ザ・グレート・展開予測ショー

墓場の手前


投稿者名:犬雀
投稿日時:(05/10/28)

『墓場の手前』




金曜日の夜とも言えば街には酔客が溢れていて。
仕事に疲れたお父さんや仲の良い友人と飲み歩く若者など様々な人が歩いている。
まだ深夜とも言える時間じゃないせいか、それほど泥酔している人も無い。
いたって平和な光景。

そんな街の片隅の居酒屋で些細なパーティが開かれていた。
パーティと言っても華なんかありやしない。

少し汚れた畳と古びたテーブルに乗っているのは、今流行のナンタラ料理なんてもんじゃなく、ありふれたつくねや焼き鳥、そしておでん。

囲んでいるのはムサイ男たち。
すでに杯は相当に進んでいるのか皆一様に酔眼で呂律も怪しかった。
それでも杯を重ねながら彼等は先に倒れた友を思う。

「まさかアイツがいくとはなぁ…」

「ですねぇ…もう皆で集まることも…」

「意外に早かったですのー」

杯に注がれた酒に映るは倒れた友の笑顔。
それを飲み干して男はまた次の酒を手酌で注ぐ。

「まあよくやったと誉めるべきだろうな。」

「ですね…見ててハラハラしてましたけど…」

「最後まで気づかなかったですのー。」

本人は最後の最後まで気がつかなった。
ありふれた日常の繰り返しと思っていたはずだった。
しかしすでにあの騒がしくも楽しい少年の日々は終わりを告げ、大人として社会に踏み出しそれなりの経験を積むうちにすでに彼の知らぬ間に包囲陣は完成していたのだ。

兆候はありました。

彼が突然嬉しそうに、そして半ば怯えを見せながら語った言葉。
今でも思い出します。
一撃で先生の精神に破滅的なダメージを与えたあの言葉。
自分は学生時代に一度聞いたから耐性が出来ていたからいいものの。
それですら彼の死を予感しましたっけ。
初めて聞いた先生が固まるのも不思議ではない。むしろ必然でしょうね。

「俺、給料上がったんすよ…」

考えてみれば正社員として美神令子除霊事務所の一員となったのだから当然のことなんでしょうけど。
それでも相手はあの美神さんです。
一度身についた先入観は中々抜けるものでなく。
次の日に先生の枕についた何時に無く大量の抜け毛に思わず泣けましたっけ。

金髪の吸血鬼は苦笑しながら杯を乾した。



ワッシでさえ思い当たる節はあったんじゃがの。
久しぶりに会った横島さんがパリッっとしたスーツを着ていたし。
ありゃぁ相当に値の張る品じゃった。
「なんか必要だからって買ってくれた」なんて首をかしげ取ったが、紺色のスーツに合わせたネクタイも見事な品じゃったし。
とてもおざなりに選んだ品なんかじゃなかったけん。
それでも気づかないのが横島さんたる所以じゃろうなぁ。

虎の異名を持つ男は苦笑しながら杯を乾した。



普通は気づくよなぁ。
美神の旦那に頼まれてアイツと行ったちょっとヤバ目の除霊。
ちょっとした旦那のミス…まあ依頼人が嘘をついていたのが悪いんだが。
それでアイツが怪我した時の旦那の剣幕は…今でも思い出すだけで震えが来るぜ。
そして横島が眠る病室の前で膝を抱えて座り込んでいた旦那。
アイツの意識が戻ったときの旦那の顔。
この俺でさえ気がついたのにな。

魔の力を体現する男は苦笑しながら杯を乾した。


「結局、アイツは鈍すぎだな。」

「そうですね。」

「ですのー」



最後の乾杯をかわし、男たちは居酒屋を出る。
まだ深夜の一歩手前だが明日は大切なイベントがあるのだ。
にもかかわらず肝心の主役が酔いつぶれて、もう一人の主役に担がれて帰ってしまったのは一抹の不安を残す展開である。

「明日は大丈夫なんでしょうか?」

ピートの心配は泥酔した横島の体調か?それとも別なことか?
雪之丞はどうやら別なことを考えたらしい。
その目には楽しげな色がある。

「まあ…どうかなぁ…お前の部下はどうなんだ?」

「それが…シロちゃんもタマモちゃんも何かを企んでいるような予感がヒシヒシと…」

最近のシロとタマモは率先して対テロ戦の訓練に精を出していた。
しかしそれが人質救出と言うかほとんど拉致に近かったのが気になるピート。
中間管理職は何かと大変である。

「おキヌさんもですじゃー。」

自分の恋人から聞かされたおキヌの不穏な台詞がタイガーの脳裏をよぎる。

(うふふふ…不倫は文化なんですよ…うふふふ…)

さて…自分はどうすべきか?
雪之丞はポケットから最近吸いはじめた煙草を取り出すと火をつける。
紫煙が風に消えていく先を見つめて彼は先ほど酔いつぶれた友人の顔を思い出した。

「結婚は人生の墓場か…」

「まあそう言いますが…」

「じゃけんど…」

墓場というのも意外と良いものかも知れない。

なぜなら潰れて担がれていった横島の顔は確かに笑っていたのだから。


                                                       おしまい





後書き
即興ですみません。まあこういう未来も暗示されていたということで(笑)

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