ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(34)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/23)

 織茂加奈江(オリシゲ・カナエ)
 二十一歳 女
 職業はフリーのコンピュータープログラマー
 在宅勤務が主で、現在は東京都青梅市郊外の自宅にて一人暮らし

 先日、都内で発生した高校生失踪事件および連続吸血事件の容疑者として、被疑者の中では最も疑わしい存在である。


「・・・・・・」
簡単な個人情報の他、住所と電話番号が添えられた警察の調査報告書。
令子はその報告書と、それとはまた別の、警察関係者ではないとある人物が持って来た報告書とを見比べてから、目の前に置かれていた紅茶のカップを手に取ると、小さく息をついてから言った。
「・・・やっぱり、アンタの報告書の方が詳しいわね。すごいわねー、顔写真に、昔の家族構成や資産内容まで・・・よく調べられたじゃない」
「ま、探偵まがいの仕事も時々舞い込むからな。結構、これでも情報通なんだぜ」
令子の事務所の、丸い応接テーブル。
それを挟んで令子の向かいの席に座っていた黒ネクタイの少年は、令子の素直な感心に対して、こちらも素直に笑って返した。
それはそれでまあ格好良いと言えない事もないが、あまり目つきのよろしくない顔つきに、厄珍ほど極端ではないが、同年代の少年と比べるとやや小柄な―――はっきり言ってしまえば、「チビ」の部類に入るかもしれない小柄な体格。
雪之丞と言う、ある意味冗談のように時代がかった名前のその少年の隣では、令子いわく「雪之丞の方が詳しい」と評価を下された、警察側からの報告書を持って来た西条が、少し悔しそうに、やや引きつった苦笑いを見せて座っていた。
「確かに、探偵の方が素早く自由に情報収集出来る面もあるしね。しかし、君もアシュタロスの件の活躍で、GS資格を正式に認められたんだ。いい加減、どこかに落ち着いて活動したらどうだい?」
「これも性分だからなー。修行やらであちこち飛び回ってる方が面白いんだよ」
一時はGS協会のブラックリストに載っていたのを、協会やGメンへの様々な協力活動のおかげでせっかく認められたのだ。彼の腕なら、どこかの事務所に就職したり、自分で事務所を設立したりと言う事も出来るだろうに、相変わらず風来坊のような生活をしている事を指して言われるが、あっさりそう言って返す。
「ま、ピートには色々借りとかあるからなー。ちょうど東京に来て良かったよ。俺も手伝ってやるぜ」
「そうね。この人は、あのエミさんも梃子摺るぐらいらしいから、人手が欲しかったところだもの」
「・・・小笠原エミがか?」
令子の隣に座っている美智恵のその言葉を聞いて、どちらかと言うと気楽そうにしていた雪之丞の顔に、サッと緊張が走る。
しかし、それは恐れではない。
恐れではなく、純粋に、強い者に対峙するための心構えから表れた緊張の表情であるのを見て取って、美智恵は軽く微笑むと、ちょっと冗談めかすような口調で言った。
「ええ。犯人の女性に、個人的にだいぶ狙われているらしくて、一度襲われたのよ」
「・・・ピートのやつも、厄介な女に好かれたもんだな・・・」
まあエミも、ピート本人にとってはある意味で「厄介な相手」かも知れないが、それは言わずにおいて苦笑しながら言う。
「で?俺や警察が調べたその女が犯人だって言う可能性の確率は?」
「・・・ほぼ百パーセントだと思うわ。貴方が持って来てくれた資産に関する資料を見れば、破魔札を買える財力は充分あるし、それに、顔写真を例の吸血事件の被害者に見せたんだけど、全員が「この人に似てる」って言ったもの。エミさんに至っては・・・」
「エミに至っては?」
「・・・写真を渡した途端に頷いたかと思うと、破られちゃったわ。焼き増ししといて良かった」
「ははは・・・」
その時のエミの表情を思い浮かべたのか、雪之丞の顔に苦笑が浮かぶ。
その雪之丞と一緒に、少し笑ってから美智恵は、キッと表情を引き締めて言った。
「・・・現在、エミさんは突入に向けての一時休養に、唐巣神父は現地に行って、最後の聞き込み調査を行なっています。唐巣神父から、容疑者、織茂加奈江宅の場所を確認したと言う報告が入り次第、私達も―――」

―――・・・美智恵が、令子達に向けて、今後の予定―――指令を伝えている頃。
加奈江は、例の地下室で、ピートが時折そうしていたように、ベッドにもたれて天窓を見上げていた。
つい一時間ほど前にピートと一騒ぎして散らかしたばかりなのだが、その形跡はもう既にきれいさっぱり片付けられており、明かりを消された部屋は、いつものように、その整然とした有り様を、天窓から射し込む青白い月光に静かにさらしている。
加奈江は、そっとベッドの方に頭を預けて寄りかかると、静かにベッドのシーツを撫でた。
ピートのために用意した、天蓋付きの立派なベッド。
マホガニーの立派な振り子時計も、細かい彫金細工を施した椅子とテーブルも、美しいビスクドール達も、洋服も・・・
―――この部屋の全ては、ピートのために用意したものだ。
しかし今、室内にいるのは加奈江だけで、そこにピートの姿は無い。
一人きりの部屋の中、もう一度天窓を見上げると、静かに立ち上がって部屋を去る。
そして、ピートの写真で埋め尽くした自分の部屋に戻ると加奈江は、身に付けていた水色や白のこざっぱりとした服やアクセサリーを全て脱ぎ捨てて、クローゼットへと向かった。
以前―――『永遠』を得る前の自分がいつも日常的に着ていたモノクロトーンの服が並ぶ中から、最もよく着ていた黒いワンピースとコートを取り出し、タイツもパンプスも黒で揃えると、鏡台に向かい、毒々しいほど鮮やかな真紅の口紅を塗りつける。
そうして髪を整え、コートを羽織って身支度を整えると、加奈江は、鏡の中の自分の顔と向き合って、誰かに確認するように呟いた。
「・・・ピエトロ君・・・私は、貴方を守りたいのよ・・・」
―――全ては、彼のためなのだ。
―――だから、誰にも邪魔されるわけにはいかない。
加奈江は、鏡台のそばに一つだけ灯していたスタンドの明かりを消すと、いつもは閉めたきりにしている窓のカーテンを少しだけ開いて、そっと静かに、外の様子を伺った。
茂るままに放っておいてある庭木の枝葉の向こうに、チラチラ見え隠れしている赤い光。
風に乗って聞こえてくる、サイレンらしい耳障りな音。
加奈江は無表情のまま、それらの光や音を感じ―――そして、静かにもう一度、呟くように行った。
「・・・邪魔はさせない・・・誰にも・・・!!」

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