西条はそういって笑った。
呆気にとられていた横島は、思わず苦笑した。







                                                      SEE YOU GHOST SWEEPER.......


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  次回予告



横島       「さて今回は真面目に予告をやりたいと思う。
           なぜ真面目にやるかといえば、そろそろ最終回も近いからである。
           なぜ最終回が近いと真面目になるかといえば、次の主役にもなりたいからである。
           なぜ次の主役もやりたいかといえば、主役をやれば夢がかなうかもしれないからである。
           なぜ主役をやれば夢がかなうかというと、主役は好き放題できる可能性もあるからである。
           なぜ好き放題やりたいかというと、武道館で水着の美女にもみくちゃにされて
           【ジャニー・B・グッド】が歌いたいからである。」

令子       「ほぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

横島       「ほぉ〜〜〜と言われても、やりたいものはやりたいのである・・・・あれ?
          なんすか?その変形しまくった神通棍は?
          シロ・・・なんだ?そのバカデカイ霊波刀は???
          タマモ・・・・ちょっとその狐火デカくない?
          小竜姫様??逆鱗に触れようとしているその手はなんスか?
          おキヌちゃん・・・・・・・・・ちょっと・・・オ、オーラが黒いよ・・・・・・・・・・・・・
          ちょっと待って・・・ねぇみんな、話そうよ。話せば判る!!!」






           【髑髏状のキノコ雲】








西条       「次回第10話【ゲットオーバーザウォール後編】・・・次のシリーズの主役は僕だな・・・うん。」





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