ザ・グレート・展開予測ショー

The show must go on(3)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/11/13)

その女性はただ涙を流していた。
溢れる感情を拭いもせずに。
それは戦士として長い間封印し続けてきた感情であったのかも知れない。
やがて震える小さな声で、ごめんなさいと彼女は呟いた。

『ごめんなさいね、雪之丞。』

ある日の光景がその言葉に自然と重なる。
彼女が悪いことなど何もないのに、と雪之丞は思った。

やがてエミリアがベッドに腰かける雪之丞にしなだれるようにもたれかかると、初めこそ身体を
堅くした雪之丞であったが、やがてその美しい黒髪を掌で優しく捉える。
雪之丞の胸に顔を埋めるようにして泣くエミリアは、それでも必死に声を押し殺していた。
こういうのは、と雪之丞は思う。
こういうのは横島の役目なんだけどな。
やがて泣きつかれたエミリアをベッドに寝かせ布団をかけてやると、ジャケットの中の携帯
電話を手に取ったのだった。





エミリア・アンドーが目を覚ますと、傍らに雪之丞の姿はなかった。
視線がなにげなく男の姿を探して漂う。
ふと木作りの机の上に何か光るものがあることに気付く。
エミリアの持ち物ではない。
それはガーネットを金であしらったネックレスであった。
不思議に思いテーブルまで歩きそれを手に取ると、その下に紙に殴り書きしたような手紙が書き
残されていた。



嫁の土産のつもりだったが、よかったら宿代に貰ってくれ。
あんたにはよく似合うと思う。
伊達



愚直な男だ、とエミリアは思った。
女に贈り物をするのに嫁の存在など示唆するものではない。
その宝石を微笑を浮かべながら見ていたエミリアであったが、町の喧騒に気付き、奇妙に思って
窓から外を見遣る。
すると人々が皆ある方角を見ながら口々に何かを叫んでいる。
皆が指さす方角にあるもの――――リドルロジクスの研究施設。
エミリアは急いで黒いスーツに武装をすると、慌てて一階の扉から表通りに出る。
人々と同じ方角を見れば、リドルロジクス社の広大な施設が煙を吹いているのが見える。
事故だろうか、新たな実験だろうかと人々は噂しあっている。
しかしエミリアにはわかっていた。

「雪之丞さん・・・・・。」

その男が自分の無念を晴らしに行ったのだと。

「エミリア・アンドーさんですね?」

その時、背後からエミリアに声をかけるものがあった。
びくりと身を震わせ、大きく開いた胸に手を差し入れ、ホルスターに手を掛けながら振り返ると、
そこには黒髪をオールバックにした、どこか魅力的な顔をした東洋人が立っている。
男はエミリアのつま先から頭までを順にゆっくりと眺め、一度胸部で視線を留めてから、不意にその言葉を発したのであった。

「美しい・・・・。」

「はい?」

「なんて美しいチチ、いや美しい人なんだッ!!!
あなたに会えただけでもノージェリアに来た甲斐がありますッ。
こうして出会ったのも何かの縁、というか寧ろ運命ッ。
さぁ、一緒にお茶でも飲みながら二人の今後について話し合おうじゃないですか。」

男がどこか手馴れた風にエミリアの手を取りエスコートしようとした時、不意に綺麗な声が
割って入る。

「横島さんッ!そんなことしてる場合ですかッ!!」

金髪の美しい少年が横島と呼ばれた黒髪の男に向かって何事かを怒鳴り散らしている。
少年の後ろには大柄な男がのっぷりとした身体で、なにやらはらはらとその光景を見ている。

「五月蝿いわいッ!
美形が名刺代わりの貴様と違ってこっちは一期一会に命をかけとるんじゃッ!!
邪魔するなピートッ!!!」

「こ、この人は・・・・もうすぐ子供も生まれるというのに。
いい加減にしないと令子さんに言いつけますよッ!!」

ひ、卑怯なとつぶやきうなだれる男とため息を吐く金髪の少年をエミリアはかつて目にした
ことがあった。
それはICPOの資料にあった顔写真においてである。

「横島忠夫さんとピエトロ捜査官ッ。」

二人の名前を叫んだエミリアに対し顔を見合わせる二人。
金髪のピートがエミリアに向かってまず口を開く。

「僕らのことがわかるなら話は早いですね。
僕らは伊達雪之丞という日本のGSを探しています。
アンドー捜査官のところでお世話になっているということで電話があったのですが・・・。」

それを聞き、済まなそうに俯くエミリア。やがて言い辛そうに口を開く。

「すみません・・・。
私がベッドで寝ている間に雪之丞さんは単身リドルロジクス社に乗り込んでいったみたいなんです。
私が目を覚ました時にはもう、隣に雪之丞さんの姿はなくて・・・・・・。」

その時、ピートの傍らから強力な霊気が噴出し、エミリアは思わずその場に崩れそうになる。
そこにはオールバックにした黒髪を逆立てる横島の姿があった。

「・・・・ベッド?・・・・・・隣?・・・・・・寝ている間・・・・・・・・だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

強烈な覇気と共に横島から圧縮された気が放出される。

「あの野郎・・・俺でさえ最近は自粛しとるというのに・・・・。
ふッふッふッふ。
見とれよ、雪之丞。
必ず嫁さんの前に突き出しちゃるッ!!」

ふははははははといった哄笑をあげながらリドルロジクス社に向かって走り出す横島。
待ってください、といって慌てて後を追うピート。
後にはエミリアと大柄な男だけが残っていた。

(ガイドの人かしら・・・・・・?)

彼女には知る由もないが、タイガーはエミリアが自分の名を呼んでくれることを今か今かと
願っていた。

(わっしは・・・・わっしは・・・・・・・・・。)

そしてそれが敵わぬことだと悟ると、タイガーは心の中で独り涙していたのであった。





『侵入者ありッ。
職員はマニュアルβにしたがい緊急行動に移れッ!!
繰り返すッ。
侵入者ありッ。』

けたたましいサイレンの音が響き渡る中、リドルロジクス社の研究施設はあわただしく人員が
移動している。
そこかしこで爆音が起こり、施設が破壊活動に遭っているのである。
武装した警備兵が大慌てで右往左往している。
現場はさながら戦場のようであった。
しかし施設の人員6000に対し戦争を挑んでいるのは、たった一人の男なのだ。

伊達雪之丞は手当たり次第に施設を破壊しながら疾走していた。
辻切りのようなもので、無目的な雪之丞と違い施設を守る立場にある彼らは持ち場を拡散され
思うような行動が取れない。
そもそも雪之丞を補足することすら難しいはずである。
魔装し、目にしたコンクリートの建物に霊波砲を放とうとした雪之丞は不意にその姿勢を低くした。

ガキキィン。

今の今まで雪之丞の頭が位置していた場所を斬激が横切り、コンクリートを抉るッ。

雪之丞が振り返ると、そこには両手にナイフを逆手に持った、陸戦兵士たちの姿があった。
その中のリーダー格らしい男が、雪之丞に放ったナイフを眺めながら、ほうと感心したような
声を出す。

「お前は霊学迷彩に反応できないと聞いていたが・・・・・?」

彼らが纏っていたのは昨夜雪之丞が不覚を取った迷彩服であった。
雪之丞は面白くもなさそうに応える。

「同じおもちゃにいつまでも振り回されるわけにはいかねぇよ。
気配があろうがなかろうが、人が動けば空気が揺れる。
そういうもんがあるとわかってりゃ、対応は難しくは無ぇ。」

「ふん、化け物め。だがその余裕もここまでだ。自分の肩口を見てみろ。」

雪之丞が言われたように己の肩口を見ると、そこには一筋の切り傷が走っていた。
先ほどの一撃は、堅牢を誇る雪之丞の魔装に傷をつけたのである。

「このナイフは神剣と言われる刀剣類の心霊メカニズムを解析して作られた人工の霊刀だ。
貴様の魔装術をも切り裂くことが出来るッ。
加えて我々は薬物と強力な呪術コントロールとで人外の瞬発力を備えた超人部隊『BOW』ッ!!
伊達雪之丞の厄介さは銃弾も通さぬその装甲にある。
魔装のない伊達雪之丞など恐るるに足らんわッ!!」

その言葉にぴくり、と雪之丞のこめかみが震える。

「ほう、なるほど。
魔装がない俺なんぞ・・・・・・ねぇ。」

すると、雪之丞の魔装が解け赤銅色の鎧が脚部だけに集中しレッグアーマーのように膝から
下を覆った。
包帯を巻いた裸の胸部がそのまま露出している。

「これでいいか?
銃弾だろうがナイフだろうがお望みどおりだぜ・・・・・?」

馬鹿め、といって『BOW』のリーダー格が手に持つナイフを振り上げたその瞬間、既に雪之丞は
彼の目の前から消えていた。
きょとんとして振り上げた腕を所在なげにするリーダー格。

「隊長、後ろですッ!!!」

男が振り返るのと彼の顔に赤銅色をした踵がめり込むのは殆ど同時であった。

「な、なんでぃぇ、ぶぎゃ・・・・・・。」

顔を潰され無様に地面に沈む隊長と対比するように、雪之丞は重力を感じさせない足取りで、
スと地面に立つ。
さながら宙に舞う一片の羽根のように。

「部分魔装、『赤い靴(レッドブーツ)』。
来いよ。俺はまだまだ踊り足りねぇぜ?」

超人部隊『BOW』は本当の超人と言うものを思い知ることになったのだった。





「報告します。
『BOW』隊は全滅ッ。
ターゲットは尚施設に深刻な危害を加えながら移動を続けてい――――。」

「人造魔族たちを解き放て。」

「は?しかしまだ所内には非武装の職員が・・・・・・。」

「かまわない。
どうせICPOに目をつけられた時点で貴重なサンプルや実験体は別の場所に移送している。
伊達雪之丞が今日ここを襲撃してきたのは彼が愚直だからではないよ。
我々が証拠を隠滅してしまうリスクを考えたからだ。
であれば、証拠は本人に隠滅してもらえばいい。
まぁどっちみち、リドルロジクスの看板はもう使えないしね。」

窓から戦場のような施設を見下ろすコヨーテは感情を込めない声で呟いた。

「『戦争の宗教を持つ人間にとって、その最高の価値は闘争である』」

「???」

「ディッキンソンの言葉さ。
雪之丞クンはどちらかと言えば、僕らの側に近いのにねぇ。
彼を例の場所に誘導するのも忘れないでくれよ。」

コヨーテはクリスマスの朝を待ち焦がれる子供のように、新しいおもちゃの到着を待っていた。




派手にやってるなぁ、と横島は人事のように呟いた。
ややあって施設にたどり着いた四人は混乱する研究施設の入り口で立ち尽くしていた。
入り口の扉は大きくひしゃげている。

あの馬鹿は正面から入ったのか。

一同は頭を悩ませていた。

その時、横島たちの前に体長5メートルはあろうかと言う巨大な獣が飛来する。
地面に地響きを立てて降り立った怪物は人の顔、ライオンの身体、蛇の尾を持ち、身体の至る
ところが鋼鉄で補強されていた。

「『スフインクス』か。またやっかいなものを・・・・。」

ピートがその姿を見て苦々しく口を開く。

「『スフィンクス』って、神話の・・・?
この圧倒的な魔力・・・・・・。
人間が太刀打ちできるレベルの魔獣じゃないじゃない・・・・・。」

口を手で覆い蒼い顔をして後ずさるエミリアの前に、スと横島が立つ。
 横島は右手を大きく前に突き出し開くと、そこに霊力を集中する。

 「ハンド・オブ・グローリー、モード・ランス」

 横島の手には【槍】の文字を冠した宝玉が一瞬輝き、その手には黄金色をした長柄の巨槍が
握られていた。
 ところどころに飾り文字のようなものがあしらわれたその霊波槍はもはや実体のような現実感を
備えている。
 
 「な、なんていう霊力・・・・・・。」

 エミリアの呟きが大気を振るわせる一瞬の間に、スフィンクスの霊気中枢は横島によって完膚なき
までに破壊されていた。
 断末魔の声を上げる間もなく空気中に霧散する魔獣。

 「人造魔族は霊気中枢への攻撃に弱い。
こいつみたいな量産型は知能も低いから倒すのはそう難しくはないんだ。
しかし、一撃で倒してしまうのは横島さんと雪之丞くらいのものだろうけどね。」

ピートが苦笑しながらエミリアに説明する。
そう難しくはないというのは、あれほどの出力を持った霊撃を放ててのことではないだろうか、
とエミリアは思わずにはいられなかった。

「・・・・・どういうことだ・・・?」

横島の声で一同がその目線を目で追うと、多種多様な姿をした怪物たちが職員や警備兵と見られる
もの達を無差別に襲っていた。

「・・・・・っち、ふざけた奴らだぜ。」

横島はランスを展開したままそれら魔獣に切り込んでいく。
ピートも両手に霊波を集中しながらその後に続く。
タイガーは・・・・口をあんぐりと開けて驚愕していた。

(やっぱりガイドの人なんだわ。)

エミリアの疑問は確信へと変わっていったのだった。




 何かの実験場なのだろうか。
 ドームのような広い施設の中央に、その二人は立ち待ち人を待っていた。
 やがて、ドームの扉が無造作に破壊され、一体の巨大な獣が施設内に投げ込まれる。
 獣は床につくや否や空気中に霧散した。

 「よぉ、約束通り来てやったぜ。」

 赤銅色の鎧に全身を包んだ男の姿に、白衣の男はにんまりと笑みを浮かべたのだった。





(続)

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