ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment.〜 第5話


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/11/ 2)

横島とタマモが出国して、翌日の午後。
美神除霊事務所の正面に位置するオカルトGメン日本支部が、慌しく動いていた。
令子は事務所の窓からその様子を眺めると、イスに座った。

『美神オーナー、西条さんです。お通ししますか?』

人工幽霊がいつもと違い、少し慌てた様子でそういった。

「いいわよ、通して。」

まったく動揺する様子もなく、令子は天井に目をやるとそういった。
足音が聞こえてくる。
一人の足音ではない、少なくとも10人は下らないだろう。
事務所のドアが開き、西条を先頭に3人の私服警官が入ってくる。

「令子ちゃん、横島君は?」

「いないわ。」

「そうか・・・どこに行ったか分かるかい?」

「さぁ?」

立ち上がりことさえせずに、令子は答えた。
西条は溜息をつくと、右手を背広のポケットに入れ書類を取り出した。

「家宅捜索及び所長の君に任意同行を求める。」

「何の容疑?」

「美神除霊事務所所属GS横島忠夫に逮捕状が出ている。容疑は心霊法第2条違反及び殺人だ。
所長の君にも事情を話してもらう。」

令子の机の前まで行くと、令状を差し出した。
それに目を通すでもなく、一瞥すると令子は立ち上がった。
私服警官の合図とともに、数人の制服警官が白い手袋をはめて事務所に押し入った。

「任意同行でしょ。しばらくこのまま待ってもらってもいい?」

諸手を挙げて、令子はそういった。

「早い方がいいんだが・・・」

申しわけ無さそうに西条が言う。
隣にいたオカルトGメンではない普通の私服警官が舌打ちをした。

「警察もヒマじゃないんですよ。ご同行願いますか?」

引き締まっていた西条の額に、太い汗が滲んだ。
一瞬令子のコメカミに井桁が浮かぶ。

「あんた、名前は?」

「警視庁1課、南雲だ。」

「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜ん、アタシは親切で言ってやってんの、それを断るっての?いいわよ、いきましょう♪」

令子はイスから立ち上がり、仁王立ちになって南雲を見下ろした。

「ぐわーーーっ!!!」

家宅捜索していた警官が叫び声を上げた。
箱に上半身を吸い込まれ、足をバタつかせている。

「わーーーーっ!!大丈夫か!しっかりしろーーー!!」

周りの警官が助けに入ろうとするが、同様に吸い込まれる。

「お、おい!!なんとかしろ!!」

南雲はそれを見て、焦りまくる。
令子は気にする様子もなく、事務所を出て行こうとする。

「なんで?」

「なんでって、見てわからんのか?」

「あんたらが勝手に家捜ししてんでしょ?私の知ったこっちゃないわよ。それとも料金払う?私は安かないわよ。」

蔑むような目で南雲を睨んだ。

「脅しているのか?」

脂汗を流しながら南雲は、令子の方を向いた。

「は?なんで私がアンタみたいな木っ端役人脅さないといけないのよ?法律を守ってる役人っていうんなら
法律くらい知ってなさいよ。・・・・どうせアンタ1課ってのもウソでしょ・・・・」

令子がそういうと、西条は南雲の方をじっと見た。
その表情は再び引き締まっている。
箱に引き込まれている警官は未だに叫び声を上げている。
緊迫感が台無しだ・・・・

「あぁうるさいっ!」

令子は床をハイヒールで蹴り飛ばした。
箱に引き込まれた警官たちは、その場でただバタバタともがいているだけであった。
令子はそれを見て鼻で笑った。

「心霊法違反の家宅捜索は、オカルトGメンもしくは心霊課の職員が1チーム(3人)以上が同行する
事が原則よ。こういう事が起きないようにね。」

令子がそういうと、南雲は驚愕の顔を浮かべながら西条の方を振り向いた。
西条は頭を掻きながら、違う方向を見ている。

「悪いね・・・Gメンもまだ日本じゃ立場が弱くてね。」

南雲ではなく、令子の方を見て西条はいった。



しばらくするとシロが学校から帰り、「曲者めーーーっ!!」と暴れそうになったのはご愛嬌である。
おキヌが帰ってくるまで待つと、シロをおキヌに任せて令子はGメンへ同行した。












「さて分かってるとは思うけど、ここでは横島君の心霊法違反についての事情調書だけだ。
殺人については警視庁の担当になる。」

取調べ室ではなく、なぜか応接室で応対している。
令子はソファに腰をおろし、腕と足を組んでいた。

「横島君は、昨夜日本を出国している。行き先は香港だ、間違いないね。」

西条はそういうが、令子は答えようとしない。

「タマモちゃんも学校を欠席している・・・彼に同行しているとして間違いないかい?」

令子は無言のままだ。

「黙秘かい・・・黙秘は確かに憲法で保障されている権利だが、それが有効に働くとは思えないよ。
この件は、ただの殺人ではない・・・警官が殺されてるため警視庁は本気だ。
霊能者としてもトップクラスの彼に対しては、射殺許可さえ降りようとしている。」

西条は顔を伏せた。

「彼を庇いたい気持ちは判る。僕だって彼が無意味に殺人を犯すとは思えない・・・」

「心霊法違反なんでしょ?彼・・・何をやったの?」

「霊能力を使っての殺人だ・・・現場から彼の霊波が感知された。おそらく文珠によるものであろうとと推測される。」

「犯行時間は?」

「昨日の午前2時だ。」

「日が明けてGメンに賞金首渡しに行ってか・・・たいしたツラの皮だわね。」

令子はそういって笑った。

「まぁそれを含めても、おかしな点ばかりさ・・・確かめるには彼自身に会う事が必要だ。それは分かるだろ?」

西条が問質すように言うと、令子は苦笑した。

「さすがに、事務所を出た後の彼の行動は把握してないわ。以上よ。」

その言葉を聞くと、西条は頭を抱えた。

「こういう手は使いたくないんだが、規則だから了承してくれ・・・・美神除霊事務所所長殿、ICPOの名に置いて
この件が終了するまで、一切の除霊活動を禁止する。無期限の業務停止命令だ・・・同所員には監視の目が常についているものと思ってくれ。正式な辞令は、後日GS協会から発令される。」

唇を噛み締める西条とは対照的に、令子はにっこりと笑った。

「了承しましたわ、西条捜査官殿。」











それから数日、令子がオカルトGメンや警視庁に取り調べを受けている最中、横島は未だ船の上である。
香港から台湾・・・台湾から沖縄、沖縄から九州・・・いずれも海の上である。
さすがに何日も船に揺られて、横島とタマモは完全な船酔いである。
一方、雪之丞は常に金の無い旅を続けていたため船旅はお手の物であった。

「ううううう・・・・もったいない・・・・魚に撒き餌してしまった・・・・」

「あ〜〜〜もぉ気持ち悪い・・・いっそ殺して・・・・」

漁船のへりに掴まって、海を臨みながらナニをしている横島とタマモ。

「しょーがねぇだろ、客船使うわけにはいかねーんだから。」

数日前の新聞を横島に渡した。

「え〜なになに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あかん!文字見たらよけい具合悪くなってきた。」

新聞を握り締めたまま、横島は再び撒き餌をしている。
それを見ていたタマモも、吊られてもようしてしまう。
上陸するまで、まともな会話は望めそうになかった。




九州に上陸したはいいが、横島もタマモもヘロヘロである。
とてもじゃないが、まともな移動はできそうもない。
古寺に二人を転がすと、雪之丞は食料調達と移動手段を考えた。
頭脳労働が得意な男の脳みそは、未だ海の上で揺れている状態だ。
苦手だろうと自分が考えるしかない・・・雪之丞はスーパーで食料品を買いながらそう思った。

買い物袋を手に古寺で戻ると、壁によりかかり幾分か具合の良くなった横島がタマモを膝の上に乗せていた。
タマモは舌をだして目は虚ろなままである。

「他の連中には見せられねーな。」

袋を床に置くと、新しいタバコを横島に渡した。

「この状態の時だけだよ。人間の姿の時にはやれねーよ。」

横島の手はタマモの背中を優しく撫でている。

「何か分かったか?」

「いや・・・まだお前の容疑も不明だ。ここいらじゃ情報は入らねぇ。」

「電話使うワケにもいかねーからな・・・電話っていやぁ弓さんに電話したか?」

「できるワケねぇだろ・・・まだよ。」

雪之丞は苦笑して、タバコを咥えた。

「また迷惑かけちまったな・・・」

沈んでいく夕陽に目をやりながら雪之丞はそういった。

「気にすんな・・・」

顔を赤く染めながら横島がぽつりと呟いた。
雪之丞はタバコに火をつけるが、何も答えなかった。

「こういう話がある・・・夕焼けが好きな女がいた・・・そいつは、昼と夜の境目の一瞬が好きだと言った・・・・
朝焼けでもいいのにな・・・・」

朝焼けではなく夕焼けが好きだった理由は、言わなくても理解していた。
分かっているからこそ、よけいに悲しく思えた。

「なにかをしたワケでもない・・・

なにかをしてやったワケでもない・・・

何もしてやらなかった男のために、女は死んだ。

男は悔いた・・・

惚れられた理由も分からないまま、男のために死んだ女を悼んで泣いた。

周りの人間は言った『あなたは彼女に大切なものを与えたと』・・・・

男は自分がソイツに何をしてやったのか理解できなかった・・・

男は女の死を認めることはできた・・・・そのかわり男は夕焼けが嫌いになっていた・・・・」

横島はタバコの封を開け、タバコを咥えた。
雪之丞は横島のタバコに火をつけた。
吐き出した紫煙が、夕陽に染まっていく。

「惚れた女には、なにかしてやれ・・・俺みたいに、後悔する事になるぞ。」

雪之丞は苦笑した。

「どこかの話じゃなかったのか?」

「そうだったな・・・・」

横島は自嘲気味に笑った。
いつの間にか起きていたタマモも、二人と同じように夕陽を見ていた。
水平線の彼方へ、すべてを赤く染めていきながら夕陽は沈んでいった。





鈍行列車を乗り継ぎ、博多まで移動。
博多から高速バスを使い、大阪まで移動した。
タマモの幻術を使い顔を変え移動すると、簡単に移動できた。
大阪からだと、文珠で妙神山まで移動できる距離だ。
なるべく文珠は使いたくないのだが、そうそうのんびりと移動するワケにもいかない。
3人は妙神山へと移動した。




結界のある妙神山へは、直接へは行けない。
門の手前へと、辿り着く。
鬼門が3人を確認すると、あっさりと門の中へと通した。

「今日は人間魚雷は来ねぇんだな・・・」

雪之丞がそういって辺りを見回した。

「パピリオは、使いで魔界に行っています。」

3人の眼前に小竜姫がいつの間にか立っていた。
その手にはすでに刀が握られており、横島の鼻先に突きつけられている。

「横島さん・・・あなた意味も無く人を殺めましたね。」

小竜姫の言葉を聞いて、横島は思わず鼻で笑った。

「そうか・・・俺の容疑は殺人か。」

「何がおかしいんですか!」

小竜姫はそういって、神剣を首筋に当てた。

「小竜姫さんよ、それだったら俺の首も獲ってくれねぇか?俺は金で首を獲った事のある男だぜ。」

雪之丞はニヤっと笑い、自分を指差した。

「それだったらアタシもかもね。転生する前は大妖だったし。」

タマモもそういって笑った。

「そういう事をいってるのではありません!私はただ横島さんに・・・」

神剣を持つ手が震えた。

「そうじゃの〜。わしも昔は、意味も無く妖怪や人を殺してまわったのぉ。」

キセルを咥え猿神が、ゆっくりと歩いてきた。

「老師!」

「お主にも憶えがあるじゃろう・・・小竜姫よ。下がっておれ。」

老師が一瞥すると、小竜姫は神剣を納め肩を落とし下がっていった。

「すまんな・・・あやつは小僧の事となると見境がなくなるでな。」

小竜姫の背中を見送りながら、猿神はそう呟いた。

「ここにも知らせが?」

「うむ、詳しい事をジークが下界に調べにいっとるとこじゃ。」

猿神はそういって、元来た道を戻り始めた。

「ここには誰が来ました?」

「『あいしぃぺぇお〜』とかぬかす、西条とか言ったかのぉ」

「生真面目なこって・・・」

横島は思わず溜息をついた。

「小竜姫を責めんでくれんか・・・あやつは小僧の才能を見つけた時、わしに嬉しそうに報告したのじゃ。
『原石』を見つけたというての・・・あやつは小僧を白いままだと思うとる。
いや、白いままであって欲しいと願ぉとるのじゃ。
人は成長し、白いままではいられぬ・・・・害をなしとった頃の自分のようになってもらいたくない・・・
そう願いながら小僧を見ておるのじゃ。」

猿神はそういうと、キセルをふかした。

「マジメ過ぎる人間なんて、気持ち悪いのにね。」

タマモが手を頭の後ろに組んでそういった。
その言葉に、横島と雪之丞は苦笑するしかなかった。

「黒であったから、白になろうと目指す・・・いくら白を混ぜても灰色にしかならねぇのによ。
神も人も同じ・・・・・・・・・・・・か。」

雪之丞がぽつりと呟いた。



座敷に通されたが、しばらく小竜姫は現れなかった。

「横島の容疑は殺人かよ・・・となると心霊法違反も重なるな。」

雪之丞が腕を組んだ。

「誰を殺ったか分かりませんか?」

猿神に聞くと、猿神は頭を捻った。

「けーさつかんとか言っておったのぉ。」

「正確には、警視庁警備部奥村常則警部48歳です。」

声がすると同時に襖が開いた。
雪之丞が一瞬眉を顰めた。

「よぉ久しぶりだな。」

「甘ちゃんなとこは直ったのか?」

「誰?」

三者三様な言葉である。
入室してきたのは、魔界軍人間界常駐交換兵ジークであった。

「おひさしぶりです、横島さん、雪之丞さん。そしてタマモちゃん・・・・」

「会った事あったかしら?」

タマモは名前を呼ばれはしたものの、ジークの顔は始めて見るため少し警戒している。

「いえ、始めてですよ。」

ジークはそういってタマモに笑いかけた。

「どうせ覗いてたんだろ・・・ヒャクメあたりと一緒に。」

横島が腕組みして、冷ややかにそういった。

「どこら辺まで覗いてたのかしら・・・・」

タマモの指先に狐火が灯りだす。

「ちょ、横島さん!!なんてことを!!!ちょっとヤメ!止めてくださいっ!!!」

襖を焦がし妙神山が一瞬赤く染まると、ジークはファンキーなアフロ野郎へと変貌した。

「女に色目を使うからじゃ。」

横島はニヤリと笑った。



ジークの回復は以外と早かった。
友人に横島をもったからかもしれない。

「報告します。横島さんの容疑は殺人及び心霊法違反です。
警視庁とオカルトGメンがその行方を追っています。
それと、霊能マフィアも追っています。」

「それはいいんだが・・・・」

横島は腕を組んだまま、目を閉じた。

「何か?」

「なぜアフロがサラサラストレートに戻ったんだ?」

「あんたに言われたくないわーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

ジークは思わず絶叫した。
気を取り直すように、咳払いをするとジークはマジメな顔に戻る。

「詳しい事は分かりませんが、不穏な動きがある事は確かです。」

「不穏って?」

「どこが動いているから分かりませんが、かなり大きな組織が動いています。
交戦はありませんでしたが、ボクも後をつけられました。」

「撒いてきただろうな・・・」

「もちろん。」

雪之丞の視線に、ジークは余裕の表情で答えた。
扉が開き、小竜姫が少し疲れている女を連れてきた。

「小笠原の旦那・・・」

雪之丞が呟くと、横島はタバコを咥えた。
猿神がキセルの火を横島に差し出した。
横島は軽く一礼して、自分のタバコを近づけた。
少し顔が赤く染まり、紫煙を吐き出した。

「エミさん・・・追われている理由わかりますか?」

横島はそういって、エミに視線を送った。

「わ、分かるわけないでしょ!なんで私が美智恵なんかの命令で、ここにいなくちゃいけないワケ?」

横島はボリボリと頭を掻くと、ジークの方を向いた。

「ジーク、ガイ者の写真あるんだろ。エミさんに見せてやってくれ。」

横島にそういわれて、ジークは資料として持ってきた写真をエミに渡した。
写真を受け取ると、エミの表情が歪んだ。

「そいつの名は、奥村・・・警視庁の警備部に所属だそうです。ほんとかどうかは分かりません。
エミさん・・・心当たりあるでしょ?」

「知らないわよ!こんな奴。コイツがどうかしたっていうの?」

エミはあくまでも強い口調を崩さない。

「俺が、数日前に殺したそうです。」

横島がそういうと、エミは愕然として写真を見つめた。

「言いたくないだろうから、沈黙で答えてくれ。裏の仕事に関係していたのはコイツだろ?」

横島の言葉は、エミに向けてだけの言葉ではなかった。
誰も何も答えなかった。
沈黙だけが、部屋の中を包み込む。
空気が重く感じられると、横島は大きく紫煙を吐き出した。

「わかった・・・」

そう呟くと、立ち上がり部屋を後にした。






「また夕焼けかよ・・・・」

妙神山の山並みに沈んでいく夕陽を見ながら、横島は紫煙を赤く染めていた。

「横島・・・」

後ろから声をかけられるが、横島は振り向こうとはしなかった。

「エミさんか。」

「聞かないワケ?」

「何をっスか?」

横島は夕陽をじっと見ていた。

「私の過去・・・」

エミも横島の横に行くと、沈む夕陽を見ている。

「聞いてもらいたいんスか?」

横島がそういうと、エミは思わず苦笑した。

「いつの間にか、おたくがそんな口叩けるようになったとはね。令子も苦労するワケ・・・」

「やっぱ苦労かけてますかね?」

「当然よ。」

思わず横島は、苦笑した。

「厄珍が探してましたよ。『魔法書』届いたって。」

「落ち着いたら取りに行くって言っておいて・・・行くんでしょ、東京に。」

エミは修行場に引き返しながらそういった。
横島は咥えていたタバコを、左手に持つと口元を緩めた。
背中を見ても横島が笑ったのが、エミには分かった気がした。

「おたくイイ男になったわね。」

「ピートから乗り換えますか?」

「やめとくわ・・・確率の低い勝負はしない主義なワケ。」

エミの足音が遠ざかっていく。
横島は、夕陽が沈むまでその場から動かなかった。








食事を終えると、横島は一室借りて装備のメンテナンスを行った。
その隣では、雪之丞がタバコをふかしている。
横島はパイソンをバラし、潮風に吹かれた機関部の清掃を行っている。
シリンダーを外し、清掃すると油を差し再び組み立てる。

「そいつ・・・だいぶ使い込んでるな。」

「あぁ、見習い卒業の記念に美神さんから貰ったものだからな。」

生憎と試射ができないが、3年も使い込むと大体のセッティングは指先が憶えていた。
腰に挿しているブローニングHPを取り出す。
セーフティを外し、スライドを後退させピンを抜くと、簡単にスライドは外れた。

「上手くなりましたね。」

「ジークか・・・」

部屋にジークが入ってきた。
横島は銃から目を離す事なく、メンテナンスを行っている。
かなり丁寧に行っている姿を見て、ジークはぽつりと呟いた。

「ベスパの気持ちが入ってるんです・・・大丈夫ですよ。」

このブローニングは、ベスパからの贈り物だった。

“姉さんの分まで生きろ”

彼女の精一杯の気持ちだった。
横島はベスパの言葉を思い出し、口元が少し緩んだ。

「惚れたか?」

スライドを組み込んで、横島がそう呟くと雪之丞はジークの顔をじっと見た。
ジークはきょろきょろを辺りを見回し、両手を振っている。

「ワルキューレに報告しなきゃ〜なぁ。」

「横島さんっ!!!」

ジークが真っ赤な顔で声を荒げると、横島と雪之丞は声を出して笑った。

「さて、それはともかく・・・罠の張り方としては王道だな。
雪之丞の仕事の相手を俺が殺す・・・大義名分としては通ってる。
ワケを知ってるエミさんや雪之丞は、参考人としてショっぴける。
裏の仕事を表の人間に探させる事ができる・・・・こっちの足も鈍る・・・一石二鳥ってワケか。」

ブローニングに弾装を入れ、スライドを後退させ初弾を装填した。

「お前の足止めか・・・そこまでしなきゃいけねー事ってなんなんだ?」

雪之丞はタバコを咥えた。

「奥村はおそらくお前とエミさんを取り込めなかったんで、事のついでだろうな。
まぁ・・・東京に行きゃ〜分かるだろ。」

セーフティを入れ、ヒップホルスターに納めた。







「そんじゃタマモをお願いします。」

横島は小竜姫に頭を下げた。

「ちょ、ちょっと聞いてないわよ!」

タマモが反論するが、横島はタマモの頭を撫でて微笑んだ。

「ちょっとやっかいなんでな、調べが終わったら戻ってくるよ。」

そう言われとタマモはあっさりと引き下がった。
シロだとこういう具合にはいかないな・・・横島は思わず苦笑した。

「すいません横島さん。私・・・・」

小竜姫は、横島に刀を向けた事を謝ろうとした。
少しでも横島を疑った事、自分の理想を横島に向けた事を。

「小竜姫様・・・」

横島が右手を上げた。
小竜姫は身体をビクつかせ、強張った。
横島の手は小竜姫の肩に、ポンと乗った。

「謝らないでください・・・小竜姫様の言った事は間違っちゃいません。」

「横島さん・・・」

小竜姫は顔を上げ、横島の顔を見た。

「人間なんてそんなもんです。」

「いえ!横島さんは違います!!」

小竜姫が声を上げると、横島は顔を横に振った。

「俺だって人間です。白くもなければ黒くもない・・・嫌になるくらいに人間なんです。」

肩に乗せていた手を顔に触れさせると、横島はにっこりと笑った。

「行くぞ。」

「おう。」

雪之丞の問いに短く答えると、横島は門を潜った。

「令子にはもったいないわね・・・・」

エミが溜息交じりに呟くと、タマモが大きく何度も頷いていた。



                                    

                           SEE YOU GHOST SWEEPER...



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後書いてみた


おちゃめな時は目一杯、シリアスな時はシリアスに・・・振り分けやりすぎてセリフ入れるタイミング逸しました(苦笑)
どういうセリフを入れるかというと・・・・たぶん後で言う事もあるでしょう。←いいかげん

妙神山の夕陽のシーン、実は当初は小竜姫の予定でした。
でもそうなると、後のシーンで詰まってしまったので変更してエミになっちまいました。

タマモ・白麗・エミ・小竜姫とフラグが立っているように見えますが、気のせいです・・・・
あまり気にすると、後が困ってしまいます。
フラグというより、『イイ男めっけ♪』的の軽い感覚でみてもらえば幸いです。

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