ザ・グレート・展開予測ショー

瞳の中の魔女(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:進
投稿日時:(05/11/ 2)

皆本家  キッチン

 大きな窓から朝日が差し込み、部屋を真っ白に照らす。日差しだけは夏のそれに見間違うほどだが、実際のところ朝夕はやや肌寒い――もう秋だ。
 この家の主である皆本光一は、時計を気にしながら忙しく朝食の支度をしていた。簡単にトーストと目玉焼きベーコン、サラダ程度のメニューだが、それでも4人分作ると時間がかかる。彼はあまり食事に拘る性格ではなかったので、朝食は適当なもので済ましたいところなのだが、同居者はそうはいかない――いかせなかった。
「みなもとーっ、まだかよ!」
 キッチンの隣のリビングから明石薫が呼びかけた。
「はよせな遅れるでー!」
 続いて、野上葵が急かす。その上二人して箸で皿をチャンチャン鳴らすものだから、皆本はややムッとした気分になった。あえて言うなら、彼のことを大人気ないとは思わないで頂きたい。薫と葵は皿を鳴らしているが、その皿に乗るべき朝食はまだ皆本が調理している最中である。つまり、二人はわざわざ、皆本を急かすために皿と箸――だけ――をリビングに運んだのだ。多少、気を悪くするのは仕方がないところだと思われる。
「皿を鳴らすなっ、行儀悪いぞ!」
 注意をしてみても、その程度で止める彼女たちではない。
 彼女たちの実家は別にあり、通常はそこに住んでいる(集中連載時)はずなのに、いつの間にか一緒に住むことになってしまっている。10歳の少女たちに生活能力がそう有るわけでもなく、当然その面倒は皆本が見なくてはならない。炊事、掃除、洗濯、一人暮らしなら多少はサボるのだが、扶養家族が居てはそうもいかない。
――・・・なんで僕が毎日毎日メシの支度を・・・
「・・・こんなクソガキのためにしなきゃいけないんだ、って思ってる。」
 不意に背後から声が上がった。びく、と顔を引きつらせて振り返ると、いつの間にか三宮紫穂が彼の背中に手を触れていた。
「まだ教育が足らねーようだな、皆本。」

数秒後。

 ボロけてキッチンの床でノビている皆本の脇に、紫穂が屈みこむ。
「・・・・・・・・・」
「ちょっと意訳してみたの。」
 差し込む朝日に負けないぐらい、眩しい笑顔で紫穂は笑う。
 薫、葵、そして紫穂。この三人が言わずと知れたザ・チルドレンであり、皆本の同居者だった。



 ここはBABEL内、ザ・チルドレン用待機室。登庁してきたチルドレンたちがダベる場所である。
「皆本のヤツ、最近また調子にのってきてやがるな。」
 薫がブツブツ言いながら、漫画を読んでいる。
「そーか? あれを調子のってるって言われたら、さすがに可哀想な気もするんやけど。」
「そうよね。」
 意義を唱える葵と紫穂。葵はともかく、朝の仕置きの原因となった紫穂は、どの程度皆本を弁護していることやら。
「いいや! ちょっと態度でかい! 肝心なときには根性なしのくせに・・・」
「肝心なときて?」
 ふと口をついた言葉に突っ込まれたのを、薫は笑ってごまかした。
「いや、なんでもねーけど。」
 葵はそれでごまかされたが、紫穂はジトっとした目でこちらを見ている。紫穂はごまかしようがない、と薫は思う。本当にナニかあったわけではないので、読まれても問題ない、はずだ。
「だ・・・だいたい、皆本は変な噂があるし――」

「やあ、こんにちは。皆、元気だったかな?」
 唐突に詰襟姿の男が空間から現れた。銀髪で涼やかな笑顔の青年――実は80歳――の兵部京介だ。彼はしばしばチルドレンの前に現れては、お菓子を与えたり、ちょっとした会話をしたりとコマメは営業活動を行い、自身の印象を良くしようとしていた。そのかいあって、今のように突然現れても彼女たちに騒がれることはないが、彼が望むほどには成功した様子はない。
「なんだよ、兵部さんか。」
 特に今日は風当たりが強いようだ、と兵部はクスリと笑った。
――原因は知っている。朝から坊やが彼女たちを怒らせたからだ。
 ここはポイントの稼ぎ時だな、と用意したお菓子をテーブルの上に置き、にこやかに話しかけようとした。彼は人生経験が豊富で、10歳の少女の機嫌を直すことなど造作もない。だが――
「ここには皆本さんはいないわよ・・・居たとしても会わせないけど。」
 紫穂の冷たい口調に、兵部はややたじろぐ。 
「い・・・いや僕は、別に彼に会いに来たわけじゃ・・・」
「ウソだッ! 皆本を狙ってきたな!」
「フケツ! フケツや!」
 騒ぎ立てるチルドレンに、兵部は顔を引きつらせながら声を出した。
「あー・・・皆、いったい何を・・・?」
「皆本をソッチの道にはいかせない! あたしたちが守る!!」

 説明中

「・・・まあ、一応信じてやる。」
「一応ね。」
「そやけど、すぐ帰ってや。」
 長年生きてきた兵部の精神力をもってしても、額に青筋が出るのを止められない。だがここで怒っては状態が悪くなるような気がするし、なにより彼女たちに嫌われるかもしれない。グッとこらえて微笑んだ。
「今日は皆に“魔法”をプレゼントしに来たんだ。」
 チルドレンの表情がさらに胡散臭そうになるが、そのあたり気にせずに兵部は話を続けた。



「あいつら、大人しくしてるだろうな。」
BABEL内の廊下を歩きながら、皆本は一人つぶやいた。忙しかったので朝からチルドレンの様子を見ていない。面倒をおこしていなければ良いが・・・と心配する。
 待機室へと続く廊下で、一人の職員とすれ違った。名前も顔も知らないが別に珍しいことではない――BABELは大所帯だ。皆本はすれ違う際に軽く会釈をしただけで気にしなかった。だから、その職員が皆本とすれ違った後、テレポートで消えていったことに気がつかなかった。

「おっ、皆本。丁度良いところに!」
 チルドレン用待機室のドアを開けた皆本を、薫がニコヤカに迎えた。彼女は、朝食時の件で機嫌を悪くしていた――少なくとも今朝別れるまではそうだった――はずなのだが、今は機嫌がいいようだ。
「どうしたんだ、何か良いことでも有ったのか?」
 見れば、葵と紫穂も同じようにニコヤカだ。非常に。
「・・・・・・・・・?」
 皆本は僅かに不安を感じて、ドアのところで立ち止まった。確かにチルドレンは上機嫌のようだ。
――だが・・・?
 皆本はその優れた頭脳を――本来、彼向きの方向ではないが――高速回転させ、チルドレンを観察した。

 室内に変な物はない。菓子がいくつかおいてあるが、それはいつものことだ。他に誰か居る様子もない――OK。
 薫・・・ニコニコ笑ってはいるが、その目の奥は猛禽の光を発している。
 紫穂・・・彼女も笑ってはいるが自然体だ。その表情から何かを読み取るのは難しい。
 葵・・・彼女は一番素直だ――読みやすいとも言う。微笑みながらもやや頬を上気させ、汗をかいているように見える。そして、何かタイミングを計っているようだ。
――結論、彼女たちは何かを企んでいる。それも、自分に関係する何かを。


 皆本は後じさる。
「・・・皆本、どこ行くんだよ?」
 笑いながらもじりじりと近づいてくる薫。
「いや、ちょっと用事を思い出してな。しばらく来れないかもしれない・・・一週間ぐらい。」
「そう言わないで、少しだけでも休んでいって? お菓子、皆本さんのために用意したのよ。」
 といって菓子の包みを見せる紫穂・・・その包みは、先ほど兵部が持ってきたものなのだが。
「残念だけど、それは君たちで食べてくれ。」
 皆本は廊下に出ることができた。ここで気を抜いてはいけない、ドアをすばやく閉め、廊下の突き当たりにあるエレベーターに向かって駆け出した。10mも走ってから後ろをちらりと振り返ると、待機室のドアから――ぬっと――薫が出てくるのが見えた。彼女は皆本を見つけ、ニヤリ、と顔を歪ませる。
 いつか見たホラー映画のようだ、と皆本は思う。あれは映画で、他愛もない子供だましの作り話なのだが――今、“これ”は間違いのないリアルだ。

 皆本はエレベーターのボタンを押したが、それを待つことはせずに、その先にあるドアを開いた。なかは非常階段になっていて、エレベーターを使うよりは安全なはず、だが・・・
「あら、皆本さん。どこへいくの?」
 ドアの先、非常階段の踊り場には既に紫穂がいた。
 皆本は物も言わずにドアを閉め、エレベーターに戻る。先ほどボタンを押しておいたおかげで、それはすぐに開いた。
「ここは満員だ・・・逃げることは・・・できねーぜ。」
 しかし、エレベータの中に居たのは・・・・・・・・・薫だ。葵もいる。
「サイキック・ザ・ワールド!」
「時は止まるで。」
 薫のサイコキネシスで身動きできないように取り押さえられた皆本が、連行されていく。
「いっ、嫌だ!、密室は嫌だー!!ドアが1つしか無い部屋は嫌だーッ!」

 廊下にもエレベータにも、BABELの職員は数名いたのだが、誰も関わろうとはしなかった。BABELの中に皆本が知らない職員は居ても、皆本を――そしてザ・チルドレンを――知らないBABEL職員は居ないからだ。



皆本を椅子に縛りつけ、マント――葵が単独任務についたときのもの――を着けたチルドレンが取り囲んでいる。
「これから魔法の儀式を執り行う!」
「「おー」」
 薫の宣言に、葵と紫穂が同調する。
「な・・・何のマネだ・・・?!」
 それには答えず、3人は皆本の周りをぐるぐる回る。そうしながら、何かをつぶやき始めた。
「「「ぴぴるま・ぴぴるま・ぷりりんぱ」」
 何を言い始めたのかとビクつく皆本。しかしチルドレンはお構いなしに皆本の周りを回りながら呪文を続けていく。
「「「ぱぱれほ・ぱぱれほ・どりみんぱ」」」
「お・・・おい、まさかヘンな宗教にでも・・・」
「「「アダルトタッチで、女子高生になーれ!!!」」」


 やあ、ここは僕、兵部京介が説明しよう。
 前回、皆本君にしかけた催眠術、そう、チルドレンの皆を大人にみせるアレだよ。アレは皆本君の言葉通り、そう長時間持つものじゃない。だから、アレだけじゃあんまり遊べないんだけど・・・ところで、君たちは後催眠って知ってるかな?すぐには効果を発しない催眠術を掛けておいて、後からキーワードなどで発動させるってものなんだよ。僕はこれも皆本君に仕掛た。
 なぜって?
 そりゃ面白いからさ。
 最初に催眠術を掛けたときに、いっしょに入れておいたんだ。まあ、これだってそれほど長持ちするものじゃないし、彼が望まない催眠は、比較的早く解けるものだしね。
 ああ、キーワードを呪文にしたのは別に意味は無いよ。彼女たちがやってた儀式も必要ない。あれは彼女たちが遊んでるだけだからね。
 呪文が古い? 知るかよ、そんなこと。


「ほな、この前の続きといこか。皆本はん。誰が一番かわいい?」
「付き合うとしたら誰?」
「二人とも、慌てなくても時間はいっぱい有るわ。」

「たーすけーてーくれーーーー・・・・・・・・・」
 BABELにか細い男の悲鳴が響くが、やっぱり職員達は誰も関わろうとはしなかった。



後日
「薫っ! あれほど作戦中に命令違反をするなと言ってるのに!」
 今日も今日とて、薫を怒鳴る皆本。これもいつものように、平然と聞き流す薫を始めとするチルドレン。
「まあ、そうカタイこと言うなよ。作戦自体は成功したんだから、結果オーライじゃん。」
「・・・そういう問題じゃない。いいか?作戦中は一人が勝手なことを・・・」
 長くなりそうだ。と感じたチルドレンは、互いに目配せし合う。

ところで、例の魔法は

「「「まはりーく・まはりーた・やんばらやんやん!」」」
「それ以上近寄ったら舌を噛むぞ! ホントだからなッ?!」

 “結構長い間”絶対無敵の呪文として重宝したと、彼女たちの日記に記載されている。


「皆本君・・・君は本当に催眠状態を望んでいないのかい?」



瞳の中の魔女・・・っ子   了



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最近、絶チルの展開予想が増えてきて嬉しい限りです。いつもニヤついて読んでいます。
読んでいると自分もやりたくなるもので、他の人には敵わないと思いつつも書いてしまいました。

感想や意見など、できたらお聞かせください。よろしくお願いします。
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