ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment.〜第2話


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/10/27)

おキヌとかおりに相談を受けた翌日から、横島は動き出した。
といっても本格的に動くというワケではない。
とりあえず知り合いの場所を当たってみる程度だ。

オカルトGメン日本支部。

唐巣教会。

いずれも収穫無し。


小笠原エミ除霊事務所・・・ここにはタイガーと魔理がいる。
ここに顔を出したとなると、令子から何をされるか判らないのでとりあえずタイガーに電話を入れた。
もちろん収穫無し、それどころかかなり慌てた様子で電話を切られた。

“友達がいの無い奴だ・・・”

そういう事をいう資格が彼にあるとは思えないのだが、師匠譲りの自己中を発揮しつつ
横島は電話を助手席に放った。
車を厄珍堂の方へ向ける。
平日の都内は、チューニング車にはかなりツライ。
昨日の雨は上がっているが、どんよりとした雲が空一面に敷き詰めている。
水温に気を使いながら、横島は車を進めた。
移動スピードが上がり始めると、水温は見る見る下がっていく。
渋滞が少し緩和されたようだ。
厄珍堂は、もう目の前である。




古めかしく怪しげな建物の中へ入る。
外見以上に、中は怪しい。
横島は奥へと向かい、テレビに噛付きで昼メロに夢中の厄珍の後ろに立った。

「あいかわらず“昼メロ”好きか?ちったぁ成長したらどうよ。」

おそらく気付かなかったのであろう、横島の声に驚き厄珍は座っていたイスから転げ落ちた。

「な、なんだ。ボウズアルか。嚇かしっこ無しアル。」

「気付かないアンタが悪いんだろ・・・」

「それはそうと・・・ボウズ、最近派手にやってるようね。」

イスに座り直し、キセルを咥えた。

「場合によっちゃアンタの商売敵潰してるんだ、少しくらい感謝してくれよな。」

横島はそういってタバコを咥えた。
厄珍がキセルの火を横島のタバコに向ける。

「相当怨み買ってるね、シンジケートがボウズ狙ってるアルよ。気をつけるよろし。」

「シンジケートっつーたって、うちの女王様よりは怖かねーよ。」

紫煙を吐き出しながら、横島はそういった。
厄珍は思わず深く頷いてしまう。

「ところで何の用アルか?ボウズは道具あまりいらないと違うか?まったく令子ちゃんを見習ってウチのお得意さんに
なって欲しいアルよ。」

「俺以上におっさんの店利用しない奴いただろ?」

「あぁ・・・格闘バカアルね。」

名前を出さなくても通用するところがとてつもなく悲しい。

「そのバカ知らねーか?どこにいっても誰も知らねーんだわ。」

「儲けに繋がらない事は知らないアルね。」

キセルを灰皿に叩きつけてそういった。

「情報もおっさんの“儲け”のうちだろ?」

紫煙を燻らせながら、辺りに目をやった。

「生憎格闘バカの情報は無いね。」

「そうか・・・残念だな。新作なのに・・・・」

横島はそういって、ポケットからレースのついた布をチラリと見せた。

「それはっ!!!!」

「そう・・・使用頻度極上のレア物だ。」

誰の何だとは言わない。
それでも男たちは、それが何であるか瞬時に理解できた。

「情報が入ったら連絡くれ・・・」

「判ったアル。大至急調べるアルね。」

厄珍は電話を手にとると、どこかに電話を入れだした。

「あ、そうそうそういえばエミちゃん知らないアルか?」

歩きかけた横島は、足を止めた。

「エミさん?」

「そうアル。注文しておいた魔法書届いているのに取りに来ないアルよ。」

「電話したのか?」

「したアル。事務所のボウズにも言ったアルが来ないアルよ。」

「そっか・・・まぁ会ったら俺からも言っとくよ。」

右手を軽く上げると、横島は厄珍堂を後にした。




厄珍堂を出ると、雪之丞がよく足を運んでいた裏通りに足を向けた。
まだ陽が高いというのに、酸えた臭いが辺りに立ち込めている。
雪之丞と何度か待ち合わせをした店へ向かう。
裏通りの奥へと進み、込み入った路地を入っていく。

「物獲りじゃなさそうだな・・・」

タバコを吐き捨てると、横島は走り出した。
路地に足音が響く。
怒号は聞こえない。
ヤクザ関係ではないようだ。
路地を曲がるたびに、革靴の音が散らばっていく。
横島の背中を追っている男は、角を曲がるたびに横島の背中が遠くなるのを見つめた。
かなり鍛えている身体で、体力には相当自信があったはずなのだが目標との体力の違いを実感すると足を止めた。
荒く息をつきながら、携帯を取り出した。

「・・・・目標をロストしました。」

電話の相手にそう告げると、相手から一言返事をもらうと電話を切った。
携帯をポケットに入れ後ろを振り返ると、赤いバンダナが視界に入った。

「よう、目標は見つかったかい?」

横島は男にそう告げると、股間に右膝を打ちこんだ。
横島より頭一つ大きな男の身体がくの字に曲がる。
髪の毛を掴み頭を固定すると、再び右膝を顔面に入れた。
膝を離すと、粘質的な音がする。
横島は男の襟を掴み、周りを見渡すと路地の奥へ男を引きずり込んだ。
襟から手を離すと、男は力なく酸えた臭いのする地面にへたり込んだ。

「誰よ、アンタら?」

ショルダーホルスターからコルトパイソンを抜き、男に突きつけた。

「嫌いな奴の言葉だけど、この銀の銃弾は妖怪にも効くが人間にも効くぜ。」

撃鉄を上げるが、男は微動だにしない。
横島は目線を足元へ移した。

「自衛隊が俺に何の用だ?」

銃を突きつけられて動揺しなかった男が僅かに動いた。

「図星か・・・」

男が顔を背ける。
横島は眉を歪ませ息をつくと、撃鉄を戻し銃を握り直すと銃尻を男の顎に叩きつけた。
顎が砕ける音が響くと同時に男は意識を手放した。
男の背広で銃尻についた涎を拭くと銃を直し、男のポケットを物色した。
免許証と携帯を奪い、無造作にGジャンの中へ入れた。

「暫くは固いもの食えねぇな・・・ご愁傷様」

男に一瞬だけ目を向けると、横島はタバコを咥えた。




1時間後、横島のGTRは美智恵のマンションの駐車場に停まっていた。
美智恵のマンションには、ひのめの姿はなかった。
どうやら、まだ幼稚園の時間らしい。
横島は、テーブルの上に先程の男の携帯と免許証を置いた。

「身元わかりますかね?」

美智恵は、横島の前にコーヒーを置き免許証を手にした。

「ちょっと待ってね。」

そういってリビングの奥にあるパソコンラックの前に行く。
横島はそれを眺めながら、ポケットからタバコを取り出した。

「横島君・・・何度言ったら判るの?ここ禁煙よ。」

横島の方を振り向きもせずに美智恵はそういった。
横島はコーヒーに一口だけ口をつけると、タバコに火をつけてベランダへと向かった。

「う〜む・・・結婚してないのに、すでに蛍族の気分だな。」

自分で呟いてなんだが、かなりの皮肉だ。
苦笑しつつ、灰色の空を見上げた。
相変わらず、降りそうで降らない泣き出しそうな空だ。

「あら?」

美智恵が妙な声を上げた。
横島は最後に大きく吸い込み紫煙を灰色の空へ吐き出すと、横島用に用意してある灰皿にタバコを押し付け
リビングへ戻った。

「どうかしました?」

美智恵の側へ行き、パソコンのモニターを覗き込んだ。

「この免許証、偽造だわ。しかもかなり精巧ね。」

「出来がってことですか?」

「いえ、警察が照合しても存在はしているわ。でも、この免許証の人間は存在しないわ。」

「存在しない??」

「そう・・・戸籍が無いもの。」

美智恵は横島の顔を見てそういった。

「顔で照合できませんか?自衛隊で。」

「陸・海・空どこ?」

「おそらく“陸”です。」

横島がそういうと、美智恵は横島からモニターへ目線を戻すとキーボードを操作した。
ハードディスクが激しく動き出し、検索を開始した。

「人数が人数だから、暫く時間かかるわね。」

美智恵の言葉を聞くと、横島はソファに戻りぬるくなったコーヒーを手にした。

「また何かやらかしたの?」

美智恵もソファに戻ってくると、そういって横島の正面に座った。

「何もやってないっスよ。除霊の仕事少ないんでGメンの賞金稼いでますよ・・・なんせキツい雇い主なもんで、
給料分働かないと折檻されますんで。」

雇い主の実の母に向かってそういうと、美智恵が苦笑した。
認めないワケにはいかない事実である。

「私からそう伝えとくわ。」

「勘弁してください。」

間髪入れずに返事が返ってきた。
美智恵は悪びれない横島の態度に、思わず口元が緩んだ。

「ところで・・・なんで自衛隊だと思ったの?」

美智恵がそういうと、横島は手にしていたカップをテーブルに置いた。

「靴です。“目標”なんて警察は言わないし、シンジケートの連中は足元まで気を使います。
マフィアやヤクザは追う時には叫ぶことが多い、猟犬のような動きで『配給品』の靴・・・自衛隊くらいっスよ。
外の連中だとすぐにぶっ放しますしね。」

事も無げに横島がそういうと、美智恵は少々呆れた。
本格的にこの道へ入って、まだ数年。
霊だけでなく人間を相手にするようになって、まだ2年。
これほどまでに成長が早く、止まる事を知らない男など世界を見渡してもそうはいなかった。

(まったく令子も、スゴイ子を手に入れたわね・・・私がツバつけちゃおうかしら♪)

南米に暫く居た経験は、別の意味でも脅威であった。
美智恵が邪な考えを廻らせていると、パソコンが音を立てた。
検索終了のようである。
美智恵は立ち上がり、パソコンへと向かった。

「え?」

美智恵と同じくモニターを見ていた横島の顔が歪んだ。

「どういう事っスか?」

「どうもこうもないわね・・・彼、すでに1年前に死亡しているわ。」

免許証と同じ顔の人間・・・つまりは先程、横島が顎を叩き折った男は1年前に病死していたのだ。

「Gメンの情報量じゃ追跡はここまでね・・・Drカオスに頼むしかないわ・・・」

Drカオスへの依頼・・・つまりは非合法なハッキングである。
冴えている時の彼は、現在のネットなど問題にしない超天才である。
尤も冴えている時間は限りなく、無いに等しいのだが・・・・

「なんかかなりめんどうな事になりそうだな・・・またシバかれそう・・・」

令子の顔を思い出し、横島はかなり情けない顔になった。

「シバかれないで済むようにしましょうか?」

美智恵はにっこりと笑いながらそういった。

灰色の空が泣き出してきた。
雨は再び灰色の街を黒く染めていく。
美智恵の声は雨の音へと消えていった。







「頼めるかしら?」

「嫌だとは言えないでしょ・・・俺に。」

頭を掻きながら横島はタバコを咥えた。

「報酬はどうなります?」

「令子には1億、Gメンから出るわ。」

「俺にはどれくらいきますかね・・・・」

タバコに火をつけようとすると、横島の口からタバコが奪われた。

「ここでの喫煙権と5千万どっちがいい?」

「苦労するのは俺なんスよ・・・両方もらえませんか?」

「いいわよ。ひのめに嫌われてもいいのならね。」

美智恵は少女のような微笑を見せた。

「5千万でいいっス・・・」

横島はそういって項垂れた。

「おそらく途中で賞金がでるわ、人間では史上最高額になるかもしれないわね・・・・そっちも狙ってみる?」

美智恵がそういうと、横島は目線だけを美智恵に向けた。

「dead or alive?」

「もちろん“ALIVE”のみよ。」

「努力はしてみます。」

そういって立ち上がり、玄関行くとスニーカーを履いた。

「判っているとは思うけど、かなり厳しい事になるわよ。」

「いつもの事っス。」

事も無げにそう言いのけると、立ち上がった。

「気をつけてね・・・おそらく援護は無いものと覚悟してね。」

美智恵の顔が厳しくなった。

「ある意味そっちの方がやり易いっスよ。」

横島は口元を緩めた。

「それじゃあ隊長、手筈が整ったら動きます。」

「ほらまたぁ〜・・・もう隊長じゃないんだから。」

美智恵は厳しくなった顔を緩めた。

「いやぁ〜なんかクセになっちゃって。」

「いつになったらお義母さんって呼んでくれるのかしら・・・」

「いやいやそんな事いったら殺されるって!!」

横島は顔の前で右手を大きく振った。

「それなら“美智恵”って呼んでくれる?」

「へ?」

「ひのめの父親になってみるかって言ってるの♪」

「魂が残らないほどに抹殺されちまいます!!!てか、離婚してないじゃないっスか!!!」

鼻水と涙を噴出しながら横島は叫んだ。

「離婚してないって、離婚すれば父親になって『いってきまーーーーーす!!!』くれるのね♪」

美智恵が言い終わらないうちに、横島はマンションを飛び出していった。
エレベーターを使わず飛び降りるようにして行ったのだろう・・・10秒もしないうちにGTRの爆音が響いた。






事務所へ戻ると、三白眼をした令子が待ち構えていた。
その眼つきは探していた人物よりも吊り上がり、髪の毛が逆立ち“夜叉”というものを見た気がした。

「ど、どうかしたんスか?」

入口から覗き見るようにして令子の様子を伺ったが、令子はにっこりと微笑んで手招きをする。
コメカミには、今にもブチ切れそうな血管が浮き出ている。

「どうもしないわよ〜。アタシ久しぶりの大仕事で嬉しさに溢れているのよ♪」

絶対にウソである。
顔は笑っていても、その切れそうな血管がすべてを物語っている。

「それじゃあ・・・その背中に隠している神通棍は何っスか?」

「わかっているなら、いらっしゃ〜〜〜い♪」

死刑宣告である。






「アンタ、ママに何しでかしたーーーーーーーーっ!!!!!」





雨は再び止んでいたが、某事務所では血の雨が降ったようである。














人工幽霊曰く“赤いスライム”から人間に戻り、横島は来客用のソファに座った。

「はぁ〜〜〜、また厄介な仕事引き受けたものね。」

頭を抱えながら令子は深い溜息をついた。

「しょーがないっスよ。隊長のお願い断れるんスか?」

横島はそういって、令子を覗き見た。

「まぁ額も額だしね・・・ママがあっさりと出すとこ見ると、かなりヤバそうよ。大丈夫なの?」

「俺はいざとなると文珠で逃げられるっスから・・・それよりこっちの方にとばっちり来そうっスよ。大丈夫スか?」

「今のところ大きな仕事ないからどうにかなるわ。で、どう動くの?」

「厄珍待ちっスね。」

横島はそういって、タバコを咥えた。

「厄珍ね・・・・」

令子はそういって、イスから立ち上がると横島の側へゆっくりと近づいた。

「連絡入ったわよ、どうやら香港らしいって・・・」

そういいながら、横島の後ろへ行くと背中から手を回した。
横島の鼻腔を令子の香りが掠める。

「私に内緒で何をやってたのかしら?」

耳元に息をかけながら、甘えたような声で囁いた。
令子の手が横島の胸を撫でていく。
ある位置で令子の手が止まる。
照れた表情ではなく、横島の顔は青褪めていた。

「厄珍の情報料って、相も変わらずコレね。」

Gジャンのポケットから、レース付きの白い布が取り出された。
令子は横島の目の前で白い布をヒラヒラと振ると、耳元で呟いた。

「大仕事前だからこれで勘弁してあげる・・・」

そういうと横島の耳に唇を当てた・・・・・・




そして、歯を剥き出しにするとゴリゴリと音をたてて噛み付いた。
事務所に再び雄叫びが響いた。








「な、何の悲鳴でござるか?」

学校が終わって帰ってきたシロが、事務所へ飛び込んできた。
そこには、右耳を押さえ溢れんばかりの血を流す横島の姿と口元に血を滴らせた令子の姿があった。

「美神殿・・・いつからピート殿と同類になったでござるか・・・」

冷汗を流しながらシロがそういうと、令子は口元の血を拭った。

「お仕置きよ!!」

胸を張ってそう言い放つと、自分の席に戻った。

「過激な愛情表現ね・・・相変わらず。」

シロより遅れてタマモが事務所へ入ってきた。
タマモの言葉に令子は言葉を発せず、眼光で返した。
右耳を押さえたまま横島は、タマモの方を振り向いた。

「タマモ、明日から学校休みな。」

「なんでよ?」

「俺と出張だ。」

「どこへ?」

「香港だ。」

横島がようやくニカっと笑った。







                                  つづく



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後書きのようなもの。


前作とは違い、北方作品ではなく大藪作品っぽいです。
しかもかなりのライト作品・・・COWBOY BEBOP風といった方が正しいかも?
なんせ賞金稼ぎみたいな事やってるし・・・
まぁパイパーにも賞金懸かっていたから、その辺は広い目で見てやってくださいませ。

まぁ今回の主役は横島君っスから完全ハードボイルドは無理でしょう。←諦めたらしい

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