ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment.〜 第8話


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/11/10)

美神美智恵が事務所に姿を見せたのは、昼過ぎの事だった。
監視の目を潜り抜けた様子も見せずに、散歩の途中で寄った・・・そんな感じであった。
おキヌに出された紅茶に口をつけ、世間話のように話しだす。

「かなりの大物がかかったみたいよ、どうやら手こずりそうね。」

「横島君が?それともママが?」

美智恵の言葉に驚くそぶりをまったく見せずに、令子が言う。

「たぶん二人ともよ。」

「そう・・・今回私の出番はあるのかしら。隠居生活は楽だけど、ストレス溜まるわ。」

窓の外に目を向けると、紅茶に口をつける。
安穏として監視のついた生活は、令子にとってストレス以外の何物でもないらしい。

「どうかしらね・・・なにせ横島君だからね。」

美智恵が微笑みを携えながらそういうと、令子は口の端を歪めた。

「まぁ・・・・ね」

途切れ気味に返した返事には、多用な表情が写っている。
彼女の真意を理解している美智恵には、それだけで十分であった。
時計の秒針だけが、音をたて時間の流れを示している。
その僅かな時間が、令子には耐えられなかったようだ。

「あ〜〜もぉ〜〜!!こういう腹の探り合いは、最近は横島君に任せているのよ!」

気短そうに令子が叫びを上げると、美智恵は一瞬だけ令子に視線を向けた。

「何がいいたいの?」

「どこまで突き止めたの?ハッキリ言って!」

美智恵はカップをソーサーに戻すと、小さく溜息をついた。

「政府筋は現時点では不明、まぁ関わっている企業からいずれ判明するでしょうけど。
陸自は陸幕長まで関わっているわ。内調は全部といっていいわね・・・・
今、内定している企業は、ヨーダ自動車よ。」

「ヨーダ自動車って、あの世界企業の?」

「そうよ。レース車両、自衛隊向け車両、公的車両、各開発と偽って霊能兵器の開発をやっているわ。
いずれも大金が動く場所ね・・・開発費といっておけば、誰も疑わないわ。どの開発も数百億が動くもの・・・・・」

美智恵があっさりといいのけると、令子は頭を抱えた。

「で・・・横島君はどこまで調べついてるの?」

「設計図のハッキングまでね、まぁこれはDrカオスがやったようなものだけど。
今日から物的証拠の回収に当たるわ・・・すでに試作品は完成しているみたいだから
・・・・・・・・・・・・・・・・・・けれどかなり厳しくなるそうね・・・・・」

美智恵の目つきが、かなり鋭くなる。
“ある意思”を込めているようだ。
美智恵の視線に押されるように、令子はイスに座り直した。

「わ、分かってるわよ。彼がいいというまで邪魔はしないわよ・・・」

「そ、よろしい♪」

美智恵はにっこりと微笑むと、再びカップに手をつけようとした。

『美神オーナー!大変です。』

天井から叫び声が上がる。
人工幽霊一号が、珍しく興奮したように叫んだ。

「どうしたの?」

『シロさんが、盗み聞きしていたようです。事務所を飛び出されていきました!』

「まずいわね、さっきの話を聞いたんだわ。」

美智恵も思わずイスから立ち上がっている。

「横島君のところに向かったんだわ。ママ、横島君の居場所分かる?」

「無理よ、警察の監視の目を抜けているんだから、彼から連絡してこない限り分からないわ。」

「こんな時にタマモはいないし・・・・・」

令子は頭を抱えた。
このままシロを放置しておいては、いままでの苦労が水泡に帰すどころか横島は殺人者のままである。
かといって、シロを捕まえるにしても自分らの手だけは難しい・・・ヘタをすれば横島の仕事に支障をきたし
彼が捕まってしまう可能性すらある。
無理に横島に連絡を取る事も可能だが、盗聴されている可能性もあり、この件に関わっているすべての
人間が罪を被る事になる。
しかし、考えるための時間は無いに等しい。
令子は電話に向かうと、受話器を上げダイアルを押した。

「もしもし美神令子ですけど、西条支部長をお願いできますか?大至急お願いします・・・」












ヨーダ自動車。
自動車業界世界第3位のシェアを誇る。
アメリカの大手自動車メーカーが、合併を繰り返し1位と2位をとっているものの
単独では間違いなく世界のトップである。
最近は、ヨーロッパの市場をより拡大するためにレースへの参加にも力を入れている。
国内では、自動車スキャンダルを起こした六菱に代わり防衛庁への納入も盛んに行われいる。

「まぁ大企業だしな・・・」

「ある意味楽だよな。」

清掃会社のツナギを着た横島と雪之丞は、簡単にヨーダ自動車関研究所に潜入していた。
関東研究所は主に自動車組み立て等の製品を組み立てるのではなく、レースや市販車、特殊車両等の
研究・開発を手がけていた。
横島と雪之丞はとりあえず潜入して、目星だけはつけて本格的な調査は陽が暮れてから・・・と計画していた。
極秘扱いのはずのレース車両の研究所にも楽に潜入できたが、第8ラボにだけは近寄る事さえ許されない。
警備がやけに厳重である。

「マズいのが来たな・・・」

窓の外を見た横島が、顔を顰める。
それに従うように、雪之丞も窓の外を見た。

「素人じゃねぇな・・・例のアレか?」

「おそらくな、どう見ても堅気じゃねぇよ。」

ヨーダ製の車で現れた3人の男たち。
3階から覗き見ても、体系からして技術屋の体型とは違う。
エレベーターが動くのを確認して、二人は階段へと身を交した。
エレベーターから3人が姿を現す、一人は顔に包帯を巻いている。
その顔に横島は見覚えがあった。
男たちは、カードをセンサーに通すと第8ラボへと消えていった。

「間違いねぇな・・・俺が顎を叩き折った奴だ。」

「ならここで間違いねぇな。」

「あぁ・・・ここだ。」

二人は掃除道具を抱えると、階段を降っていった。





一方、事務所を飛び出したシロは『ヨーダ自動車』と横島の匂いを頼りに後を追っていた。
東京支社ビル、販売店、工場、地図を頼りにヨーダ自動車の名のつく場所に現れては匂いがあるか、
まさに嗅ぎまわっている。

「先生・・・拙者が助太刀に向かうゆえ、早まったマネはしないでくだされ。」

東京中を駈けずり周り、彼女の足は次第に関東研究所へと近づいていく。





西条は警察と共同で、シロの行方を追っていた。
令子から連絡を受けただけではない。
シロを追う=横島の居場所 の公算が高いためである。
人海戦術でシロの行方を追う。

「捜索の人狼の少女、名前は犬塚シロ。外見年齢は16〜18歳くらい。
服装は白のカットソーに青いジーパン、白いスニーカー。ジーパンは左足をカットしている。
髪の毛は銀髪のロングヘアー、正面部の色は赤。
重要参考人横島忠夫の基へ向かう確率が高いと思われる。以上だ。」

パトカー無線でそう伝えながら、西条は代車のヨーダ製のパトカーを走らせた。







「あれだな・・・」

「あぁ。ヨーダを集中して嗅ぎまわってる。間違いない・・・・」

西条の報告を聞いている警察官がいる。
その視線の先には、ヨーダ自動車関東工場の塀の周りを鼻をひくつかせ歩いているシロがいた。
警察官は無線で本部に連絡しようと、肩の無線に手をかけた。
その手を封じる1本の手。

「本庁1課の南雲だ。もう少し泳がせよう、奴は横島と接触する可能性がある。」

1課の南雲である。
警察官に手帳を見せ、階級を示した。

「しかし、オカルトGメンの方から・・・」

「本庁1課の意思だぞ。ICPOなんぞにデカい顔させてる場合じゃないだろう。
日本の警察が受けた仇は、日本の警官がとるべきだろう・・・違うか?」

言いかけた警察官の言葉を制するように南雲は言った。
大義名分と階級に押されるような形になった警察官は、無線機から手を離す。
南雲は厭らしい笑いを零すと、携帯をかける。

「南雲だ、犬塚を発見した。予定通りに頼む・・・・」

現在地を告げると、南雲は携帯を切った。

「ここからは、本庁の仕事だ。ごくろうだったな。」

心にもない上辺だけのセリフが、所轄の警察官の心に響くワケもなかった。







陽が沈みかけると、ヨーダ自動車関東研究所の一般社員は帰宅を始めている。
工場でなく研究所のため、帰る人間はさほど多くはない。
それでも昼間より人の数は減っているし、死角も増える。
横島と雪之丞は一度研究所を離れ、人の出入りを確認していた。

「あいもかわらず、第8ラボは光が漏れねぇな。」

「まぁやってる研究が研究だからな。」

横島はそういいながら、ヒップホルスターのブローニングHPを取り出し
スライドを親指で僅かに後退させると、薬室の弾を確認した。
ハンマーを上げセーフティを入れると、ホルスターに仕舞う。
ショルダーに吊っているパイソンを取り出し、シリンダーを開けた。
中に入っている弾を全弾取り出し、別の弾を一発ずつ装填する。

「何やってんだ?」

「銀の弾丸通用しねぇっつーてたから、弾代えてんだよ。
一発一発高ぇからなぁ〜、大事に使わねぇと。」

愚痴を零すようにそういいながら、シリンダーを戻しホルスターに入れた。

「さて、行くか。」

「おう。」

二人は車から出ると、夕闇の中に消えていった。






ラボに侵入を試みる。
まだ人も動いており、かなり厄介だ。
人の動きを利用し、ラボ内に入った。
研究員のIDを拝借し、素知らぬ顔で歩き周る。
予想が当たるというのは、幸せな事であろうかそれとも不幸せなのだろうか。
鎧に似た特殊スーツが、繰り返し実験されている。
強度耐久実験、霊波耐久実験等の耐久実験。
動きやすさを試すフィッティング、それに伴う破壊力の実験。
少し移動すると、呪詛増幅装置の実験も行われている。
呪術を行うというより、完全に機械の固まりだ。
術的なものは何も無い。
コンピューターが魔法陣という名の式を開き、電気という名の呪詛を霊波にと変換させている。
エミなどがやる呪いに比べると、かなりの大掛かりだがこれだと“呪い返し”を行えるはずもないという利点もある。
それに両方の兵器に言える事であるが、能力や修行などが一切不要。
即戦力が短時間で必要な軍隊や警察などには、まさにうってつけである。


横島と雪之丞は、たまに堂々とそして極まれに隠れながら写真を撮った。
証拠としては、後はどれかをくすねるという程度であろうか。

(そろそろ力技にしようか・・・)

そう考えて雪之丞は、思わず笑みが零れた。
その瞬間、赤い警告灯が回りサイレンが響いた。

ヤバい!見つかったか?

二人は目線を合わせる。
警備員が二人の側を駆け抜けていく。

「なんだ??」

「俺らじゃないのか?」

目線だけでなく、顔を見合わせてしまう。

「んじゃこの隙に乗じるか・・・」

雪之丞がそういうと、横島はふと悪い予感が走り顔を顰める。

「そうも言ってられないかもな・・・」

施設の中に目を向けると、実験中の特殊スーツを着た男が2名ほど準備をしている。

「実験中のあれを使うって事は、あれでないと対処できない事。もしくは、実践データを取ることだ。
って事は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「俺らの身内の誰かが来た・・・・・・」

「そう考えた方が妥当だろうな・・・俺がいてお前がいる、タマモは妙神山、神魔界は人間界に干渉せず・・・
となると残りは誰か・・・・・・想像は容易いな。」

そういって、横島は頭を抱えた。

「ここは頼む・・・」

そういって立ち去る横島に、雪之丞は右手を上げて返事をした。









最後に辿り着いたのは、ここだった。
都内を周り、郊外にたどり着いたのは陽もくれてからの事である。
匂いは中へと続いていた。
犬塚シロ。いわずと知れた人狼の少女である。
狩りをその本能とした種族、獲物は逃がさず警戒心が強い。
獲物に気付かれず包囲して、風のように襲い掛かり肉を裂き骨を絶つ。
それが狼という種族だ。
しかし、今回は獲物ではない。
探していたのは、最も敬愛してやまない人物だ。

“横島に会う”

それが目標だった。
普段より警戒心が薄くなっていた。
警報を鳴らす理由には、十分であった。



警報が鳴り響き、狩る側のシロが狩られる側へとまわる。
それでも、人狼とタダの警備員だ。
スピードや攻撃力、体力も違う。
忍び込んだ自分が悪いという自覚があるのだろうか、警備員には攻撃を加えず逃げ続けた。
追う警備員の数がやたらと多い。
やはりタダの企業ではない・・・・シロはそう確信したが、素人である警備員にはやはり手を出す事はしなかった。
逃げ回りつつ、横島を探したが見つからない。
潜伏している可能性が高いと読んだシロは、一時この場を離れる事を決意した。
塀の高さは5m程だが、一ッ飛びに超えられぬ高さではない。
塀の高さをゆうに超える跳躍を見せ、シロは塀の外へ出ようとした。

「ギャンっ!!!!」

思わず叫び声を出す。
塀の上の見えない壁に遮られ、地面へと叩きつけられたのだ。

「さっきまでは、何もなかったのに・・・」

恨めしく塀の上を見ると、薄っすらと何かが流れていた。
壁にぶつかった肩に目をやると、焦げたような跡が残っている。

「霊力でもない、電気でもない・・・なんでござるか、あれは?」

遠くで人の声が聞こえた。
舌打ちをするとシロは、左肩を押さえながら再び走りだしていた。






「公安の南雲さんから連絡が入りました。道具がこちらに向かったの事です。」

研究所員の一人が、特殊スーツを着ている男にそう耳打ちした。

「いい材料です。どうぞ御存分に・・・」

スーツを着ていた男はそれを聞くと、ニヤリと笑った。

「十分なデータを期待してますよ。」

所員がそういうと、特殊スーツを着た2人が歩き出した。
その目には、狂気などは微塵もなくただ冷たい光だけを放っていた。








いつもの風のような俊敏さは、影を潜めていた。
僅かに息を荒立たせて、シロは物陰に腰を下ろし左肩を舐めてヒーリングを行った。
十分ではないが、少しは痛みが和らぐ。
動かしていた舌が止まり、シロは右手に霊波を漲らせ立ち上がった。

「いるのでござろう・・・出てくるでござるよ。」

薄っすらと青白い霊波が、次第に刀へと姿を変える。
人の気配、それは分かる。
警備員とは違う気配、それも分かる。
殺気ではない、それも分かる。
いろいろな事が瞬時に分かる・・・・しかし、分かれば分かる程シロは混乱した。


コイツはなんだ???


今までの経験データを探るが、該当するものが見当たらない。
じっとりとした嫌な汗が背中を伝わる。
思わず息を飲み込むと、ゴクリという音が辺りに響き渡った気がした。

「そうか・・・先生はこれを追っていたでござるか・・・」

追跡用のライトに照らされるように、そいつは立っていた。
見ようによっては雪之丞の魔装術のように見えるが、あまりにも禍々しい。
西洋の鎧のようにも見えるが、より機械的な色合いを濃くしている。

(ビビるな・・・ビビったら殺られる。)

その異形な姿にシロは、霊波刀を向ける。
しかしこちらが敵意を向けているはずの相手からは、異質な気は感じられない。
例えるなら『無機質』。
そう機械のような無機質な冷たさだけが、こちらに伝わってくる。
アンドロイドのマリアでさえ、この種の冷たさは無い。
フェンリルと化した犬飼ポチを相手にした時でも、人狼たるシロは身体が高揚感で熱くなったが、
この相手を目の前にして、シロが流した汗はとてつもなく冷たいものに感じた。
身体と気持ちの寒気を掃うように、シロは気力を振絞り霊力へと変える。
それに応えるように、霊波刀の光が増した。

「でやぁああああああああああああああああああ!!!!」

僅か数歩の踏み込みでトップスピードに達するシロの歩法は、人間の目には留まる事は無い。
まさに目の前から消えるのである。
そのスピードに乗せて剣を振るう。
相手は斬られた事さえ気付かないであろう。
刹那の間に、シロは抜き胴を払いつつ相手の後ろへと通り抜ける。

風が舞う。
乱れるように、銀髪が靡く。
靡いた髪は、流れた汗に纏わり顔に僅かに張り付いた。
シロは、大粒の汗を流していた。
この技は、一撃必殺である。
気力、霊力を込めた技であり、確かに体力は否応なしに使う。
しかしシロが流している汗は、そのためだけではない。
異様な程にベタついた汗は、技を放って流れ出たものではない。
美しい顔を歪ませ人狼の少女は、右手を力無く落とし左手で押さえた。

普通の刀と違い、霊波刀は術者の手そのもの延長である。
野球でも、バッターは打ちそこねた時に手が痺れる。
手の延長上にある霊波刀の使い手が対象物を斬りそこねたら、自分の腕にすべての衝撃は跳ね返ってくる。
シロは異常な程に硬度を上げた霊波刀で、踏み込みと抜刀のスピードを極限までに上げた。
腕への衝撃は何トンに達するものであっただろうか・・・

彼女の右腕は、折れるというより砕けている。

それでも呻き声さえ上げないのは、戦闘状態の彼女のプライドそのものであろう。
身体は朽ちても、精神は折れない・・・現代の侍“犬塚シロ”は、未だ戦いを辞める事はなかった。





僅かに残った体力と霊力を振絞り、左手に霊波刀を作る。
相手に通用しないのは分かりきっているが、自分の武器はそれだけだ。
相手は、防御に見合った攻撃をしかけてこない。
ワザとシロの技を受けているようであった。
右腕から発射される霊波砲に似た攻撃がシロの行く手を塞ぎ、急所を外し威力を弱めたその攻撃は
体力を削り取っていく。
肩で息をしながら、痛む身体を気力だけで支えている。
それも限界に近い・・・シロは冷静に自分の身体の限界を悟った。

(せめて一太刀でも!)

体力も尽きかけ、霊力もそれに合わせるように底をついてくる。
しかし気力だけは、まだ残っている。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

雄叫びを上げ気力を振絞った。
心ある者が見れば、気力を霊力に変え身に纏ったその姿は儚いまでに美しく輝いて見えるであろう。
しかし相手は、『心』というものを持つ事はなかった。
刺し違える事を覚悟で、相手に突進していくシロ。
先程の美しさは影を潜め、痺れる・・・いや押し潰される程猛々しい獣の殺気を放ちながら喉笛を狙う。
まさに狼であった。
しかし、非情ともいえる一撃がシロの背中に直撃する。
正面ではない、背中にだ。
前のめりに倒れ、苦い砂を噛み締める。
ゆっくりと後ろを振り返ると、同じ姿をした“モノ”が立っていた。

「・・・もう一人いたのでござるか・・・・無念・・・・」

シロの瞳からはギラギラと輝く気力が、無くなっていた。









「希少な人狼のデータも十分に取れた。戦闘種族の人狼相手に無傷、
実践テストとしてはまったく申し分ない。」

「有意義なテストでしたな。」

研究所員は満足気な笑みを浮かべると、特殊スーツから送られてきたデータの処理に励んでいる。
彼らは、ある意味でタダの研究者である。
研究対象以外の事には、何の興味も示さない。
送られてくるデータ以外、彼らにとっては無意味なものだ。

「貴重なサンプルです。殺さないでくださいよ・・・まだ研究の余地がある。」

マイクを通してそう伝えると、再びデータの解析に没頭した。
そう・・・彼らはタダの研究者である。
すぐ側から溢れている霊気・・・いや殺気などにはまるで気付いていない。
人間・・・いや動物として生きているモノとして、何かが欠落してしまっている。
モニターに頭が埋まる。
破片により血管が切れ噴水のように血が噴出し、回線をショートさせ身体が痙攣を起こす。

「俺がやる事じゃねぇんだけどよ・・・まぁ事のついでだ。」

頭から手を離すと、粘質的な血が黒い手袋に纏わりついている。
それを拭いもせず、雪之丞はもう一人の研究所員の方を向いた。

「・・・ダチにこんな薄汚ねぇ奴を処理させるワケにはいかねぇからな・・・」

人が死ぬのを、見た事がないワケではない。
だが、それを自分に向けられた事はなかったのであろう。
研究所員は悲鳴を上げる事さえできずに、腰を抜かしイスから転げ落ちる。
雪之丞は、血のついた右手を向けた。
右手は光を発し、僅かな音を立てた。
右手についた血が蒸発し、嫌な臭いをたてる。
黒い手袋は四散し、右手が露になる。
濃縮された霊波砲は、研究所員の頭部を貫き合金製の壁にも穴を開けていた。

「殺し屋よりもイカれてるぜ・・・お前ら・・・」

苦虫を噛み潰し、雪之丞はデータの入ったコンピューターを開けた。
特殊スーツと戦ったシロのデータを処分し、特殊スーツのセンサーに直結しているプログラムを切断し
センサー自体を無効にした。

「さてと・・・アイツが言ってた“核以上の兵器”ってのを見つけねぇとな・・・」

もうここには用は無いとばかりに、雪之丞は部屋を出ようとした。
モニターが自動で所内の各部署を映し出す。
ありがちな風景・・・雪之丞は気にも止めなかった。
目線を僅かにモニターに移し、ドアに手をかけた。
しかしその手は回らずに、止まったまま動かなかった。
いや、動けなかったといった方が正解であろう。
雪之丞の視線は、モニターに釘付けになっている。
汗が額を伝わり、流れてくる。

「な、なんだこれ・・・どこにありやがるんだ・・・」

以前似たようなものを、彼は見たことを記憶していた。











特殊スーツの男が、首を傾げた。

「センサーの調子がおかしい・・・そっちはどうだ?」

「こっちもだ。やはり初の実践だと故障も起きるものか・・・」

内蔵のマイクで特殊スーツの男たちが会話を交わす。
男たちの眼前に横たわっているシロは、すでに目は虚ろで抵抗を見せる気配はない。

「ラボ聞こえるか?こちら・・・」

轟音に声がかき消され、特殊スーツの頭が振られる。
頭部に大穴が開き、液体が噴出す。

「敵襲?どこだ??」

もう一人の男は、経験豊富らしく撃たれた角度を警戒しながら後退する。
着弾は正確に男の位置を狙ってくる。
男は遮蔽物に身を隠した。
銃弾や霊波刀さえ遮断する特殊スーツでさえ、一発で撃ち抜かれている。
男の行動は、兵士としては正しいものであろう。


シリンダーを開け、弾を一発だけ込める。
シリンダーを閉じ遮蔽物の奥に狙いをつけると、銃が発光する。
引き金を引くと、オレンジ色の線を描きながら暗闇へと消えていく。
着弾音と聞こえると、間もなく爆発が起こる。
爆発に巻き込まれ、特殊スーツの男が弾け飛ぶ。
目の前に突きつけられるブローニングの9ミリの銃口。
乾いた音が、辺りに3度響いた。








温かい・・・・・・・








拙者、父上のところに行くのでござるな・・・・・・







先生に最後に会いたかったでござる・・・・・・・










ん???????










先生の匂い???











シロはゆっくりと目を開けた。
シロの目の前には、必死の表情の横島がいた。

「天国はいいとこでござるなぁ〜・・・・・先生がいるでござる。」

そういいながらシロは横島に抱きついた。

「寝惚けるな!このバカ犬!!!!」

シロを振りほどき、頭に拳骨を落とす。
途端に頭を押さえるシロ。

「痛いでござるよ・・・・・あれ??」

右手がいつの間にか上がっている。
動きが鈍いものの、震えながらも軽く握る事ができる。

「無理に動かすな、文珠で応急手当して痛みを和らげただけだ。
完全には治ってない・・・・早く病院いかねぇとまた痛みがでるぞ。」

横島はそういいながらシロに背を向け、パイソンのシリンダーを開け薬莢を取り出しスピードローダーで装填した。

「先生・・・・・・・」

シロが消え入りそうな声を出す。

「なんだ?」

背を向けたまま横島は答えた。

「拙者・・・また先生に迷惑をかけたでござるか?」

シリンダーを閉じる金属音が響く。
その音にシロは身体を硬直させた。

「そうだな・・・お前のおかげで作戦は台無しだし、たぶん美神さん怒ってるぞ。」

横島の言葉にシロは、体を小さくする。

「・・・・・・・・・・・・・・・・せ、先生も怒ってるでござるか?」

声が震えている。
おそらく目には涙が浮かんでいる事だろう。

「怒ってるに決まってるだろ・・・・・・何も考えずに突っ込んできやがって・・・・」

横島の手が震えていた。

「警察の手が回る前に、早く事務所に帰れ。これ以上みんなに心配かけるな。」

少し震えた声で横島は言った。






タマモは一緒に行動したのに、拙者はなんでダメなのでござる?




みんなに一番心配をかけてるのは、先生の方でござるよ!




先生・・・・先生は拙者が邪魔なのでござるか?





シロは今にも喉から飛び出しそうな言葉を無理に飲み込んだ。
聞けない・・・・・
これだけは聞けない・・・
戦って傷つく事は怖くない。
でも、先生に拒絶される事だけは怖い・・・・
シロは、流れ出る涙を拭おうともせずに歩き出した。
文珠で体力も少しは回復したはずなのだが、その足取りは重かった。
最後に一言横島に声をかけようとしたが、声を出す勇気は彼女には残っていなかった。
声を出せば、泣きだしてしまう事が自分でも痛いくらいに分かっている。
これ以上横島の負担になる事は、どうしても避けたかった。

パイソンをホルスターに入れ、横島はシロを背中で見送っていた。
ここが敵地である事も構わずに、横島はタバコを咥えた。
火を灯すと横島の顔が、赤く染まった。
大きく溜息にも似た紫煙を吐き出す。
彼の顔には、怒りなど微塵もなかった。
暗闇にタバコの火だけが、横島の顔を照らした。
星が見えている。
紫煙が横島の視界を白く消していく。
不意に星が消えた。
眩いばかりの光が横島を取り囲んでいる。
左腕で目を覆い、身構える。


迂闊・・・やっぱ俺は、締まらねぇな。


舌打ちしてそう考える。
気配を読み取れなかった。
いやそうではない。
そういう心理状態ではなかったといった方が正しいだろう。
いずれにしても、彼が思うように《締まらない》状態である。



『横島忠夫、君は完全に包囲されている。無駄な抵抗は止めて投降しなさい。』




南雲の声が、拡声器で響き渡る。
横島は苦笑して両手を上げた。
文珠は僅かだが、まだ残っている。
確保する瞬間がチャンスだ。

『両手を頭の後ろで組み、後ろを向け。』

南雲はそう告げると、携帯を手にした。

「やれ。」

横島は南雲の言葉に従い、両手を頭の後ろで組み後ろを向くとタバコを吐き捨てた。
その瞬間に銃声が響いた。



現場に到着した西条は、銃声を聞きつけパトカーから飛び降りた。
警官のバリケードをかきわけ、投光機に照らされている情景を見て愕然とした。




横島は目を見開き、銃声を聞いた。
頬に何か温かいものが当たる。
目の前に赤いものが舞っている。
横島はゆっくりと振り返った。







銀髪がライトに照らされ、美しく舞っている。
対照的に赤い霧が辺りを赤く染める。
銀髪の少女がゆっくり振り返り、悲しげに微笑んだ。


胸を赤く染め、シロは横島に倒れ掛かる。
横島はシロを抱きとめると、ゆっくりと寝かせた。




「先生・・・・・・・・・・拙者・・・・・・・・・・・・役にたったでござるか・・・・・・・」

横島は文珠を取り出し、傷口に当てた。
すぐに横島の手が真っ赤に染まる。
血は止まり始めたが、傷はかなり深い。

「・・・拙者は・・・また先生の足を・・・引っ張ったでござるな・・・・」

荒い息をつきながらシロはそう呟く。

「しゃべるな、しゃべるんじゃねぇよ!!!」

横島は文珠を再び当て、霊力を傷口に注ぎ込む。
荒い呼吸が静かになっていく。

「先生の霊力は気持ちいいでござるよ・・・先生・・・」

横島はかなりの霊力を傷口に向けている。

「しゃべるなって!頼むから・・・・」

「先生・・・頭撫でてくだされ。」

横島は右手を傷口に当てたまま、左手でシロの頭を優しく撫でる。

「気持ちいいでござる・・・・・・・・・せんせ・・・・・・・・・・」

シロはにっこりと微笑むと、ゆっくりと目を閉じ吐息をたてた。
起こさないようにゆっくりと頭を自分の肩に寄せて、安堵の表情を見せた。
そして次の瞬間、横島の口は固く閉じられ歯を食いしばり僅かに震えている。
刺すような視線の先には、南雲とその後方の包帯を巻いた男に向けられていた。







                      SEE YOU GHOST SWEEPER...


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 次回予告



シロ     「んふ・・・・んふ・・・・・んふふふふふふふふふふふふ♪」

タマモ    「な、なによ、気持ち悪いわね。」

シロ     「んふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ〜〜〜〜〜♪」

タマモ    「だから、なんだっていうのよ!!!」

シロ     「そんな口を聞くのも今日まででござったな、今日から拙者は『れでぇ』でござるよ♪
        ケツの青い女狐とは違うでござる。」

タマモ    「はぁ??あんた何寝惚けた事いってんのよ?」

シロ     「先生に抱きしめられて、胸まで揉まれたでござる♪」

タマモ    「横島・・・あんたやっぱり・・・・・」

横島     「治療じゃねーかよ!!!誤解される発言はやめろーーーーー!!!」

令子     「人が出てない間に、アンタなにやってんのよ・・・・・・・・」

横島     「誤解っスよ!!!誤解!!!!!8話見てれば分かるじゃないッスか!!!」

令子     「問答無用!!!!!!!!!!!」



        【ダークのため自主規制】



おキヌ   「うふふふふふふふふふふふふふふふ♪そうですか・・・横島さんはそういう趣味があったと・・・」

タマモ   「な、なに・・・おキヌちゃん・・・・その黒いオーラとシメサバ丸は・・・・」

おキヌ   「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」





        【スプラッタのため自主規制】





雪之丞  「あぁダメだなこりゃ・・・・・というワケで次回第9話『ゲットオーバーザウォール』でまた会おう。」

カオス   「白いワニじゃ!白いワニが襲ってくるーー!!!マリアーー助けてくれーーーーー!!!!」

マリア   「ノー・ドクターカオス・薬抜けるまで・ガマンします。」

雪之丞  「あ・・・・こっちも危ねぇや・・・」

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