ザ・グレート・展開予測ショー

JUDGEMENT DAY.(前編)(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:犬○屋
投稿日時:(05/11/10)


- 0’-

(結局、こうなってしまうのか……ッ!)
 廃墟と化した街の一角。倒壊したビルの上で皆本はついに見つけた。
 銃を抜き放ち、とにかく追いかける。そして
「動くなッ、"破壊の女王"(クィーン・オブ・カタストロフィー)!!」
 その声に彼女は一瞬止まるが、再び歩き出そうとする。
 まるで皆本を置いていくかのように。

「いや………薫ッ!!」
 少女は、そこでようやく足を止めた。



- 1 -

 超能力排斥集団「普通の人々」。
 エスパーを危険視し、武力を持ってエスパーを駆除するテロ組織団体。
 ここ近年はその活動が更にエスカレートし、超能力者一人抹殺する為に数百数千の人間を巻きこんで殺す事すら珍しく無くなっていた。
 彼らの狂気じみた行為は世界中で問題となり、人々の間では最も危険な存在として恐れられるようになった。
 だが、同時に人々の間に「超能力者がいるから巻き込まれる」と言った考えも浸透していく。

 普通人(ノーマル)と超能力者との僅かな心のズレ、歪み始めた関係。
 そういった負の感情を世界規模で植え付ける。それこそ「普通の人々」が組織された真の目的であった。
 だがこの真の目的は実行部隊はおろか、集団の中枢をなす人物達ですら誰も知らない。
 全ては中枢の人物達を操り集団を結成した創始者「兵部京介」の計画だったのである。

 後は兵部の催眠能力(ヒュプノ)を用い、超能力者と普通人との間に完全な対立を作る。
 兵部の計画はあと一歩と言う所まで完成していた。

 だが、その計画はたった一人のとんでもない立案による攻撃によって崩壊した。


『超能力排斥集団「普通の人々」とは、催眠能力を持つ超能力者「兵部京介」により……』

 突然行われた全世界規模の電波ジャック。超能力者と普通人との対立を目的とした計画の全貌と計画者「兵部京介」の全てが公表される。
 通常なら愉快犯の実行かと一蹴一笑される内容だが、それを発信したのが日本政府内務省特務機関、超能力支援研究局──通称バベルであった事によって事態は急転した。

『普通人も超能力者も、超能力排斥集団「普通の人々」も! どうか騙されないでいただきたい! 全ては一人の超能力者の綿密にして凶悪な計画である!』

 バベルはこの一件によって全権を凍結される。
 だがバベルは世界中の人間の知識と心に対し、真実を打ち込む事に成功した。
 信じようが信じまいがかまわない。これ以降「普通の人々」が何かする度、人はこの一件を思い出す事だろう。
 兵部の催眠能力の土台となる負の感情を兵部に向けて崩す。それが目的だったのだ。


- 2 -

「……まさかこんなバカげた事をしてくるとは。お前の事、侮ってたよ」
 兵部京介が皆本の前に現れ宣戦布告を行ってきたのは、バベルが彼を告発した日の夜だった。

「だが思い出すがいい。お前に与えられた未来は絶対だという事を──」
 そして世界が大騒乱状態になる前日でもあった。

 翌日。
 昨日バベルが行った世界規模の電波ジャックを、今度は兵部が行った。

『昨日、バベルからご紹介のあった超能力凶悪犯罪者にして「普通の人々」設立者のの兵部京介です。あんな安い挑発にのるのもどうかと思ったんだが、この展開の方が楽しめそうだと思って、わざわざ表舞台へ出てきてあげました』
 にっこりと笑いながら、兵部は小さな銀のベルを取り出す。
『まずは処分覚悟で勇気をもって僕の事を公表したバベルに対し、僕からささやかな贈り物をしようと思う』
 そしてベルを軽く鳴らす。リン、と良い音を奏でるベルの音に乗せ、兵部が告げた。

『普通の人々よ──死に至れ』


 同時刻。
 放送を聞いた全ての「普通の人々」は幻覚を見る。
 自分に超度1の超能力があった事が発覚し、「普通の人々」に囲まれるという幻覚を。
 テロリストから被害者へ、狩人から獲物へ。
 幻覚に陥った「普通の人々」は心を磨耗し、全てに絶望を抱いて次々と自殺する。
 かくして、超能力者とバベル、そして世界を恐怖させつづけた「普通の人々」は数時間であっけなく瓦解しのだった。

『──さて超能力者諸君。邪魔者はいなくなった。君たちを狙っていた最大のテロ組織「普通の人々」はまもなく崩壊するだろう。超能力者には文字通り人間を超えた能力がある。その我等が何故虐げられねばならないのか。何故力無き者達に力を制限され、管理されなければならないのか!』
 兵部の言葉を友好的に聞くものは、あっさりと催眠能力にかかっていく。
『僕は世界に対しここに宣言する。超能力者の絶対的な自由な社会、そして普通人への圧倒的な支配を! 人間がより進化した証、神が選んだ人間に贈った祝福(ギフト)、この超能力こそ全てとし、超度の強さによる階級制度(ヒエラルギー)を、超能力者の、超能力者による、超能力者のためだけの世界を創りあげる事を、僕はここに公約しようッ!!』

 催眠能力の効果も含め、「普通の人々」に、世間に、普通人に抑制されていた超能力者たちはそれに次々と呼応し、兵部の元へと集う。
 また事態を重く見た各国家は、その総力をあげて兵部の独裁を阻止しようと動きだす。

 超能力者と普通人との戦争時代の開幕。誰しもそう思った。
 ────だが、兵部の目論見はまたしても、同じ組織によって破られた。


- 3 -

『ふ・ざ・け・る・なぁ────────────────────ッ!!』
 精神感応能力者(テレパス)を介し、全世界に伝わる思念。
『超能力者の代表みたいな面して、何勝手な事言ってやがんだ!!』
『そうやで!! うちらは普通人の支配なんてこれっぽっちも考えてへんわ!!』
『超能力に関係なく対等に生きる。それが私たちの求める未来よ』
『兵部ッ!! お前が普通人を支配するって言うのならッ!!』
『ウチらは普通人側につく! 普通人の為にあんたを倒す!!』
『私たちは超能力犯罪に対抗するバベルの特務エスパー、ザ・チルドレン』

『必ず行くから、その首洗って待っていやがれッ!!』

 凍結されたはずのバベル、その最大最強の切り札である特務エスパー、ザ・チルドレン。
 彼女達は兵部の誘いを蹴り、今の生活を守るため宣戦布告を叩き返した。
 この考えに同意する超能力者たちも、また次々と現れる。
 彼らは避難と闘争の為に、宣言返しと共に凍結解除されたバベルの、いやチルドレンの元へと集っていった。

 懸案事項666号『特務エスパー「ザ・チルドレン」は天使か、悪魔か』。
 バベル内でも超能力者の数割が抜けた為、この懸案の結果が出る事はなかった。
 だが、彼女達は選択した。
 超能力者に対抗する超能力者。
 チルドレン達は数多くの選択肢からその道を選んだのだった。


- 4 -

『超能力に対抗するには超能力しかない』

 二ヶ月の抗争の末、普通人側についた超能力者たちが出した結論はそれだった。
 ECM、ECCMといったいたちごっこの戦略の結果、一番被害が出ているのは普通人たちなのである。
 共に戦う者たちや助けを求める一般市民。兵部たち超能力者集団はそんな普通人を容赦なく、むしろ積極的に攻撃する。
 それらを守りながら戦わなければならないチルドレン達はどうやっても不利な状況へと追い込まれていってしまう。

 チルドレン達は迷っていた。
 普通人と共に足を並べ戦うか、普通人の前に出て自分達だけで戦うか。
「普通人の為に戦うと言ってくれた君たちを、君たちだけを苦しませる事はしない」
 そう言って常に側にいてくれた皆本。そして武器を持ち戦う普通人。
 彼らを、そして彼らの気持ちも大切にしたい為、チルドレン達は迷っていた。

 だが、チルドレン達を補佐していた皆本が大怪我をしてしまう。
 それを切っ掛けにチルドレン達は決意した。

「例え恨まれてでも、置いていくべきだわ」
「そうやな……こんな不安な気持ち、二度とごめんや」
「じゃあ行くか。自分の大切な人を守るために」

 その日、バベルからチルドレン達は消えた。
 そしてチルドレン達がいないまま一ヶ月がすぎる。


- 0 -

(結局、こうなってしまうのか……ッ!)
 廃墟と化した街の一角。倒壊したビルの上で皆本はついに見つけた。
 銃を抜き放ち、とにかく追いかける。そして
「動くなッ、"破壊の女王"(クィーン・オブ・カタストロフィー)!!」
 その声に彼女は一瞬止まるが、再び歩き出そうとする。
 それはまるで一月前と同じく、皆本を置いていくかのように。

「いや………薫ッ!!」
 普通人を──皆本を置いて、自分達だけが傷つく人生を再選択した少女は、そこでようやく足を止めた。
 ヴ…… ウウン……!!
 手にした銃を薫に向ける。こんな物で薫を止められるとは微塵にも思っていない。
 例え予知と重なろうとも、彼女と話をする切っ掛けが欲しかったのだ。

 皆本は薫に銃を向けるこの状況に絶望を感じている。

 超能力者と普通人との戦いではなく、超能力者と超能力者の戦い。
 あの時見た未来はその1ページだったのだ。



(やっぱり、来てしまったんだな──皆本)
 薫は物悲しげな笑みを浮かべ、皆本の方を振り返った。
「熱線銃(ブラスター)でこの距離なら…確実に殺れるね」
 皆本に撃つつもりが無いなんて、精神感応能力(テレパシー)なんかなくても判る。

 でも薫たちは止まるわけにはいかないのだ。
 自分達の事を大切に思ってくれる、彼らの為に。

 でも薫は止まるわけにはいかないのだ。
 自分の事を大切に思ってくれる、彼の為に。



「撃てよ、皆本」
 薫が挑発してくる。安い挑発だが、気持ちが見える分皆本には何よりも効く。

 チルドレン達が普通人側に残ってくれた時には心から喜んだ。
 これで未来は変わった。この未来だけは回避できた。そう思って。

「でも───あたしがいなくなっても何も変わらない。他の大勢のエスパーたちは、戦いをやめないぜ」
「…………!!」

 だが現実はこれだ。何一つ変わってはいない。
 決定されたこの未来という目的地に対し、向かう方法が変わっただけではないか。

 やはり予知と同じ言葉を言おうとして、一瞬躊躇う。
 だが、言わない訳にはいかない。

「なら…みんなをとめてくれ!! お前ならできるはずだ!」
 何としてもチルドレン達を止めなければならない。
「頼む!! 「エスパー」だ、「普通(ノーマル)」だって──そんな悲しい事をお前たちまで言い出さないでくれ!
 置いていかれる者の気持ちを少しでも考えたのか!?
 お前達の決断が、普通人の事を思ってくれているのはわかっている。
 だが、お前達だけを犠牲に捧げる戦いが──こんな戦いが何を生むっていうんだ!?」

 そう言って廃墟と化した街を指差す。
 ビルが倒壊し火災と粉塵が巻き上がる街の中で、ただ一角。
 その一角だけ、周りの騒乱が嘘の様に全ての災害から逃れられている。

 内務省特務機関超能力支援研究局。通称、バベル本部。
 次々と一般人が避難し、いまや首都圏唯一にして最後の砦とまで言われている場所。
 彼女達がこの一ヶ月の間、全力で兵部を攻撃しながらも守り抜いた結果だった。



 ツピ…!
『薫!? どこや!?』
 耳にはめた通信機から、よく知った声が特徴ある口調を伝えてくる。
 薫は皆本がここにいる事を告げようとし、だが一瞬だけ躊躇した。
 その隙に通信相手──葵が絶望的な内容を告げてきた。

『敵が核兵器を使う気や!!』
「!」
『この街はもうあかん!! 早く…あッ…!!』
 ザ…ザザ…カリッ…ガリガリガリッ!! ザー…
 そこで通信が途絶えた。

 葵の事は気になる。だが、薫にはそれよりも重要な事ができた。
 それはおそらく葵も言おうとしていた事。

「もう…無理だよ」
 薫はゆっくりと皆本に手をかざす。

 核兵器が落ちる前に人々を安全な場所へ逃がす──そんなのは無理だ。
 せめて葵に皆本だけでも運んでもらいたかったが、それもかなわぬ事。
 ミサイルが飛来するなら、空中強制停止で止める事もできよう。
 だが相手は兵部だ。一瞬で上空にミサイルを呼び爆発させる事だってできる。
 となれば、薫にできる事はただ一つだ。



 皆本が身体の異変に気付いた時には既に遅かった。
 薫に向けた右腕が全く動かない。いや、今や全身が固まってしまっている。
 ESP装備をものともせず、念動能力(サイコキネシス)が皆本の自由を奪う。

「知ってる? 皆本……あたしさ──────」
 引鉄にかけた指がゆっくりと動き出す。銃口は薫に向けられたままだ。
「やめろ…!!」
 皆本は全力を持って引鉄を引かないよう抵抗する。

「薫──────!!」
 ドン。
 だが、皆本の努力をあざ笑うかのように、指はカチンと引鉄を引いた。

 撃った直後、薫の表情が一瞬だけ驚いたようにみえた。
 だが、すぐに微笑むと。

『───大好きだったよ。愛してる』

 そう言い残して薫は銃の攻撃を受け、吹き飛ばされていった。



- 5 -

 銃を取り落とし、その事で皆本は自分が自由になった事に気付く。
 慌てて薫に走りよろうとするが、目の前に現れた詰襟姿の男に阻まれ、弾き飛ばされてしまった。

「結局……お前も同じか」
「────兵部ッ!!」

 兵部は全てに絶望した瞳を皆本に向けてくる。
 そして皆本に対し、容赦なく激しい念動能力で全身を拘束した。
 ほんの少しだけ宙に浮かべられ、皆本の全身からギチギチと言う音が聞こえてくる。

「が、がはあっ!!」
「お前の見た予知は知っていた。だがもしかしたら、お前なら回避するかも。僕はそう思っていた」
 随分と身勝手な事を言う。それなら何故こんな事を始めたのか。

 ビシイッ!!
 鈍い音と共に皆本の左腕がありえない部分で折れ曲がる。
「ぐあぁ──────ッ!!」
「笑い話さ。お前を弄び、堕落させ、懐柔させようとしていた僕が、実は誰よりもお前の事を信じていたんだから。普通人には一度裏切られているというのに」
「ふ、ざけ……るなッ! 貴様が、念動……ッ!!」
「喋るなよ」

 ビシシイッ!!
 今度は両足から音が聞こえ、空中にいる皆本の両足がぶらんと垂れ下がる。
 だが今度は皆本は叫ばない。いや、叫びたいのだが首を抑えられて声が出せない。

「────────ッ!!」
「お前の声を聞いただけで反吐が出る」
 ゆっくりと、だがじわじわと念動能力で首を締めてくる。
 コイツは一体何を考えているんだ……。
 何で僕を念動能力で操り、薫を撃たせたんだ……?
 そして何でその怒りを僕にぶつけているんだ……?

「そんな詭弁で罪から逃げる気か? そんなに楽になりたいか。はん、だったら最初から僕に心を折られていれば良かったんだ」
 皆本の心を読んだのか、兵部が少しだけ感情を見せて返す。
「お前を動かしたのは僕じゃない。そんなのお前には判っている筈だ」
 兵部ではない。それは本当なのだろう。
 あの時、皆本を拘束し引鉄を引かせた念動能力者。それは…………。
「そうさ。だからこそ、僕はお前に絶望したんだ。大事な「女王」まで掛け金にしたというのに……この様とは」

 唯一無事な右腕が操られ、背中に隠していた熱線銃を取り出して自分の頭に銃口を向けた。
 ……?
 こんな苦しい状況なのに、皆本の頭の中に突然一つの疑問が浮かんでいた。

「今から死ぬ奴が随分余裕だな。『何で僕は熱線銃を二挺も持っているんだ?』」
 皆本の思考を読み取り代弁した後、興味なさげに兵部が続けて返す。
「知るかよ、そんな事。知りたくも無い」

「そうか? あたしは色々聞きたいぜ」

 兵部の後ろ、誰もいないはずの場所から答えが返る。
 何事かと振り向くより早く兵部の身体は見えない力に固定されたかのように動かなくなった。
 同時に皆本を縛っていた力が全て無くなる。
 自由になり地に落とされるが、足を折られた皆本はそのまま地面にどさっと倒れるしかなかった。

 だが、皆本は見た。全身を襲う痛みもこらえ、顔を上げて確認した。
 兵部の後ろで倒れていたはずの、紅い髪を少し逆立てた"破壊の女神"が立っている姿を。
「例えば、何であたしは撃たれたのにこうして生きているのか、とかな」


[続]

- * -

 あの未来予知はそのままで、どうやったらハッピーになるか。
 一括で投稿しようとしたら文字数制限をオーバーしてたので前後編で。

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