ザ・グレート・展開予測ショー

Sweepers’ Next レポート1〜横島蛍参ります〜(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/11/ 3)



夜の首都高。
高速11号台場線。
高速1号羽田線の芝浦ジャンクションを起点とし、有明地区で高速湾岸線に接続する延長
約5キロメートルの道路で、台場地区に出入口が設けられている。
台場の美しい夜景を一望できるこの高速道路だが、今は一台の車も走っていない。

夜間であるからではない。

本来ならまだ十分に車両で賑わっていても良い時間帯である。
芝浦ジャンクションにかかる電光掲示板には「除霊作業につき一時通行を制限しておりま
す」というテロップが流れている。
現在高速11号線は完全に封鎖されているのである。

光り輝く夜景を背景に、1人の少女が歩を進めている。
どこかの女子高の制服なのだろう。
短いスカートの裾から伸びる、すらりと長い脚の白さが目に眩しい。
満月が星の輝きを打ち消すほどに中天に輝き、少女の相貌を教えてくれる。
美人と言えるだろう。
しかしそれ以上に愛らしい顔であった。
肩口で切りそろえられた黒髪が、月明かりを反射して薄く緑がかっている。
近所を散歩するような軽い足取りで、少女は歩いている。
手をぶらぶらと垂らし、まるで無防備に。
よく知った友達のところに行くように、鼻歌の一つも歌いだしそうな雰囲気である。

しかし、その先に待ち構えているのは、一体の悪霊であった。

悪いんだけど、と少女は前置きした。

「悪いんだけど、あんたが夜毎に高速走る車を事故らせて回るもんだから首都高のエライ
さんから退治の依頼受けてるのよねぇ。
この展開の時間の流れがどうなってんのかわからないけど、首都高って民営化したばっか
で微妙な時期だしさぁ、色々と面倒があると困るらしいのよ。」

まぁ、コーコーセーの私にはよくわかんないんだけどね、と言って笑って見せる。
夜景を背負う彼女の笑顔はまだ幼い、屈託のない少女のものであった。

「だからさぁ、私としてはあんたが穏便にここを出てってくれれば無駄な労働もしなくて
済むんだけど―――――。」

『ドーロコーダンバンザーーーーーイッ!!!』

「そういうわけにもいかないか・・・・。」

人間大だった悪霊は突如その体積を二、三倍に膨張させ、凶悪な面相で少女に襲い掛かる。

「フローライトッ。」

少女の呼び声と共にその左腕に薄緑色の光が集約する。
それはまるで刃のような形状を形作り、溢れる光が火の粉のように天に向けて飛翔する。

面倒くさいけど、と少女はぽつりと一人ごちる。

「ゴーストスイーパー横島蛍が、極楽に行かせてあげるわッ!!」

真っ直ぐに悪霊に向けられた蒼い霊波刀は、燦然とした輝きで少女の美しい顔を照らしていた。





         Sweepers’ Next レポート1〜横島蛍参ります〜





「わわっ!!」

突如軌道を変えた悪霊の動きに蛍は思わず二の足を踏む。
悪霊は本能的に蛍の能力を感じたのか、それとも生来臆病な性質なのか、対峙することを
避け、道路を高速で移動し、逃げた。

「やっばー、速いわ。お姉ちゃんにどやされる。」

蛍が額に手の甲を当て暢気に呟いていると、閉鎖された首都高の上を一台のバイクが疾走
してきた。
バイクは蛍の眼前で急ブレーキをかける。

「早く乗れ、蛍ッ!!」

「光兄ッ!!」

蛍は慣れた仕草でその背に飛び乗る。

「言っとくけど私のオウトツを背中全体で堪能しないでよ?」

「はいはい。」

光兄と呼ばれたライダーは、何か呆れた声を発すると、アクセルを全力で吹かしたのだった。

「この先にあるのは・・・・・。」

「えッ?何ッ?」

暴風が真正面からバイクを包み込む。
蛍の声はほとんどライダーには聞こえていない。

「レインボーブリッジだ・・・・。」

レインボーブリッジは東京都港区の芝浦と台場の間にかかる吊り橋である。 1987年着工、
1993年竣工、同年8月26日開通。 橋長798m。
通行路は上下2段になっており(瀬戸大橋同様のシステム)、上段に首都高速道路11号台
場線、下段に一般道路(車道および歩道)と新交通システム・ゆりかもめが通っている。
「有明ジャンクションに着く前にはしとめないとな。蛍ッ、いつでも行けるな・・・?」

「できれば永久に行きたくないわ。」

「アホッ!!」

言葉とは裏腹に、蛍はライダーの右肩をしっかりと掴み、シートの上に片膝で立った。
暴風がスカートをはためかせる。

「きゃ、こんなことなら可愛いパンツ穿いてくるんだったわ。」

「誰も見てやしねぇよ。」

女心が分かってないわね、という蛍にぬかせ、と応えるライダー。
バイクはレインボーブリッジに差し掛かった。
光り輝く無数の蝶が羽を休めるような幻想的なイルミネーションが二人を包み込む。
橋梁を走り終える頃、視界には先ほどの悪霊が見えていた。

「この堂本光志から逃げ切れるつもりかよッ!!」

蛍の左腕に再度光の剣が出現する。

「すれ違い様一瞬で決めろよ。しくじってUターンしてると高速が終わっちまう。」

「女の子を急かすなんて、モテないわよッ!!」

バイクが疾走する悪霊を追い越した一瞬。
蛍の霊波刀が閃き悪霊を逆さまに袈裟切りしたッ!!

「やったか・・・・?」

「う〜ん、ごめん浅い。」

悪霊は身体の三分の一ほどを切り飛ばされながらも、なおも11号線の終着を目指して逃げ
切ろうとする。

「アホーッ!!くそ。街中に入られるとやっかいだぞ。」

「光兄ぃ、ドリフト、ドリフト。ドリフトしながら私がアイツをぶった切るから。」

「んな器用な真似ができるかーッ!!」

光志と名乗った少年が仕方なく車体を傾け一旦ブレーキをかけようとしたとき、突然天を
も焦がすほどの火炎が悪霊の頭上に降り注いだ。

『ギャーーーーーーーーーッ、アマクダリーーーーーーーーーーッ!!!』

バイクを停め、まるで焦熱地獄から召喚したかのような炎を呆然と見つめる二人。

「しかしまぁ相変わらず・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・反則ね。」

どっどっどっどっどというバイクのエンジン音がする中、完全に悪霊を燃やしつくた火炎
の中から一人の女性が大儀そうに歩いて出てくる。
その身体には火傷ひとつ、どころか髪の毛一本燃えていない。

正に美女という言葉が相応しかった。
タイトなスカートからすらりと伸びる長い脚。
ボディラインを強調する身体に吸い付くようなブラウス。
大きく開いた胸元からは、零れ落ちる寸前の果実のような豊満な乳房が覗いている。
アップに纏められた美しい亜麻色の髪が女性の美しさを際立てている。
女性は胸元から煙草を一本取り出すと、その愛らしい唇に咥える。
煙草の前で人差し指を立てると、小さな炎が指先に灯った。
光に照らされる女性の顔は、神話の女神のように美しかった。

「蛍ちゃん、光志くんご苦労様。そんじゃ、まぁ、帰るわよ。」

女性は形の良い唇から紫煙を色っぽく噴出すと、ふわ、と面倒そうに大きな欠伸をして、
傍らに停めてあったコブラに向けて歩き出した。

「はいはい、美神さん。」

「あ、待ってよ、ひのめ姉ちゃん。」

光志は慌ててコブラに乗り込もうとする蛍の後ろ姿を見送り、そして尚天に向けて燃え盛
る火炎に目を移すと、力の偏在ということについてひとしきり考えていた。 






「ちーっす。」

翌日夕方。

一人の青年が美神除霊事務所を訪れていた。

美しい顔をした青年である。
モデルのように鼻筋が通っている。
身長は180近いのではないだろうか。
動作ひとつひとつに気を使っているような滑らかな動きをする青年であった。
ピアニストのような長い指先がドアノブを回す。
10年前、少子化の煽りを受けて共学制に移行した六道学院(旧六道女学院)の制服を身に
纏っている。
青年―――堂本光志が学校の帰りにリビングに顔を出したとき、横島蛍はソファで寝こけ
ていた。

「ひのめさん、まだ起きてきてないのか?しかし・・・・・・こいつも良く寝る奴っちゃ
な。」

六道の校章の入った制服のまま薄手の毛布をかけてすやすやと寝息を立てる蛍。
徹夜で授業は堪えたのだろう。
地震が起きても目を覚ましそうにない。
うん、と言って蛍が寝返りを打つと毛布の裾が捲くれ、スカートの中身が顕になる。

「・・・・・・・・・・白か。」

取り敢えず下着の色を確認した後、あとからの面倒を考え毛布をかけ直してやる。
そのまま蛍の枕元に腰かける。
ソファが光志の体重で緩く沈む。

ふと蛍の安らかな寝顔が光志の視界に入った。

蛍と光志は幼馴染である。
両親の仲が非常によく、また蛍の両親が留守がちであったこともあり、ほとんど光志の母
親が幼少のころの蛍の世話をしたといってもいい。
年頃になり、蛍は伯母の美神ひのめの許に預けられたが、それまでは本当にいつも一緒で
あった。
勝気で負けん気の強い蛍は男の子顔負けのやんちゃな少女であり、2つ年上の光志はいつも
苦労をかけられていた。
その蛍も今年で15歳。
まだあどけなさの残る子供の顔だとばかり思っていたが、こうして見るとその寝顔は恐ろ
しく大人びている。

「光兄ぃ・・・・・・・。」

ふいに小さく開いた唇が光志の名を呼ぶ。
どきりと身を竦ませる光志。
おかしい、と光志は思った。
もう十数年も見慣れている顔なのに、なぜこんなにも鼓動が逸るのだろうか。
光志の頭の中に、愛らしい唇に己が唇を重ねたいと言う欲求が生まれるのにそう時間は掛
からなかった。

ごくり、と光志は喉を鳴らす。
見遣れば、横になるとほとんど隆起の窺えない小ぶりの胸が、規則正しく上下している。

「眠って・・・・・・・・るよな?」

光志は蛍の右肩に手を掛けると、その寝顔にそっと自分の唇を近づけた。

「光兄ぃ・・・・・・・・・・・・って、はッ!!」

光志の顔が正に蛍の目と鼻の先まで迫ったとき、お約束通りというべきか、蛍は愛らしい
大きな瞳をぱちりと開いたのだった。

「・・・・・・・・・・・あ、お早う。」

「お早うであるか、変態ッ!!!」

「違うッ!!誤解だ。俺はただ毛布をかけなおそうとブッ!!!」

「アンタの家では毛布をかけなおす時にいちいち乙女の唇を奪うんかいッ!!」

「っくそーッ、こんなこったろうと思ったよッ。」

物が飛び交い平手で肌を打つ特徴的な音が事務所を轟かせていると、この事務所の所長で
ある美神ひのめが起きだしてきた。

「なによ、昨日あの後飲み行ってそんなに寝てないんだから、ふわ、もうちょっと寝かせ
てよ。」

その格好はついさっきまで寝てましたと言わんばかりに、裸身に下着とネグリジェ一枚と
いうあられもない姿である。
ブラはつけてないようだ。
重力に逆らって張り出す豊満な乳房の頂に、目を凝らせば桜色の突起が透けて見えそうで
ある。

「聞いてよお姉ちゃんッ!!光兄ったら私の寝込みを襲おうとしたのよッ!!」

「お、おい、話を肥大させるなよッ。」

「光志くんが・・・・・・蛍ちゃんの寝込みをッ・・・・!?」

口元に手を当てしばし何事かを考えるひのめ。

「なんか私やっぱり寝なおすことにするわ。
急激に眠たくてこれはちょっとやそっとのことをされても起きないんじゃないかと思われます。
あ、光志くん、因みに今日は安全日だから安心してね(ハート)」

「何が、『ね(ハート)』ですかッ、何がッ!!」

「そんな、蛍ちゃんは犯せてもお姉さんは犯せないって言うのッ!!」

「GTYでそんな危険な単語を使わないでくださいッ!!!」

わいわいがやがやと騒ぐ一同。
騒動は仕事の時間になるまで続いたのであった。





「結界敷き終わりましたよ。」

都市郊外に忘れられたかのように放置された廃ビル。
2003年問題で借り手が付かず管理会社が倒産したところ、浮遊霊達の絶好の住処と化した。
景気が好転の兆しを見せ、都市部の空きオフィスの消化も進んできた昨今、こうした失わ
れた十年の負の遺産のような仕事が、最近のGS業界には多い。

缶のコーンポタージュを飲む蛍は光志の方を見ようともしない。
夕方の事をまだ怒っているようだ。
一仕事終え、なにやらオカルト染みた道具をかばんに詰め込む光志を尻目に、ひのめはと
言えば盛大に欠伸をかいた。

「ふぁ、あ、光志君ご苦労様。」

あのね、と言って光志が苦言をたれる。

「たまには結界くらい自分で張ったらどうなんですか?」

「私にそんな器用な真似できるわけないでしょ?」

何を今更という風にひのめが言い放つ。

「あんた本当にGSですか・・・・・?」

「免許見る?結構写りが良くて気に入ってんだけど・・・。」

「はぁ。お姉さんの令子さんは魔方陣で古代神を呼び出したこともあるそうですよ。
ちょっとは見習ったらどうなんですか。」

傍らで二人の会話を聞くともなしに聞いていた蛍の耳がぴくりと動いた。

「光志くん、あなた・・・・・・・・まだお姉ちゃんに憧れてるの?」

「ぎくッ。そ、そんなこと今はどうでもいいでしょうッ。」

「光志君、言っとくけどサイズは一緒でも若い私の方が張りがあるのよ?」

「何の話をしてるんですか!!」

「ほれ。」

と言って、ひのめが光志の掌を己の胸に導く。

「な、な、な・・・・・・。」

真っ赤になって素早く手を引っ込める光志。

「照れちゃって可愛い。」

ぷち、という音が二人には聞こえたような気がした。

「いい加減にしてよねッ!!この色ボケ色魔どもがッ!!!」

蛍の怒声が廃ビルに響く。

「ほ、蛍ちゃん、おこっちゃいやん。」

ひのめが咄嗟になだめに入るが――――

「もう、知らないッ。私勝手に先に行くからねッ!!!」

火に油を注いでしまった。

「・・・・・・・・・・・・光志君、女の子のハートはもっと繊細に扱わないと。」

「あんただ、あんた。」

光志の冷たい突っ込みが夜気に運ばれていったのだった。




『オ、オレノハナシヲキイテクレーッ』

「うるさいッ!!!」

蛍に向けて次々と飛来する低級霊たちが片っ端からナマス切りにされる。
このビルの徐霊が仕事とは言え、これは完全な八つ当たりだった。

「いつもいつもいつもいつもいつも、ちょっと綺麗な人がいると思ったらデレデレしてッ。
何よッ!!そんなに大っきなおっぱいがいいの・・・!?
私だってね・・・・・・・。」

と言って、蛍は自らの胸に視線を落とす。
そこには本当にあるかなしかの隆起がささやかに自己主張をしていたのだった。

「むきーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

『ギャーーーーーーーーーーーーーッ!!!』

現世に仇なすものとは言え、この場合霊魂たちの方が哀れであった。





「フレイム・ウィップッ!!」

ひのめの掌から鞭状の火炎が放射され、迫り来る低級霊たちを次々に霧散させていく。
彼女の隣では、札や神通棍を使って光志が地道に徐霊をしていた。

「だけどあれね、光志君って・・・・・。」

「???なんですか美神さん。」

「地味ね。」

「大きなお世話ですッ!!!」

「しっかしストレス溜まるわね。ババっと全部燃やしちゃうわけにはいかないの?」

ひのめがうんざりして文句をたれる。

「ちょっとは頭使って生きてくださいよ。美神さんがこんな屋内で火炎なんぞ使ったら何
もかも燃やし尽くしちまうでしょうがッ。」

「うるさいわね。しょうがないでしょ、栄養が全部胸に行ってるんだから。」

「あ、あのね。そういうのは自分で言う事じゃ―――――。」

その時、光志の背をぞくりとした悪寒が走った。

「???どうしたの、光志君。」

「さ、さすがに鈍感ですね。わかりません?
まるで上級魔族が光臨したようなこの霊気・・・・・・尋常な霊圧じゃないですよ。」

するとひのめは前髪をさっとかきあげながら言い放った。

「悔しいけど、はっきりいって何も感じないわッ!!」

「堂々と断言しないで下さい。それより急ぎましょう・・・・・・蛍が心配です。」

「ふふふ、そうね。」

「なんです?」

「なんでもありません♪」

光志は釈然としないながらも、自らの感覚にしたがって走り出したのだった。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!!」

二人が現場にたどり着くと、そこには身の丈の2倍ほどの霊波刀を振り回し暴れまわる蛍
の姿があった。

「「あ、こいつか。」」

ふたりは思わずユニゾンしたのであった。

「こら、蛍いい加減にしなさい。そんなに暴れまわったら嫁の貰い手がなくなるわよッ。」

ひのめの呼びかけに、しかし蛍は全く反応しない。まるで聞こえていないとでも言うように。

「蛍・・・・・・・・?」

「あああああああああああああああああ、『ファイア・フライ』ッ!!!」

「げ、あいつ屋内で霊波砲をッ!!!」

「まずいわね。出力に精神が負けて我を失ってる。」

蛍の掌に霊子が収束し、霊波砲が照射される。
それは一塊の霊団をいとも簡単に消滅させ、有り余る力でビルの壁面に直撃したのであった。
もとはどこぞのオフィスであったのだろう空間の机やいすが片端から吹っ飛び、ガラスが
ぎしぎしと悲鳴を上げる。
ビル全体がまるで直下型地震にでも遭遇したように揺れに揺れた。

「な、なんつう出力・・・・・・。いざと言う時美神さんの炎にも耐えられるように設計
した俺の結界が、今の一撃で無力化されちまった・・・・。
なんで蛍の奴がこんな力を・・・・・・?」

「光志君、ところで私って死ぬほど信用ないのね・・・・?」

言ってる場合ですか、と光志がきつめの言葉をひのめにぶつける。

「原因は分かりませんが今の蛍の力は下手な魔族より上ですよ。早くしないと出力があい
つの魂の器を破壊してしまう。」

「まぁ、魂の方なら問題ないんだけどね。」

「????」

「あ、こっちの話。
まぁこのままってわけにも行かないわよね。
光志君、私があの子の注意を引きつけるわ。その間になんらかのショックを与えてあの子
を正気に戻してあげて頂戴。」

「なんらかの・・・・・・・?」

「ごめんね、方法はまかすわ。知っての通り私霊感さっぱりだからさ。」

さぁて、と言ってひのめは蛍の方に向き合うと、すーーーっと息を吸い込んだ。

「こっちよ、ぺちゃぱいッ!!!!」

「な!?」

「うわーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

蛍がひのめに向けて高出力の霊波砲を照射する。
焔の盾を展開し、それを防ぐひのめ。
そこかしこにいた雑霊がその出力に巻き込まれて消滅する。
まるで底なしのエネルギーを持つように、蛍の霊波砲の正射がやむ事はない。

「なんつうことを・・・・・・・・。」

「っく、光志くん、早くして。さ、流石の私もこのままそんなに長くはもたないわよ。」

「そんなこといわれても・・・・・!?・・・・・そうか。これしかないッ。」

光志は意を決して蛍の方に駆け寄ると、素早く蛍の背後に回りこんだ。

「蛍ッ!!正気に戻れッ!!!」

そう叫ぶと光志は両手を組み、両の人差し指だけを突き出した印のようなものを形作る。

「・・・・・・!?・・・・・・・・・光志君まさかッ!!!」

「蛍、許せよッ!!」

霊力が込められた光志の人差し指が蛍の背後に突き刺さるッ!!!

「光志君ッ。」

蛍の背後の、ちょっと下の、お尻の、真ん中くらいのところに、ぷす、と、突き刺さった。

「きゃああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」

絶叫と共にお尻を抱えて飛び上がる蛍。
その背後には腰を屈めて、なにやら一仕事終えた男の顔をした光志の姿があった。

「よかった。正気にもど――――――グおッ!!!」

蛍の全力のアッパーが、姿勢を低くしていた光志の顎先を正確に捕えた。

「何考えてんのよ、変態ッ!!!!!」

「そうよ、癖になったらどうするのッ!!!!」

「あんたは黙っとらんかいッ!!!」

沈黙を言い渡されたひのめは、ぼこぼこにされもはや報道規制がかかりそうな光志の生命
力に、祈りを捧げるしかなかった。





「ええ、そう、そうね。・・・・・・うん、わかってる。
こっちはまぁ、大丈夫よ。
・・・・・そう、おキヌさんのところの・・・・・うん、あははは。
まぁそうね。何とかなるわよ。何だって、何とかなるもんなんだから。
うん・・・・・・・・・・・・また電話するわ。じゃあね、令子お姉ちゃん。」

ピ、と音が鳴って携帯電話の通話が終了した。電話をしていたひのめの傍らには、蛍が心
配そうに座っている。

「ママ・・・・・・・・・怒ってた?」

泣きそうな顔をする蛍に向かって、ひのめは苦笑した。母親だけには頭が上がらないのだ。
その点自分と同じだな、とひのめは思った。

「怒ってなかったわよ。その代わり光志くんに感謝しなさいってさ。
ぼこぼこにしなさいとは言ってなかったわよ?」

「・・・・・・・・・・・うん。」

蛍は俯き、黙りこくってしまう。
ま、おいおいね、と言ってひのめは蛍の黒髪をくしゃくしゃと撫でたのだった。

「ちーーーっす。」

「あら、早いわね。」

「こっちの台詞ですよ。珍しいですね、お日様が高いうちから起きてるなんて。」

「私はそういう商売の人かいッ!!」

ふと光志が視線を移すと、元気なくうなだれる蛍の顔が目に入る。
光志はぽりぽりとほほを掻くと、蛍に向かって言ったのだった。

「悪かった。俺が全面的に悪い。本当にごめんな。」

そう言って蛍に向かって頭を下げる光志。
その様子を、暖かい視線で見守るひのめ。
蛍は、少し戸惑った様子を見せながら、同じ様に光志に向かって頭を下げたのだった。

「私こそ・・・・・・ごめんなさい。つまんないことでみんなに迷惑かけて。
光兄は私のこと助けようとしてくれたのに・・・・・・・・ごめんなさい。」

俯き、精一杯の謝罪の言葉を紡ぐ蛍。その目が涙をためている事に、ひのめは気づいていた。
しかしながら、男はいつも鈍感で。

「蛍・・・・・・・お前、熱でもあるんじゃないのか?」

と言って光志が掌を蛍の額にそっと当てて、前髪をかき上げようとする。
蛍は真っ赤になって、思わず光志の頬を平手で張っていた。

「ぶおッ!!」

「そ、そんなわけないでしょうがッ!!」

「元気なのはいいけど、何なんだよお前はッ。」

そうして、またいつも通りのケンカが始まってしまう。そう、いつも通りの。

「やれやれね。まったく少しは真面目にやってくれないかしら。」

「「あんただ、あんたッ!!!」」

「あら・・・・・・?」

ひのめの乾いた笑いの響く、ある日の午後であった。





Sweepers’ next レポート1 了



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<次回予告>
蛍「あ〜、始まっちゃったわねぇ。」

光志「んだよお前いきなりやる気ねぇな。」

蛍「だってぇ、なんかヒロインなのに出番少ないしぃ、キャラもなんかひのめ姉ちゃんの
方が濃いしぃ。なんか私いきなり汚れだしぃ。」

光志「あ、次、新キャラ登場だってよ。」

蛍「ちょーやってらんないんだけどぉ。」

椿姫「次回、Sweepers’ next『戦国転入生』」

ガルム「拙者とヒメが大活躍でござるッ!!」

蛍「だ、誰今の・・・・?」

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