ザ・グレート・展開予測ショー

Hyperballad!!(中編)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/10/31)

銀一の腕の中で、おキヌは不思議な安らぎを感じていた。
幽霊として300年を過ごし生き返った後、おキヌは横島以外の男性からぬくもりを感じた
ことがなかった。
大学に進学し、言い寄ってくる男は無数にいた。
日本有数の私立大学に通うおキヌを、彼女の友人は積極的にコンパに誘ってくれた。
横島忠夫を忘れさせる為に。
彼女の友人はおキヌがいつまでも横島のことを思っている様にやきもきしていた。

おキヌほどの女ならどんな男だってものに出来るのに、と。

おキヌは生来男女間の感情に対して鈍感な性質であったが、男たちが自分に向ける視線の
意味は理解しているつもりであった。
しかし彼らがおキヌの心を射止めることはついぞなかった。
横島さんや美神さんが知ったらなんて言うかな。
どんなに盛り上がったコンパの席でも、おキヌはいつもそんなことを考えていた。

「私って最低です。二人の前ではいつも良い子のおキヌを演じている。
もうそんなコどこにもいないのに。
二人のことを心から祝福して、二人が結婚した後も今まで通りの三人を演じ続ける私。
嫉妬で目が眩みそうになった時もあります。
とっくに除霊は終わっているのに二人が帰ってこない夜、何をするわけでもないのに寝な
いで待っていたこともあります。
そんな私を見て困った顔をする横島さんが見たくて。
でもそんな顔を見ると途端にやるせなくなってしまうんです。
美神さんは私から横島さんを奪った。
横島さんは私から美神さんを奪った。
二人は三人の楽しい時間を奪った。
私からすべてを取り上げるというなら、どうして私を生き返らせたりしたのッ!!!」

おキヌの握り締められた拳が力なく銀一の胸を叩く。
ドラマや映画の中で数え切れないほどの恋の言葉を吐いてきた銀一の口は、こんな時にま
ったく上手く動いてくれない。

「おキヌちゃん・・・・・・・・俺、君のことが好きや。」

「銀一くん・・・・・?」

今胸の中にある気持ちを素直に吐露することしか出来ない。

「ことの経緯はよう知らんけど、君がここにいてくれて、本当に良かったと思う。
いきなりなんやと思うかも知れへんけど、こんな風に誰かを思うこと、俺も初めてや。」

おキヌはぬくもりを感じる両の腕の中で何か不思議なものを見る様に銀一を見ている。
その瞳に映る自分の情けない表情を見て、銀一は思わず苦笑した。

「銀一君、私・・・・・・・・・・・・!?・・・・・・・・離れてッ!!!」

「え゛?」

突然おキヌが銀一を突き飛ばす。突然のことに受身も取れずしりもちをつく銀一。

「いてててて。なんやねん、そこまで嫌やったん・・・・・・・・・何やあれ?」

おキヌは眼前のブティックのショーウィンドーを凝視している。
そこにはマネキンのような美しい少女がそっと佇んでいた。
透けるような白い肌。
風もないのに真っ赤な髪が揺れている。
空の色を写し取ったような青い目は、しかしその根底にヘドロのような救いがたい暗黒を
湛えていた。
そしてその右手には、血液を滴らせる若い女性の首がぶら下げられている。

「!?」

少女は生首を顔の辺りまで持ち上げると、そこから滴る鮮血を喉を鳴らして飲み始めた。
銀一が嘔吐感を必死に堪える傍らで、おキヌはハンドバックからネクロマンサーの笛を取
り出して口に含む。


「銀一君、これを。」

そう言うとおキヌは小袋を一つ銀一に投げて寄越す。
お守りです、とおキヌは言った。

「それを持ってそこにじっとしていてください。
あのコの狙いは・・・・・・たぶん私だから。」

おキヌが甲高い笛の音を響かせると、少女は生前はさぞ美しかったであろう生首の頬で口
元を拭い、にたりと笑った。







エリザベス・バソリーは1560年ハンガリー・トランシルバニア地方の名家バソリー家に生まれた。
バソリー家は名門ハプスブルク家ともつながりのある古い貴族の家柄で、エリザベス本人も
ポーランド国王の従兄弟にあたる。

11才の時から婚約者フィレンツ・ナダスディ伯爵の家に委ねられた。
フィレンツ・ナダスディ伯爵26才、エリザベス15才で二人は結婚、夫はハンガリーの国
民的英雄で、戦いに出陣することが多かった。
エリザベスは不在がちな夫と陰湿な姑に鬱積した不満を持つ中で、魔術を学び不貞を働く
ようになった。

チェイテ城のあるニートテ地方は田舎で、夫とともに訪れたウイーンの宮廷の華やかさと
は別世界だった。
不幸で退屈な毎日は精神をむしばみ、自分の美しさを磨く事だけが興味の対象となった。
魔術・呪術への傾倒はこの頃から常軌を逸したものになっていく。
夫フィレンツ・ナダスディは、オスマン=トルコ軍と戦って55歳で戦死(1604年)。
当時エリザベートは44歳だった。

このあたりを境にオカルト趣味は現実のものとなっていく。
ある日、女中の少女がエリザベスの髪をすいていた時、櫛に絡まった毛を強く引っぱられた。
激怒したエリザベスは女中の顔を返り血を浴びるまで殴り続けたが、血のかかった肌が若
返ったかのごとく見えたため、その女中を殺害し血液を全身に浴びた。
4人の子供を産み女の盛りを過ぎていた彼女は「老い」を最も恐れていた。

そしてエリザベスの狂気は始まったのだった。









(笛が・・・・・・・・効かない・・・・!?)

ネクロマンサーの笛の音の中を、少女は平然と歩いてくる。
その姿がおキヌの眼前まで迫ってくると、おキヌは一旦間合いを取り、ハンドバックの中
から神通棍を取り出した。

エリザベス・バソリーと言えばあなたには分かるのかしら、と少女が血で真っ赤に染まっ
た薄い唇を開いた。

「幸か不幸か。
私は別のネクロマンサーの魂に呪で縛られている。
残念だけど400年もの間蓄積されてきた呪法だから、あなたが横から割り込むのは無理だ
わ。
でも安心して。
この呪は直ぐに解けることになる。」

「?」

「あなたの魂をくれればねッ!!!」

獣のような速度で爪を立て、突進してくるバソリーッ。
おキヌは神通棍を抜き放ちその一撃をはじく。
ギン、という音があたりに響く。
バソリーは数度猛攻を加えるが、そのすべての攻撃をおキヌは捌いて見せた。

「す、凄い。」

銀一は我知らず呟いていた。

元々幽霊であるおキヌの霊感は常人のそれを大きく逸してる。
霊派の流れを見切ることについても天性の才を持っているのだ。
300年も霊体のまま存在し続けた彼女以上に霊体に精通するものがこの世にいるはずもな
く、おキヌは絶対霊感とでも言えるものを身に着けていた。
加えておキヌが支持していたのは世界最高のGSに数え上げられる美神令子であり、彼女
が3年間オカルトを学んだのは日本最高峰の六道女学院なのだ。

そのおキヌにとって単調なバソリーの攻撃を見切ることなど造作もない。
おキヌは流れるようなムダのない動きでバソリーの攻撃をかわし続ける。
やがておキヌはバソリーのチャクラに狙いをつけて神通棍を打ち下ろしたッ!!

「極楽に・・・・・・・行ってッ!!」

銀一が勝利を確信した次の瞬間、バソリーの肉体は真っ赤な鮮血となって飛び散った。
おキヌの神通棍は宙に残った衣服だけを打ち付ける。

「しまったッ・・・・・・!?媒体は血液ッ!!!」

おキヌの直ぐ後ろにドロドロした血液が集約し、再度裸身のバソリーを形作ると、その爪
がおキヌに振り下ろされた。

アスファルトに飛び散った鮮血は、バソリーのものではなかった。










平日の午後、込み合う道路を道交法を頭から無視して疾走する一台のコブラがあった。

運転するのは黒髪の男。
ハンドルを握るその男の顔はハンサムとは言えないが、何か人をひきつける魅力のような
ものを感じさせる。
助手席に座るのは栗色の髪を風にたなびかせる正真正銘の絶世の美女。
お似合いのカップルと言えもしたが、二人とも真剣な目で眼前を睨みつけている。

「本人の日記によれば犠牲者は若い女性ばかり612人。いくら魔女狩りの時代でモラルも
基本的人権もない時代だったとは言え、これは異常よ。
バソリーは快楽のために拷問して殺害した女性たちの血液をバスタブに溜めて入浴したり
その血を飲んだりした。
それが本当に若返りに効力があったかは別としてね。
1610年、国王の命を受けた捜索隊がバソリー屋敷を訪れた際、そこには600体以上の遺体
と、全身に穴を開けられ瀕死でうめく少女たちが確認されたそうよ。」


王族と親戚関係を持っていたため死刑を免れたバソリーは、一族によってチェイテ城に幽
閉され、3年半後の1614年54才で死亡。死亡した時かつての美貌は見る影もなかった。


「人を呪わば穴二つ掘れってとこか?呪術を中断したバソリーは魔術の反動でおっちんだ
ってわけだ。」

「それでも光一つ差さない牢獄で3年半も呪いに蝕まれて生きていたんですもの。
大したものだわ。
そしてここからは正史には残らないGSに伝わる話。
死亡したバソリーは大方の予想通りに強力な悪霊となり見るものすべてに復讐しようとした。
ただそれを見越して事前に集められていたオカルトの専門家たちによって封印されたらし
いわ・・・・・。」

「らしい・・・・?」

「バソリーの魂の行方については諸説あって、今まで決定的な証拠は出て来なかった。
でも今回東京近郊で半獣半人の魔族の死体と一人のネクロマンサーの死体が見つかったわ。
そいつの一族は代々バソリーを式として利用して悪魔祓いをやってたってわけね。」

そして迷惑なことに大失敗をやらかしたってわけだ、と横島はアクセルを限界まで踏みし
めながら一人ごちる。

「幸いなことと言っていいのか分からないけど、その男の魂は殺される時に魔族に食われ
ちゃったみたいなのよ。バソリーは魔族を殺し魂を回収しようとしたけど出来なかった。」

「そこで呪から開放されるために、ネクロマンサーの魂を狙っているわけだ・・・・・・と、
渋滞?こんな時にッ。」

見れば明応大学へと続く道は完全な渋滞となっていて車は一ミリも進んでいない。
令子と横島は顔を見合わせると、すばやくコブラを降りて走り出した。

「こんなに悪い霊感を感じるのは久しぶりだわッ。」

「間に合ってくれよ、おキヌちゃんッ!!!」

夫妻の姿はパニックに陥った街の喧騒の中に消えていった。








「おキヌちゃんッ!!」

すっかり人のいなくなった街並みに銀一の悲痛な叫び声が響く。
おキヌの左腕からはぼたぼたと血が流れ落ちている。

「だ、大丈夫、かすり傷です。
(傷口から霊力を結構持っていかれちゃった。ま、まずいかも。)」

対峙するバソリーは爪に付着したおキヌの血液をぺろりと舐めた。
そして至福に満ちた甘い表情を浮かべる。

「霊力のたっぷりこもった女の血。
美味しい。
危うくイっちゃうかと思ったわ。
何百対もの魔物を屠ってきたけど、霊能のある女の血が一番美味しい。
ん?
でもこの血の味は・・・・・・・・・・・!?
あなたまさかその年で処じ――――」

「わ〜〜〜、言わなくていいからッ!!!」

「可愛そうに・・・・。」

「大きなお世話ですッ!!!」

一瞬あわれんだような表情を見せた後、バソリーは狂気に歪んだ笑みを浮かべた。

「しかし私は運がいいわ。
使役者が死んだ街で別のネクロマンサーを見つけて、しかもそれが乙女だなんて。
あなたにいいことを教えてあげる。
私は処女の血を吸い、魂を食い破るのが一番すきなのよッ!!」

「あ〜〜ッ!処女って言ったーッ!!!」

「そこかいッ!!」

銀一が思わず突っ込んでいる間に、バソリーは脅威的なスピードでおキヌに襲い掛かる。
おキヌの動きは先ほどまでの精彩さを欠いている。
反対にバソリーの動きは目に見えて向上していた。

「おキヌちゃんの血を奪ったからかッ。
このままやったらおキヌちゃんの勝ち目は薄い。どうしたらええんや。」

銀一には文字どおり為すすべがない。
そもそも物理的な手段ではバソリーを倒せはしないだろうし、銀一にはかけらも霊力とい
うものがないのである。
そして何より、銀一の膝は小刻みに震えていたのである。
銀一は自らの太腿を思いきり殴りつける。

「こんな時に、惚れた女がやばいって言うのに、俺は何もできんのかッ!!
くそッ!!
なにが近畿剛一やッ。
大層な名前して結局何もできんのやないかッ!!!」

銀一は思わず握り締めていたお守り袋を地面に投げつけていた。
そのなかから、小さな玉が一つ転がりだした。

「これは、横っちの言っとった・・・・・・・・・?」

それは三界きっての珍品である文珠であった。

文珠とは横島の霊力が圧縮されているビー玉大の霊具である。
漢字一文字をキーワードとして解凍するが、その際消費されるのは文珠に込められた横島
の霊力である為、難しい操作を伴わない簡単なイメージであれば、正直の所素人にでも十
分扱える。

「せやけど、あいつに直接ダメージを与えるような文字を念じても素人の俺では大した威
力はないんとちゃうか?
せやったら、何か間接的にあいつ以外のものに影響を与えるような文字を・・・・・!?
せや、これしかないッ。」

何事かを思いついた銀一は文珠に文字を込め投げつけようと構える、しかし・・・・。

(う、動きが速すぎてついていかれへん・・・・・・。)

スタントなども経験し身体能力には自信のある銀一であったが、おキヌとバソリーの猛攻
に横槍を入れることができない。

「奴の動きを停めへんことにはどうしようも・・・・・。」

「きゃッ。」

その時銀一の目の前で、おキヌがバソリーに跳ね飛ばされ地面に倒れてしまう。
にたにたと笑い爪を振りあげるバソリー。
知らず、銀一の体は動いていた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

バソリーの爪がおキヌを庇った銀一のわき腹を痛ましく抉り、飛び散った赤い血がおキヌ
の身体を染め上げていた。



(続)

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