ザ・グレート・展開予測ショー

蜂と英雄 第10話 〜道具〜


投稿者名:ちくわぶ
投稿日時:(05/11/ 2)





 冷たい空気が流れている。
 鏡のように磨き上げられた大理石の床だけがその原因ではない。
 広く、暗く、そして静寂に包まれた空間。
 腕の中に意識を失ったアンジェラを抱いたまま、ベスパはそこに座り込んでいた。



(ここは……?)



 周囲は薄暗くてよく見えないが、どこか神殿のような仰々しい建物に似ている。
 もっとも、それは神聖とはほど遠い禍々しい気配を漂わせるものだったが。



(……!!)



 静寂の中、どこからか鳥肌の立つ視線のようなものを感じる。
 しかもそれは1つや2つではなく、前後左右全ての方向からいくつも感じられた。
 物音1つしない中でのその感覚が、余計に不安を駆り立てていく。
 かといって状況がわからぬまま動き回るのは得策ではないと判断し、ベスパは身構えながらじっと様子を覗う。
 しばらくすると次第に暗闇に目が慣れてきたが、眼前に浮かび上がった光景を目にして思わず息を飲んだ。



 周囲を取り囲むようにずらりと立ち並ぶ、高さ2〜3m、あるいはそれ以上の巨大な石像の群れ。
 それは生きているのではと錯覚するほど精巧な造形と生々しい質感を持ち、光のない瞳でこちらを見つめている。
 しかし、それらが象っていたのは人間の姿ではなかった。



 二本足で立つ姿こそ人間と変わらないが、両脚は山羊のそれであり剛毛で覆われひづめが地面を踏みしめている。
 隆々と盛り上がった鋼のような筋肉を持つ上半身。
 老人のように折れ曲がッた背には大小様々な鋭い甲殻……あるいは骨の様な物が不揃いに突き出している。
 地面に届くほど長い腕の肘から手首にかけてはコウモリの翼がヒレのように生えており、指先から伸びる爪は鋭利な刃物そのものだった。
 頭部は肉食獣のような牙を生やした、しかし大きく曲がった角を持つ人間界には存在しないであろう生物の頭蓋が冠せられている。



 その姿は、まさに悪魔そのものと呼ぶにふさわしいだろう。



 それぞれ一体ずつ姿が異なり、あたかも生きているような迫力を持つ悪魔の石像。
 生け贄の羊を眺めるかの如く周囲を取り囲む石像の群れが、ベスパに向けられた視線の正体だった。



(なんなの……これは……)



 得体の知れない雰囲気に、冷たい汗が頬を伝っていく。
 魔界にも動く石像のモンスター(ガーゴイル)などが存在するが、それはあくまで無機質な、ある意味機械に近い雰囲気とも言える。
 だが、目の前にある石像からは何か……強い情念のようなものが感じられた。
 それがまるで生きているような錯覚を見る者に与えるのだろうか。



 やがて遠くの方からカツン…カツン…と、一定の間隔を刻む硬質な音が聞こえてきた。
 耳を澄ませてみれば、どうやら革靴を履いた誰かが歩く音であるとわかる。
 音は次第に大きくなり、ベスパ達の方へ近付いている。
 そして、暗闇の向こうから低く響き渡る声が聞こえてきた。



「芸術にとって重要な事は――――その作品が意図するものをより明確に伝える『リアリティ』であるとワシは考える。表現の形は様々だが、傑作と呼ばれる作品は例外なく見る者を魅了し、その印象を強く心に焼き付ける。それはリアリティがあるからじゃ。場合によっては奇妙な模様にしか見えぬものですら感覚に『納得』させてしまう『リアリティ』こそ芸術の本質なのじゃよ。」






「ルシエンテス――――!!」




「いや、お前さんには少々難しい話じゃったかな。ともあれようこそ、ワシの住処へ――――」



 静かに身構えた彼女の前に、その姿が足元から浮き上がってくる。



 丁寧に磨かれた光沢を放つ革靴。
 おそらくはオーダーメイドであろう、落ち着いた風合いの茶で染め上げられたスーツ。
 シミ1つ無い純白のシャツと高級ブランドのネクタイ。
 スーツと合わせた色のハットを深めに被り、優雅な佇まいを見せている老紳士。

 だが……姿こそ紳士であっても、その正体は極めて残忍、そして邪悪。
 彼こそが様々な事件を次々に引き起こす元凶――――不死の魔導師ルシエンテス。

 ステッキを掛けた腕でハットの鍔を上げれば、そこに光るものは底知れぬ邪気を潜めた深い青の冷たい輝きだった。



「それにしても……あれを奪われてしまいよるとはな。愚か者めが。」



 彼の蔑みに満ちた目と声は、意識を失ったままの幼い少女に向けられていた。



「ジジイ……お前ッ!!」



 今にも噛み付かんばかりの形相で叫びながらも、ベスパはアンジェラをしっかりと抱きかかえて庇っていた。
 彼女とて知らぬはずがない。自らの役目を全うできなかったしもべの末路を――――
 ルシエンテスはさらに一歩踏み出し、アンジェラをじっと睨みつける。



「殺すのか……!?」

「それで片が付くならば構わんが……今それをしたところで何の得も無かろう。それにまだ役目が残っておるんでな。」



 己の損得で動く連中の言う事は、こういう場面に限り意外に信用できる。
 役目が残っていると言う以上、まだ手を出さないというのも嘘ではなさそうだ。
 それを実感してわずかに安堵したベスパだったが、心に引っかかるものが消えたわけではなかった。



「お前は……こんな子供に何をした!?」

「それを聞いてどうする。子供の姿に情が移ったか?近頃の魔族様は優しいんじゃなあ。実に滑稽じゃよ……!!」

「黙れッ!!」

「ベスパよ……力ある者が手下を作る事がそんなに珍しいかね……?」

「ただの使い魔ならあたしだって気にしないさ。だけど……人間の子供があんなケタ違いの魔力を放つなんて普通じゃ考えられないんだよ!!」

「気に入ってもらえたかね。」

「ふざけるな!!この子はまるで……オモチャの車に本物のエンジンが乗っかってるようなものじゃないか!!いつ壊れたっておかしくないんだよ!?」

「ほう……乳のでかい娘はアホじゃと聞いたが、なかなか鋭いではないか。」

「やかましいわッ!!!!」






 胸と顔を交互に見ながら呟かれた老人の一言に、ベスパの額には井桁がいくつも貼り付いてはブチブチと激しく音を立ててキレていく。



「胸の大きさは関係ないだろ!!どいつもこいつもあたしをアホ呼ばわりしやがって!!!!」



 完全にキレたベスパはフルパワーで霊波を撃ち出すが、ルシエンテスは軽やかにそれをかわしながら笑う。



「ユーモアちゅうやつじゃよ。興奮すると体に悪いぞ?」

「こ…のジジイ……いいから質問に答えな!!」



 ルシエンテスは髭をさすりながら、しかし再び冷徹な瞳に戻ってベスパを見つめる。



「ふむ……答えてやらんとお前はしつこそうじゃしな。順を追って話してやろうか。」



 そしてルシエンテスは語り出す。
 その少女の魂が何であったのか、なぜ選ばれる事になったのを――――









 残酷な運命にただ消えゆくはずだった、孤独と呼ぶにはあまりにも壮絶すぎる暗闇に身を浮かべていた魂。
 生まれて間もなく父親に焼かれ、唯一自分を庇護する存在だったはずの母親に疎まれ――――
 敵意しか知る事ができなかったその魂は、肉体とこの世界全てとの繋がりを絶ってしまう。
 そうすることでしか……自身の存在を保つ術は残されていなかったのだ。



 その魂は全てを拒絶したが故に最も深い暗闇に溶け込み、その結果闇の深淵より溢れ出でる根源のエネルギーの1つ、魔力との親和性が非常に強くなった。
 並の魔族を遙かに圧倒するほどに――――
 さらに全ての肉体的感覚を閉じた事は残された第六感――――霊力を飛躍的に増強し、魔力のコントロールを可能とする。
 さらにその魂は知識も感情も芽生えさせる事はなく、ただじっとそこで終わりの時を待っているだけだった。

 使い魔の元となる素材として、これほど理想的なものが他にあるだろうか。

 ルシエンテスは優秀なしもべの核となりそうなものを探していた時にこの魂を感知し、現代の知識と肉体を得るために憑依した老人の孫にその魂を移したのだった。
 必要な知識や術だけを刷り込み、価値観を与え……そして名を与える事でその魂は完全に支配され、魔導師の絶対忠実なしもべとしてこの世に舞い戻ったのである。









 それが――――アンジェラという少女だった。









「アンジェラは長時間パワーを出すには向いておらんのが欠点じゃが、ナックラヴィーと死霊使いの術で補っておる。ちなみにワシのボディになっとる人間はゴーリキとか言うたが、良い鍛え方をされておるんで気に入って……と、無駄口が過ぎたか。まぁ、こんなところじゃな……気が済んだか?」






 絶句するしかなかった。
 両手で包み込んでしまえるほどの小さな存在に背負わされた運命はあまりに重く、哀しいものだった。
 ふと、アンジェラを抱きしめる胸の内から自分でも上手く説明できない奇妙な感情が湧き上がってくる。

 この気持ちは何だろうか?
 なぜ、この少女を見ていると胸が締め付けられそうになるのか。
 自分自身にいくら問うてみても、その理由はわからない。

 不可解な感情のことは気になったが、それよりも前にハッキリさせなければいけないがある。
 思いを払拭し、ベスパはさらに尋ねる事にした。



「もう1つ聞かせて。あんたはテュポンとかいうヤバイ魔神を復活させようとしてるみたいだけど……目的は何?世界秩序の転覆?それとも……アシュ様がいなくなって空いた魔神の座か……!?」



 ルシエンテスはベスパの言葉にピクリと反応し、無言のまま視線を彼女に向ける。
 そしてゆっくりとハットの鍔をつまんでうつむくと、小刻みに肩を震わせ笑い始めた。



「なるほどなるほど……面白い発想じゃな。秩序の転覆に魔神の座か……確かにこれくらいやらんとダメなんじゃろうなぁ、クックック……。」

「なに……!?」



 これほどの実力を持ち、なおかつ引き起こした事件を顧みてもそれが目的だろうとベスパは思い込んでいた。
 しかし目の前の老人の態度は意に反し、言われるまで気付かない……いや、考えてもいない様子だった。

 だとしたら……
 真の狙いは別に――――?

 心に広がる疑惑の暗雲は、未だ重く立ちこめたままだった。



「さて……何故あれを奪われるような事になってしまったのか、その理由を聞かせてもらわねばな。」



 再び冷徹な表情に戻ったルシエンテスは、一歩踏み出してアンジェラに手を伸ばす。
 いくつものシワが刻まれた手は、本来ならば孫を思う温かい物のはずであった。
 しかし今差し向けられたそれからは慈しみの情など微塵も感じられなかった。



「何をする!!」

「取って食いはせん。すこし記憶を覗かせてもらうだけじゃ。」



 ルシエンテスの手が触れた瞬間アンジェラは一瞬だけピクリと動いたが、依然として意識は失ったままだった。
 しばらくするとルシエンテスは手を離し、真っ白な髭をさすりながら考え込んでいた。



(ふむ……ベスパのせいで余計な感情が芽生えてしまったか。誤算ではあるが……これはこれで使えそうな状況じゃな……ククク……)



 不敵な笑みを浮かべて2人を見下ろし、魔導師は悪意渦巻く策謀を巡らせる。



「目覚めよアンジェラ。自らの役割も果たさぬまま眠る事など許さぬ。」

「う……。」



 ルシエンテスの言葉にうなされるように、苦しそうな表情のまま少女は目覚めた。
 彼女は無言のままベスパの腕の中から離れるが、2〜3歩進んだところで膝が折れ、両手を床についてうなだれてしまう。



「立て。」

「は…い…。」



 いたわりの情など微塵も感じさせない言葉にもアンジェラは素直に従おうとする。
 しかし、顔を上げるだけでも辛いようで、なかなか立ち上がる事が出来なかった。



「待ちなよ!!あれだけの力を解放した後なんだ、少しくらい休ませないと……!!」



 ベスパが駆け寄りその小さな肩を支えてやるが、アンジェラは首を振りあくまで1人で立ち上がろうとする。
 見えない何かに背中を押されるように……それが出来ない自分に怯えるように。
 小さな体の力を振り絞って、彼女は震えながら立ち上がった。



「どうして……どうしてそこまで……!?」

「お前は人の話を聞いておったのか?こやつはワシの道具としてここにおるのだ。用をなさぬなら存在する価値のないゴミ以下よ。それは理解させてあるのでな。」

「だからって……無理を続けて死んだら意味ないだろう!?」

「役目を全うし壊れるなら、それが道具の本望じゃろうが。お前もそうではなかったのか。」

「!!」



 その瞬間、ベスパは理解した。
 なぜ自分がアンジェラに特別な感情を抱くようになったのか。
 なぜアンジェラの事がこれほどまでに心に引っかかるのか。
 



 そう――――まるであの子は――――!!



 ようやく自分の気持ちの謎が解けた所へ、ベスパの心を打ち砕くような一言が投げかけられた。



「それともワシが優しくしてやれば満足なのか?物好きなお前の創造主と同じように。」



「お、お前!?まさか……まさかッ!!!!」



 まさか……こいつは私の心まで――――!?



 そう理解した瞬間、全身を凄まじい悪寒と屈辱感が支配した。
 誰にでも心の中に踏み込ませたくない領域というものがある。
 それは魔族とて変わらず、女性であるならばなおさらにだ。
 だが、この男はそこへ無断で忍び込んだあげく、土足で踏みにじったのだ。
 抑えがたい憎悪と殺意が、煉獄の炎よりも激しく心を焼き尽くす。



「殺してやる!!!!」



「おお、恐ろしい。」



 何もかも忘れて目の前の存在を引き裂いてやりたかった。
 しかしその刹那、アンジェラの喉元にステッキの先があてがわれる。
 それが、魔族の衝動に呑み込まれかけたベスパの心を引き戻した。
 激しく突き上げる感情を血が滲みそうなほど強く噛み殺し、屈辱に耐えながら睨む事しかできなかった。



「どうした、ワシを殺さんのか?子供の姿というのは効果てきめんじゃなぁ。妙な行動をしても怪しまれずにすむうえ、倫理観やプライド、浅ましい欲望のおかげで誰もが手を出す事に躊躇い油断してしまう。それが命取りになるというわけじゃ。お前のように情けをかけた輩ほど真っ先に死んでいったもんじゃよ……ファファファ!!」

「くっ、ど、どこまで……どこまでお前は……ッ!!!!」

「くだらんな……実にくだらぬ。ほんの気まぐれに過ぎぬ感情に振り回され、己を見失う。だから些細な事で足元をすくわれ、無駄な回り道をする事になるのだ。お前の創造主が良い例よ。」

「黙れ!!お前に……お前に何がわかる!!!!その穢れた口であの人を語るなぁッ!!!!」



 ベスパは耐えられなかった。許せなかった。
 無断で拝借した記憶で知ったような口をきくこの男が。
 自分とて魔界に身を置いてはいるが、これほど醜悪で穢れきった存在は今まで見た事がなかった。
 悔しさのあまり呼吸は乱れ、頬を紅潮させ……いつのまにか瞳は涙で滲んでいた。



「そんなことよりも……あれを取り返すために協力してもらうぞ。お前が原因でもあるのじゃからな。」

「はいわかりましたって素直に従うほどあたしが可愛く見えるのかい……!!」

「言う事の聞かせ方などいくらでもあるわ。例えば……アンジェラにお前の仲間を1人残らず抹殺せよと命令してみるというのはどうじゃ?」

「!?」

「見たであろうが、こやつは魔力だけならワシよりも強力じゃ。はたしてお前さんの仲間に止められるかのう。もっとも……どうなるかは全てお前次第だがな。」

「ち、ちくしょう……!!」

「ククク……お前といい、ジークとかいう小僧といい、実に滑稽じゃ……とても魔族とは思えぬ考え方をする。だが、その結果が互いに殺し合うことになるとは皮肉じゃと思わんかね?」

「最低のクソ野郎だねあんたは……!!」

「おーおー、良い表情をしとる。小僧とお前が相まみえた時それがどう変わるか……楽しみにしておるぞ。ファファファファ!!!!」



 薄暗く広大な空間に嘲笑う声が響き渡る。
 それは静寂の中で大きく反響し、周囲を取り囲む石像までもがベスパを笑っているかのようであった。



 嘲笑の中心にいるその女性を見つめる少女の瞳には、今にも崩れてしまいそうな『温かい人』が映っていた。
 心に雫がこぼれ、波紋が広がっていく。
 ほんのわずかな、小さい波紋。
 しかし確実に心の奥底が揺り動かされた事を、彼女以外の誰も知る事はなかった――――

















 フォロ・ロマーノでの戦いがあってから3日が経とうとしていた。
 ワルキューレが敵の道具――――それもテュポン復活の鍵になるであろう宝玉を奪取した事もあって勝利ムード漂う魔族とGSであったが、問題が全て解決したわけではなかった。
 依然として5発の核弾頭は敵の手にあるうえ、謎の宝玉の分析も急がなくてはならなかった。
 大地のエネルギーで満たされた宝玉はうかつに人間界から持ち出すべきではないという判断から、オカルトGメンのイタリア支部を最前線基地とし、とりあえずそこで保管・調査する事になった。
 ルシエンテスの反撃に備えてGS達も警戒に当たっていたが、この三日間は何事もなく過ぎていった。



 横島と雪之丞、そしてピートとタイガーの4人は昼食を終えて、公園のベンチで休憩を取っていた。
 行き交う人々をぼんやり見つめながら、彼らは視線を交える事もなく話し始めた。



「しかし……アレだな。」

「あん?」

「なんですか?」

「どうしたんですかいノー?」

「俺はこうして久々にイタリアにやってきたわけだが……1つ驚いた事がある。」

「ああ、アレか?」

「私は見慣れていますが……。」

「確かに……アレにはワッシも驚いたですけん。」

「魔鈴さんが作ってくれるイタリア料理も美味いし、街並みも凄いし、パツキンねーちゃんももちろんたまらんのだが……。」



 横島と雪之丞、そしてタイガーはある一点を見つめてうんうんと頷く。



「「「まさか本当にモグラが地面を盛り上げながら進んでいくとはなぁ。」」」

「えーっと……。」

 3人の視線の先には花壇があり、その土がぼこぼこと盛がって動いている。
 その周りにはうずらがウロチョロしていたりと、イタリアの公園は日本のそれとは趣がまったく異なっていた。
 言葉に詰まるピートを気にも留めずに3人はそれを見つめている。



「こんなのト○とジ○リーくらいでしか見た事無かったもんなぁ。」

「正直、最初は何かと思ったぜ。」

「子供時代の憧れですノー。探したけど見つからんかったけぇ、感激ジャ。」

「「「……だよなぁ。」」」



 しみじみと遠い目で語り出す3人に何と突っ込んで良いかわからず、ピートはただ苦笑いをするばかりだった。
 とりあえず話題の矛先を変えてみようと、ピートは再び口を開く。



「それよりも、今回の事件で気になる事とかありませんでしたか?」

「気になる事か……あるぜ、大いにな。」



 横島の呟きに、雪之丞もタイガーも真剣な顔で頷く。



「そ、それは一体……?」



 ゴクリと息を飲むピートを見た後、3人はベンチから立ち上がり目を伏せ、拳を握り締めながらわなわなと震えだした。



「「「今回の話は何でこんなに俺達の出番が少ないんだァァァァ!!!!」」」

「……いや、タイガーはいつもの事ですが。」

「確かに。」

「違いねぇな。」

「何故!?ピートさんまで!!」



 ショックを受けて固まるタイガーと思わずこぼした本音をフォローしようとしているピートをよそに、横島と雪之丞はコソコソと話し始める。



「結局ベスパは戻ってきてないんだよな……ジークは何してるんだ?」

「ジークの野郎は会議やら何やらで魔界に行っちまったが、すぐに帰るって言ってたぜ。それよりも……大事なブツを奪われたってのに3日も音沙汰のねぇ敵の動きが気になるぜ……。」

「ああ、そろそろ何か始めるかも知れない……それにしてもベスパは敵に寝返ったって聞いたけど……本当なのか?」

「……何か事情があるんだろ。そんな尻の軽い女には見えねぇよ。」

「ああ……俺もそう思う。」



 2人が神妙な面持ちで話し合っていると、連絡用に渡された携帯電話が鳴り響く。
 横島は通話ボタンを押して耳に当てると、2、3度頷いて通話を切った。



「非常招集だ!!急いで基地に戻るぞ!!」



 4人は瞬時に表情を引き締め、オカルトGメンの基地へと駆け出してゆくのだった。


   

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