ザ・グレート・展開予測ショー

バベルは紅く燃えている!〜その1(絶チル)


投稿者名:黒土
投稿日時:(05/11/12)


 ここはバベル内のオフィスルーム、『ザ・チルドレン』現場運用責任者・皆本光一がデスクワークに励む場所。
手のかかる子供達のためか、彼は今日も大量の書類と格闘している。


「ふう・・・これで半分くらいだな。」


約半分の書類を整理したところで一旦手を止め、机の上にあったコーヒーを一口すする。
彼はホッとため息をつくと、引き出しから1枚の書類を取り出すした。
右手にコーヒーのカップを持ったまま書類を眺める皆本、だがその表情はどこか暗い。

と、その時。


「おーす、皆本。ちゃんと仕事やってるかあ?」


オフィスのドアが開き、元気のいい声と共に薫たち3人が入ってくる。
突然のことに慌てて書類をしまう皆本だったが、その不振な様子をバッチリ見られてしまっていた。


「なんや?皆本はん、今なんか隠さへんかった?」

「え・・・?いや、別に。」


葵の言葉に焦る皆本を見て、薫がうっすら笑みを浮かべる。


「まあまあ、あたし達もガキじゃないんだから。
 男の欲望の一つや二つ、どーんと受け止めてやるぜ〜?」


ニヤニヤしながら迫る薫に皆本の焦りはつのる。


「お、おまえ達には関係のないものだ!
 まだ仕事が残っているから出て行ってくれ!」


そこまで言ってハッと我に返る皆本だったが、すでに手遅れ。
笑顔の種類が変わった薫たちを見て寒気が走る。


「せっかく様子を見に来てやったのに、そういう態度を取るのか・・・」

「仕事中にやらしい物見てた上に、ウチらに当たるなんて最低や!」

「本当に最低ね、よっぽど際どい趣味のものでも見てたのかしら?」


今そこにある危機。
そして皆本は、身に迫る危険と趣味の潔白を同時に解決できる手段を選んだのだった。


「わかったよ・・・ほら。」


皆本は先ほど引き出しにしまった書類を取り出し、すぐ横にいた薫に手渡す。
渡された物がただの書類である事がわかり、薫はちょっと面白くなさそうな顔をしている。


「なんだ、仕事中にやらしい写真を見てたわけじゃないのか。
 なになに・・・『ガソリーナ・パイロキネシス・超度不明』・・・?」


その書類に書かれていたもの、それは何者かのプロフィールらしき文章だった。
とはいえ写真が付いている訳でもなく、そこまで詳しい情報が載っている訳でもない粗末な物。
不思議そうな顔で書類を読んでいる3人に対し、気の乗らない様子で皆本が口を開く。


「それは今日、上から配られた資料だ。
 記載されている人物のコードネームは『ガソリーナ』、パイロキネシスを持った・・・殺し屋だ。」


皆本の口から出た『殺し屋』という言葉に反応し、3人は皆本の方に向き直る。


「その『ガソリーナ』が都内に潜伏しているという情報があってね・・・
 職員全体に注意を促している、というわけさ。」


すると突然、薫が大声と共にイスに足をかけポーズをきめる。


「おーし、つまりはあたし達がその殺し屋をとっ捕まえればいいワケだな!」


だが、そんな薫に対して皆本の表情が変わる。


「バカな事を言うんじゃない!
 ・・・こいつは高度なESPを持っているかもしれない『殺し屋』だ、
 そんな危ないマネをさせられるわけがないだろう!」


予想外の皆本の反応に呆然とする薫。
葵と紫穂も同じ様に驚いている様子であった。


「・・・すまない、つい大きな声を出してしまって。
 でも、自分から危険に飛び込んでいくような事はやめてくれ。」


いつのまにか皆本の表情は穏やかになっている。
そんな皆本に向かって、薫は少々照れくさそうにうなづいた。


「ところで、そんなことどうして話す気になったの?」


紫穂が皆本に尋ねる。
すると、皆本は紫穂の方を見て一言。


「・・・言わなくても透視る気だっただろう?」


皆本がそう言うと、紫穂はしれっとした表情のまま手を引っ込め、にこやかに微笑んだ。





 次の日、休日とはいえ特にやることも無く自宅待機中の薫。
母も姉も仕事で留守のため、1人で暇を持て余しているのであった。


「ヒマだ・・・」


ポツリと一言。
すると薫は携帯電話をポケットにねじ込み、家の外へと歩を進める。
一瞬、自宅待機という言葉が頭をよぎったが、


(ケータイ持ってりゃいいか。)


と思ったのでそのまま出かけることにした。

休日の公園。
キャッチボールをする者、遊具で遊ぶ者、ただ散歩している者、さまざまな人の様子が見える。
風は少し肌寒かったが、暖かい日の光が差すなかではむしろ心地よく感じられた。
公園前の自販機にはスタミナドリンクが無かったので、薫は缶コーヒーを買いベンチに座る。


「う、冷たい・・・
 ホットにするべきだったか。」


コーヒーがあまりに冷えていたため、つい声が出る。
と、そんな薫に話しかけてくる人物が1人。


「それ、温めてあげようか?」


いつから居たのか、薫の座ったベンチの反対側にその声の主は座っていた。
目のあたりまで深く被った帽子からセミロングの赤い髪が覗く少女、首にはチョーカーが光る。
年は自分と同じくらいだろうか。

すると、少女はおもむろに帽子の先端を持ち上げて、薫の持っていたコーヒーを見つめる。


「熱っ!」


思わずコーヒーを落としてしまう薫。
さっきまで冷えすぎだったはずなのに、こぼれたコーヒーからは湯気が上がっている。


「あ、ごめんなさい。ちょっと温めすぎちゃったわね。
 もう一本買ってくるから待ってて。」


申し訳なさそうに席を立とうとする少女を薫が引き止める。


「いいって、これくらい。
 それより今のは・・・」


再びベンチに座った少女は、薫に向かってコクリとうなづいた。


「うん、私、エスパーなの。
 といっても今みたいに飲み物を温めるくらいしかできないけど。」


そう言うと、少女は薫の左腕に視線をやる。


「そのブレスレット、あなたもエスパーなんでしょ?」

「え?あ、まあ、超度2のサイコキノです・・・」


棒読みで質問に答える薫、ちょっと焦ったのか無理矢理話題を変えようと試みる。


「えっと、あたしは明石薫。あんたはなんて名前?」


薫が名前を聞くと、その少女は一瞬間をあけて答え始めた。


「・・・燐。そう、私は紅月燐(べにづき りん)、て言う名前よ。」


僅かながら、自分に言い聞かせるようなそぶりが気になったものの、薫はすぐにそのことを忘れた。
薫は燐と名乗る少女に続けて問いかける。


「ところで、ここで何やってんの?
 あたしはヒマだったからブラブラしてただけなんだけどね。」


すると、薫の言葉に燐は少し寂しそうな顔をする。


「私も・・・特にやることもないし。
 友達もいないから・・・ここで時間を潰してたの。」


ふと顔を上げ、公園で遊ぶ子供たちを見つめる燐。


「物心ついたときからこの力を持ってて・・・珍しがる人はいたけど、いつもそれだけ。
 年の近い子達は怖がって近寄らないし、そのうち会わせてももらえなくなったから・・・」


燐の言葉が薫の胸に突き刺さる。
自分も強力な超能力を持って生まれてきたために、親からも恐れられ、幼稚園すら行けなかった。




(でも・・・)




「だああああああ!」


突然響いた薫の雄たけび。
あまりの事に燐は目を丸くして驚いている。


「そんな風にウジウジしたって仕方が無いって!
 友達が欲しいならあたしがなってやるし、1人じゃ少ないなら他にも紹介してやるよ。」


薫の言葉に、燐は引き続き呆然と固まったまま。


「えーと、葵と紫穂・・・それから皆本・・・はちょっと違うか?
 学校の友達も足して・・・あと局長は・・・論外だな。」


何やらブツブツと考え込んでいる薫。
すると燐が立ち上がり、薫の目の前まで来るとそっと手を取った。


「ありがとう、薫ちゃん。」


帽子で目線がわかりにくいが、その下に満面の笑みが浮かんでいるのがわかる。
そんな状況に薫もかなり照れくさそうだ。




(でも・・・葵と紫穂だけじゃない、今は皆本もいる、局長も、みんなも。)




その幸せを、同じ境遇のこの少女に伝えてあげたい。
薫の心はそんな気持ちでいっぱいだった。
そして、その一途な思いは、おそらく彼女に届いたことだろう。


「ねえ、薫ちゃん。
 友情を深める方法を知ってる?」


そう言う燐に、薫は首を横に振る。


「このあいだTVで見たの、2人で殴り合うと友情が深まるんだって。」


冗談のようだが、燐のわずかに見える目は本気だ。意外と天然なのかもしれない。


「おいおい・・・昼間っから公園で女と殴り合うわけには・・・」

「ダメなの?私、体力には自信があるから1時間は大丈夫だと思うんだけど・・・
 じゃあ、夕日に向かって走るほうにしようか?」


いつの時代の青春ドラマだよ・・・と、薫は思った。
が、しかし。


「じゃあ、いくよ!」


そう言うと、薫が返事をする間もなく、燐は猛スピードで走り出す。
薫の腕をつかんだままなので、強制的に付き合わされる羽目になってしまった。
しかも、華奢な見た目に反して燐は腕力も脚力もかなりのもの、意外に肉体派なのかもしれない。


「ああもう、こうなりゃトコトン付き合ってやる!」


覚悟をきめ、負けじと全力疾走する薫。
まだ昼間なので夕日などあるわけも無く、果て無き暴走を続ける2人。
結局、2人は3時間近くも疾走していたのであった。


そして3時間後。



「・・・な、なかなか・・・や、やるな・・・」

「か、薫ちゃん・・・も・・・」


元の公園に戻り、息も絶え絶えに座り込んでいる2人。
何か間違っているような気もしたが、一応友情も深まったかもしれないのでよしとする。


「あ、私そろそろ戻らなきゃ。今日はありがとう、薫ちゃん。
 また今度、お友達を紹介してね。」


スッと立ち上がり、笑顔で手を振りつつ去っていく燐。
だが、後ろを向くほんの一瞬、燐の顔にあのときの寂しそうな表情が見えた気がした。
それは初めて出来た友達との別れを惜しむ表情、おそらくはそうなのだろう。

ふと、ベンチの脇に落ちていた空き缶が薫の視界に入った。
先ほど落としたコーヒーの缶をそのままにしておいた事を思い出し、くずかごへ放り込む。

その時、何故か昨日見た書類の文面が脳裏をよぎる。



『・・・殺し屋・・・パイロキネシス・・・都内に潜伏・・・』



思わず、燐の帰って行った方向を見る薫。


「まさか・・・ね。」


つまらない考えをかき消しつつ、薫は自宅へと戻っていった。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa