ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment.〜


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/10/25)

雨が降っている。
灰色の街を濡らしていく雨。
灰色が雨により黒に近くなっていく。
それでも灰色だ、完全な黒にはならない。
咥えていたタバコが雨に打たれ、燻っている。
17歳で覚えたタバコだった。
ストレスの多い仕事だから仕方ないと、禁煙を叫ぶ情勢に斜に構えてみたが
『天上天下唯我独尊』で生きている雇い主に比べればかわいいもんだと思い途方にくれてみる。
足元には吸殻が1ダースほど転がっている。
条例違反だと思いつつも、気にする素振りはみせなかった。

「俺にハードボイルドなんて似合わないんだけどな・・・」

横島はそう呟いて、消えかけのタバコを水溜りに放り歩き出した。
道路を隔てた向かい側に、白のワゴン車が停まった。
横島は新しいタバコを咥えながら、運転席側へ行くと窓を叩いた。
ワゴン車には、サラリーマン風の男が一人で乗っている。
訝しげな顔を見せつつ、男は窓を開け横島の方を向いた。

「すいません、火ぃ貸してもらえませんか?」

屈託の無い顔で横島が笑った。
男はめんどくさそうに顔を顰める。

「失礼、タバコ吸わないんですよ。」

そういって窓を閉めようとする。

「カバンの中に入ってません?“火”の元が。」

横島がそういうと、男は焦りの顔を見せ車を急発進させようとギアに手を伸ばした。
冷たいものがコメカミに当たる。
今どき珍しいリヴォルバーの拳銃である。
撃鉄を上げる音が、頭蓋を通じて男の耳に響く。

「エンジン切ってもらおうか。」

静かな声で横島がいうと、男はそれに従いキーボックスに手を伸ばした。

「金か?警察には見えないが・・・」

男が正面を向いたまま、そういった。
横島は左手をポケットから出すと、パスケースを男の方へ向けた。

「いやゴーストスィーパーだ。心霊法第10条、第5項『心霊兵器密売容疑』であんたを逮捕する。」

「いつからGSは、警察の真似事をするようになったんだ?」

「除霊ばっかりじゃ食ってけないんでね、あんたの首にかかった賞金が欲しいだけよ。」

ドアを開け男を車から降ろすと、横島はそういいながら笑った。
その笑みは、屈託の無い笑顔ではなかった。







『灰色の街  〜The second judgmen〜 』






灰色の街に不似合いな、古い建造物。
ある者が見れば幽霊でも出そうな佇まい、ある者が見れば温かくも見える佇まい、
有能なスゴ腕が集う・・・ある意味悪名を欲しいままにしている“美神除霊事務所”である。
横島はGTRをガレージへ入れると、階段を上へと上がっていった。

『おかえりなさいませ、横島さん。』

「ただいま人工幽霊、美神さんは?」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

天井を見て横島がそういうが、人工幽霊からは返事がなかった。
タルガトップのポルシェカレラは停まっている・・・灰色(ピンクがかった)の脳細胞が答えを弾き出す。

(シャワーだ♪)

横島の顔が邪に歪んだ。
屋根裏部屋へ足音をさせずに忍者走りで駆け上がると、窓を開けロープを垂らした。
特殊部隊も裸足で逃げ出しそうな、軽快な陰陽の術を披露しつつとある窓にへばりついた。

(ふふふふふふ・・・危険手当いただきまっせ♪)

窓の中から水音が聞こえ、ガラスは湯気で煙っている。
窓枠に油を流し音が消えるように細工をすると、横島は窓を僅かに持ち上げた。
油が効いたのか、やけに軽い。
僅かに持ち上げたはずだが、引き上げ式の窓は上部まで持ち上がっていった。

「た、ただいま帰りました。」

窓は中から開けられ、シャワーを浴びていたとみられる亜麻色の髪の女性が横島と顔を見合わせている。
あくまで“浴びていたとみられる”であって、浴びている女性ではない。

「おかえり。」

亜麻色の髪の女性は、横島がぶら下がっていたロープをにっこりと笑いながら切った。

「こんなこったろうと思ったよーーーーーーーー!!」

横島の叫び声が虚しく響いた。






「で、引渡しは終わったの?」

何事もなかったかのように、亜麻色の髪を靡かせながら美神令子はそういった。
首を妙な角度に曲げたまま横島は、何事か呟いている。

「くぉ〜〜〜〜危険手当ぐらい弾んだってバチは当たらんだろうに・・・・」

「覗きの現行犯でアンタを引き渡したろかっ!!!!」

近くに置いてあったガラス製の灰皿が横島の後頭部に炸裂した。
いつか令子自身が殺人で捕まる日も遠くはないだろう・・・
横島は遠ざかる意識の中でそう考えた。

「まぁアンタの事だから、冗談やってるって事は終わったって事よね。」

溜息をつきながら令子は、イスに座り直した。

「いや、この流血は冗談では済まされないと思うんスけど。」

血だらけの顔面を令子の前に突きつける。
そういいながらもすでに傷口は塞がりかけている、かなりグロい。

「しっかし、最近のGメンの手配って“密売容疑”ばっかりねぇ、額少なくってシケてるわ。」

話を逸らすかのように令子が言う。
横島は思う・・・「

だったらさぼってないで、自分でパクってこい!!!と。」








「横島君・・・声にでてるわよ。」

どうやら横島はあまり成長していないようだ。
令子の顔には井桁が浮かんでいた。










☆爆音☆




☆悲鳴☆




〜自主規制〜



「さて、バカやってないで迎えにいってきて。」

血だらけの神通棍を手に返り血を浴びた令子が、目の前のボロ布にそう言葉を放った。

「へ、へ〜〜〜〜い。」

ボロ布というか肉片は、地べたを這いながら部屋をでていった。
その様はまるでスライムのようだったと、後に人工幽霊は語った。






まだ雨の降る中、スライムから人間に戻った横島はマイカブルーのGTRを操っていた。
飛ばすワケではなく、ゆっくりと流している。
雨の日の美神除霊事務所恒例となった、“お迎え”である。
現在美神除霊事務所のメンバーは、所長の美神令子、荷物持ち改め危険専用小間使い横島忠夫、
世界有数のネクロマンサー兼事務所唯一の良心を氷室キヌ、GS見習い人狼犬塚シロ、
パトロン見つけるまでの腰掛GS見習い妖狐タマモである。
高校を卒業して正式に所員として採用された横島であるが、おキヌは卒業後所員にはならずに大学へ進学した。
六道財閥が新設した大学へと進み、霊能の勉強をさせてあげたいという令子の親心(?)であった。
シロやタマモも、おキヌの母校へと進学している。
人狼と人間の共存を求めるシロ、人間社会へ溶け込むタマモ・・・事務所の中だけでは、あまりにも世間との
“常識”のギャップがあり過ぎるためである。
勧めたのは、もちろん令子の母の美智恵であった。
なぜ“雨の日”の迎えが事務所の恒例なのか??
それは・・・・・・・・

「せんせーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

チューニングを施した特徴ある排気音を聞きつけたシロが、雨の中傘も差さずにGTRに突進してきた。
タマモは傘を差して溜息をつきながらゆっくりと歩いてくる。
二人ともいまどきの女子高生らしく、標準より短めのスカートを着ている。
タマモは前世の名残りで人の目を引くように、シロは動きやすいようにと理由は違うが二人ともかなりのミニである。
タマモだけであったら何の問題もないのだが、問題はシロである。
天候関係なくミニスカで足リ回る暴れ回る・・・・制服どころか下着まで汚れまくる。
六道女学院は言わずと知れたお嬢様学校・・・・・つまり制服も『クソ高い』のである。
換えの制服を何着も用意してやる現保護者だろうか?
いや!そんな事はあるまい!!!
天地がひっくり返ってもそんな事はないっ!!!
そのようなワケで、横島が雨の日は六道まで迎えにいってやっているのだ。

「お前、なんのために迎えにきてんのか判ってんのかよ・・・」

汚れた足元に目を向けながら、横島は苦笑した。
シロは単純に、横島が迎えに来てくれるので顔を綻ばせたままである。

「奥行きなさいよ!!」

2枚ドアのGTRは、乗り降りは助手席側のみである。
シロに助手席で構えられた日には、タマモは車に乗れないままである。
タマモは言葉を発しながら、シロに蹴りを入れた。

「このクソ狐!!何をするでござるか!!!」

「先に乗ったアンタに助手席に座られちゃアタシは乗れないのよ!!」

「先生の助手席は、拙者のものでござる!!!」

シロのセリフを聞いてタマモは、最終兵器をだそうとしたが考え直した。

「じゃあ、アンタ助手席がいいっていうのね。」

すでに座っているシロを見下ろすように、タマモが言った。

「そうでござるよ!!」

シロが言い切ったのを聞くと、鼻で笑いカバンを後部座席に放った。
そして・・・・・狐形態になると、横島の膝の上に飛び乗った。

「あーーーーーっ!!!しまったーーーーー!!!その手があったでござるか!!」

シロは涙を流しながら抗議するが、時すでに遅し。
“武士に二言は無い”の言葉を実践するハメになった。
いつもの事ながらたかが送迎になぜここまで騒がないといけないのだろうか・・・
横島は深い溜息をつきながらそう思った。
あまりにも二人が騒ぎを起こすものだから、せっかく女子高に来ながら他の生徒を観賞するヒマもない。
もちろんナンパするヒマなんかあるワケない。
一度だけナンパをした事があるが、嫉妬にかられた二人(2匹)に噛みつかれ大騒動となり
理事長に見つかり、事務所へ連絡を入れられ・・・・どうなったかは想像するに容易いであろう。
それ以来、横島は送迎中のナンパは控える事にした。
あくまで送迎中である。

「大人しくしてろ・・・帰るぞ。」

横島はギアを入れた。
GTRはハイチューンらしくないスムーズに発進した。
車を事務所へ向けて進めていくと、2つ目の信号待ちで携帯が音をたてた。

「おキヌちゃんか・・・シロ出てくれ。」

手元の携帯の表示を見ると、横島は携帯をシロに渡した。

「はい、こちらは横島先生の携帯でござる。」

《シロちゃん?横島さんは?》

「先生は運転中でござるよ。」

《伝えてもらえるかな、話があるから時間とれますか?って。》

「・・・・だ、そうでござる。」

「はしょんなよっ!!!!!」

シロの方を向いて思わず大声を出してしまった。






結局シロとタマモを乗せたまま、おキヌの指定した場所へ移動した。
おキヌが横島を呼び出した場所・・・おキヌの高校時代からの友人の弓かおりの家であった。
閑静な住宅地ならぬ人気の少ない場所に建っている『闘龍寺』・・・弓の実家である。

かおりの部屋に通された横島とその他。
いろいろと物色したいところであるが、さすがにこのメンツを前にしては横島でもそれは適わない夢であった。
大人しく勧められた座布団に腰を下ろし、テーブルに置かれた紅茶に手をつけた。

「で、話って?」

あまり居心地が良くないのか、横島は話を切り出した。

「無いんです・・・・」

「無いって、生理でござるか?」

部屋の中が、一瞬静寂いや凍りついた。
さすが横島の弟子である。



【間】



猿轡を噛まされ、縄で縛られたシロはタマモによって転がされた。
間違って“亀甲”の形に縛ろうとして、シバかれたのは御愛嬌である。

「雪之丞から連絡が無いんです。」

「それっていつもの事じゃあ?」

ぬるくなった紅茶を啜り、横島はそういった。

「いえ、いつもと違うんです。」

「なんでそう思う?」

「なんとなくです・・・」

自信なさ気にかおりが俯いた。
その姿を見たおキヌは、横島の方を向き直って詰め寄った。

「横島さんの方になにか連絡ありませんでしたか?なんでもいいんです!!」

「いや何でもいいっつーても、アイツはウチに来たら食料漁るだけだからなぁ。」

横島は腕を組んで、最後に雪之丞を見たときの事を思い出す。
最後に見たのは3ヶ月ほど前、礼だといってカップラーメンを箱で持ってきたことだった。
その前に来た時は、何かあったみたいだが雪之丞は何も言わなかったし横島も聞こうとはしなかった。
差し入れを持ってきた時は、何か吹っ切れた顔付きになっていた。
それでこの件は終わり・・・横島はそう考えていた。
それからしばらく顔をみなかったが、まぁアイツはそういう奴だ。
そう割り切っていたが、女はそうはいかないらしい。

「そうでしたか・・・・」

かおりは俯いたまま深い溜息をついた。
おキヌはかおりの姿と横島の顔を代わる代わる見て、泣きそうな顔をしている。

「まぁヒマみて検討当たってみるよ。」

頭を掻きながら照れ臭そうにそう呟いた。

「美神さんには内緒な・・・理由は言わなくても判るだろ?」

横島はそういって周りを見渡した。
皆、壊れた張子の虎のように首をガクガクと縦に振った。





                       続く











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後書き・・・・・


お久しぶりです。覚えておられる方いらっしゃるでしょうか?
『仁義なき〜』の後編を書いてないのに、灰色の街の第二弾・・・しかも連載ものです。
今回は横島君が主役ですが、やっぱ横島君主役でハードボイルドはかなり難しいです(汗)
第一話はとりあえず設定紹介といったところで、第二話から話しは動き出す・・・はずです。
頼むからハードボイルドに動いてくれ横島君・・・・・

ところで・・・・
私は、肺炎になって寝込んでました。
季節の変わり目です、皆様体調には十分注意しましょう。



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