ザ・グレート・展開予測ショー

The show must go on(1)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/11/ 6)

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この展開は拙作「ハードボイルド・ワンダーランド」及び「すべての犬は天国へ行く」に続く時系列となっています。
一見の方にも支障のないように努めてはおりますが、上記展開を事前にお読み頂ければ幸いです。

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深夜。
西アフリカの小国ノージェリア北東部。


それは巨大な建造物群であった。
金網で仕切られた区画は小さな都市が丸ごと収まるのではないだろうか。
まるでどこかの国の軍事施設のような物々しい警備体制が敷かれている。
しかしこれは民間の施設であるらしい。
規則的に聳えるいくつかのコンクリート製の施設の合間を、自動小銃で武装した警備員の
目を逃れて移動する二つの影があった。
かなりの訓練を積んでいるか、それなりの修羅場を潜っているのだろう。
彼らは足音一つ立てぬ隠形の歩法で、しかし決してスピードを緩めずに移動している。

「ジェフ。間違えるなよ。
俺らの目的はあくまで斥候だぜ。
明日になれば横島たち増援部隊がノージェリアに到着する。
深追いする必要な無ぇんだからな。」

ジェフと呼ばれたのは迷彩服に身を包んだ長身の青年であった。年のころなら24,5歳と言ったところだろうか。
一定の歩幅で周囲に継続的に気を配りながら歩く、訓練された兵士の動きをしている。
小銃を持っているわけではないが、胸元に短銃を携帯しているようだ。
短銃は戦闘には向かない。
現実は西部劇やハリウッド映画のようには行かないのだ。
ある程度の距離で弾丸を対象に正確に充てる為には、射撃場では当然のように配備されて
いるが、実際の戦闘ではクリアすることが困難ないくつかの条件を備えなければならない。
また短銃は必ずしも致命傷となる威力を備えていない。
相手は必ずしも立ち止まってくれているとは限らないのである。
一瞬の判断が命に関わる戦場において、だから短銃とは非常に不似合いな武装なのである。
彼らが本当にこの施設を制圧するつもりで武装しているのであれば、その装備は自ずと違
ったものになってくるだろう。

ジェフリー・マッコイICPO特殊捜査官はやや緊張した面持ちで己に声を掛けた男に頷く。

「分かってますよ。
こんな戦力差なんだから不死身のあなたならともかく僕なんて直ぐに殉職です。」

そこまでするほど給料は貰ってないですよミスター・雪之丞、とジェフリーは続けた。

よく整備された機械のような動きをするジェフリーとは対照的に、暗がりを好んで徘徊す
る獣のような、しなやかな動きをするその男は見るものがあれば震え上がるほどの野生を、
巧妙にそのうちにしまいこんでいる。
ジェフリーよりは頭ひとつ分背が低い。
年齢も今年で28歳になる。
しかしもし戦えば逆立ちしても自分の勝利がありえないことをジェフリーは知っていた。

「不死身はダチの専売特許でな。俺でも撃たれりゃ死ぬんだぜ?」

そう言って黒髪の伊達雪之丞は小さく笑って見せたのだった。





イーストサイド・リドルロジクス社が秘密裏にオカルト兵器の開発をしているという情報
がICPOに入ってきた際、当然のごとくICPOの特殊部隊による捜索隊がノージェリ
アに派遣された。
しかし捜索隊は後援にまわった隊員一人を除いて突如全滅。
しかも市外を流れる大河に無残に遺体が放置されるという屈辱的な方法でICPOはその
事実を知ることになる。
10年前の功績によりICPOに国際的な影響力を持つ美神美智恵特別顧問によって民間G
Sへの協力が要請され、日本ICPO支部長である西条輝彦長官を通じて日本GS協会の
唐巣会長が選定した三人のGSの派遣が決定された。
実際には都内某所の美神所霊事務所の客間で紅茶を飲みながらの談笑で決められたことで
あるということは、公式記録には一切残っていない。
偶然にも仕事でチュニジアに出張していたGS伊達雪之丞が現地捜査官ジェフリー・マッ
コイとともに斥候役を務め、表向きは製薬会社であるところのイーストサイド・リドルロ
ジクス社の調査に先行したのである。

ジェフリーが今回の捜査に志願した理由は至極単純なもので、それは彼が伊達雪之丞に憧
れていたからである。
GSとしての横島忠夫と伊達雪之丞はコンビで国際的な依頼を受けることが多くなった。
特に雪之丞は4歳になる一人息子の世話をほとんど妻にまかせっきりと言う体たらくであ
る為、「あら、すっかり英語がお上手になったのね」という皮肉と怒気たっぷりの賛辞を送
られるたびに胃を縮めている。
4年ほど前から国際テロ組織アプラクサスの仕業と見られるオカルト・テロが世界中で続
発し、合衆国では炭素菌に強力な呪怨を仕掛けたものが散布され多大な民間被害を出し、
西アジアの数国との国際戦争にまで発展したことがその背景にはある。

オカルトという性格を持つ以上、普通の人間ではまず対応できない。
しかしオカルトの専門家というだけでも武装したテロリストには対抗できない。
彼らを摘発できる包括的な能力を持った人材は世界でも非常に限られており、雪之丞と横
島はその筆頭だった。

「ICPOの私が言うのもなんですが、雪之丞さんに憧れる所員は多いんです。
この前も魔神スルトの因子を持った亜神を倒したって言うじゃないですか。」

随分苦戦されたようですけど、と青年は付け加える。
ザンス王国のテロリストとの一戦で、雪之丞は横島とともに炎を操る人造魔神との戦闘に
勝利を収めていた。
これはザンス解放戦線の切り札であり一体きりの試験機であったらしく、威力の劣る量産
志向の個体も一体日本の東京を襲ったが、これはICPOの捜査官が倒している。

「人造魔族ってのは強力だが、キメラや人間をベースにした奴はチャクラが剥き出しだか
らそこを突かれると弱い。
俺と横島とでやったやつはチャクラを鉛と神鉄で覆ってやがったんだよ。
出力も段違いだった。
まぁ、正直危なかったのは事実だけどよ。」

「苦戦」という言葉にふてくされたような態度を見せる大人気ない雪之丞に慌ててフォロ
ーを入れる青年。

「そ、そういう意味じゃなくて、そう、私も雪之丞さんに本当に憧れてるんですよ。
―――――私の母は私が幼い頃霊障でこの世を去りました。
軍人だった父は以前にもまして仕事に打ち込むようになり、私は孤独な幼少時代を送るこ
とになりました。
そんな中、あのアシュタロスの事件があったんです。
民間のGSとICPOが協力して神話級の魔神を退けたことは、私にとって暗い現実を打
ち破る決定的な事件だったんです。
それからぼんくらだった私は大学に入る為に必至で勉強しました。
今は支障がないので英語を使ってますけど、憧れた日本語も勉強しました。
ほんの少しだけ霊感があった私は大学をでてICPOの心霊捜査官になり、そこで民間に
は知られていない、あの事件の真の英雄達の名を知ることになったんです。」

ジェフ、と雪之丞はなお言葉を続けようとするジェフリーを遮る。

「三つだけ言っとく。
10年前のあの事件の英雄は一人だけで、それは俺じゃない。
あと、ICPOの捜査官ってのは敵地でべらべらとお喋りするように訓練受けてるのか?」

「す、すいません・・・・・・・。」

と言って黙りこくってしまったジェフリーに、雪之丞は苦笑した後に言う。

「最後に、母親が死んだのに全うに生きてるお前は偉いぜ。
俺はママが死んで一度道を誤りそうになったことがある。
お前の言う英雄のお陰で今はこうして全うに生きてるけどよ。」

照れたように言う雪之丞の言葉にぱっと顔を明るくしたジェフリーは、この後うれしさの
あまり思わず雪之丞にまつわる英雄譚について語りだし、思い切りぶん殴られたのだった。

「人の話を聞きやがれッ!!とくに前半ッ!!」

「す、すいません・・・・・。」

これだけ騒いでおきながら警備員に見つからないのだから、その点だけは彼らは流石と言
えたかもしれない。






「・・・・・・・当たり、だな。」

雪之丞と頬を押さえるジェフリーは真夜中にも関わらず煌々と明かりのついた工場のよう
な建物に侵入した。

「こんなことが・・・・・・・。」

二人の眼前にあったのは、ほとんどきりがないほどに並んだ無数の培養液であり、その中
には人の大きさをした魔物や、魔物になりかけている人間の姿が窺えたのであった。

「決まりだな。
ここはアプラクサスの軍事施設でイーストサイド・リドルロジクス社もその一味。
な〜に、実際俺たちゃこんなのを何体も相手にしてるんだ。
どっかで作ってるのは当たり前だわな。」

そう言って雪之丞は場違いにもタバコに火を点け、煙たそうに煙を吐き出した。

「だからってこんな―――――。」

施設内は禁煙だよ、という突然の言葉がジェフリーの台詞を遮り、二人は慌てて後ろを振
り返る。

見ればそこには暗視ゴーグルを装備し迷彩服を着た数十人の武装した男たちがいつの間に
か出現していたのである。

「気配は・・・・・・・・・・・・感じなかった筈なんだけどな・・・・。」

「これのお陰さ。」

といって中央の男が迷彩服を脱ぎ捨てる。そこに現れたのは白衣を纏った金髪・碧眼の男
であった。
年齢は30〜40というところだろうか。
掴み所のない雰囲気で年齢を察しづらい。

「最新型の心霊迷彩。
この地方で採掘されるチェシャライトという鉱物が原料となっている。
動物的とまで言われる君の感性を欺けるとは大成功だな、伊達雪之丞クン。」

今にも動き出しそうなジェフリーを手で制し、雪之丞が男に話しかける。

「俺の名前を・・・・・・手前ェ、何者だ?」

「コヨーテと呼んでくれ。親しい友人はみなそう呼ぶよ。」

「ふざけるなッ!!!」

コヨーテが嘆かわしい、とでもいうように首を左右に振ると、激高したジェフリーに向け
て小銃が一斉に照射される。

「部分魔装・・・・。」

雷が落ちたような轟音の後白い煙が散開すると、そこには赤銅色をした巨大な盾が展開さ
れていた。
その後ろには頭を抱えるジェフリーと生身で片腕にだけ魔装と巨大な盾を展開させた雪之
上の姿があった。

ほう、と白衣の男、コヨーテが呟く。

「限定的な魔装術の発現。この場合は盾の形に霊気を集束させ物質化したというわけだね。
相当な硬度があるようだ。」

しかしこれはどうかな、と言ってコヨーテが右手から無造作に何かを放った。

「何ッ!!」

それは赤銅の盾を迂回して背後のジェフリーの肩口に命中した。

「うぐッ!!」

「大丈夫かッ?」

盾を展開したままジェフリーを気遣う雪之丞。

「かすり傷です。ミスター雪之丞。僕ならその辺の物陰に隠れてますから、存分に戦って
ください。」

足手纏にはなりたくないんです、とジェフリーは言った。

「・・・・・・・・・わかった。」

そして雪之丞は魔装を全身に纏い、静かに歩を進めたのだった。




「君たちは手を出さなくていい。」

一斉に小銃を構える兵士たちを口先だけで制すコヨーテ。

「彼にそんなものは通じやしないよ。
それに・・・・彼は僕の獲物だ・・・・・・。」

そう言って白衣の男は不気味に笑う。

「悪いが、もたもたしてもいられねぇ。とっとととんずらこきてぇからな。
先手――――」

雪之丞の拳に力が圧縮される。

「必勝ッ!!!」

雪之丞がまず全力でコヨーテに向かったのにはワケがある。
先ほど赤銅の盾を迂回した何か。
あれさえ無ければあとは雪之丞の魔装でジェフリーを守りながら十分に逃げ切れる可能性
が高い。
そしてどうやらこの男はこの施設では命令を出す部類の人間であるらしい。
あわよくば人質にするくらいの価値はあるということだ。

しかし雪之丞の見通しは全く甘かった。
一つには、男はこの施設においては最高の権力を有していたし、もう一つは、雪之丞の全
力の拳があっさりとコヨーテの手によって止められたからである。


「な・・・・・・!?」

雪之丞の一撃を受けずたずたに引き裂かれた白衣から現れたコヨーテの右腕は、きらめく
銀色の義手であった。

「綺麗だろ?そして君の一撃を受け止めるほどに・・・・・強固だッ!!」

コヨーテは雪之丞の拳を離すと強力な一撃を雪之丞の腹部に加えた。

「ぐはッ・・・・。」

側壁に詰まれたダンボールか何かに頭から突っ込む雪之丞。
その腹部の魔装は、目に見えるほどひび割れている。
右腕の強度は別においても、人間の腕力ではなかった。

「・・・・・・手前ェ、何者だ?」

のろのろと立ち上がりながら雪之丞は同じ質問を繰り返す。

「見ての通りのしがない研究者さ。」

コヨーテはほら白衣、といっておどけたように襟を立ててみせる。

「どこの世界の研究者が『銀の腕』なんてものを身に着けてるってんだよッ!!!」

一瞬の攻防でその正体を見破った雪之丞に対し、コヨーテが口笛で感嘆する。

「なに、世の中テロだのなんだのと物騒だからね。」

ぬかせ、と毒づきながら雪之丞は考えていた。
現状非常に分が悪いといわざるを得ない。
先ほどの立ち回りから見て、相手は雪之丞と同等か悪くすればそれ以上である。
平素なら望むところと向かっていく雪之丞であるがここは敵地。
勝利する自信がないわけではない。
雪之丞にも切り札と呼べるものはある。
しかし後ろにはジェフリーもいるのだ。
交戦を避け、撤退するのが無難な道か。
ジェフリーは右腕に被弾したようだが根性を出せば動けぬほどではあるまい。
後日、横島たちと再度出直せばよいだけだ、雪之丞は猛る心を落ち着かせる。

「部分魔装ッ!!」

身体の魔装術が解け霊気が背部に集中する。
そこには赤銅色の巨大な翼が生まれていた。

「っははは。なんとまぁ、器用な男だね、雪之丞クン。」

「っち、色々ついてねぇぜ。手前ぇとはきっちり勝負つけてやるからな。
ジェフ、ここは一旦引くぞッ!!」

雪之丞が後ろを振り返ると、そこにはジェフリーが無造作に突っ立っていた。
短銃を雪之丞に構えて。

「ジェフ・・・・・・?」

軍隊で倣ったような精確なモーションで引き金が6回引かれ、雪之丞はそのうちの3発に
被弾していた。

「・・・・・っく、ぐふ。」

傷口を押さえよろめく雪之丞。
その顔には明らかな困惑が浮かんでいる。
ジェフリーを見ればその目はうつろで、被弾した右腕からは、霊気のようなものが漏れて
いた。

「一体どうなってんだ、という顔だね。
さっきそのジェフ君に打ち込んだのはチューブラー・ベルを軍用に改良した即効性のもの
だ。
妖怪としては短命の欠陥品だが、数日は宿主を自由に操作することができる上、知っての
通り徐霊は不可能。そして数日後は宿主を巻き添えに死ぬ。」

「悪魔か・・・・・・・・・。」

ちゃ、という音を立て、兵士たちは雪之丞の頭に照準をあわせる。

「まさか。れっきとした人間さ。」

コヨーテが合図をしようと右腕を振り上げた瞬間、窓ガラスが割れ黒服の人影が進入して
きた。

「雪之丞さん、目を閉じてくださいッ。」

「ぬぅ。」

人影は日本語でそう叫んだ。
次の瞬間、閃光弾が室内をあまりにも煌々と照らし、暗視ゴーグルで武装する兵士たちの
目を焼く。

「雪之丞さん、こっちへ――――。」

「アブねぇッ!!!」

一人日本語を理解したジェフリーは、黒服に引き金を引こうとしたところ、雪之丞に横面
を思い切り殴られる。
今度は、すいませんなどということもなく、悪びれた様子どころか感情というものを一
切なくした彼は、その場でむくりと起き上がった。

「・・・・・・・・・・・っち。
言ったろうが、俺も撃たれりゃ死ぬんだよ。
・・・・・・・・・・来い。」

「え?」

雪之丞は黒服を抱きかかえると、割れた窓ガラスから翼を広げて飛翔し、逃げたのだった。

「っくそ、追えッ!!!」

ようやく目が慣れてきた兵士たちが雪之丞を追おうとするのをコヨーテが押し留める。

「必要ない。」

「し、しかし・・・・。」

「必要ない。」

「あ、はい、失礼しました。」

コヨーテの冷徹な声に気圧され、慌てて口を紡ぐ兵士。

「彼なら必ず戻ってくる。
それよりそこのジェフ君を丁重に扱ってあげたまえ。
切り札は多いほうがいい。」

彼は僕と決着を着けるといったのだしね、と言ってコヨーテは窓のほうに視線を移す。
雪之丞が飛翔した空を眺める相貌は、子供が虫を殺すような好奇心に溢れているようだった。



「雪之丞さん。」

「何だ?」

夜空を飛翔する雪之丞は不機嫌そうにその声に応えた。

「助けてもらっておいてなんですが、いい加減女性の胸から手を退けていただけませんか?」

「っ手前ぇ女かよ。」

通りで柔らかいと思ったぜとは口に出さず、慌てて女性を支える手の位置を変えた雪之丞
は、女難は横島の役目だとぶつくさ呟き、本当にいろいろついてねぇぜ、と一人ごちた。





モロッコの国際空港に三人の人影があった。
そのうちの一人がなにやら叫んだ後に、手に持つ携帯電話を見つめ不機嫌そうに電源を切った。

「忌々しいことに雪之丞のアホがへましたらしい。
残念ながら金髪の姉ちゃんをナンパするのも観光もなしじゃ。」

「そんなこと考えてたのは横島さんだけですッ!!!」

「雪之丞サンは大丈夫カノ〜。」

どこか呑気な調子の三人がノージェリア行きのセスナ機に乗り込んだのは、それから1時
間後のことであった。







(続)

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