ザ・グレート・展開予測ショー

取り扱いにはご注意を(後編)


投稿者名:tea
投稿日時:(05/11/ 8)




「おかしいな。美神さん、どこにいったんだろ?」

 リビングにもいないことを確認し、横島は首を傾げた。
 美神の急用を知らない横島は、出勤確認のために美神を探していた。ちなみに、バスルームはいの一番に探し(覗い)ている。よって、その後の探索は非常におざなりなものだった。

「風呂場にいないんじゃなあ・・・どこにいたってあんま変わらんし」

 美神の不在を知っていれば下着ドロのひとつも犯しただろうが、幸か不幸か横島はそれを知らない。鉢合わせする危険がある以上、大胆な行動はとれないでいた。
 無気力に事務所を歩き回る横島。その時、彼の耳に羽虫のような音が届いた。何だろう、と音のする方向に足を運ぶ。
 横島が導かれた部屋には、宇宙意思の如きお約束で「応接室」のネームプレートが掛かっていた。










 シロは、目の前の光景を疑った。意気込んで向った先には既に先客がおり、それは敬愛する師匠だった。それだけなら、シロにも飲み込める。

「せ・・・先生ー!!」

 だが、ファックスに相対する横島はあまりにも無防備だった。さながら、銃口を眉間に押し当てられた赤子のように。
 時刻は、14時を示している。焦燥に駆られるまま、シロは横島へと突進した。

「おわ、シロ!?お前、何を・・・」



 横島が気付いたのとほぼ同時に、シロは横島にスライディングタックルを喰らわせた!
 
 ダルマ落としのハンマーの如き鋭さに、横島の体が宙に泳ぐ!!
 
 シロは、左足を軸に体を回し、低い体勢から横島に裏拳を叩き込んだ!!!
 


「ぎゃああああぁぁっっっ!?」
 
 流れるような動きで、横島は壁まで吹っ飛ばされた。シロは返す刀で霊波刀を出現させ、テーブルの上にあるファックスを両断する。この間、コンマ1,7秒。神速と呼んでも障りない早業である。
 ぱちぱちと煙を上げ、無実のファックスは完全に沈黙する。羽虫のような音―――単なる受信音だが―――も止み、後には黒い残骸と、巻き添えを喰ったテーブルだけが残った。

「先生、大丈夫ですかっ!?お怪我はっ!?」

 どっかで聞いたセリフだな今畜生。壁画と化していた横島は、半分めり込んだ耳朶を動かしながらそう思った。








「いきなり何しやがる、このバカ犬っ!!」

 どうにか人型に戻れた横島は、とりあえずシロの脳天に拳骨を落とした。問答無用で奇妙なオブジェにされたのだから、無理からぬことと言える。
 だが、シロにしてみれば納得できない。あの時点では、横島はいつ打ち抜かれてもおかしくなかったのだ。頭を押さえながら、シロは唇を尖らせた。

「しかし、相手はあの「ふぁっくす」でござるよ?拙者から見れば、先生が些か不注意だったとしか思えんでござるよ」
「・・・?あのファックスって、お前どのファックスのことを言っとるんだ」

 微妙な齟齬を感じた横島は、事の成り行きをシロに問い正した。その結果、全ての元凶はタマモにあったことが判明。騙されたことに初めて気が付いたシロは、顔を真っ赤にして屋根裏部屋へと殴り込んでいった。

「単純だとは思っていたが・・・まさかこれほどとは」

 応接室に一人残された横島が、溜息混じりに苦笑する。いい面の皮になったことは面白くないが、ああいう性格だからタマモもからかいやすいのだろう。
 良くも悪くも、シロは真っ直ぐに進んでいく。時折それが暴走するが、まっさらなキャンバスのような純真さは、横島には眩しく感じられた。

(そういうところも、アイツの魅力なんだろーな・・・多分)

 そう結論付け、横島は屋根裏部屋に向おうとした。タマモへの借りを、利し付きで返そうという心積りで。




 だが、応接室の戸口には、最凶のゲートキーパーが控えていた。




「横島クン・・・これは一体、どーいうコトかしら?」

 夜叉の如き殺気を発するのは、用事を済ませて帰ってきた美神だった。その狂態に、横島は全身から脂汗を流しつつ室内を見回した。
 テーブル及びその上のファックスを皮切りに、細かな調度品やファックス用紙の切れ端が床を浸している。来客用のソファは霊波刀の余波で切り裂かれ、壁には大槌でぶん殴ったような跡ができていた。
 
 手榴弾を投げ込んだとしても、ここまでにはならないだろう。

 美神と横島の間にシンパシィが生まれる。それは同時に、横島への死刑宣告に他ならなかった。

「いや、ちょ、待って。俺の話を・・・!!」
「やかましい!!」

 怒号一閃しなるムチ。それは、生命を持った蛇の如し。
 俺は今日なんかしたのだろーか。薄れゆく意識の中、横島は本日二度目の理由なき暴力に涙した。







 シロが階下からの破壊音を聞いたのは、噛み付かんばかりにタマモに詰め寄っていた時だった。

「今のは、一体!?」

 シロが何事かと部屋を飛び出していくが、タマモは、激震に混じる怒声と悲鳴でおおよそを理解していた。
 同時に思う。結局、どれだけ技術が進歩しようと、扱う者が進歩しなければ何の意味もないのだと。さっきまで目の前にいた実証例と、階下にいる典型例を鑑みて、タマモはベッドの上に寝転んだ。





「バカと鋏は使いよう、か。ま、暇潰しできたからいいか」





 彼女の笑みは、相変わらず小悪魔のようだった。













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