ザ・グレート・展開予測ショー

俺達もホントの


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(05/11/10)

秋の寒空の下、マフラーをしたおキヌちゃんが店先で大仰に謝っていた。
「す、すいません!こんなに大量にお砂糖買ったのにお財布を学校に忘れちゃって」
人の良さそうな女性店員の前で頭を何度も下げてみせる。
「いいっていいって。学校の帰りに払ってくれればいいからさ」
気にしないでいいよと身振りで示した。
「で、でもぉ」
「お嬢さんは六道さんトコでしょ?なら信用出来るからさ」
「じゃ、じゃあ直ぐにお金取ってきますから!」
「いいって。今日は学園祭でしょ?おそらくは軽食喫茶やって大繁盛なんじゃないの?」
読みが深いと思うかもしれないがこの商店街、六道女学校の恩恵をかなり受けている事もあり、学校の行事にはチェックを入れていた。
実際の所、この店も今日・明日が学園祭で有ることは承知した上で若干余裕を持って
食材も揃えられていたのである。
「まったく、アイツの読みは凄いわねぇ、親父顔負けよ」
この女性店員は、そこまで実家の商売に力は入れていない。
たまたま休日ですることもないので、店番をしているだけに過ぎないのだ。
アイツと呼ばれた弟君は高校生ながらなかなかに的確な読みをしていた。
おキヌちゃんはクラスのみんなとコスプレ喫茶を開いていた。
巫女に鎧袴美女に特攻服にその他諸々は仕事着兼用なので、コストはかかっていない。
時勢に乗って大繁盛である。
そうなると不心得者も招かざる客としてやってきそうな物だ。
事実一流女子高にもなるとチケットがないと入れないシステムも作っている。
客は生徒の家族に限られているが、チケットの流出が数年前問題になった。
因みに六道はそのような限定システムはとっていない。
どなたでもどうぞとオープンにしているが。
『万一・生徒に手を出した場合、死よりも恐ろしい呪いをプレゼントをします』
と、数年前に書かれた看板が今年も校門に張り出されているだけである。
これ以上の抑止力を持った看板もないと作者は思う。
「おぅ。おキヌ、砂糖買ってきたか?」
特攻服のコスプレ、一文字が声を出した。
「えぇ!買ってきたわ。さぁ、営業再開よ!」
はりきってはいるが、息が切れているおキヌちゃんである。
「ちょっとお休みになられた方がよろしくてよ、氷室さん」
こちらは袴美人の弓が落ち着いてとジェスチャーをした。
「あ、じゃあ、お言葉に甘えます」
矢張疾走でやや疲れを感じていたのだろう。
忙しい教室の裏手で腰を下ろしたおキヌちゃん。
最近運動不足かなぁと考え、今度シロちゃんのお散歩に付き合おうかしら?と
とんでもないことを考えていた。

その犬塚シロ、ふと懐かしい顔を見たくなり、本日の散歩コースはかつてお世話になっていた駐在所に決定した。
「こんにちわーで御座る〜、駐在殿いらっしゃるで御座るか〜?」
すると何時もの通り、ちょこんとパイプ椅子に身を委ね、ストーブに鍋を置き、
なにやら料理をしている初老の駐在さんがこちらを見た。
山には冬の風情があった。駐在所の入り口は申し訳ない程度にしか開いていなかった。
「おぅ、シロちゃん、久しぶりだねぇ。今お菓子をつくってるところでね、お入りな」
「お元気そうで何よりで御座る!ははぁ、この甘い匂いは・・お汁粉で御座るな!」
シロも山の寒さを知っている。自分の体をよじらせる程度に扉を開け、
尻尾を振りつつ駐在所の中に入っていった。
先ほどまで運動をしていた彼女にとっては、暖房が炊かれている室内はやや暑い。
「ふぅむ。その様子だと先ずは冷たいお茶でもいれようかな?」
駐在さん、椅子から立ち上がると同時の腰のあたりを叩いている。
「あ、いいで御座るよ。お茶よりもお水がいいで御座るし、自分で取ってくるで御座るぞ、座って下されい」
ここは土地柄で井戸水も日本有数の名水として知られており、
最近は新規の酒造が点在する酒処ともしられるようになっている。
こくこくと喉を鳴らして一気にコップを空にする。
「いい呑みっぷりだねー、惚れ惚れするよ」
「なーにを言ってるで御座るか。お酒ならともかくで御座るよん」
「そりゃそうだな。あはは」
笑いながら近くに有る瀬戸物の皿に汁粉を取り出す。
「ほら、シロちゃんお食べな」
「はい!で御座る」
シロも甘味は好きなのであろう。はふはふと少し熱を冷ましながら餅を啄ばむ。
その様子だけで、満腹になりそうな駐在殿であった。
「あ!そーだ!お酒で思い出したで御座る」
「ん?まさかお酒を呑んでいるのかい?」
警察としては咎めねばならないのだが、いかんせん相手は人間でない。
「え?やだなぁ〜拙者にはお酒は早いで御座るよ」
と、箸を左右に振って否定する。
「この辺りは最近お酒を造る工場が増えたと言うのを美神殿から聞いたので御座る」
「美神殿・・?あぁ、シロちゃんがお世話になってる人だね」
「左様で御座る。で、ここいらに『清酒・美神』とゆー「ぶらんど」のお酒が有るとか」
普段なら直ぐに流すであろうニュースも自分の名前と合致するブランドが有ると知れば、
自他共に認める酒豪美神令子の脳裏に刻まれるのは当然の理である。
「あぁ!ちょっと待ってね。確かこの辺に」
「えっ!有るので御座るか?」
駐在所の奥にある戸棚を調べる。
この駐在殿もお酒は一通り以上に嗜むようで数本の一升瓶がシロの鼻が感知した。
「あー、有るにはあるけど」
無機質なラベルには「清酒・美神」とあるが、
「ありゃ、あとコップ一杯分で御座るか、残念!」
ここまで近づいたのになぁ、とため息をするシロがいた。
「確かにコイツはなかなか市場に出ない一品だからねぇ・・」
シロに釣られてか、駐在殿も深いため息を見せた。


あくびは伝播するが、ため息は伝播するとは聞いたことがないが。
「はぁーあー」
東京で思い切りため息をついたのが美神令子その人である。
自分の体の何倍もある大型デスクに頬をつけてだるそうにしていた。
「なによぉ。気持ち悪いわねぇ」
冬に備えてか最近やたら丸々としているタマモである。
最近は屋根裏だと寒さに耐えかねてか、暇な時は事務所に篭る事にしているタマモである。
「もしかして、まだ自分の名前のお酒が見つからなくてため息ついてるの?」
「えぇ、そうよぉー、何か文句有る?」
文句の一つでも言おうかと考えるタマモであるが、
「わからない事もないけどさぁー」
タマモまでため息が伝播した。
無理も無い事実がある。
その『清酒・美神』の存在を知ってから大体二週間ばかりであるか。
その存在を知った時、かなり忙しかったのである。
唐巣神父、ピートは勿論の事、雪之丞や不本意ながらエミにまで手伝ってもらっていたのだ。
漸く目処がついていざ買いに行こうとしたら、行き着けの店には最初から置いてない。
近在で一番大きなリカーショップにも置いてなったのである。
正確には売り切れていたのであるが。
「すいません。テレビ効果か、今まで全く売れてなかったのですが、今の所何処の店も在庫を切らしている状況でして」
そんな説明を受けたのが昨日であったりした。
人間、手に入らないとなると余計に手に入れたくなる心理が働く。
「ったく、別にいいじゃないの、そんなに日本酒が好きって訳でもないでしょ?」
「・・そりゃそーだけどさぁー」
「そんな事を気にするぐらいなら自分の格好を気にしたらどーなのよ」
この寒い中にも関わらず相変わらずのボディコン姿。
いくら室内は真夏状態とは言え、外を見れば冬は直ぐ其処。
見ているタマモも薄ら寒くなる。
「うっさいわねぇ、別にいいじゃないの?」
「ったく。そんなんだから、横島がちーっとも助平が直らないんじゃないの?」
「それは関係ないわ!あいつの助平は天然よ」
「そう、それじゃあ一生直らないのかしらね。奥さんは大変でしょうねぇ」
その言葉にいままでつっぷしていた美神が跳ね起きて机を両掌で叩く。
「あ、アンタには関係ないじゃないの!」
いきなり言葉を荒げたので、九つの尻尾が逆立つタマモ。
「そ、そりゃそうだけど・・美神さんにもそんなに関係がないんじゃないの?」
タマモの正論である。
「あ・・う」
言葉に詰るこの手の会話には純な美神令子であった。
「ま、まぁ、助平だけどアレで仕事はまじめだからね」
「うーん、それ以上にタフで運のいい男なのよねぇ、横島って」
的を得たタマモの答えである。
「そ、そうね。もしかしたら、今頃あのお酒見つけていたりして」
「・・・そこまでしつこいと感動するわね」
「あら知らないの?欲しい物ってずっと祈ってると手に入りやすいのよ」
「でも幸せの青い鳥は追っちゃ駄目とも言うじゃないの」
「幸せの青い鳥って確か・・妖精の隠語って聞いたことがあるわね。そういえば」
妖精と言えば・・。美神事務無所に勝手に居ついたのが妖精である。
「へー、そうなの・・じゃあ今頃鈴女がお酒を見つけてるとか?」
「まさかぁ!」
はははと笑って美神令子。あいつがそんな殊勝なわけがないとばかりに首を振った。
ところが、だ。
美神令子の直ぐ後ろにある扉から弱弱しいながらも叩く音がする。
「あら、噂をすれば、どーしたのよ、鈴女」
美神令子寒さには有る程度強いのか、何かを羽織る事も無く窓をあけた。
再びタマモの前身に寒気が襲ってきた。
「えっとね!近くにね、ちょっとマニアックなお酒ばかりおいてある酒屋さんがあったのー」
能天気に答えた鈴女。美神令子とタマモが顔を見合わせて。
「・・・こんな事もあるのね」
と、どちらともなくそんな言葉が漏れた。
「とりあえず行って見ますか、で何処なの、鈴女」
それが、路地裏にありながら結構大きめな酒屋で、酒以外にもそこそこ調味料を置いてある店だと言う。
外に出るのに、ボディコンでは寒いのでコートを一枚羽織った。
「タマモ、あんたも荷物持ちでついてきなさい」
「へ?どーしてじょーだんじゃ無いわよ」
「煩いわね!お菓子勝ってあげるから!で、鈴女その酒屋さんって歩いていける距離なのね」
「うん!シロちゃんなら3分ね」
「なら、10分強ね」
的確な計算であった。
お菓子に釣られたわけじゃないわよと心で呟くタマモの頭に疑問がよぎる。
「ね鈴女、どーしてあんたが美神さんの為に探し物なんかしたのよ?」
その答えは・・答えと言えるか。
「だって、あたしは青い鳥だもん」
答えになってないわねぇ、とタマモは一人ごちて。
・・・じゃあ横島の運はどうなったんだろう?との思考が頭を過ぎ去った。

その横島、本日は事務所に行く予定はなかった。
学園祭の後にあるのは学生にとっては未来を左右する中間がある。
横島もこのままではいかんと、例の眼鏡君の家で勉強を教わっている。
ご多分に漏れず、某国民的青狸漫画の半ズボン眼鏡君の例外を除いて眼鏡キャラは頭が良いのである。
「で、この式がX=○○で・・」
と、横島でも何とか理解出来る説明をしているから驚きであった。
今は小休止と言った所でお茶と煎餅を齧っている横島と眼鏡君と数人のクラスメイトであった。
「しかし、おめー学校の先生みたいだな、教師むいてんじゃないの?」
横島が悪気の無い心からの言葉が出た。
「何いってやがんだよ横島。気持ちワリィな」
そうは言ってもメガネ君の顔は笑っており他のクラスメイトもそれに賛同している節がある。
だが、幼馴染の女の子が。
「駄目よ、メガネは実家の家業を継ぐってきめてるんだもんねー」
「お、そうなのか?メガネ」
「うん。その積りさ。結構この仕事に向いてるとおもってんだ。俺」
「・・・ってお前その面じゃあねぇ」
横島とて大した面構えではないのだが。
「何よぅ。馬鹿横(島)。商売は顔じゃなくて誠意と金銭感覚よ、でしょ?」
今の処、恋人宣言はしていないが、この二人見てて応援したくなる腐れ縁なのである。
正直、不細工ではないが美人ともいえない。なによりこのメガネよりも背が高いのがネックになりそうだ。
二人ともやや気にしているそぶりがある。
さて、勉強に戻ろうかとした時に。
一回からメガネを呼ぶがする。
「ねーちょっとー可愛いお客さんが着てるんだけどさー、ちょっと降りてきてくれる?」
「んー、なんだぁーネェちゃん」
丁度階段から大声を上げている女性の声がする。
これに反応しない訳がない男。それが横島。
「メガネ、おめぇ姉ちゃんがいたのかよ!」
「あ、あぁ、そんな可愛くな・・」
否定しようとしたのだが、茶目っ気をだしたのか、幼馴染嬢。
「なによぉ。この商店街でもけっこう美人って有名じゃないの・・って馬鹿横ッ!」
二人を押しのけるようにして、姉さんを見に行く横島。
おかげで、メガネ君と幼馴染嬢が抱き合ってしまう形に。
案外横島の計算だったり・・するはずもないが。
「ったく、あのスケベは」
呼ばれたのはメガネなのだ。
「用事はなーんだ、姉ちゃん」
そういや、横島が失礼な事をしてないかなーと恐る恐る下に下りると。
「いらっしゃいませ、お客さま・・」
なんとその可愛い女性客が横島にしがみついてるのである。
お客様如何されたのですか?と声を出そうとするメガネであったが。
「うわっ!横島様っ!ここで何をされていたので御座るかっ!!」
横島もびっくりしている。
「し、シロどーしてお前、俺のダチの家にきたりんだよ?」
「へ?ここってせんせーのお友達の家なので御座るか?」
「御座るも何も・・ってこらっ、離れろシロッ」
「おいおい・・ひとんちの前でなにやってんだよぉ」
呆れ顔のメガネ君がいた。
「そ、そうで御座った。あ、実は拙者この店に「清酒・美神」なるお酒があると聞いてやってきたので御座るが」
「へ?清酒美神って」
横島も以前に聞いたことがある程度の認識であった。
つまりすっかり忘れていたのである。
幸いに、駐在殿は清酒・美神の空瓶を持っていたので製造元に電話をしてくれたのだ。
そして製造元は親切に幾つかの卸店を教えてくれたのだと言う。
その一つが・・このメガネ君の実家なのだという。
「清酒美神・・ですか・・確か・・」
店をぐるりと見渡すが、何処にも清酒・美神の一升瓶は見当たらない。
売り上げ伝票を確認しようとレジを弄ろうとした時、
曲がり角から、二人の女性が目に入った。
「すいませーん、ちょっとおうかがいしたいの・・・えぇ??」
シロがつけた泥を叩いていていた横島も驚いた。
「美神さん!タマモどーしてっ」
「よ、横島クン!それはこっちの台詞よ!なんでアンタがここにいるのよ!」
タマモも、シロに横島とばったり出くわす形になったので驚いている。
横島は再度、このメガネがクラスメートだと説明した。
その時、タマモが呟いたのは。
「青い鳥と悪運が揃ったのね。これは期待出来るかな?」
そう独り言をしながら、外の方を向くと。
「あっ!」
タマモが大声を出して。
「お、おキヌちゃんどーしたのよ!」
そう。この店はおキヌちゃんがお砂糖を買った店であったのだ。
「美神さん・鈴女ちゃんにタマモちゃんにシロちゃん、横島さんまで!」
この店に何度驚きの声が響いた事か。


さて。
メガネ君が美神令子に頭を下げている。
「申し訳御座いません。「清酒・美神」は販売ではなく、お店に卸すのみで仕入れておりまして・・」
つまりは、店にはおいてない、という事なのだ。
横島も含めて、全員が、がっかりしかけたのだが。
「ですが、直ぐ其処の・・」
三軒先にあるおでん屋をさして。
「あそこにはまだ在庫が有るとの事です、な」
と、幼馴染嬢に声をかけるメガネ。
それを受けてぽん!と手を叩いた幼馴染嬢。
「は、はい!そういえばまだ手付かずのがありました!美神さん・・でしたっけ。若し宜しければ!もう仕込みは・・」
家の玄関を開けると父親が仕込みをしている。
お酒も仕込みも出来上がってるとの報告を受けた。美神一向である。
「・・・おでんか」
美神令子が周りを見渡す。
おキヌちゃんは、洋食よりも和食を好む。
シロにはスジ肉がぴったりで。
タマモには巾着が喜ばれそう。
鈴女には大根のかけらでも与えれば喜びそうである。
なにしろおでんは自然素材な料理である。
横島は・・・
「はは、アンタは食い物ならなんでもOKでしょうねぇ」
鼻で笑う美神令子。
「そして、この私は清酒・美神と一緒におでん!決定ね!!!」
取り巻き連中もこの一言に喜んだ。
口々に
「有難う御座います!美神さん」
「おでん・・スジ肉とやらがあるので御座るか!上手そうで御座る!」
「・・やっと会えたわね・清酒・美神!」
「うふふ。あぶらあげー、餅巾着〜」
「やったねー。鈴女もおこぼれにあずかっちゃおーっと」
喜びを表していた。
暖簾を最後に潜った横島、ふとメガネの実家である酒屋をみると。
やっぱり、なんか良い雰囲気をかもし出しているメガネと幼馴染嬢である。
「ったくあいつ等ホント腐れ縁だな・・」
独り言を口にして横島。暖簾を潜る時に。
「・・・俺達も・・か」
心の中で。
【俺達もホントの腐れ縁だな】
と付け足した。
まだ早い時間ではあったが。
横島の鼻腔に美味なる匂いが充満していた。



FIN

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