TWILIGHT〜第一話〜
投稿者名:超毒舌者
投稿日時:(05/11/ 7)
1998年3月下旬 魔神アシュタロス核ジャック事件から約半年…神族と魔族の平和協定が遂に実現しようとしていた―――
そんな最中、妙神山の事務室には膨大な量の書類を小竜姫が、時々、肩を叩きながら鎮座している
はっきり言って、その様子はオバサンくさい
しかし、それが様になってしまっているのが、救い様のないところだろう
「ふー、ちょっと休憩しますか」
どっこいしょっ、なんて言いながら立ち上がってはもうフォローの仕様がない
「お茶菓子が確か台所にありましね」
小竜姫はそんな自分の姿など気にせず、鼻歌混じりに台所へ向かう
すると台所へ向かう廊下の角から突如、小さい影が飛び出してきた
「よくあんな詰まんない事をしてて、鼻歌を歌ってられまちゅね、小竜姫」
「ハピリオ。そういうアナタだって、一週間前から顔が緩みっぱなしじゃないですか」
小竜姫の言葉にハピリオは反論もせず、反対にふんぞり返った
「当然じゃないでちゅか! 実の姉と半年ぶりに再会できるのに、喜ばない妹が何処にいるんでちゅ!」
「…………」
今の世の人間では、恥ずかしげもなく言えるものではない台詞を、堂々と言い張るパピリオに、小竜姫は心の奥から暖かいものが込み上げてくるのを感じた
「そういう小竜姫は何でご機嫌なんでちゅか?」
はっとしたようにパピリオに向き直ると、少し興奮気味に小竜姫は事の次第を説明し始めた
「明日、ベスパが来るのは、ただ暇になっただけじゃないんですよ。アナタだって知っているでしょう? 協定が結ばれるのが、明日だって事に」
そんな事も聞いたな、程度にしか反応しないパピリオに、小竜姫は少し呆れる
「そりゃあ神族にとっては歴史に残る瞬間かも知れまちぇんけど、魔族にしてみれば永遠の悪として生きる始まりでちゅよ?」
「解ってます…それでも神族と魔族、それに人間の三種族が共存するにはそれしかないんです。魔族には神族には無い本能があり、それを止めるのが神族という正義。その構図こそが、ハルマゲドンを起こさない絶対条件なんですよ。パピリオだって、横島さんを失いたくはないでしょう?」
そう、それしかない…
だがそんな運命を受け入れられず、足掻き続けた魔神が一人…去年、逝った
「…あたしが心配してるのは、アシュ様みたいな人がまだ沢山いることでちゅ」
「それについては心配ありません。魔族と神族の精鋭達が蟻の這い出る隙間もないぐらいに、四六時中見張っています。明日、何かが起こるなんて事は、万に一つもありえません」
「…それだけじゃないでちゅ」
パピリオの声は小さく、小竜姫の耳には僅かに届かなかった…
この話はもう終わりだと言うかの様に、パピリオはその場を去ろうとした
しかしそれを阻もうと、小竜姫の手が肩を掴む
「なんでちゅか? もう話す事は―――」
「いえ、パピリオ。シリアスな展開に流され、もう少しでアナタの口に付着しているあんこを、見逃すところでした」
小竜姫の言葉にパピリオのシリアス顔は、見る見る内に真っ青になっていく
その顔は正に、これから死刑宣告をされる被疑者のようだ
「私の見間違いでなければ、そのあんこは現界で私が買った、寅屋の羊羹…」
パピリオは逃げ出そうとするが、小竜姫にいとも簡単に回り込まれてしまった
ボスクラスの敵からは逃げられないのが、やはりセオリーなのだろう
「覚悟はいいですか、ハピリオ? 私が大事に残しておいた羊羹をよくも…!」
「ま、待つでちゅ! 神様ともあろう者が、羊羹一つでみっともないとは思わないんでちゅか!?」
「羊羹は羊羹でも寅屋の羊羹です! それに―――神様の供物を盗んだら仏罰が下るでしょう? 同じですよ♪」
小竜姫は仏の笑みを浮かべながら、神剣に手を掛けた
ハピリオは何度も逃げようとするが、超加速を会得してる小竜姫相手にスピードでは勝てない
そんな事を繰り返している間にも、小竜姫は間合いを縮めてくる
恐らくは居合いだろうが、超加速を上乗せされれば避けようがない
羊羹一つで一触即発―――そんな馬鹿げた現場に、四人の来訪者が飛び込んできた
「パピリオ、無事かい!? 敵は何処だ!?」
ベレー帽を被った二人組はライフルを構え、黒いスーツを身に付けた女性は両手に大質量の霊波を溜めている
そしてその後ろに、眼が沢山ある女性が隠れていた…
「………どうしたんですか、四人とも…? こっちに来るのは明日の筈じゃあ…」
「説明は後です! それより敵は何処に行きましたか!?」
敵―――その言葉が当て嵌まるのは、小竜姫にとって今はパピリオしかいない
しかし今の彼らは、そんなふざけたものではなく、かなり切羽詰まったもの…つまりは本気で聞いているんだろう
「あ―――と、こちらの事は気にしないでください。ちょっとしたパピリオとのいざこざですから」
本来ならいざこざなんて言葉では、到底、収まりきらない出来事が起こりかけていたのは、小竜姫とパピリオの秘密である
「む…? それにしては凄まじい殺気だったが…まあいい。それより………」
――――――――――――――――――――――――
時刻は十八時―――涼しくなった今の時期では、既に外は黒に染まっている
それでも人集りは途絶える事はないのだが、ある廃ビルの周りだけ、ぽっかりと穴が開いたように人一人いない
そしてその廃ビルでは今、捕まったら死が訪れるハードな鬼ごっこが展開されていた
「ほら、そっち行ったわよ二人とも!」
美神令子は悪鬼を神通鞭で牽制しながら、トラップが仕掛けられている曲がり角に誘い込む
悪鬼がまずいと思った頃にはもう手遅れで、霊波で編まれた網に飛び込んでいた
「キキィッ!?」
その網から逃れようとすればするほど、網はそれを阻むように絡み付いてくる
「お前との鬼ごっこで、捕まえられて殺された人達の気持ちが解ったかー!」
横島は身動きが出来ない悪鬼を、霊波刀で両断にする
すると悪鬼は断末魔の悲鳴を上げ、霧散していった
「ん〜、結構ぼろい稼ぎだったわね〜。あいつ一匹で五千万!!…ッか〜、たまんないわ〜!」
依頼人から依頼料を受け取り、公園のベンチで金勘定を始める美神に二人は呆れる
「相変わらずの守銭奴ぶりやな〜」
「あったり前でしょ?……それより、見せてもらったわ。独学にしてはまあまあじゃない」
「あ、ありがとうございます…!」
何処にでも居そうな平凡そうな青年は照れてるのか、頭を掻きながら美神に礼を言った
「あー、佐原徹(さはらとおる)君って言ったっけ? 弟子入りを許可するわ。霊波を編んだ『霊糸』を使える。これは将来が期待できるもの。それに…何よりエミより私に弟子入りしたったてのがポイント高い!! ざまーみなさいっての! やっぱ優秀な人間の所には優秀な人間が集まんのねー! あー、かわいそー! ぎりぎり三位はー!」
周りに人はいないとは言え、ボディコンを着た女性が、大声で高笑いしている図はかなりヤバい
「…佐原。お前はやまったとか思ってない?」
「えっ!…い、いや、そんな事…ない、よ」
佐原は顔を背けながら、精一杯の力を振り絞って言い切った
その頃、タイガーがエミに急に腹が立ったという理不尽な理由で、殴られていたのは言うまでもないだろう
―――一今回の除霊中の反省を終え、美神は切っておいた携帯の電源を入れる
「あ、着信履歴にママが三回も。それにメールまで…、かなり急ぎの用みたいね。……もしも〜し、ママ〜?………え? 今から都庁に来い?……了解、三十分でそちらに急行します」
横島はいつになく緊張した顔持ちで、美神に何が起こったのか尋ねる
「さあ…詳細は聞かなかったけど、私達以外は全員、既に集まってるみたいよ」
「全員って…」
「アシュタロス事件に深く関わったゴーストスイーパー全員ですか!?」
佐原は興奮を隠しきれない様子で美神に詰め寄る
ゴーストスイーパー志望にしてみれば、アシュタロス事件に関わった者達はアイドル同然だ
「そ、そうだけど…連れていけないわよ? 君を連れて行ったらママになんて言われるか…」
「でも美神さん。佐原の荷物とか事務所ですし、取りに向かってる時間なんてないすっよ?」
「んがっ! そうだっけ?!………仕様がない! 今は小さな事に拘ってる暇はないわ! 訳を話せばママも納得してくれるでしょ!」
美神は佐原も連れて行くと決めると、迷いを振り切ったかの様に全力でコブラを発進させた
――――――――――――――――――――――――
跡形も無くなった筈の体に感覚が戻ってくる
寝転がっている地面が冷たい…という事も、脳が判断している
つまり自分はまた蘇ったのだと、彼女はやっと理解した
「―――ここは…」
「お目覚めかね? メドーサ」
低く重い声が、起き抜けの頭にしかかる
メドーサは頭を軽く振り、声の主を見定めようとした
しかし辺りは薄暗く、相手は闇に紛れている
「何者だい? このあたしをわざわざ生き返らしたんだ。それなりの相手じゃないと…」
「無礼な口を聞く小娘だな。本来なら貴様など、ワシの前に立つ事すら許されぬのだというのに」
相手が大物である事は把握していた
しかしここまで高圧的な態度とは…、アシュタロスとは違って、力だけの馬鹿の可能性が高いとメドーサは踏んだ
「随分な口振りだけど、顔の一つも見せられないのかい? その分じゃあんたの程度が知れる…」
「戯け…! 視野が狭すぎるわ。もっと広くしてみろ」
相手はかなりご立腹のようだ
自分がどれだけ自信を持っていようが、少し話せばこの通りぼろが出る
「視野、ねえ? 勿体ぶらずに見せれば―――」
ひょいと顔を上げれば、爬虫類特有の眼がこちらを見下ろしていた
しかし爬虫類と言っても、蛇やトカゲなんてちゃちなものじゃない
人間界で伝わる数多の神話の中で神と崇められ、時には悪魔と恐れられてきた幻想種―――ドラゴン
だがそれだけでメドーサが言葉を失う筈もない
「その顔…どうやら自分の愚かさに気付いたようだな」
気付いた―――?…いや、思い知らされたと言った方が正しい
正に蟻と象………今になって、相手の力の強大さを感じて恐怖した
否、相手の正体を知りもせず、こんな力を全身に浴びては気をおかしくしかねない
故に自分は相手の力を探ろうとはしなかったのだ
「あ―――…さ、先程の無礼、お許し下さい…!」
メドーサの謙虚な態度に満足した様で、目蓋を閉じ、静かにその場に腰を下ろした
「…それでそんな超大物が、あたしなんかにどんな御用が?」
「ふむ。その前に今の神族と魔族の情勢を、貴様は把握出来ておるまい」
協定が結ばれかけている事、それを覆す為に自分が姿を眩ました事、メドーサに同じ狢として自分の下に着いてほしい事………そんな要点だけをメドーサに話す
「アシュタロスの下では本領が発揮出来なかった様だが、ワシは違うぞ」
何でも思う通りに………気ままに動け―――それが貴様の仕事だ
…一体何を考えているのか―――皆目見当もつかない
しかしメドーサのすべき事といえば、今度こそ横島を殺すこと
ならば自由に動ける事に感謝すれど、異論はない
「待っていな、横島…! 今度こそ貴様を八つ裂きにしてやる!!」
邪龍の城に、メドーサの溜まりに溜まった鬱憤が木霊した
『作者の愚痴』
や、やっと一話目が書けました〜…!
実に三週間ぶりの更新です。
内容はまだまだ出だしで、敵の正体は摑めない………って言っても、二話目には例のドラゴンの正体は出るし、バトルは始まります。
それにオリジナルキャラの佐原徹君は、最強キャラとかにはならないんで安心してください。
ま、一応はストーリーの鍵となるキャラですが、大して目立ちません。
彼に何の意味があるのかは、最後まで見ないと分からないんですよ。
なのでどうか長い目で見ていて下さい(切実)!
ちなみに身長は170cm、見た目はどこにでもいる普通の学生です。
今までの
コメント:
- 初めまして、おしょうと申します。
大物のドラゴンと言えば限られますけど、アレっすかねぇ?
オリキャラの今後の動きが気になります。
次話、待っています。
がんばってください。 (おしょう)
- 初めまして、おしょう様!そして感想ありがとうございました!
えー、愚痴で書いたようにオリキャラは地味に活躍します。彼の見せ場は最後ですから。
ドラゴンについては―――ヒント出したら一瞬でばれるし、次回には分かるんで予想が正しいかどうか待っていて下さい。
では次回にまたお会いしましょう。 (超毒舌者)
- 美神さんて、実はあまり自分の得意とする性質の能力持った弟子がいませんよねー(笑)。ということで(何)はじめまして、マサと申します。さて、ドラゴンですか…。これくらい大物だとよく希少種としてファンタジーものに登場するイメージがありますが、今のところ何をしようとしているのか不明なので楽しみですね。ちなみに、オリキャラが平凡であることを主張したい気持ちは良く分かるのですが、そういうのは主張するよりは話の中で匂わせると受け入れやすいかと。例えば、横島との慎重の比較をしているような言い回しを一度入れておくとか、「彼女いるん?」「別に」(誰だー>笑)みたいな会話をちょこっと入れてみると、見た目とかならそれなりになるのではないでしょうか。あくまで私の意見なので気になさる必要はありませんが(汗)。では、続きを期待させていただきます♪ (マサ)
- 初めまして、そして貴重なご意見ありがとうございますマサ様。
…なるほど、文中にて平凡さをアピールさせると。
しかし特徴なさ過ぎてどうしようと思ってたんですよ〜。
後からまだオリジナルの敵が出る予定なんで、そっちで改善しようと思います。
ちなみにドラゴンが大物かどうかは自分の独断なんで、名前出しても誰これ?となる可能性ありです。
ではニ話目がいつになるか分かりませんが、またお会いしましょう。 (超毒舌者)
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