ザ・グレート・展開予測ショー

蜂と英雄 第9話 〜勝敗〜


投稿者名:ちくわぶ
投稿日時:(05/10/27)





「ベスパ……正気か!?」
「……ここから先は一歩も通さないわ。」


 古代ローマの遺跡を背に2人は見つめ合う。
 最初、何らかの術でベスパは操られているのではとジークは思ったが、その瞳には確かな意志の光が感じられた。


 何があったかは知らない。だが、こちらも決して譲る事の出来ない事態だ。
 それに、もう二度と彼女を敵に回したくはなかった。




 多くを知ってしまったから――――




 戦闘態勢に入るGS達に目配せし、ジークは説得の可能性に賭けてみる。


「よく聞くんだ……ルシエンテスは太古の魔神テュポンを解き放とうとしている。テュポンは台風が神格化したもので、その破壊力はアシュタロスの究極の魔体を遙かに凌ぐ。」
「……。」
「ここで阻止しなければどれだけの生命が失われるか……お前にも解るはずだ。」
「……。」


 瞬きもせずにベスパはジークの言葉に聞き入っているが、その表情は何も変わらない。
 なにせ文字通り雲を掴むような話だ。その事実を正しく理解するには多少の時間が必要なのかもしれない。
 それよりはむしろ……彼女を突き動かすものは自分自身に降り掛かった目の前の事実ではないか――――
 周囲に転がる兵士達の遺体に目をやり、ジークは話題の矛先を変える。




「恐らく……正規軍兵士がお前を狙ったと思う。だが、今回の指令は私も納得してはいないんだ。お前の処遇は私が責任を持って――――」




 吹き抜ける風にその美しい髪をなびかせながら、ベスパは言葉を遮るように口を開く。




「知ってるでしょ……あたしは1度世界を敵に回した女なんだよ?今更惜しい命じゃない……そういう事じゃないのよ……。」




 その声色は憂いに満ちた、彼女に似合わぬか細いものだった。




「どうあっても……引く気は無いのか。」


「お願い、帰って。でなければ……私はあんた達を殺すよ……!!」


 再び吹き抜ける風の中で交差する視線。
 だが、それはいつもの2人が交わすものとは全てが違っていた。










 ジークとベスパが対峙しているその後ろで、うずくまっていたアンジェラがゆっくりとその身を起こし始めていた。
 ナックラヴィーはアンジェラを守るように、傍らでじっとしている。


「もう……邪魔しに来ないで……。」


 アンジェラは服のポケットに手を入れ、粗末な紐が括り付けられた小さな何かを握りしめる。
 それを胸元に当てると、アンジェラは目を閉じ呟き始めたのだった。
 すると少女の体から放たれる魔力は質を変え始めていく。


「唐巣先生……あの少女……!!」
「あの子供も例の魔導師の手下なのか……一体何をしようというんだ?」


 いち早くそれに気が付いた唐巣神父とピートは、彼女の呟きを聞き逃さなかった。
 そして少女の口から紡がれる言葉は特に2人にとって大きな衝撃をもたらすものだった。




 ハリストス実に復活し、死をもって死を滅し……墓にある者に生命を給えり――――




 アンジェラは胸に当てた手を開き、高まった霊力を解放する。そこに握られていたのは不気味な骨で作られた十字架を逆向きに紐で吊した物だった。


「復活のトロパリ!?それを骨の逆十字で唱えるとは……これ以上ない神への冒涜だ!!」
「先生……!!」


 アンジェラの唱えた言葉は本来、正教会でハリストス(キリスト)復活を祝福する賛歌である。
 だが、神の意志に反する行いを意味する逆十字と共に唱えられた言葉は、本来の持つ意味を全て逆に作用させる邪な呪文となる。
 響き渡る言霊は特殊な波動へと変わり、それはローマに漂う無数の悪霊を引き寄せ始めた。




 現世に強い未練を残して留まり続ける悪霊。
 正常な思考など持ち合わせるはずもなく、己を形成するただ1つの情念に縛られて生者に害をなす者ども。
 魂の循環を滞らせるこれらの存在は、人間が知性を、想う事を獲得したが故の産物なのか。
 想いが故に死を恐怖し、拒絶する。
 想いが故にかつて自分が持ち得た肉体と温もりを求める。
 受け入れられぬ『死』という現実が魂を憎悪で満たし、その矛先は目に映る全ての――――とりわけ生者に向けられる。
 歪んだ霊的存在と対峙する事は、人類が生まれ出でたその瞬間より課せられた宿命なのかも知れない――――




 ハリストス実に復活し、死をもって死を滅し……墓にある者に生命を給えり――――




 悪霊達の目の前には格好の依り代である新鮮な死体――――しかも魔物のそれがいくつも転がっている。
 浅ましい妄執を代行する肉体を見つけた悪霊や邪精霊どもは、我先にと死体に憑依していく。
 朽ちたはずの瞳に映るのはまばゆい生命の光を放つ人間達の姿。
 甦った亡者の群れは誰に言われるまでもなく、それを目指して動き始めていた。




「ちょっと……先回りしてた味方が全滅してるどころか、死体を逆利用されて囲まれるなんて……あり得ない汚点だわね、まったく……!!」


 周囲を取り囲むゾンビを眺め、溜息混じりに呟きながら令子は神通棍を構える。


「グダグダ言ってるヒマはないワケ。こいつらのボディは魔族なのよ……強力な魔力と体力を持ってるだけ余計にタチが悪いわ。おたくらも気合い入れな!!」


 エミの檄にその場のGS全員が頷く。それほどに敵の数は多く、肌を刺すような邪気が渦を巻いていた。




「ベスパの事はジークとワルキューレに任せるとして……横島クン、シロ、タマモ、それから冥子、アンタ達はおキヌちゃんに敵が近付かないようガードして。この状況ではネクロマンサーの笛が一番の武器になるわ。他の連中はゾンビを各個撃破。但し調子に乗って敵の中で孤立しないように気をつけること。頼んだわよ!!」




 令子の指示を合図に、それぞれが迫り来るゾンビ達へと立ち向かっていく。
 おキヌがネクロマンサーの笛を吹き鳴らし、死体に憑依している悪霊の動きを鈍らせたところへGS達が切り込んでいく。
 数々の戦いをくぐり抜けてきた彼らの足並みは実に見事な物だったが、甦る死体の多さはその包囲を容易には崩さなかった。




 GS達がゾンビと激突してこちらを気にしなくなったのを見ると、アンジェラは懐から丸い宝玉を取り出し、それを抱きかかえながら地面に手を付いて念を込める。
 すると再び地の底から強大なエネルギーが上昇し、アンジェラへと引き寄せられていた。
 やがて彼女の持つ宝玉が、うっすらと輝きを帯び始めていく。




「龍脈のエネルギーが……!!ジーク、もう話し合っている時間はないぞ!!」
「わかっています……!!」




 目の前に立ち塞がるベスパ、そしてその背後にはナックラヴィーと謎の少女。
 姉の言う通り、もはや時間は1秒も残されてはいなかった。
 ジークもまた、覚悟を決める。




「ベスパ……お前の意志は良く分かった。」
「ならば我々も魔族の習いに従い――――」




 ジークは静かに構えを取り、大地を踏みしめる。
 ワルキューレは鋭い爪に殺気をみなぎらせる――――。




「「押し通るまでだ!!!!」」




 ジークとワルキューレは左右から挟み込むように挑みかかる。
 ベスパがワルキューレの鋭い爪の初撃を飛び退いてかわしたところへ、ジークの手刀が喉元をかすめる。
 さらにジークは反射的に殴り返してきたベスパの腕を取り、手元に引いてバランスを崩したところで足を払う。
 一回転するように倒れ込んだベスパめがけ、追撃の鉄拳が放たれた。


「!!」


 砂煙が舞い上がると同時に、何かが砕ける音が響き渡る……。


 煙が晴れたそこでは、ベスパが紙一重で顔を逸らし直撃を免れていた。
 地面を砕いた拳を引き、もう一撃を振り下ろそうとするジーク。
 ベスパはそのスキを見逃さずみぞおちを蹴り上げ、そのまま後方に投げ飛ばした。
 受け身を取って素早く起きあがったジークだが、腹部を押さえて一瞬動きが止まってしまう。
 そのスキをカバーするように、ベスパの側面からワルキューレの跳び蹴りが炸裂する。
 勢いに押されて後退するベスパに、ワルキューレの高速連撃が叩き込まれる。
 ガードの上からでも構う事なく叩きつけられる拳や蹴りに圧倒されたのか、ベスパはガードを固めたまま動かない。


 止まらぬ連撃の中で、ベスパはワルキューレの燃え盛るような激しい怒りを感じていた。
 いや……むしろその怒りを隠すための連撃だったのかも知れない。
 聞いてしまったのだ。繰り出される攻撃の合間に吐き出された言葉を……。




「弟は……ジークはお前のためにとずいぶん心を砕いた……!!馴染まぬ場で暮らす気持ちは自分が一番良く解ると言ってな。お前がどう行動しようが、それは好きにすればいいさ……だが、弟を裏切り傷つけると言うなら私が生かしてはおかない!!!!」




 それが、痛かった。
 殴られることよりも――――
 味方から向けられた憎悪よりも――――




 心が折れそうにきしむ。
 大人の外見をしていようと、ベスパとて生まれて1年足らずの存在に過ぎない。
 知識として知る事は多くても、自らが感じ得た経験はあまりに少なすぎる。
 何と答えれば良いのか、他に選ぶ道はなかったのか――――
 全てに納得のいく答えは、彼女の中には見つからなかった。




 それでも――――




 わずかな経験の中で、ただ1つだけ確信している事があった。




 夜空の下で煌々と燃えさかる巨大な炎。
 ゆっくりと沈んでいくそれを見つめていた時、心も体もバラバラになってしまいそうだった。


 自分もそこに飛んで行きたかった。でも、行けなかった――――
 あの方はそれを喜びはしないから――――


 それからの数日を抜け殻のようになって過ごした。
 これから自分はどうすればいいのか。
 何のために私は――――?
 その答えを探すためのきっかけを与えてくれたのは、一見頼りなさそうな情報士官の青年だった。
 彼と何度か行動を共にするうちに、やがて自然に思えるようになってきたのだ。








 この生活も悪くない――――と








 だから……もう失いたくなかった。


 もう二度と――――








 決意を改めて確かめたとき、心に力が戻ってくる。
 この先どうなるかはわからないが、今は彼らを通すわけにはいかない。
 それが最悪の結末に繋がると言うなら。
 落とし前は必ず私が――――!!









 ベスパはありったけの霊力を解放し、衝撃波として放つ。
 ワルキューレはその直撃を受けて空中に放り出されたが、一回転して空中で制止した。
 派手に吹き飛んだが、ダメージはさして大した事はないようだ。


「……通すわけには……いかないのよ!!」


 吹き出す霊力が大気を震わせ、髪を浮き上がらせる。
 手元で収束した霊気が破壊のエネルギーへと変換され、激しく放電していた。
 そしてさらに、ジークとワルキューレを圧倒するほどの霊力が膨れ上がっていく。


「さすがのパワーだな……しかし当たらなければ意味は無い!!」


 ワルキューレは大きく羽を広げ、放たれた弾丸の如くベスパに突撃する。
 ほぼ同時にベスパが放った霊波砲を横に回転しながら回避すると、その勢いを利用して回転を持続、爪を突き出しそのまま体当たりを敢行した。




 2人のシルエットが交差する――――




 ワルキューレの爪が腹部を貫いた――――かに見えたが、突き出された腕を左脇に捕らえ、ベスパは体当たりを受け止めていた。
 さらに右腕でワルキューレの首をフロントネックロックの形で極めると、持ち前の怪力で想いきり背後へと放り投げた。


「うおおおおおッ!!!!」


 パンテオンの柱を2つ、3つへし折り、さらに石柱に激突してワルキューレはようやく止まったが、さすがにコレは効いたらしくうなだれてしまう。
 ワルキューレが向かってこないのを見ると、ベスパはジークの方へと顔を向けた。


「……。」


 2人は言葉を交わす事もなく、同じタイミングで地を蹴る。
 それは人間では目で追うのが精一杯な程の超スピードで繰り広げられる乱打の応酬。
 ベスパの拳が、ジークの掌が飛び交い、五体の全てを凶器に変えた嵐のようなぶつかり合いだった。
 大振りなパンチをいなし、無防備になったベスパの脇腹に掌打が滑り込む。
 だが、それを見越していたように膝蹴りがジークの顔面を襲う。
 すかさず顔を逸らしたジークはそのままバク転、再び腰を落として構えを取る。


「強いな……パワーもスピードもスタミナも、お前の方が遙かに高い。が、それでも勝敗が見えないのが戦いというものだ……!!」


 いたって平静な構えを取るジークだったが、すでに肩を上下に揺らすほど呼吸が乱れじっとりと汗をかいている。
 ふと目をやれば、先の戦いで切断され、鉄板で仮留めしている左腿から体液が滲み地面に染みを作っていた。
 ベスパの心がきしり……と痛む。


「その脚じゃ……どう転んでも勝てないよジーク。」
「……かもしれん。だが、弱い者にはそれなりの戦い方という物があるのさ。それを今からレクチャーしてやる……!!」


 ジークは素早く霊波を撃ち、それと同時に自身も走り出す。
 上体を反らしてそれをかわしたベスパの真下、地に貼り付くほどの低い位置からジークが滑り込み、両手で跳ね上がった勢いのまま槍のような蹴りを繰り出した。
 しかし天性の戦士であるベスパにそれをかわす事など造作もなく、隙だらけのジークに決着を付ける一撃を撃ち込もうとした瞬間――――


「!?」


 目の前で飛び上がったジークの姿は突然歪み、映りの悪くなったTVのように輪郭がぶれて消えた。


「幻術……ッ!?」


 そう気付いたのもつかの間、突然背後から腕を極められ激痛に気がゆるんだ瞬間に地面に押し倒されてしまう。
 うつ伏せのまま振り返るように顔を上げれば、膝をベスパの腰に置いて重心を支配したジークが見下ろしていた。


「げ、幻術なんて使えたんだ。」
「いざというときのためにな。もっとも私にはあの程度が限界だが、良い目眩ましにはなる。」
「やられたね……。」
「お前は真正面から敵と戦おうとしすぎだ。同じミスを繰り返していては生き残れないぞ。」
「う……。」
「悪いがしばらく眠ってもらおう。できるなら……お前を傷つけたくなかったが。」
「……。」


 押さえ付けられながらもベスパは感じていた。ジークの力が未だ本調子でない事を。
 そしてそれは全て自分のせいで受けた怪我のせいだという事も。
 思えばジークは傷だらけだった――――
 魔界の湖で自分達を逃がそうとした時も、この脚の傷も……全て生半可な物ではなかったはずだ。
 それでいてなお誰かを気にしようと言うのか――――


 それなのに自分だけが……
 自分だけが傷つかずにいられるわけがない――――!!


 いま体で自由になる場所と言えば――――


「待って、ジーク……1つだけ聞いて欲しいんだ……。」
「……いいだろう。」


 その時ベスパの左手が握りしめられるのを、ジークは見逃していた。


「……やっぱり今のあんたじゃ無理よ!!」
「!!」


 ベスパは握りしめていた小石をジークの左脚に投げた。それはうまい具合に怪我の部分に当たり、痛みで一瞬気が逸れた。
 そのスキを見逃さず強引にジークを跳ね飛ばし、今度はベスパが馬乗りになってジークの自由を完全に支配した。


「形勢逆転だね……言ったろ、勝てないって……。」
「……ああ、そうらしいな。」


 ジークは冷静だった。いつもと変わらぬように、じっとベスパを見つめたままだった。


「……もう1つ教えておく事を思い出した。最後に聞いておけ。」
「……。」
「我々軍人にとっての勝利とは任務を遂行する事にある。この戦い、我々の勝ちだ。」
「なっ!?」




 ハッとして顔を上げたベスパは、さっき放り投げたワルキューレの姿がどこにもない事に気付いた。
 青ざめながら振り向いた先には地面に倒れ伏したアンジェラと、上空で彼女が持っていた宝玉を手にしているワルキューレの姿があった。


「さっきエネルギーをこの宝玉に集めているのを見た。これがなければ、ルシエンテスの目的も果たせまい……!!」


 地面ではナックラヴィーが怒り狂い腕を振り回していたが、遙か上空にいるワルキューレには届かない。
 だが、ベスパを始めその場にいた全員の心胆を寒くしたのは異形の怪物ではなかった。


 倒れ伏していた少女はゆっくりとその身を起こす。
 顔に掛かった金色の髪の奥には、赤い光が宿っていた。
 闇の濁流が、再び彼女の体から溢れ出してくる。


「返して……!!」


 空を見上げたアンジェラの瞳は普段のエメラルドではなく、まるで血のように深い赤のルビーであった。


「返して!!!!」


 溢れ出した魔力は形を得て、青空を切り裂く黒い光の筋となった。
 それはあたかも剣のようにワルキューレに振り下ろされる。
 それが迫ってきた時、凄まじい悪寒を感じたワルキューレは咄嗟に旋回してかわした。
 空を切るだけだった黒い光が瓦礫に触れた時、それは一瞬にして塵芥へと帰してしまった。


「バカな……人間がなぜあれほど強力な魔力を使える!?あの術は魔族でもそう使えんのだぞ!!」


 さすがのワルキューレもこれには驚きを禁じ得ず、冷たい汗が頬を伝う。
 アンジェラはゆっくりと宙に浮くと、再び黒い光で宙をなぎ払った。




「ま、まずい!!かわしきれん……!!」




「返して……返して……返してーーーーーーーッ!!!!」




 それは絶叫だった。
 まるで自分自身の全てを絞り出すかのように、アンジェラは叫んだ。
 なぜそれほどまでに彼女の感情が高ぶるのか、その理由を知るものはこの場にいない。




 彼女を包む闇はさらに広がり、黒い光の剣が次々と正面の空間に突き出していく。
 いくら上空に逃げていようと、これだけの数を避けきるのは恐らく不可能だろう。
 光はそれに触れた周囲の遺跡、地面、ソンビなどの全てをも塵芥に変えてしまう。
 そして、それはベスパとジークの元やゾンビと戦うGS達の元へと伸び始めていた。


「やめてアンジェラ!!お願い!!!!」


 ベスパはジークを物陰に突き飛ばし、力を解放するアンジェラに向かって走り出した。
 そして後ろからアンジェラを強く抱きしめて言うのだった。




「もうやめて……もうこれ以上は……!!」


「う……う……ううっ……。」




 ベスパの温もりと声に、アンジェラの瞳の色が落ち着いてくる。
 血のような赤が透き通る緑に変わると同時に、彼女は意識を失った。


 直後、獣の咆吼が響き渡る――――
 ナックラヴィーが空間を歪め、ベスパ共々アンジェラをどこかへ送り飛ばしてしまった。
 そしておぞましき魔獣もまた、その空間に身を躍らせて姿を消してしまったのだった。








 取り残されたジークはベスパが消えた場所をじっと見つめていた。
 彼女がなぜあんな行動を取ったのか。
 突き飛ばされた時に見た寂しげな瞳が、全てを悟らせたのだ。




 そうか、そういうことだったのか――――




 ならば、私も答えなければ――――




 決着は近い。そう感じる。
 なすべき事は1つ。
 それは必ず成し遂げなければならない事。
 たとえこの身が朽ち果てようとも――――




 死の臭いが充満する遺跡の上で、ジークは恐らくは最初で最後になるであろう選択をする決意を固めるのだった――――


    

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