ザ・グレート・展開予測ショー

鳥を見た


投稿者名:黒土
投稿日時:(05/11/ 1)


 皆本光一はとある植物園に来ていた。
遊びで来ている訳ではなく仕事で来ているため、もちろんあの3人も一緒である。

「植物園ねえ、こんな動かないモノ見て楽しいのか?」
「どうせ経費なんやから、もっと派手なところいかへん?」
「あ、私この間できたジェラートショップがいいな。」

「あのなあ・・・捜査に来てるんだからここ以外に行ってどうする!」

入り口からすでに前途多難だが、言っても無駄なので強引に進む皆本。




―――1時間前、バベル本部―――



バベル本部内の治療施設に集合した皆本たち、
局長・桐壺が皆本と薫・葵・紫穂の3人に任務内容を説明する。

「ここ一週間ほどで、何人もの人間が突然昏倒するという事件が発生している、
 それぞれ年齢・性別など共通しているものは特に無い。
 被害者の中には一時的に凶暴化して暴れだした、というケースもあるらしい。
 おそらく何らかの精神的干渉を受けたものと思われ、警察では手に負えんということでな、
 我々の所にまわって来たというわけだ。」

局長が一通りの説明を済ませると、
同室内に寝かされている被害者の1人に紫穂がそっと手を触れる。

「・・・!?」

何やら不思議な表情を浮かべる紫穂。

「何かしら・・・確かに精神的な干渉を受けた形跡があるけど・・・
 直接触れられたわけじゃないみたいだから良く分からないわ。
 でも・・・」

「でも?」

皆本が聞き返す。

「鳥・・・大きな鳥のイメージが見えたわ。
 ただの鳥じゃなくて、かなり変わってる鳥・・・」

「鳥・・・ねえ。」

顔を見合わせる皆本と局長。
そんな時、おもむろに葵が声をあげる。

「そや!珍しい鳥やったらアソコがある!」

そんな時、ここぞとばかりに下ネタを言おうとする薫を皆本がさえぎる。

「アソコって何の事だ?」

問いかける皆本に、葵が持っていた雑誌の記事を見せる。

「この植物園、何でもマスコットに変わった鳥がおるらしいで。」




―――そして現在、植物園―――



この辺りに珍しい鳥といえばここしかないらしく、皆本たちは事件の手がかりを求め訪れていたのだった。

「それにしても、この中はまるで南国だな。」

ガラス張りになっている建物の中は、珍しい南国の植物で埋め尽くされている。
もちろん、気候もそれに準じているので、スーツ姿の皆本には少々暑苦しい。

「おおっ!コイツか!」

先に進んでいた薫が大声をあげる。

見ると、そこには体長60cmはあろうかという鳥が止まっている。
大きく美しいクチバシがなんとも特徴的だ。

「にしても、でっかいクチバシだな〜」

薫がその鳥のクチバシに触ろうとした、その時。




どすっ




その鳥は薫の手をひらりとかわし、その大きなクチバシを薫の頭にぶつける。
そして言うまでも無く、薫は大激怒!

「こんのクサレ鳥!焼き鳥にして塩振って食ってやるぜ!」

「ま、まて薫!こんな所で・・・!」

必死に止める皆本を尻目に、薫が今にもサイコキネシスを発動しようとする。
挑発するかのように羽をひらひらさせている鳥の態度が、なおも薫を逆上させた。

「ジョナサン!」

突然、若い女性の声が響いた。
その声で落ち着きを取り戻した薫たちのもとに、飼育員らしい女性が駆け寄ってくる。

「すいません、この子がイタズラしたみたいで・・・
 あ、私はここの職員で、飛鷹(ひだか)といいます。
 この子はオニオオハシのジョナサンです。」

飛鷹が呼びかけると、ジョナサンがすうっと彼女のすぐ横に降りてくる。

「この子、とっても賢くて人懐っこいんですよ。
 休日になるとやって来た子供達と仲良く遊んだりしてるんです。」

飛鷹の言葉にかなり不満そうな薫。
当のジョナサンはツーンとそっぽを向いたまま微動だにしない。

「この野郎・・・ちょっと飼育員の姉ちゃんが童顔な割に胸がでかそうだからっていい気になりやがって。」

かなりご機嫌ナナメな薫。
それを聞いたジョナサンは飛鷹に擦り寄り、さらに薫を挑発する。



ぷちーん



何かの切れる音がした。

「上等だ!どっちが格上か思い知らせてやる!」

背後に龍と虎でも出るかのような勢いでにらみ合う1羽と1人。

「鳥と張り合うな!鳥と!」

あわてて止める皆本。
薫の気持ちはわかるが、仕事で来ている手前、構っている訳には行かない。
皆本は紫穂に視線を送る。

「あの、ちょっと触ってみてもいいですか?」

「ええ、もちろん。」

飛鷹の快い返事を受け、紫穂がジョナサンに手を触れる。
さっきの薫に対する態度とはうって変わり、ジョナサンはおとなしく紫穂に撫でられている。

「へえ・・・大人しいもんやなあ。」

今度は葵がジョナサンに手を触れる。
やっぱりジョナサンはおとなしいまま、気持ち良さそうに撫でられている。

「何だよ、じゃああたしも・・・」




どすっ




薫が再び手を伸ばすと、やっぱりジョナサンはそれをひらりとかわし、
カウンターのクチバシを薫の頭にぶつけてきた。

「ジョナサン、やめなさい!」

あわててジョナサンを制止する飛鷹。

「ごめんなさい、いつもはとってもいい子なのに・・・」

飛鷹がしきりに頭を下げる。
あまりの低姿勢っぷりに、薫の怒りも不完全燃焼気味である。

「『はは、鳥もガサツなのが解るんだな。』って思ってる。」

「なっ・・・!?」

いつの間にか皆本に触れている紫穂。
不完全燃焼気味だった薫の怒りは、待ってましたとばかりに皆本に襲い掛かる。

「オッケー、ガサツな一撃いきまーす。」


数分後。

「あ、それでは我々はこれで・・・」

傷を負った皆本に連れられ、植物園を後にする3人。
だが、皆本の犠牲により多少はスッキリしたものの、薫のイライラは収まらない。

「くっそー、アイツとはいつか絶対に決着つけてやる!」

その時、薫の頭に何かが落ちてくる。

「いてっ・・・
 何だ・・・果物?」

上を見上げる薫。
そこにはくるりと輪を描いて飛んでいるジョナサンの姿があった。


植物園から出た4人。
さっきまで機嫌の悪そうだった薫も、すっかりご機嫌でフルーツを頬張っている。

「美味いな〜、これ。あいつ意外といい奴じゃん。」

機嫌の直った薫にホッとしつつ、皆本が紫穂に尋ねる。

「で、どうだったんだ?あの鳥は。」

「外見はイメージで見た鳥と近かったけど・・・
 でも、触れてみたけどやっぱりごく普通の鳥みたいね。
 あの飛鷹っていう人も事件とは関係ないわ。」

手がかりが得られず、少し残念そうな様子の皆本。

「仕方無い、とりあえず事件のあった現場を順に調べていこう。」


 4人は最初に事件の起こった場所へ移動する。
意外なことに、そこは先ほどの植物園にごく近い公園であった。

「車で移動するほどでもなかったな、ここからさっきの植物園が見えるじゃないか。」

と、その時。
公園の入り口から植物園の方を見ていた皆本に、1人の老人が話しかけてきた。

「おやおや、お散歩ですかな?
 若いのに3人もお嬢さんがいらっしゃると大変でしょう?」

ネコを抱きかかえた優しそうな老人、さらにその周りにネコたちが集まってきている。

「あ、いえ、この子たちは・・・」

皆本の話を聞いていないのか聞こえていないのか、老人は穏やかな口調で続ける。

「この子たちは可哀想な子たちでな、こうやってワシが面倒を見てやっておるんじゃ・・・
 まったく、生き物を大切にせんやつが多くていかんわい。」

「あの・・・ところで・・・」

「いつも餌をあげていたらすっかり懐いてしまってな、
 今ではワシの子供のようなものじゃて。」

ネコたちを見つめ、延々と話を続ける老人。
仕方が無いので、紫穂が老人にこっそりと手を触れる。

「・・・?」

老人に手を触れた紫穂が、不思議そうな表情を皆本に送る。
その合図を受け、皆本は老人に切り出す。

「おじいさん、それでは我々はこれで・・・」

「そう、あれは・・・いつだったかの〜。この子が雨に・・・」

どうしても聞いてもらえそうに無いので、皆本達は逃げるようにその場を立ち去った。


車に戻ってきた4人、紫穂がさっき見えたことを報告する。

「あのおじいさんはこの公園の近所に1人で住んでいるわ。
 名前は野馳拾太(のばせ・じゅうた)、動物好きなただのおじいさんね。」

だが、紫穂が自分の手を見つめ怪訝な表情を浮かべる。

「でも・・・何かしら、何か違和感みたいなものがあった・・・
 全部読み取れなかったような気がするわ。」

それを聞き、皆本も考え込む。

「そうか・・・一応そのことを本部に連絡しておこう。
 僕達はこのまま現場を回って手がかりを集めるぞ。」


 あれから全ての現場周辺を捜索した皆本たちだったが、手がかりは全く掴めずにいた。
仕方なく、一旦本部に戻る4人。
捜査に進展が無かったため、局長も少し残念そうだ。

「そうか・・・ではやはりその老人を調べてみる必要がありそうだネ。
 ご苦労、今日はもう休んでくれたまえ。」

明日も引き続き捜査を行うため、皆本の家に泊まる3人。
薫と葵はいつものように何やら騒いでいるが、紫穂はというと、じっと自分の手を見つめて考え込んでいる。
そんな紫穂に話しかける皆本。

「あのおじいさんなら、本部が監視を付けてくれるそうだ。
 何かあれば僕達に連絡が来るよ。」

皆本の言葉にうなづく紫穂。
しかし、紫穂はどうしてもあの老人から感じた違和感を拭えないでいた。


次の日、再び植物園に向かった4人。
他に『珍しい鳥』に該当する情報が無いため、もう一度調べてみることになったのだ。

「あ、皆さん、またいらしたんですか。」

飛鷹がにこやかに出迎える。
だが、ジョナサンは何だか落ち着かない様子であった。

「よう、ジョナサン!昨日のアレすっごく美味かったぜ!」

薫が呼びかけても、相変わらずジョナサンはそわそわと動き回っている。

「この子、今日は朝からずっとこんな調子で・・・
 いったいどうしたのかしら。」

様子がおかしいことも含め、皆本はもう一度ジョナサンを調べようとする。
が、しかし。

「・・・あれ?紫穂はどこに・・・?」


そのころ、最初の現場近くの公園に紫穂はいた。
彼女はあの老人について、どうしてももう一度調べたかったのである。

「おや、昨日のお嬢さん、今日は1人かね?」

公園のベンチでネコに餌をやっている老人、間違いなく昨日の野馳老人だ。
野馳は昨日と変わらぬ優しい口調で紫穂に話しかける。

「どうじゃ、可愛いじゃろう。
 この子はここいらの猫のリーダーでな、ワシは大吉と呼んでおる。」

大吉と呼ばれたそのネコは、野馳の膝の上で丸くなっている。
紫穂が近づくと、愛想良くにゃーんと鳴き声をあげた。

「おじいちゃん、ちょっと聞きたい事があるんですけど。」

そう言いつつ、紫穂はさりげなく老人に触れる。
昨日と変わらぬ情報、しかし、その最後に今までとは異なるものが感じ取れた。




『・・・ナニヲミテイルコムスメ・・・』


「!?」




敵意や殺意の表れか、強烈な悪意と共に発せられたイメージが紫穂の精神を襲う。
それと同時に野馳の表情が恐ろしく歪み、紫穂の喉元に掴み掛かった!

「う・・・ぐっ・・・!」

うめき声をあげる紫穂に、野馳は不気味な声で淡々と語りかける。

「1人で来たのは間違いだったな・・・愚かなガキめ。」

紫穂の細い首を締め付ける力が強くなる。
それにともない、だんだんと紫穂の意識は遠のいてゆく。




「オラァ!サイキック・爆弾パーンチ!」




薫の叫び声と同時に、凄まじい勢いで弾き飛ばされる野馳。
その場に倒れる紫穂に、葵と皆本が駆け寄る。

「しっかりしろ!紫穂!」
「途中からやばそうやったから、慌てて飛んできたんや!」

紫穂がいなくなった事に気付き、テレポートで公園までやってきた皆本たち。
皆本はかなり怒っている様子だ。

「どうして1人で行ったんだ!何かあったらどうする・・・」

だが、皆本の言葉をさえぎり、まだ意識のはっきりしない紫穂が声を絞り出す。

「違う・・・その人じゃ・・・」

その瞬間、4人の頭に今まで経験した事の無いほどの激痛が走った。

「ぐああああっ!」

その場に倒れる皆本。
野馳の方を向いていた薫も、皆本の近くにいた葵と紫穂も、同じ様に地面に突っ伏している。

「な・・・何なんだ、これは・・・」

野馳は完全に気を失っている、はずだった。
しかし、野馳はその老いた体をゆっくりと起こし、まるで生気の無い顔で皆本を見る。
そしてその老人の前には、こちらを凝視する一匹の猫。
それは野馳老人が大吉と呼んでいた猫であった。

「しまった・・・ま、まさかコイツが・・・ぐうあっ!」

時すでに遅し。
縄張りを荒らす者への制裁か、自分のテリトリー拡大のための侵略か、
動物ゆえのひたすら真っ直ぐな思念が皆本たちを襲う。
超度にするといくらほどの力だろうか、
不意を突かれたせいもあって、薫も葵も能力を発揮できないまま動けない。




ドスッ!




突然、皆本たちを押さえつけていた精神干渉が和らいだ。
見ると、再び倒れた野馳の前で、猫と大きな鳥が取っ組み合いをしている。

「ジョナサン!」

そこに飛鷹が駆けつけてきた。

「突然ジョナサンが暴れだして・・・キャア!」

目の前の光景に絶叫する飛鷹。
皆本たちは、まだ精神攻撃の影響が残っているのか、ヨロヨロと体を起こすのが精一杯だった。

「ここは危険だ!離れて!」
「で、でも・・・ジョナサンが!」



一方、激しく争い続けるジョナサンと大吉。
しかし、大きなクチバシは武器というわけではないらしく、鋭い猫の爪によって
みるみる傷を負ってゆくジョナサン。

「うう・・・ジョ、ジョナサン・・・」

薫がサイコキネシスで援護しようとするが、頭痛がまだ残っておりうまく力が出せない。

「あっ!」

さらなる飛鷹の悲鳴、大吉の牙がジョナサンの喉元に突き刺さっている。

その時、ジョナサンは目を見開き、両足の爪で大吉の体を捕らえ、渾身の力を込めて羽ばたく。
そしてそのまま、公園前の道路を疾走するトラックめがけて飛び込んだのであった。



 翌日、再び植物園を訪れた皆本たち。
入り口にある『みんなの人気者・ジョナサンは、都合により南の国に帰りました。』という張り紙が物悲しい。

「あの子、本当はとっても臆病なんです。
 だからあんな事をするなんて・・・よっぽどみんなのことが好きだったのね・・・」

悲しむ飛鷹を慰め、植物園を後にする4人。

「あの大吉という猫は、かなり高度の精神干渉能力を持っていたみたいだ。
 自分に都合のいいように人間を操ろうとしていたらしいけど、
 同じく精神干渉能力を持ったジョナサンに阻まれていた、ということらしい。
 だからあの時、ジョナサンは大吉とまともにやり合う事が出来たんだ。
 あと、紫穂の見た鳥のイメージはジョナサンの能力でマインドコントロールを中和した時の影響だな。」

「ところで、あのじいさんはどうなったんだ?」

薫の質問に皆本が続ける。

「彼もやっぱりあの猫に操られていたにすぎない、丁度いい隠れ蓑ってとこだったんだろう。
 怪我も大した事無いみたいだし、大丈夫さ。」

ホッとする薫、しかしその表情はどこか暗い。

「あいつ・・・それだけ力があるなら、なんであたし達に言ってくれなかったんだ・・・」

ため息をつく薫の横で、紫穂が自分の手を見つめながら言う。

「ジョナサンはこれ以上誰も巻き込みたくないって言ってた・・・気がする。
 私のサイコメトリーもさりげなく回避してたみたいだし。」

紫穂の話を聞きつつ、皆本もため息をつく。

「それにしても、こんなに超度の高いエスパー動物が2匹も出現するなんて・・・」



人間を操ろうとした大吉と、身を挺して人間を助けたジョナサン。
もしもESPが人間だけのものではないとしたら、世界はどうなってしまうのだろうか・・・













あとがき

今回はシリアス系のお話です、ギャグはほとんど無いので面白くないです。;
もしもイルカ中尉のような動物エスパーが自然発生したら・・・と思って書いてみた作品です。

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