ザ・グレート・展開予測ショー

GSK - Ground Saver Knights - (GS美神、十数年後)


投稿者名:犬○屋
投稿日時:(05/11/ 3)


 この世界は、目に見える事だけが全ての理ではない。
 人の側に寄り添い、光の息吹を謳歌するモノ。
 闇に潜み、隙あらば人に仇為そうとするモノ。
 終焉した生命に気づかず、現世を彷徨うモノ。
 この世界にはそんなモノたちでも溢れていた。

 そんな異なるモノ、特に人に害為すモノが同じ空間に存在していて何も起きない訳が無い。
 世界の歪が起こす障害を解決する為、それらに対抗できる能力を持った人間達は今日も世界を駆け巡る。
 ──それは例えば、死した屍たちが遺恨の口上と共に占拠する廃屋ビル……等。



- 1 -

「これでもかって位、禍々しい瘴気で溢れ返っているわね」
 廃屋ビルの入り口から建物を見上げ、その女性は呟いた。
 陽も落ちきるかどうかという夕刻だというのに、女性はサングラスを外す気配が無い。目元がわからない以上確信は無いが、外せばそれなりの美人であることだろうは伺える。
 艶やかな黒髪は肩口で綺麗に切りそろえられ、黒いロングコートの襟との隙間から白い首筋を時々のぞかせていた。

《──ケイ・こちらの準備は整いました》

 耳につけたイヤホンから、感情が乏しい感じの声で通信が入る。
 ケイと呼ばれたその女性はイヤホンについた小型マイクをオンにすると、その通る声を抑えて相手に応答した。

「スキャンは?」
《ノイズが激しくもう暫くかかるかと。待ちますか?》
「いえ、今から突入する。わかったら連絡して」
《了解(イエス)。何かあったら呼んで下さい》
「わかってる。でもそれまでマリアは外の警戒、ちゃんとお願いするわ」
《了解(イエス)・ケイ》

 マリアとの通信を切り、ケイは廃墟ビルの扉の前に立つ。そのままもう一度自分のスタイルを確認した。
 手には金属板が手甲に打ち込まれたライダーグローブ。コートの下は袖なしのラバースーツ。そしてロングコートから地面に生えるブーツは金属鋲が打たれた安全靴と、アンバランスながらも黒で統一された戦闘スタイルを取っていた。
 ただ一つ、アンバランスという言葉でもくくれないぐらい大きく外れた違和感があるとすれば、その額に巻かれたバンダナだろう。コレだけが服のセンスに微妙に合っていない。

 ケイは右手をそのバンダナにそっと当てると、少しだけ微笑み。
「頑張るわ──」
 その後、小さく誰かの名前を呟いた。



- 2 -

 日本のお化け屋敷の様に、こっそり忍び寄り相手を驚かす──今回はそう言う連中ではないようだ。
 入り口を抜け中に入るや否や、ケイは彼らの熱烈な歓迎を受けた。
「空飛ぶ椅子と机とは、全く捻りの無い幽霊騒動(ポルダーガイスト)ね」
 ケイはそう言うと空中を飛び交う椅子や机を踏み台にし、中空を翔けてこの騒動を起こしている力の存在へと一気に詰め寄った。
『……ナ、何ダト!?』
 その力の存在──いわゆる悪霊と呼ばれる彼は流石に驚き逃げようとするが、ケイはそんな悪霊の頭を右手で捕まえて許さなかった。
「逃がさないっ!」
『バカナ! 私ヲ、幽霊ヲ可視スルダケデモ巫山戯テイルノニ、捕マエル事ナンテアリエン! ……マサカ、貴様ッ!』
「そーいう事。あんたね、幽霊って自分で自覚してるんだったら、ちゃんと成仏しなさいよ」
 悪霊を掴んだ掌に自分の体内にある霊力と表現されるエネルギーを集中させる。
 その溜めた力は掌で軽い放電作用を起こし始めていた。
『ナ、何ヲスルツモリダ!』
「Let's go to HEAVEN、よ。逝きなさい、Hand of Lighting!」
『グァ───……!!』
 悪霊の断末魔が響く前に、ケイの右手に収束した光が悪霊を貫き霧散させた。
 閃光が部屋を包み、視界が白く染まる。飛び交っていた椅子などは弾け飛び、壁に激突して地面に落ちる。そして部屋はケイを中心に元通りの暗さと平穏を取り戻していった。
「まずは一人、っと」
 サングラスをずらし、自分の視界で周りを確認する。自分のこの技の為にわざわざサングラスを掛けていたのだ。
 と、そこにマリアから再度通信が入った。

《ケイ。霊波スキャンより数を特定。今のをいれて目標は全部で21体です》
「21? 聞いた数より遥かに多いじゃない。マリア、神父に報告しておいてくれる?」
《了解(イエス)。今から連絡を取ります》
「お願いね。とりあえず敵の数は了解。それじゃ、さっさと退治しましょうか。あんまり神父やドクターを待たせると、また色々と面倒だし」
《了解(イエス)・ケイ》



- 3 -

 全部で5階建てのビルを慎重に昇りながら、出会った悪霊を次々と退治していく。
「昔懐かしい香港映画じゃあるまいし、こんな展開じゃ視聴率稼げないわよっ!」
 4階の階段前に陣取っていた16体目を追い祓うと、ケイは一呼吸置いた後に5階へとあがっていった。

『──古臭イ香港映画デ悪カッタナ』
 階段の一番上で次なる悪霊が立ちはだかる。
「悪くは無いわよ。各個撃破できる分こっちは楽だし」
『当タリ前ダ。今マデノ奴等ハ時間稼ギダッタノダカラ、マトメテ倒サレタラ意味ガナイ』
「でしょうねぇ。……それで、そろそろ目的を教えてくれるわけ? 時間稼ぎに」
 ケイは両腕を組んで悪霊に尋ねた。とりあえず戦闘ポーズをといて話に乗ろうという構えである。
『貴様ハ若ソウダガ、コノ世界ニイルンダ。大騒乱ハ知ッテイルナ?』
「……まぁ、人並みにはね」
 さり気なくサングラスをいじり直して表情を隠す。そのまま、昔聞いた記憶を思い出すかのようにケイは告げた。

「──魔王Aの宇宙再造計画。かつて世界を襲った大神災。辛うじて人間側が勝利したが、その霊波の乱れは今尚世界に響いている……あってる?」
『ソノ通リ』
「で、それが何なの?」
『魔王ヲ我等ガ復活サセヨウトシテイル……ト言ッタラドウスル?』
 全身が透けて見えにくいくせに、悪霊がニヤリと笑った感じだけは取れた。
「素晴らしいハッタリだと誉めてあげる。……あのねぇ、Aに関しては世界のトップクラスが警戒する最優先事項。こんな場末の廃墟ビルを占拠する程度の悪霊がどうこうできる物じゃないわ」
『確カニ我等ダケナラナ。ダガ我等ニハ、カツテAノ配下ダッタ魔族ガツイテイル』
 その言葉にケイの思考が停止する。先程と姿は変わらないが、サングラスの奥から凍るような、それでいて燃えるような視線を悪霊にぶつけていた。
「……それが本当にAの配下かどうかは置いといて、魔族がいるって部分はちょっと聞き流せないわ」
『ダロウナ』
「全く、おかげで余計な作業が増えたじゃない」
 ケイはやれやれといった感じで首を振ると、一度だけ深呼吸をして気持ちを整える。
「……じゃあ、そろそろ退いて貰っていいかしら?」
『時間稼ギガ大人シク退クト思ウカ?』
 それを最後にお互いが構える。ケイが右手を差し出し掌に霊力を集中させると、そこに雷の霊磁場が発生し始める。そこまでは今までと同じだが、ケイは更に全身の霊力を一点に集中させて、霊力の高密結晶を生み出した。

「──Let's go to HEAVEN」
 いつもの口上と共に、ケイが一気に階段を駆け上がる。だが同時に悪霊の姿も床下へと一気に潜伏した。
『霊魂ノ優位サ、存分ニ使ワセテ貰ウゾ!』
「無駄よ。Spiritual materialize!」
 呟き、ケイが手にした霊力の結晶を床下目掛けてぶん投げた。
 結晶は地面に当たって爆発するかと思いきや、そのまま先程の悪霊の様に沈んでいく。
 ただ一人空間に残されたケイは精神を集中して、悪霊のいる場所へと結晶を導き始める。
 そして数秒後。
『グギャアアーーーーーーーーーーッ!!』
 そんな断末魔と共に階段の踊り場が爆発し、悪霊が空中へと放りだされる。
 ケイはすぐに悪霊の側へと飛び上がり、新たに霊力を込めた右手を叩き込んだ。
『霊力ノ結晶ダト……貴様、ソレガ何ヲ意味スルカワカッテ……ッ!』
「逝きなさい、Hand of Lighting!」
『アギ──────……』
 最後まで語らせず、ケイは悪霊に止めを刺した。

 着地を失敗し、倒れたまま壁に寄りかかる。
「流石に……今のはまずかったかな」
 呟きながらもケイは必死で霊力と体力の回復に努めた。両手で額を抑え、激しく、そしてゆっくりと深呼吸を始める。
 精神を落ち着かせる事。それこそが霊力回復への近道だ。
 それにしても魔族とは──いや、今は回復に集中しろ。
 敵に魔族がいるとわかった以上、最後は激戦になるのが予想される。今のうちに……
《ケイ。残霊反応が次々と消失・一つだけ霊力が膨れています》
 休息を破るマリアからの通信に、ケイは思わず顔をゆがめる。
「……魔族が霊を喰い始めたようね。それは……ヤバイわ」
 壁に寄りかかりながら立ち上がり、一度身体を伸ばす。床へ落ちた時の衝撃があっただけで、特に身体に支障は無いようだ。
 もう一度深呼吸し額から──バンダナから両手を離し、頬を叩いて気合を入れる。
「今から向かうわ。マリア、貴方もお願い」
《了解(イエス)・ケイ。上から廻ります》
「では後で」
《──ケイ・何度も忠告しますが・霊力結晶化は全身の霊力を一点集中してしまう霊技です。ケイ自身の霊力防御が0になる事を忘れないでください》
「わかってる。だから早く来てよね」
 それだけ言ってマリアとの通信を切る。
 言われなくてもケイは嫌というほどわかっている。霊力防御0で霊的攻撃を喰らったら精神が揺さぶられ一発でダウン、下手をすればそれだけで死亡してしまう。
 判ってはいても、止められなかったのだ。

 あんな言葉を出されてしまったら。



- 4 -

 最上階。吹きぬけたフロアの中心で、ケイは一人の男と対峙していた。
「……あなたが、魔族?」
『気高き魔王が僕にして意思を継ぎし者、この世の終焉と再生を望む者。それが私だ』
 黒い下半身に白い上半身の男が、仰々しく赤、青、緑、黄色とそれぞれ色合いを持つ4本の腕を伸ばす。
「とりあえず一言言わせて」
『何なりと。辞世の句ぐらい聞いてやろう』
「ありがと」
 ケイはサングラスを掛けなおして拳を握る。両手に蓄光状態が始まりだしたのを確認した後、もう一度男を見た。
 そして一言。

「あなた……趣味悪いわよ。特に顔が」
『魔族相手によく言ったっ!』
 刹那、広げられていた両腕がケイに向けられ、4つの掌から衝撃波が生み出される。ケイは両腕を交差させ霊力を高め相手の衝撃波に備えるが、ガードした状態のまま部屋の端まで吹き飛ばされていく。
 だが壁に激突するかという所でケイは身体を回転させ、壁に衝撃を吸収するような形で着地した。そのまま地面への重力がかかり始める前に壁を蹴り、今度は魔族の方へと飛んでいく。
『小賢しいっ!』
 魔族が赤い腕から炎を、緑の腕から旋風を出し迎え撃つ。ケイは跳んでる勢いを殺さぬように地面を蹴り、向かい来る炎と風をあっさりと交わして魔族の懐へと一気に飛び込んだ。
「Let's go to HELL! 還りなさい、Hand of Lighting!」
 退魔の力を込めた光が魔族を突き抜ける。が、魔族は何事も無かったかのように黄色い腕を伸ばしてケイを掴むとニヤリと笑い、
『残念だがこの腕に霊力は効かぬよ。……これはお返しだ』
 そう言って腕から目に見えて強力な放電を開始した。
「きゃああああああああああぁぁっ!!」
 ビクンと身体が跳ね、ケイが絶叫を上げる。対魔仕様になっている装備は焼き切れる事は無いが、逆にいえば体内に落ちた電撃が外へ逃げ難い状態でもあり、魔族の電撃は通常以上にケイへと襲い掛かる事になった。
 魔族が放電を止める。持ち上げた手にだらんと垂れ下がるケイの姿に満足し、魔族はケイをもう一度壁へと放り投げた。今度は受身も取らず壁に激突し、瓦礫と共にケイの姿が埋もれていく。暫くそのまま眺めていたが、ケイが瓦礫から出てくる気配は無かった。



- 5 -

『ふぅ……あの程度で感情的になるとは私も甘い。そう思わないかね?』
 魔族が自分の後ろ、離れて壁際に立つ人影へと声を掛けた。
 人影は答えず、またその場から動こうともしない。
 既に陽は落ち灯りも無いので人影の正体はわからない。だが魔族はその人影にどうにも感じる違和感をぶつけてみた。
『それで、何故貴公からは生命力を感じられないのか、教えていただけるかね?』
 人影はそれにすら答えない。だが、ただ一言だけこの空間に告げた。それは酷く冷静で、感情を感じさせない、機械的な声。

「ケイ・手助けは必要ですか?」

 その内容も普通に取れば酷いモノだった。だが、ケイはその言葉に取れる彼女の心遣いに感謝した。

「──大丈夫よマリア。だから・コイツだけは一人でやらせて」
「了解(イエス)・ケイ」
『……しぶといお嬢さんだ。しかし、先程の言葉は聞き捨てなりませんね』
 魔族が瓦礫へと視線を向ける。そこにはいつの間に這い出てきたのか、ケイが瓦礫の上に座り込んで休んでいた。
 ゆっくり立ち上がり、背中から段階的に伸縮する金属製のロッドを取り出した。ロッドを伸ばして右手に構えると一振りして具合を確かめる。霊力が流れ始めたか、ロッドから仄かな輝きがこぼれ始めた。
「あんまり使いたくないんだけど、光の霊撃が効かないんじゃしょうがないか」
 そうして更に霊力を込める。
「我が蛍光を破魔の剣に。Glorious Hand──現れ出でよ、蛍光刀!」
 言霊に反応し、暗い部屋でケイの持つロッドだけがまるで電灯の様に輝きを増し始めた。その光に魔族も、そして後ろに立つ人影の姿も顕になる。
 魔族は確認しなかったが、人影は女性だった。黒いワンピースドレスを纏った女性の、ボブにまとめられた髪が輝きを返す。髪飾りなのか通信機なのか、頭からはアンテナらしき物がはえている。
 だが何よりも目を引くのはその露出した腕と首に見える関節、そしてその顔だろう。
 上腕と下腕、頭と胴体を繋ぐ関節はまるで人形のように綺麗に線が入っており、関節というより接続と呼んだ方が相応しかった。
 そして顔は美人と称されておかしくないのに、まるで表情が浮かんでいない為にこれまた人形ののような印象を受ける。
 一言でいえば人影は──マリアは人間というより人形に見えるのだ。

「純粋に霊力を紡いだ剣。これなら貴方にも効くでしょう?」
 それにあわせ、魔族が4本の腕をケイに向けて構えて戦闘態勢を取る。
「全てを斬る剣である以上、もう手加減は出来ないわよ」
 ケイもまたコートの背中についたボタンを外し、肩甲骨の辺りが外気に触れられるよう開いた。

『聞いておこう。貴公らは、何者だ?』
「GSK。人に仇なす闇を祓う街の掃除屋稼業よ。何なら名刺でも渡しましょうか?」
 魔族のもっともな問いに、ケイはにっこり笑って答えた。

『貴公は、何者だ?』
「何者、っていうなら……最愛の父によって生み出された愛の結晶って所かしら?」
 ケイの背中、先程あけたコートの隙間から霊力の粒子が流れ始める。あたかもそれは羽の様になり、まさに羽であるかのごとく羽ばたきを始めるのだった。

『──貴公は、何だ?』
「もちろん、人間よ──今はね」

 それだけ言うと、ケイは背中の羽を羽ばたかせて魔族との距離を一気に詰めた。先程の突撃とは世界が、いや次元が違うぐらいの速さだ。
 ケイの動きに反応できたのはさすが魔族と言うべきか。だが、ケイを止めようと伸ばした4本の腕は、一瞬後には全て肩口からバッサリと斬られて空を舞っていた。
 直後にケイは膝関節を狙い足払いを繰り出す。魔族が苦悶の表情を浮かべながら体制を崩した所に今度は正面上空から突撃を掛けて魔族をあっさりぶち倒した。
 倒れた身体の上に乗り、首に蛍光刀を突きつける。全ては斬られた4本の腕が落ちるまでのわずかな時間の出来事だった。



- 6 -

『グギャアアアアアアアッ!! 腕が、腕があああああっ!!』
 叫ぶ魔族に対し、ケイは乗せた足に体重を掛けて無理やり黙らせる。魔族が怨念がましい視線をぶつけてくるのを確認し、ケイは尋ねた。

「さて、今度はこっちが訊く番よ。──貴方、あの魔王の僕なんだって?」
『そ、そうだ! 私にこの様な事して、どうなるか判っているのか!』
「さあ? 一体どうなるの」
『報復だよ! あのお方に刃向かった貴様等を魔族は許さんだろう! 死にたくなければ今すぐ私を解放せよ!』
 癇に障る笑い声を上げ、魔族が勝ち誇ったかの様に告げてくる。ケイはマリアに一度視線を移してからため息を吐き。
「……魔王復活の魔族集団ねぇ」
『ああそうさ!』
「それで、貴方はその一員だと」
『その通り! さぁ、わかったら今すぐ──』

「──それなのに、私の事を知らない訳だ」

 その言葉に魔族が言葉を止めた。そのままじっくりとケイを見つめる。
「テレビに出たりしてたのは大神災の頃だし、流石に無理も無いかなぁ?」
 ケイはにっこりとありえない事を告げた。彼女の年齢を考えれば大神災の頃にテレビに映っていた筈など無い。
 だが魔族はそんな突っ込みはせず、むしろその意見を肯定して返した。
『──ま、まさか! 馬鹿な、ありえん! お前は、お前等はあの時に滅んだはずだ! 滅んでなければならない! 何故だ!? 何故、貴様が生きている!』
 何かに気付いたように、魔族が狂乱の表情を浮かべて叫びだす。

『──何故、魔の偶像だった貴様が人間になっている!?』
「地が出てるわよ」
 ケイが更に体重を掛けて、再度魔族を無理やり黙らせる。その状態のまま今度は声を低くして、手にする蛍光刀にも更に霊力を注ぎ込みながら問い質した。
「訊いてるのはこっちなの。判る? じゃ、もう一度訊くわよ。誰が私に相談もせず、勝手に我が主を呼び覚まそうとしてるのかしら?」

 魔族は暫し無言でケイを睨み返していたが、ふと突然笑みを浮かべると答えてきた。
『……蛇だ』
「なんですって?」
 その言葉に意外にもマリアの方が反応する。表情も声質もあまり変わらないが、その言葉は明らかに驚いたそれであった。

「ありえない。蛇は・彼女は宇宙へ飛ばされたか・あるいは大気圏で焼失したはずです」
『おめでたいな。既に我らは3年活動している。それに気づかないとは』
 クックッと下卑た声で摩族が嘲笑する。
『……生きていたのさ。再生するのに随分と時間が掛かったと仰ってた』
「蛇?」
 ケイが何の事か尋ねると、マリアが報告書を読むように語りだした。
「貴方より前に生み出された・Aの配下です。霊力こそ貴方には及びませんが・私たち人間側の霊能力者をかなり苦しめた存在です。でも──」
 そこで一区切りし
「──でも・最後には貴方の父上が倒しました」
「えっ……」

「宇宙で決戦後・大気圏突入前。あの人が命を掛けて・ロケットから蛇を宇宙へと吹き飛ばしたのです。それで倒したはずでした。生きていたとは誤算です」
 ケイは思わず額のバンダナに手を添える。父は、あの人は私の知らない所でそんな戦いもしていたのか。
「直ちに協会に報告します。これは忌々しき最優先事項です」
「待って」
 マリアが通信を始めようとするのをケイは静止させた。
「どうかしましたか?」
「今世界的に動けば、おそらくその蛇は準備ができるまで出てこなくなるわ。既に3年は動いている筈なのに、私はそんな報告一度も聞いた事も無い。つまり蛇はかなり狡猾に動いているのよ」
「認めます。彼女の知性はかなり高く・私たちは何度も振り回されました」
「だったら今は騒いではダメ。折角見えた尻尾を切られる事になるわ」
 そう言いながらケイは魔族から身体をどける。蛍光刀と化していた霊力も霧散し、ただのロッドに戻っていた。ケイはロッドを背に仕舞い、コートの背中を元に戻す。
「……と言うわけで。貴方には蛇の元まで案内してもらおうかしら」

「その必要は無いわ」

 新たに響いた声と共に何かが飛んでくると、それは魔族の胸をあっさりと貫いた。
 槍とも鉾ともとれるその武器を打ち込まれ、魔族はあっさりと息絶える。
 ケイ達が声の方向を向くと、窓から差し込む月光の元に一人の女性が立っていた。



- 7 -

「このまま隠れてようかと思ったけど……おまえ達にだけは挨拶しておかなくちゃね」
 銀色の長い髪をなびかせ、まだ少女と呼ぶのが相応しい外見。
 だがそこから感じる霊力は大きく、また魔族特有の邪な波長をかもし出していた。

「マリア、あれが──」
「間違い・ありません」
「久しぶりね、機械人形。宇宙では本当に世話になったわ」
 少女が外見に似合わない声を発する。
「しかし・あの宇宙からどうやって」
「データが古いわ。私はその後一度蘇っている。大神災の時にね。まあ結局はアイツに滅ぼされかけたんだけど……」
 そこまで話して少女がケイを見る。
「……どうやらおまえは私の事を覚えてないみたいね」
「ごめんなさい。全く覚えてないわ」
 冗談でも挑発でもなく、本当に覚えていない。前に会ったときはよっぽど印象が薄かったのだろうか?
「人間への転生時に記憶が深層へ封印された、か。そういえばルシファーもそうだったわね」
 言葉とは裏腹に、少女が実に楽しそうに語る。

「それにしても。あのお方の傀儡にして人類の敵だったくせに、アイツとラブラブになってたかと思えは、あのお方を倒したアイツの、人間の娘として再生するとは……また破天荒な人生だこと」
 少女は楽しそうに、本当に心から楽しそうに笑い出す。そのままゆっくりとこちらに近づいてきた。
「私のこと、よく調べてるじゃない」
「おまえの父親、アイツこそ私の最大の怨敵なんだ。当然だろう?」
 お互いが手を伸ばせば届きそうなぐらいの距離。マリアが動こうとするが、ケイはそれを視線で制す。少女はそんな事にはお構いなしに更に近づくと、倒れ臥した魔族の側に行き無造作に刺さっていた槍を引き抜いた。一振りした後、不快な血に染まった槍を躊躇いもせずに肩に担ぐと、そのまま元いた場所へとゆっくり戻っていく。
「アイツの姿が世界の何処にも見えないわ。一体何処へ隠したの」
「私が聞きたいぐらいよ。こんな可愛い娘をほっぽりだして、一体何処を飛び回っているのやら」
 少女の質問にケイが首をすくめて答える。
「そうかい。おまえも知らないんじゃ仕方ない。アイツ自身じゃなくて娘を狙う事にするよ。その方がアイツをより効果的に苦しめられるし。何せアイツはやらしいくせに優しいんだから」
「本当、よく調べてるじゃない」
「えぇ。だから私達はおまえ達を狙う事にするわ。怖かったらパパに泣きつきなさいな」
「アナタこそ、そうやっていい気になってると痛い目みるわよ?」
「痛い目ならもう何度も見てきたさ」
 少女が壁までたどり着く。すっと槍を動かして壁をあっさり切り崩すと、そのまま空中へと当然のように歩みだした。
 数歩空中を歩き、そこでようやく少女が振り向く。

「GSK。この蛇の名を、恐怖と共にその魂に刻むがいいわ」
「Let's go to HEAVEN ──そっちこそ、私たちが極楽へ逝かせてあげるわ」

 お互いに熱く醒めた視線を突きつけ、口元に笑みを浮かべる。

「じゃあね。これは挨拶代わり」
 そう言い残し、少女の姿は一瞬後には何処にも見えなくなっていた。



- 8 -

 挨拶代わり? ケイがその言葉に疑問を抱く前に、ビルが激しく揺れ始めた。
「ケイ・ビルが崩れ始めています」
「──っのくそ蛇! なんて事しやがるのよ! マリア!」
「了解(イエス)。飛びます・捕まってください」
 ケイは再度ロッドを抜きながら一番近くの壁に近づくと、蛍光刀を生み出して壁を斬り開いた。直後、マリアがケイを抱きしめて壁に開いた穴から外へと飛び出す。
「内燃機関をイエローゾーンまで稼動。ジェットエンジンスタンバイ……ファイア!」
 マリアの合図と共に、その両足の裏から激しい熱量が噴出される。足を動かしてその勢いを器用に操ると、マリアはケイを抱きかかえたまま夜の街を飛んでいくのだった。

 近くのビルに着陸し、先程までいた廃屋ビルを見る。
「……今回の依頼って、ビル破壊も含まれてたっけ?」
「いえ。ビルの再利用が目的だと言ってました」
 廃屋ビルは豪快な音を立てて崩れていく。
「再利用、ねぇ……どうしよっか」
「──こういう時・ケイの父上は仲間と必ずする事が一つだけありました」
「へぇ……それって、何?」
 ケイがマリアの顔をみる。マリアは表情一つ崩さず、瓦礫と化した廃屋ビルを見つめながら教えてくれた。

「とにかく笑ってました。だから私たちも笑いましょう」

 あくまでも無表情に、そして大まじめにマリアは言った。
 ケイは暫く何も言い出せなかったが。
「……フフ、フフハハハハハハハハハッ! そーだね! とりあえず笑っちゃおう!」
「フ・フ・フフフフフフフフフ」
「いや、それは怖いよマリア。ハハハハハハハっ」

 ケイはここで初めてサングラスを取り、目頭にたまった涙を拭い取る。
 そのままマリアと共にその場に座り込み、二人していつまでも笑いあうのだった。

 いわゆる『現実逃避』という奴である。
「五月蝿いぞナレーター!」

[完]



- あとがき -
初めまして、犬○屋といいます。今回初投稿させていただきました。
手元にGS美神が無いので矛盾している部分もあるかと思います。
(特に性格とかに不安な部分が……)

アシュ編後「子供って事はこんな未来図になるのかな」とずっと考えてたのを
ある切っ掛けがあった事で形にしてみようと思い、これを書き上げました。

今回書いたのは未来図のほんの一部です。
GSKが実は部活だったり顧問が神父とネクロマンサーだったりと
実は書いて無い部分の妄想もけっこう膨らみまくってたりします。

ですが、この話は一話完結にしました。
これが記憶に頼って表せる限界だと思ったので。


ところで……展開予測と言っていいんでしょうか、コレ。

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