ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(31)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/21)

・・・ボーン、ボーン、ボーン・・・

「・・・・・・」
いつものようにベッドの端に腰掛けていたピートは、目を閉じたまま、部屋の振り子時計が時を告げるのを聞いていた。
時計が鳴らした音は、全部で七回。
ピートは静かに目を開くと、時計の指している時刻が七時である事を確かめた。
天窓から射し込む光は、もうほとんどないと言っていいほど暗い。
ひどく薄暗い部屋の中、黒い三つ揃えを着せられたピートの姿は、傍目には、このままさらに濃くなっていく室内の闇に溶け込んで、消えてしまうのではないかと言うような、暗い雰囲気を持っていた。
そう感じるのは、今のピートが何かを考え込んでいるような、物憂い表情を浮かべているせいもあるだろう。
実際、ピートは、悩んでいた。
加奈江に誘拐されてから、彼はこの部屋で、どうすれば早く脱出出来るか、どう言えば加奈江がこちらの話をまともに聞いてくれるかなど、様々な事で悩んだが、今の悩みは、これまで考えたどの悩みの中でも一番深刻で、そして、最も大変なものだった。
今の時刻は、午後七時。
加奈江はいつも、七時半にはこの部屋にやって来るから、それまでに、彼は考えを決めなければならない。
―――いや、はっきり言ってしまうと、ピートはもう、自分が出すべき結論を、すでに考えついていた。
だから、今悩んでいるのは、出すべき結論、とるべき行動がわからないからではなく、単なる気持ちの上からの迷いの問題だった。
(・・・加奈江さんがやった事は・・・大体わかる・・・)
最初に血痕を見つけてから、すでに三日。
「まさか」、と言う気持ちから他に何か手がかりを求めて、三日間を費やして部屋中を調べなおした結果から、ピートはすでに、加奈江がやった事については見当がついていた。
壁に一発、床に五発見つけた弾痕に、細かい血の染みの跡。感覚を研ぎ澄まさせてそれらの痕跡を探ると、ごく微かにだが確かに血臭と、さらに、「死臭」とが感じ取れた。
そして、貴方と同じになったと言う加奈江の言動。
霊能者だから勘は良いし、もともと頭も良い。
これだけ材料が揃っていて、わからないわけがない。
ただ、全く記憶が無いのでリアリティーに欠けるため、完璧に結論を決めてしまう事に対して、ためらいや、戸惑いと言った迷いが抜けなかった。
基本的に優しい性格であるため、「まさか加奈江さんでもそこまでは」と、相手を庇って考えてしまう気持ちもある。
(でも、もし加奈江さんが・・・本当にそんな事をしていたら・・・)
一応、これでも七百年生きているのだ。
自分の体質に、自分の血に、どんな効果があるか―――ピートは、知っていた。
(・・・どうしたら良いんだろう・・・)
自分の血を得た人間に対しての、対処の仕方はわかっている。
しかし、それはピートにとって、一番嫌な手段だった。
そして、もし加奈江が自分の血を飲んだと言うのがこちらの考えすぎだったら、と思うと、ピートは、その手段を実行する事が出来なかった。
自分でも優柔不断だと思う、とにかく即決した方が良いと言うのはわかっているが、ついつい考えてしまう。
そしてふと、男の子ってハッキリしないわね、と、以前令子に言われた言葉が思い出されてピートは少し苦笑し、そして、キッと唇を引き締めた。
(そうだ・・・ハッキリしないといけない・・・)
一人で考えて、迷っている場合ではない。
―――まずは、動かなければ。
時計を見ると、時刻はすでに、七時二十分を回っている。
ピートは、部屋の隅に何体も飾られているビスクドールに近づくと、その内の一体が付けていた飾りブローチを外して、手の中に隠し持った。
それから、ベッドに戻っていつものように腰掛けると、深く息を吸って、一度深呼吸する。
そうして、長い息を吐いて顔を上げるとピートは、また時計を見た。
時刻は、七時二十八分。
加奈江が、やって来たのだろうか。
コツコツと、階段を下りてくる音が聞こえて、ピートはドアの方を見つめた。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa