ザ・グレート・展開予測ショー

JUDGEMENT DAY.(後編)(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:犬○屋
投稿日時:(05/11/10)


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「か……薫ッ!!」
「酷いぜ皆本! まさか本当に撃つなんてさ!! つーかヘソだしルック相手に腹を狙うか普通!!」
 撃たれた腹部を押さえながら薫がぼやく。弾が貫通したように見えたのだが、どうも違うようだ。
「死んでない所を見ると熱線銃じゃないみたいだけど……あたしに何を撃ったんだよ、皆本! あーもう傷物にされたー! お嫁にいけないー!」

 どうやら心配する必要が全くないぐらい元気なようだ。

「皆本! 男として責任取れッ!」
「念動能力で操って撃たせておいて、何が男の責任かッ!」
「……はぁ? 何であたしが皆本を操って、わざわざ撃たれなきゃならないのさ!」
 ウガーと威嚇するような表情をみせ、薫は否定する。
 その言葉に皆本はもう一度兵部を見る。
「つまり女王。君は彼を操ってない、と」
「しつこいッ!」
 再度否定。
「じゃ、じゃあ撃たれる直前の、君が僕に使おうとした力は!!」
「皆本を守る防御壁を作ろうとしたんだよ。上手くいけば核攻撃も防げるかなって」
 今度は顔を赤らめてそっぽを向く。コロコロと表情が変わるのは昔からだ。

「それじゃ、それなら……僕は一体誰に……?」
「それは私たちです」
 疑問に答える声は、皆本の背後からかけられた。

「皆本さん、よく、未来を騙してくれました」
 そんな台詞と共に皆本は二人の女性に抱え起こされる。
 一人は腰まである髪に軽くパーマを当てた、少し大人しげな女性。
 もう一人は黒い長髪のお姉さんといった……皆本の予想と違った女性だった。
「紫穂……それに、ナオミさん」
「薫の復活を待ってたとはいえ、ごめんなさい。あなたに随分と傷を負わせてしまいました」
 そう言って念動能力で皆本の身体をできるだけ元に戻す。折れた骨は流石にくっつかないので念動能力自体を添え木として手足を固定した。

「紫穂。未来を騙すって、どういう事だ?」
「全ては皆本さんが考えた案。今、記憶を開錠(アンロック)します」
 紫穂がそう言って手を皆本の額に置く。そうすると突然自分の知らない記憶が引きずり出され、封じてた過去を思い出した。


- 7 -

 それはチルドレン達が兵部と戦うと決意した数日後。

「極秘の話って、何?」
 皆本は紫穂をとある一室へと呼び出した。机を挟み、向かい合わせに座る。

「紫穂。君の接触感応能力は随分と成長した。今では直接思考を読むだけじゃなく、間接的に触れた相手の思考を読んだり、記憶の封印やその解除も可能になっている」
「特訓の成果ね。……何かは言えないけれど、目標があったから」
「そうか」
 皆本は一度そこで口を閉じる。最後の一歩を踏み出すかどうか、この場でもう一度考えているようだった。
 だが、決意は変わらなかったらしい。

「……紫穂、君にはすまないが、辛い頼みがある」
 そう言って、皆本は熱線銃を机の上に置いた。そして、そのまま手を紫穂に差し向ける。
「これは……?」
「まずは僕の心を見てくれ。話はそれからだ」
 促され、紫穂は皆本の手を握る。あの頃から変わらないいつもの暖かい手から流れてくる記憶は、しかし今までのどんなものよりも紫穂の心に響いた。

 それは、かつて皆本に告げられた絶望の未来。
 皆本と薫が対峙し、心をぶつけ合い、そして──。

「──これが、皆本さんの秘密だったんですね」
 ずっと皆本の心で施錠されていた記憶。
 きっと何かある。私たちに関係のある何かが。
 紫穂は何とかそれを知ろうと、超能力開発の訓練を重ね、機会があれば読み出そうとしてきた。
 だがここまで能力が成長したのに、結局最後まで読み取る事はできなかった。

 当然である。
 それは、こんなにも悲しい未来だったのだから。
 彼が予知された事件、事故をいつも全力で防ごうとしていたのは、未来は変わると信じて行動していたからだったのだ。

「皆本さんは、予知と戦うつもりなんですね」
「ああ。そのための準備はしてきた」
 それがこの熱線銃である。

「紫穂、君に三つの事を頼みたい」
「はい」
 紫穂は内容を聞く前に頷いた。先程の接触感応で願い事は既にわかっている。
 席を立ち皆本の側に近寄ると、さっそく三つの願いの一つ目を実行し始めた。


「一つ目。僕が薫を追いかける時に限り、この銃を使うようにして欲しい」
 つまりは精神干渉。感応能力より遥かに難しい内容だ。
「……やってみます。ところで、この銃は?」
「熱線銃に見えるが、違う。薫を救う、一回限りの特別製の銃だ。弾には──これが入っている」
 そう言って皆本が出したのは一本の茶色い小ビン。
「毒マムシエキス……薫がいつも飲んでるアレ? これが、弾?」
「正確にはこれの成分が入っている。熱線銃のような光が身体に当たると、皮膚から弾の成分を吸収する、らしい」
 使いどころが難しい為に技術開発部でお蔵入りしていた物を改造してもらったらしい。
「正直言って冗談半分、本気半分だよ。もし薫がパワーアップとかしたらこれをネタにして笑ってやろうってね」
 最初は全部冗談だったのだろうが、もしかしたら、薫ならパワーアップしてしまうかもしれない。そう考えたのだろう。
 そんな皆本の考えに、紫穂は神妙な顔をしながら微笑んでみせた。


「二つ目。この三つの依頼の事と、この銃の事を僕の記憶から施錠(ロック)して欲しい」
「皆本さんと兵部、そして予知を騙す為ですね」
 紫穂が返すと、皆本は頷く。
「物的なものはこの銃以外全て処分した。後は僕の記憶を封じれば準備は終わる」
「折角皆本さんと二人だけの秘密なのに……残念」
「報酬は思い出した僕にたかってくれ。上手くいったら何でも買ってやるからさ」
 子供時代の常套手段を持ち出し、皆本は少し照れた表情を浮かべていた。


「そして三つ目──」


- 8 -

「引鉄を引くには、銃の『中』にある安全装置を解除しないとならない。そして皆本さんの良心という最終最後の安全装置も突破しなければならなかった。僕に気付かれない距離でそれを実行するには超度5以上の、薫以外の念動能力者が必要になるだろう」
 かつて紫穂に伝えた、封印した最後の願いを口に出す。
 紫穂は頷くとナオミさんに視線を向ける。
「ナオミさんに協力してもらいました。大変でしたよ、信じ込ませるの」
「全くです。皆本さんの場所まで紫穂さんを連れてきたかと思えばいきなり『皆本さんを操って薫さんを撃て』ですもの」
 紫穂、それじゃ誰でも躊躇するぞ。そう心で突っ込む。
 紫穂に抱きかかえられてる以上その声は聞こえているはずだが、紫穂はそれを無視した。

「恐れ入ったよ……まさか予知を利用して僕を誘い出すとはね」
 兵部は感情を取り戻したのか、うっすらと微笑む。
「でもいかに「女王」といえど、僕を完全に押さえ込むのは……ッ!」
「どうかな? 今のあたしはすっごく調子良いぜ!」

 目に見えない力同士のぶつかり合い。凄まじい衝撃を肌で感じる。

「な……ばかなッ!! 君にこれほどの力があるなんて……覗えなかったぞッ!!」
「一度死にかけたらヒロインは強くなるって、本当だったんだな!」
 どうやら薫の力が兵部を凌駕しているらしい。
 薫に抵抗する為に全力を注いでいるのか、兵部が他の能力を発動してくる気配も無い。
 皆本は紫穂に聞こえるよう、心の中でだけ突っ込みをいれた。
 ──まさかな、と。

「……ふん。だが、お前たちの健闘もここまでさ。既にここへ向けて核ミサイル8機は発射されている。僕がこうなってる以上ミサイルの瞬間移動攻撃は無理だが、このままならみんなこの場でドカンと死ぬだけだよ」
 兵部ほどの力を持つ超能力者はいないだろうが、数多くの超能力者がミサイルを被弾させようとしているのだろう。
 超能力者同士の力はほぼ均衡している。普通人側に超能力者を排除し、更にミサイル8機をどうにかする手段はない。

 超能力集団にとって最大最強の障害となるバベル本部が核によって壊滅する。
 そうすればもう世界は落ちたも同然である。
 兵部がそう考えるのも当然だった。

「そうだ。それなのに……何故お前はそこまで安心した表情を浮かべていられる。皆本」
 そう。皆本は笑っていた。全身痛めつけられ痛々しい表情を見せながらも、瞳は安心しきった色が見えていた。
「そりゃ安心するさ。色々あったが、後はお前を捕まえるだけだからな」
「ほう……爆発しても死なない自信があると?」
「違う。核ミサイルなんて爆発しないと言っているんだ」


「その通りよ」
 皆本をナオミに託し、紫穂が立ち上がりながら告げる。
「皆本さんが信頼してくれたから、私は難しい精神干渉でも成功させた。一歩間違えたら廃人だったかも知れないのに……」
「ちょっと待て! 今知ったぞその事実!!」
「あれ、覚悟があったんじゃ無かったの?」
 他人の心を誰よりも読み取れる紫穂は、まるでそんな事知りませんでしたという表情で返してきた。


「そして皆本が頼ってくれたから、あたしがあんたを縛ってられる」
 腹を押さえながら薫が告げる。
「にしてもメチャクチャ痛かったぞ、皆本! 本当一体何を撃ちやがったんだ!」
 キーッと怒ったような、それでいて笑ってるような表情を見せる。
「いいか、後できっかりしっかり身体に訊いてやるからなッ! 覚悟しとけ!!」
「手伝うわよ、薫」
 紫穂は笑いながら空を見つめる。青空の遥か彼方から八つの破滅が飛来してくる所だった。

 ナオミは自分の通信機を外すと、皆本にそっと渡す。
 皆本は頷いて受け取ると、通信機に向かって一言だけ告げた。



「そして僕は、彼女の事も信頼している」



『──待っとったよ、その言葉』

 間髪いれず、通信機から独特のイントネーションを持つ応答が返ってきた。


- 9 -

 バベル本部屋上。紺色のマントを身に纏った女性が下にずれた眼鏡を直す。

「全く、二人だけ皆本はんの側でいちゃいちゃモードに突入しおってから! あんたら、ウチの事綺麗さっぱり忘れ取ったやろ!?」
『やだなー。そんな事ないよー、葵』
「全っ然ッ! 感情がこもってへんッ!! あぁもう待っとれよ! パパッと片付けたらすぐそっちに行くから!! 局長、朧はん! 悪いが後は任せるで!!」

『判っておる! いくらでも頼ってくれたまえ、葵クン!!』
『そうですよ。私たちはバベル──あなた達超能力者を支援する集団なのですから』

 一ヶ月前に黙って姿を消し、ついさっき突然戻ってきたチルドレン達に対し、局長達は怒るどころか心の底から喜んでくれた。
「まだ、我々にもできる事があるのだね?」と。
 そして今は前線で超能力者たちの指揮をとり、一緒に戦ってくれている。

『正しき超能力者の道というものを、その腐れ根性入った身体に教え込んでやるわ!! 喰らえ、愛の鉄拳────ッ!!』
『とまあ、こっちは大丈夫です。だから葵さんは核に集中してください』
 激しい音と共に二人からの応答が返る。上空に割くはずだった戦力を全て地上に向けたのだ。鎮圧も時間の問題だろう。


 ツピ……。
 通信が再度接続される。
『葵』
「皆本はん? なんや、愛の告白か?」
『違うわッぐうぉぉぉっ……!』
 叫ぶと同時にうめき声が聞こえる。
 身体がボロボロなんだったら大人しくしていればいいものを。

 一度だけ咳払いが聞こえる。どうやら気持ちを切り替えたようだ。
『────葵。僕は、結局君たちチルドレンに全責任を押し付けてしまった。……押し付ける事しか出来なかった』
「皆本はん、んな事あらへんって」
『大ありだ! だからッ!』
 葵がフォローを入れるが、皆本の懺悔は止まらない。

『────だから。これが終わったら、三人揃って、そんな責任を押し付けた僕を怒鳴りつけてほしい』

 その言葉に、葵は皆本達がいる倒壊したビルを見つめる。かなり遠いが、葵にとってはほんのひとっ飛びの距離でしかない。
 1秒ぐらいなら、顔を見る程度ならまだ充分時間もあるだろう。

 だが、

「────わかった。ギッタンギッタンのボロボロになるまで折檻したるさかい、覚悟しときや!」
『え、いや、あの、ギッタンギッタンって。ほら、僕もう片腕両足折れてるし、君たちもかなり強くなってるし、ほらなんだっけ、破壊の女王とか空間の女神とか操心の魔女とか言った仰々しい名前が』
「ええから待っとれ!」

 通信を切り、葵は迫り来る8つの光と無数の超能力者集団を見つめた。
 大丈夫、みんなには後でいくらでも逢えばいい。
 約束を破る事は、私たちの間では重罪にも等しい行為なのだから。

 眼鏡を少しずらし、ぼやけた視界を指でぬぐって整える。
 紺色のマントをはためかせ、葵は空に向かって宣言した。

「さぁて……ちょいとECM・超能力対抗能力・その他もろもろを撥ね退けて、8機のミサイルの宇宙破棄、いってみよっかぁ────────ッ!!」


- 10 -

「………ギッタンギッタン」
 切れた通信機を片手に皆本の顔が青ざめる。
「まぁ、更にあたしも銃のお返しでギッタンギッタンにするわけで」
「それじゃ私もギッタンギッタン頑張ってみるね」
「お前等は悪魔の子かッ!!」
 皆本は近い将来の事を考えて頭を抱えこんだ。

 数分後、空に見えていた8つの光は全て消失した。
 またここずっと響き渡っていた戦闘の爆音等も、今では何処からも聞こえてこない。

 と、突然皆本の上空1m程度のところに葵が瞬間移動してくる。
 スレンダーな身体を丸め、なびく長髪と眼鏡を抑えながら、
「皆本はん、受け止めてぇ!」
 迷う事無く皆本目掛けて墜落した。

「ぐふぉあっ! き、君は僕に止めを刺す気かッ!!」
「ええやん、これぐらい。ムチャクチャ頑張ってきたんやで」
 言われるまでも無い。かなり疲労しているのが見て取れる。
 だがその笑顔は一月前と、そして昔から全く変わっていない。

 どうやら、全てが終わったようだ。


「……く、くくく。ははははははははははは!! 見事、本当に見事だったよ」
 兵部が激しく笑いだす。激しい念波で声だけでなく直接脳にまで語りかけてくる。
 はたしてこの念波は何処まで届いているのだろうか。
「最高だよ、流石は僕の花嫁。ついに君たちは僕を超え、世界最凶の超能力者となったんだ」
「何だとッ!?」
「だってそうだろう? 僕を出し抜き、僕を抑え、核攻撃すら無効化した。誰がどう考えたって僕よりも君たちのほうが強いじゃないか」
 そう言って何かに取り付かれたかのように笑い出す。薫が切れて束縛を強くしようともお構いなしだ。
「聞こえるか諸君! 僕の役目は終わりだ。今この時より、彼女達が僕ら超能力者の、いや全世界を統べる新たな女王達だ!」
 恐ろしいほどの念波を飛ばし、兵部は世界中の人間へ今の宣言と彼女達の姿を直接脳へ送り込んだ。

「はっはっはっはっ……で、どうだい皆本君。世界最強の力を全て従えた気分は?」
 話の矛先を今度は皆本へと向けてくる。
「何の話だ」
「お前が信頼しただけで彼女達は見事に働いてくれた。ならばお前が心から頼み込めば、世界を自由に蹂躙する事だってできるんじゃないかい? かつて僕が望んだ結果がすべて君の手に入ったわけだ」
「……そーだな。皆本が望むなら、本気で世界征服してやってもいいぜ」
 薫の提案に葵も紫穂も頷き、三人が揃って皆本を見る。

 一息あけて、紫穂が言葉を出す。
「世界よりも君たちに翻弄されない日々が欲しい……だって」
「ほう。後で体育館裏な」
「これ以上虐待されたら死んでしまうわッ!!」

「……とまぁ見ての通りや。皆本はんに独裁者なんて器量はあらへん。ウチらにそんな事頼まんよ」
「人は力を手に入れたら変わるものさ。それは超能力者である君たちが良く知っているだろう?」
「変わらないよ。だから私は、私たちは皆本を信頼している。皆本は私たちの事を裏切らないって」
 薫は撃たれた腹に手を置いて告げた。

 危険を冒し、薫を撃ち殺さないで済む選択肢を掴んだ皆本だから。
 未来に抗う為、紫穂を信じて全ての手綱を託した皆本だから。
 負ければ自分だって死んでしまうのに、葵の勝利だけを信じてくれた皆本だから。

「素晴らしいね。超能力者の頂点、我等が女王がまるで犬の様だ。ここまで教育されてたとは恐れ入ったよ」
「誰が犬かあっ!」
 薫が顔を赤くして更に拘束を強める。だが、もはやどんな拘束も兵部には意味をなさないのだろう。

「もういい! それ以上減らず口を叩くなら、あたしがここで今すぐ……」
「薫、やめろ」
 皆本はナオミの肩と力を借りて立ち上がる。
「でも!」
「いいんだ。君がそんな事をする必要は無い──これは僕の仕事だ」


- 11 -

 そんなやり取りを聞いていたのかいないのか、兵部は全く関係ないといった感じで聞いてくる。
「どうだい。全てを自由にできる力を手に入れた気分は」
「悪くないね。彼女達が戻ってきてくれたんだから」
 ナオミから離れ、皆本は念動能力の力をかりながらゆっくりと兵部の下へ近づく。

「良い子ぶるなよ。その絶対的な力こそ──」
「──この絶対的な力こそ超能力者たちの抱く憂鬱だ、とか言うつもりか?」
 皆本が深い感情の眼差しを向ける。
 怒りが強いのは判るが、色々と混ざり識別が出来ない。

「なら僕は、三ヶ月前に薫たちが言った言葉を繰り返すよ。──ふざけるな」

 小さく告げられたはずの言葉なのに、兵部は、いや兵部だけでなくチルドレン達やナオミもぞくっとした恐怖を感じた。
「まだ、世界中に向けて話してるならば丁度良い。いい加減、超能力達の代弁者気取りはやめるんだ」
 懐に手を入れながら、皆本が語りつづける。

「全ての超能力者が、お前の様に弱くは無い」

 そう告げ、懐から3丁めの銃を取り出した。銀色に鈍く輝くそれは熱線銃ではなく、リボルバー形式のいわゆる普通の銃だ。

「それと、超能力者たちが憂鬱なんじゃない。憂鬱なのは、お前だけだ」

 皆本は銃口をゆっくりと兵部へ向ける。まるでその銃を見せ付けるかのように。
 そして、その銃が何であるか理解すると、兵部の狂気じみた態度は一変し怯えの表情を見せだした。

「………何故、何でお前がソレを、アイツの銃を持っているッ!!」
「そんなに憂鬱だったのなら、お前は素直にその思いをぶつければよかったんだ」
 一歩。更に兵部へ近づく。

「やめろ………その銃を僕に向けるなあっ!!」
「超能力なんて関係ない。結局はお前が彼を信じきれななかっただけなんだ」
 更に一歩。もう二人の距離は2mも無い。

「違う! 僕は信じていたッ! アイツが、僕を、裏切ったんだッ!!」
「それならこの銃を接触感応してみるといい!」
 皆本はそう言うと、銃の向きを反転させグリップを兵部へ向けた。

「薫。兵部の右手を自由に」
「バ、バカ言うな! ソレ、弾が入ってんじゃないか!? 殺されるぞ皆本!」
「そうや! せめて弾を抜いてから!」
「薫」
「…………くそおっ! どうなってもしらねぇからなッ!」

 薫は悪態ついて右手を自由にする。
 紫穂が何も言わない以上、皆本に何かしらの勝算はあるのだろう。
 だが勝算は勝算だ。100%の予知ではない。

 兵部は自由になった右腕をだらりと下げる。
「さぁ、彼の心を見てみるといい! あれだけの事を言ったんだ! それぐらいできるだろう!」
「………………」

 兵部はゆっくりと、本当にゆっくりと右手を上げる。
 そして、あの時の銃をその手に受け取った。


- 12 -

「────見なくてもわかってるさ」
「なッ!」

 ぱぁぁん……!
 兵部は受け取るなり銃を自分のこめかみに向けると、躊躇い無く発砲した。



 だが、その破裂音とは裏腹に銃口から弾が発射される事は無かった。


- 13 -

「……空砲とは用意周到だな。予知能力でも持ってるんじゃないのか?」
 兵部が手を下ろし、空を見つめて笑い出す。
 皆本は薫に合図して兵部の拘束を解除させた。
 自由になったにも関わらず、兵部は逃げる事も抵抗する事もせずにその場にへたり込んだ。

「全ては今回のお前と同じ。……彼は『誰かに撃たせられた』、そうだろ?」
 兵部は俯いたまま、右手の銃を見つめながら訊いてくる。皆本は頷くと
「理由はわからないが、彼が操られたのは事実だ。その銃に残った彼が証言している」
「バベルにいれば、強い超能力者なら狙われる理由なんていくらでもあるさ。……僕が一番苦しみ、そして一番抵抗できない暗殺方法。それがあの事件だった」

 兵部が小さく笑い出す。
「僕は弱いね。撃たれた程度で殺り返してしまったんだから。力を自衛に回し、攻撃を耐えることも出来たというのに」
「そうか? 殺されかけたらやり返すだろう、普通」
 薫がさらりと言う。コイツの場合慰めじゃなくて本気だから恐ろしい。

「はっはっはっ。それなら女王、何故君は彼を殺さなかったんだい?」
「そ、それは……一撃だったからな、あの時は」
「照れることは無い。きっと彼女達も、そして彼も同じ答えだよ」
 そう言って顔をすこし上げる。葵と紫穂は薫とは逆にはっきり答えた。

「うちには重火器も熱線銃もきかへんけどな」
「同じ地面に立っていれば接触感応で読めるし」
 ……何処で教育を間違ったんだろうかと考えるのは、もういい年なのだろうか。

「……羨ましいよ。僕も君達みたいになりたかった」
 そう言って兵部はゆっくり立ち上がる。膝や尻を軽く叩いて埃を払う。
「逃がさんで」
「それとも死ぬ気か?」
 薫と葵が軽く構える。だが兵部は首を横に振ると
「ちょっと出かけてくるだけだよ。僕が蒔いた種を刈り取りにね。……全部終わったら戻る」
「あなたは「普通の人々」を創設し、全滅させ、世界をここまで混乱させた。帰ってきたら間違いなく極刑よ?」
「判っている。だがけじめはつけないとね」

 そして皆本の前に立つ。
「この銃、僕にくれるかい?」
「……信じていいんだな」
「この銃と、我が友が信じぬいた超能力者の名に賭けて」
 皆本が頷き顔を戻すと、兵部は既に姿を消していた。

 皆本はそれを確認すると、そのまま意識を失った。
 思ったよりも全身の怪我は酷かったらしい。


- 14 -

 あれから1年。世界はもの凄い勢いで復興していった。
 超能力者と普通人が協力し合い、みんなの能力をフルに活用したお陰だろう。

「必殺、廃墟ビル一刀両断剣───ッ!!」
「テンコーマジック! 廃墟ビルが一瞬にして大消失や!」
「そこのビル陰でサボってる人ー。エッチな妄想は帰ってからしてねー」

 ……まぁ、例外も色々とあるようだが。

「っていうかバベルの代表が例外になるな!」
「うるせぇ! こっちは連日連夜破壊作業で疲れてるんだぞ!」
「本当やで。いくら超能力ったって使ったら疲れるんやからな」
「その割にはメチャクチャ乗り気じゃないか君たちは!」
 皆本がメガホンで怒鳴り散らす。ノートパソコンで今日の作業状態を確認しながら深いため息を一つ。
「あぁもう本当に身体はナイスバディに成長してるクセにいつまでもガキンチョの思考を持ちやがって……ですって」
「お前もそこでこっそり人の心を読むなッ!」
 紫穂に突っ込みを入れるがもう遅い。残ったガキンチョどもが一瞬にして皆本の前に現れる。

「誰がガキンチョだって?」
「ナイスバディ!? いやや皆本はん、セクハラやー!」
「黙っていればエロい身体してるのに、って」
「勝手なウソを加えるなッ!」
 そう突っ込むも、薫たちが近づくごとに一歩ずつ下がる。

「あ、そーや。ギッタンギッタンにする約束やったっけ。すっかり忘れとったわ」
「そー言えば、あたしも撃たれたお返しをしてなかったなぁ……」
「私には何でも買ってくれるって約束だったよね」
 天使のような微笑を浮かべた3人の悪魔がゆっくりと皆本に近づいてきた。
「あ、あのね、ほら僕ももう20代後半で、ちょっと身体の負担が厳しいかなぁーって」

『問答無用─────────ッ!!』
「はぎゃわぁ────────────ッ!!!!」

 一瞬にして壁際に飛ばされ、そのまま廃墟ビルの壁にぶち込まれる。
 紫穂は皆本の様子をデジカメで撮影しながら、財布からカードを抜き取る。
 どうやらカードの記憶を覗いているようだ。ああもうあのカードもだめか……。

 そんな風に身体精神共に軽い絶望感を覚えていると。
 ピルルルル! ピルルルル!
 皆本の携帯が緊急通話の音を出し、自動的に取り次がれると厳つい声が響き渡った。

『瞬間移動能力者による強盗事件発生! ザ・チルドレンは即座に現場に急行せよ!』

「よっしゃ、任務だ任務ッ! ほら皆本、いつまでも壁に埋まって遊んでないで行くぞ!」
 三人はすぐに荷物を取って支度を始める。
「誰が埋めたんだ誰がッ! 全く……」
 皆本もノートパソコンを取り、送られてきた情報で事件の詳細を確認する。

「嬢ちゃんたち頑張れよー」「気を付けてなー」「怪我すんなよー」
 解体現場のおじさん達が薫たちに声をかける。
「おー! 強盗なんてさくっとやっつけて来てやるぜー!」
 薫達は手を振り返し、彼らの温かい送り出しに答えた。

 皆本を中心に、三人の女性が取り囲む。
 皆本は制御装置(リミッター)に暗証番号を入力し、三人の能力を解放する。


<< 解 禁 >> ── LEVEL 7 AVAILABLE.


「全員準備は良いかッ! ザ・チルドレン、出動ッ!!」
『了解ッ!!』


- 完 -




- * -

・絶対可憐のあの未来は「超能力者vs普通」「薫vs皆本」では無いと考えられないか。
・あの未来が起こった上で、チルドレン達も皆本も幸せになることができるか。

 それをメインにして考えました。
 なんだかしわ寄せが全て兵部に行っちゃってますね。出てきた途端に更生してるし。
 それにしても大人紫穂の口調が難しい……反省。

 何はともあれ言いたい事は一つ。
 子供達には幸せになってもらいたいものです、と。

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